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中枢性めまい

めまい総論については下記の記事を参照ください。

中枢性めまいとは

中枢性めまいはその名の通り中枢神経に由来するめまいを指します。厳密には前庭性片頭痛も該当しますが、脳幹と小脳の血管障害と言い換えてしまってもいいでしょう。ただし、血管障害以外にも多発性硬化症脳腫瘍など、他の病態があることに留意しておきましょう。

さらに脳幹と小脳の血管障害を考えた時、ざっくりと

複数の症候が重なるパターン(Wallenberg症候群など)

➁四肢の失調が目立つパターン(小脳半球の出血/梗塞)

➁体幹失調が目立つパターン(小脳虫部梗塞)

と分けて考えると理解しやすいです。

複数の症候が重なるパターン(Wallenberg症候群など)

まずはじめに、前庭神経核が障害されるパターンを見ていきましょう。ここにはいわゆるWallenberg症候群が該当します。

Wallenberg症候群の典型例では、

・Ⅷ障害:眼振、めまいなど

・Ⅸ,Ⅹ障害:球麻痺、味覚障害など

・三叉神経脊髄路障害:同側顔面の温痛覚障害

・外側脊髄視床路障害:対側の首から下の温痛覚障害

・下小脳脚障害:同側の小脳失調

・交感神経下行路障害:Horner症候群

といった症候が出るとされていますが、すべてが揃うことは多くありません。

歩行失調、ふらつき、回転性めまい、眼振といった、いわゆる“めまい”という主訴に該当しうる症候はそれぞれ92%、92%、57%、56%という頻度で認めるとされています。実際、Wallenberg症候群については患者さんはめまいを主訴に受診される例が多い印象です。

最も頻度が高いのは感覚障害で96%とされますが、その表現型は多彩であり、典型例は1/4に過ぎないことが注意が必要です。また、自覚的なしびれはないことが多く、丁寧な神経診察を行うことで初めてわかることが多いです

医学事始より引用

また、それ以外にも片側への傾き(lateropulsion)頭痛/眼窩痛といった症状が多いことも特徴的です。

Wallenberg症候群は見逃されやすい疾患ですが、Horner症候群や感覚障害など、見つけに行かないと気付かない所見が多いことや、症例によって呈する症候がまるで異なっている(典型例が少ない)ことがその要因とされます。めまいを主訴に受診された患者さんには積極的にWallenberg症候群を疑って神経所見を確認しにいく姿勢が重要と言えるでしょう。

また、Wallenberg症候群以外にも前下小脳動脈(AICA)梗塞も押さえておきましょう。

AICA梗塞では脳梗塞では珍しく難聴を伴うことが多い点が特徴的です。その他、Wallenberg症候群と同様に四肢の失調、Horner症候群、感覚障害に加え、顔面神経麻痺を伴うことがあります。難聴、めまいという主訴だけでは突発性難聴との鑑別が難しくなりますが、こういった他の所見がないかを丁寧な神経診察で評価する必要があります。ただし、難聴、めまいのみを呈する症例報告も複数あり、その場合は鑑別が困難となってしまいます。こうなると一般内科にはお手上げですね…。

四肢失調が目立つパターン(小脳半球の出血/梗塞)

このパターンは上小脳動脈(SCA)の梗塞や小脳出血で呈します。

めまいに加え、同側の手足の小脳性運動失調わかりやすい小脳性の構音障害を認めます。患者本人がろれつの回りにくさを自覚していることが多いため問診でも引っかけることができます。また、神経診察において構音障害や指鼻指試験での異常を捕まえることができればより診断に近づくことができます。比較的見逃しにくい中枢性めまいといえるでしょう。

radiopaediaより

体幹失調が目立つパターン(小脳虫部梗塞)

Wallenberg症候群と同じく、見逃されやすい中枢性めまいの代表選手と言えます。

後下小脳動脈(PICA)の梗塞で生じることが多く、小脳虫部が障害されます。このパターンでは四肢の小脳失調や構音障害、眼振といった症候を認めず、体幹失調が唯一の症候となります“歩けないめまいは返してはいけない”という格言はこの小脳虫部梗塞を見逃さないためのものと言えます。

ただ、そうはいっても何とか歩けてしまう症例が存在することも事実です。実際、私もふらつきはあるものの何とか自力で歩けてしまう小脳虫部梗塞を経験したことがあります(マジでキモが冷えました…)。

ポイントとしては、BPPVらしくない持続性の急性のめまい症(いわゆるAVS)であり、眼振や失調などの神経症候が目立たず、多少なりとも体幹失調が疑われる場合にはこのパターンを想起する必要があります。

radiopaediaより

その他の中枢性めまい

椎骨脳底動脈循環不全(TIA)

椎骨脳底動脈循環不全という言葉があります。何となく慢性のめまいの患者さんがこの病名をつけられていることが多いですが、要するに「椎骨脳底動脈の一過性脳虚血発作(TIA)」のことです。TIAの一種であるため、本当に椎骨脳底動脈循環不全であれば抗血小板薬などの予防的治療が必要であるため、安易にこの病名を使用しないようにしましょう。

さて、一過性のめまいがこの椎骨脳底動脈循環不全に該当するかどうかは以下の点を参考とします。

①脳血管障害の危険因子を複数持っている

➁突発し、持続が数分のめまいを、数日-数週にわたり繰り返す

③聴力低下や耳鳴りは伴わない

④めまい発作時にめまい以外の神経症候がある(多いのは構音障害)

⑤めまい発作時に転倒や起立、歩行障害があった

この辺りから椎骨脳底動脈循環不全が疑われるようであれば、専門医に紹介し脳血管の評価や予防的治療の導入を検討してもらうのがよいです。

鎖骨下動脈盗血症候群とbow hunter syndrome

一側の鎖骨下動脈が狭くなったり詰まったりすると、その先から出ている椎骨動脈が逆流して上肢の血流を補います。詰まった方の上肢の運動(多いのは挙上)により椎骨動脈の逆流が増えると、めまいなどの脳幹や小脳の虚血症状が誘発されることがあります。これを鎖骨下動脈盗血症候群と呼称します。

頭部を強く回旋させたとき、椎間孔を通っている椎骨動脈が骨棘などによりはさまれて圧迫されることがあります。こうして椎骨動脈の虚血症状が出現したものをbow hunter syndromeと呼んでいます。名前は弓を引く時の頭部の回旋に由来しています。

これらはいずれも特定の動作で椎骨動脈の虚血が誘発されることが特徴であり、しっかり病歴をとることが重要です。

腫瘍性疾患や多発性硬化症

これらも中枢性めまいの原因となりますが、前述の脳血管障害によるめまいとの最大の違いは「発症様式」です。脳腫瘍の場合、数週間-数か月かけて症状が徐々に悪化する経過を辿りますし、多発性硬化症の場合は空間的多発(複数の神経症状を呈するということ)に加え、いわゆる時間的多発(何度も症状の出現と寛解を繰り返す)が特徴的とされています。

参考

・Nat Rev Neurol. 2017 Jun;13(6):352-362.

・UpToDate

https://www.uptodate.com/contents/causes-of-vertigo

・めまい診療シンプルアプローチ 城倉健 医学書院

・医学事始:Wallenberg症候群とAICA梗塞の記事を参考にさせて頂きました。言わずもがな超わかりやすいです。

Wallenberg症候群(延髄外側症候群)

AICA梗塞

・radiopaedia:画像を引用させて頂きました。

https://radiopaedia.org/cases/brainstem-cross-sectional-anatomy-diagrams

https://radiopaedia.org/articles/cerebellar-infarction?lang=us

https://radiopaedia.org/articles/posterior-inferior-cerebellar-artery-pica-infarct?lang=us