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めまい総論

“めまい”というと、研修医のみならず多くの医師が苦手意識を持っている症候なのではないかと思います。かく言う私もめまいは苦手で、今でも外来患者さんの主訴がめまいとなっていると身構えてしまいます。今回は、そんなめまいに対する苦手意識を払しょくするために、改めて勉強をした上で記事を書いていこうと思います。

めまいの定義、疫学

めまいとは、何らかの原因で平衡感覚に異常をきたすことで生じ、「目が回る」、「ふらつく」、「ふわふわする」、「目の前が暗くなる」など、その原因や患者さんによって実に多彩な表現がなされる症候です。

めまいを訴える患者さんの数は非常に多く、耳鼻咽喉科や神経内科の外来患者の約10%にも上るといわれています。

めまいの原因は多岐に渡りますが、一般的に下記の3つに分類されることが多いです。

末梢性めまい:良性発作性頭位めまい症(BPPV)、前庭神経炎など

中枢性めまい:脳梗塞など

前失神:起立性低血圧

めまいを訴える患者の50%が末梢性めまい、10%が中枢性、10%が前失神、その他が30%とされています。

急性のめまいへのアプローチ

ここでは救急外来や一般内科外来で遭遇する急性経過のめまいについて概説していきます。

めまいとATTEST法

以前はめまい(dizziness)を回転性めまい(vertigo)、前失神(presyncope)、不安定性めまい(disequilibrium)、ふらつき(nonspecific dizziness)の4つに分類して診断を進める手法が一般的でしたが、このめまいを患者さんの訴えをベースにその性状から分類するという手法は再現性に乏しく、誤診につながるリスクが高いということが近年報告されています。実臨床においても、めまいの性状を「回転性なのか」、「フラフラする感じ」なのか、といったように言語化してもらっても、あまり診断には寄与しない印象です。

そこで、最近は、病歴(発症様式、体位や頭位などの増悪因子・寛解因子、持続時間)を聴取し、3つの型に分類し鑑別を行っていくアプローチ(ATTEST法)が提唱されています。ATTESTとは、Associated symptom(関連する症状)、Timing and Trigger(症状のタイミングとトリガー)、bEdSide exam(身体所見)、additional Testing as needed(+αの検査)の略になります(少々強引な気もしますが…)。

以下、Timing-and-triggerに基づく、急性のめまいの分類について表に示し、続いてATTEST法について、フローを提示した上で内容を概説していきます。

急性前庭症候群:Acute vesibular syndrome(AVS)

自発性発作性前庭症候群:Spontaneous episodic vestibular syndrome(s-EVS)

誘発性発作性前庭症候群:Triggered episodic vestibular syndrome(t-EVS)

ATTEST:A(associated symptom)、TT(timing and trigger)、ES(bedside exam)、T(additional testing as needed)、CPPV(central paroxymal positional vertigo)、BPPV(benign paroxymal positional vertigo)

第一ステップで、めまいの随伴症状めまいのタイミングと誘発因子に焦点を当てて病歴聴取を行います。多くの患者では、めまいは副次的なもので全身性疾患(感染症、代謝性疾患、心血管系疾患)に伴うものだったりします。基本的には病歴(発熱の有無など)で明らかですが、全身性疾患が主病態と思われるグループにも一度立ち止まって考える“STOP”、具体的には眼振、四肢失調、体感失調の確認を行います。

“STOP”が陽性の場合や、病歴が全身性疾患を示唆しない場合は、めまいのtimingとtriggerについて病歴聴取を行い、3つのカテゴリーのいずれかに分類します。

ここからは、3つのカテゴリーのそれぞれについて見ていきます。

急性前庭症候群(Acute vestibular syndrome:AVS)

AVSは、突然発症で数日-数週間持続するめまいで、悪心・嘔吐、歩行の不安定性、眼振、頭部の動作の不耐性を伴うめまいです。頭位変換や起立に関わらず、重度のめまいが常に存在していることが特徴といえます。

重要な鑑別として、前庭神経炎後方循環系の脳卒中(特に脳梗塞)が挙げられます。その他、稀ですが多発性硬化症、ビタミンB1欠乏症などもAVSを呈します。

前庭神経炎と脳梗塞の鑑別には身体所見が有用であり、ここで有名な“HINTS”法が使用されます。HINTS法とは、Head Impulse test、Nystagmus(眼振)、Test of Skew(斜辺位テスト)の頭文字をとったものです。HINTS法は精度は高いといわれますが、術者の技量による部分が大きいことが欠点として指摘されています。ある試験1)では、神経内科医では感度 96.7%、特異度 94.8%であったものの、救急医(認定専門医)と神経内科医(フェロー)では感度 83%、特異度 44%であり、救急医の施行するHINTS法はAVSにおける脳卒中を除外するに足る正確性は示されなかったと結論づけられています。

また、上記の論文の結果を受け、Academic Emergency Medcineの急性のめまいに対するガイドライン2)では、「“HINTS法の訓練の受けた臨床医がいる場合には”AVSに対してMRIを第一選択にしない」というような推奨がされています。これは裏を返すと、「HINTS法に自信がないならMRIを撮れ」ということなんでしょうか…?それは言い過ぎにしても、HINTS法を中心とした身体診察をしっかりと行いつつ、自信が持てない場合は神経内科医にコンサルトすることを躊躇しないことが重要といえるでしょう

以下、HINTS法を中心に、前庭神経炎と脳卒中の鑑別点をまとめます。

以下、Head Impulse testとTest of Skewについて動画を載せておきます。

どちらも難しいですが、特にTest of Skewの判断は高難易度ですね…。私は自信がないです。

・前庭神経炎によるHead Impulse test陽性の動画

・Test of Skew陽性の動画

・Test of Skewの解説

自発性発作性前庭症候群(Spontaneous episodic vestibular syndrome:s-EVS)

自発的(特に頭部や体幹の動作によって誘発されない)に生じる間欠的な発作で、多くは数分から数日持続します。主な鑑別疾患として、良性かつ頻度の多いものは前庭性片頭痛が、重篤かつ頻度が多いものとして後方循環系の一過性の脳虚血発作が挙げられます。メニエール病もこちらに該当しますが、頻度は思ったよりも低いようです。頻度が低いものの重篤な原因として、心血管性(不整脈、不安定狭心症、肺塞栓)、内分泌疾患(低血糖)、一酸化炭素暴露などが挙げられます。

頻度の多い前庭性片頭痛の診断基準は以下になります。この前庭性片頭痛についてはいずれ別にまとめを作成する予定です。

誘発性発作性前庭症候群(Triggered episodic vestibular syndrome:t-EVS)

頭部の動作、姿勢の変化などによって生じる、多くは1分未満で改善する短時間の発作を指します。BPPVや起立性低血圧がここに該当します。重篤な原因として、中枢性発作性頭位めまい症(脳腫瘍、脱髄疾患)があり、経過がある程度長い場合、一度画像検査は行っておくとよいです。

慢性のめまいへのアプローチ

慢性のめまいの場合も、基本的には急性のめまいと同様に対応していけばよいと思います。

ただし、t-EVSで触れた通り、脳腫瘍や脱髄疾患の可能性が高まるため、頭部の画像評価は一度は行っておいた方がよいでしょう。

また、慢性のめまいでは、持続性知覚性姿勢誘発めまい(Persistent Postural-Perceptual Dizziness:PPPD)という概念も知っておくとよいと思います。PPPDとは、海外のめまい学会であるBarany Societyが2017年に診断基準を策定した、比較的新しい疾患概念です。以下、診断基準を示します。

おそらく、救急外来というよりも一般内科外来を受診される、色々調べても原因のわからない慢性のめまいがPPPDに該当することが多いのではないかと思います。PPPDの病態は明らかではありませんが、姿勢制御、空間識、情動に関わる感覚処理の異常が原因である機能性疾患と考えられており、純然たる器質性あるいは精神疾患ではありません。治療としてはSSRI、前庭リハビリテーション、認知行動療法の有効性が報告されています。こういった機能性疾患は最終的にはSSRIが選択肢となることが多い印象ですが、なかなか実臨床で投与を行うのは勇気が要ります…。実際の外来で認知行動療法を行うことは難しいですが、症状についての日誌を書いてもらうことを進め、自身の症状と向き合ってもらう、というのは一つ選択肢になるでしょうか。

以上、めまいについて概論をまとめてきました。勉強してみた雑感ですが、まずはATTEST法によるめまいの分類、アプローチ法はすっきりわかりやすく有用であると思いました。また、HINTS法が術者の技量によるというのが、実際の数字で見てみると思った以上差が出ていて衝撃的でした。めまいを多く診療されている認定の救急医の先生方でさえこの精度となると、私の技量ではその精度は推して知るべし、といった感じでしょうか。神経内科の先生に弟子入りしてみっちり指導して頂くしかないですかねぇ…。今後は各論的に前庭性片頭痛やBPPV、中枢性めまいについてまとめていきたいと思っていますので、また記事を読んでいただけると嬉しいです!

参考

1)Acad Emerg Med. 2020 Sep;27(9):887-896.

2)Acad Emerg Med. 2023 May;30(5):442-486.

3)Am Fam Physician. 2017;95(3):154-162

4)J Emerg Med. 2018 Apr;54(4):469-483.

5)Semin Neurol. 2019 Feb;39(1):27-40.

・今日の臨床サポート

・めまい診療シンプルアプローチ 城倉健 医学書院

・PPPDの参考資料

https://www.memai.jp/wp-content/uploads/2020/07/pppd2017.pdf