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三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)

  • 2025年6月13日
  • 2025年6月13日
  • 神経
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 三叉神経・自律神経性頭痛(trigeminal autonomic cephalalgias:TACs)とは、頭部の片側の三叉神経領域の疼痛と、同側の自律神経症状(流涙、充血、鼻汁、鼻閉など)が同時に出現することを特徴とした一次性頭痛の総称です。

 TACsは国際頭痛分類第3版(ICHD-3)において、

・群発頭痛

・発作性片側性頭痛

・短時間持続性片側神経痛様頭痛発作

・持続性片頭痛

・三叉神経・自律神経性頭痛の疑い

の5つに分類されています。

 TACsは稀な疾患であることもあり、その病態生理はわかっていることの方が少ないのが現状です。病態として以下のような説が提唱されていますが、参考程度に眺めてもらえればよいと思います。

①視床下部のgeneratorの存在

 群発頭痛患者では、サーカディアンリズムに関係したメラトニンなどに変化がみられるため、サーカディアンリズムの中枢に変化が起こっている可能性が示唆されています。実際、PETやMRIを活用した研究により、症状出現時に視床下部の活動亢進が明らかにされています。

 視床下部の活性化が何故TACsの症状を引き起こすのかはよくわかっていませんが、最近の研究では、視床下部前部が三叉神経系の活性化と頭部自律神経系の異常活動に重要な働きをしていることが示されています。

②ニューロペプチドと一酸化窒素(NO)の役割

 群発頭痛患者の発作期には、頚静脈中のカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、血管作動性腸管ペプチドが増加していることがわかっています。また、群発頭痛患者では抗CGRP抗体が有効であることからも、これらのニューロペプチドがTACsの病態において重要な役割を果たしていることが示唆されます。

 さらに、発作期には髄液中のNOの代謝産物が上昇していていることが報告されており、こちらも本疾患との関連があると考えられています。

③内頚動脈の周囲に症候発生の起源を求める考え方

 多彩な自律神経症状を伴う疼痛発生機序の責任病巣として、内頚動脈周囲が有力視されています。具体的には、現在のところ以下の3つの説が考えられています。

・海綿静脈洞説:内頚動脈が拡張し、海面静脈洞内の血流流出入バランスが崩れ、洞内に血液うっ滞が生じることで疼痛と随伴症状が出現するとする説。

・海面静脈洞近傍説:翼口蓋神経節、三叉神経、上頚神経節由来の神経線維が何らかの理由で興奮し、内頚動脈の拡張と自律神経症状が出現するとする説。

・破裂孔近傍説:何らかの理由で内頚動脈が拡張し、圧迫機転により交感神経機能の抑制、副交感神経の興奮が起こり、自律神経症状が誘発されるという説。

④三叉神経の活動興奮による副交感神経の活性化

 何らかの理由で三叉神経の活動性が高まり、上唾液核に及ぶことで副交感神経が活性化し自律神経症状が出現する、と考えられています。

 TACsは病型ごとに症状や診断基準が異なっているため、それぞれ別々に解説していきます。

群発頭痛

 群発頭痛はTACsの中で最も頻度の高い病型であり、有病率は10万人あたり56~401人程度です。男女比は5:1で男性に優位であり、20-40歳で発症することが多いと報告されています。アルコールやニトログリセリンなどで誘発・増悪します。

 頭痛は大変重度であり、鋭く刺すような痛みです。目をえぐられているような痛みとも形容されることがあります。部位は眼窩周囲または側頭部に多く、片側性であることがほとんどです。症状は15~180分持続し、1日で最大8回程度繰り返す可能性があります。群発頭痛の発作は6~12週間持続し、数週間~数か月程度の寛解期を挟んで再度出現する、という、その名の通り群発的なパターンを取ります

群発頭痛の頭痛を表現した有名な挿絵

 自律神経症状は頭痛発作と同時に出現します。代表的な症状として、眼瞼下垂、眼瞼浮腫、縮瞳、結膜充血、流涙、鼻閉、鼻汁などがあります。また、片側の顔面発汗や皮膚血流増加も認めることがあります。

 以下に群発頭痛の診断基準を示します。

 特徴的な症候を呈するため、本疾患の診断はさほど難しくありませんが、器質的疾患を否定するために頭部画像検査を行っておくことが望ましいです。

 

 群発頭痛の発作時の治療としては、高濃度酸素吸入の有効性が確立しており、迅速かつ簡便な対応が可能です。フェイスマスクで7L/分、計15分間の吸入が推奨されています。おおよそ7-8割の患者さんで症状の軽減が認められるようです。2018年から群発頭痛に対して在宅酸素療法(HOT)の保険適用が認められていることも知っておくとよいでしょう。また、スマトリプタンの皮下注も有効とされており、保険適用を取得しており、選択肢となり得ます。

 発作の予防としては、Ca拮抗薬であるベラパミルやメラトニン、炭酸リチウムの有効性が示されていますが、群発頭痛としてはいずれも保険未適用である点に注意が必要です。また、海外では後頭神経や蝶形口蓋神経節の刺激療法も行われているようですが、本邦では普及していません。

発作性片側性頭痛

 発作性片側性頭痛は群発頭痛と比較すると、持続時間頻度に違いがあります。持続時間は数分~30分と短く、頻度は1日に10~40回と非常に頻回です。群発頭痛と同様に自律神経症状が生じますが、程度は比較的軽いようです。発作が起こるパターンは“群発性”ではなく、比較的均一に発作が持続します。男女比はおおよそ1:1で同等です。有病率は非常に少なく、群発頭痛の1~2%程度とされています。

 以下に発作性片側性頭痛の診断基準を示します。

 本疾患はインドメタシンが非常に有効であり、その反応性が診断基準にも組み入れられているほどです。基本的に生涯にわたって症状が続くため、終生インドメタシンの内服が必要になる例が多いです。

短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNHA)

 短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNHA)とは、三叉神経の3つの枝のいずれかに突然で短時間の激しい片側性の疼痛が起こり、自律神経症状を伴うのが特徴です。

 本疾患は、

 ・結膜充血および流涙を伴う短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNCT)

 ・頭部自律神経症状を伴う短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNA)

の2つのサブタイプに分類されています。SUNCTは結膜充血と流涙の両方を伴う点で定義される一方、SUNAは結膜充血と流涙のどちらかを有していればよいです。

 SUNHAも稀な疾患であり、有病率は10万人あたり10人未満と考えられています。頭痛は三叉神経のV1およびV2に出現することが多いですが、1/3の症例ではV3領域にも疼痛が出現するとされます。後頭部や耳まで放散することもあります。

 疼痛のパターンは以下の4パターンがあると報告されています。

・プラトー様パターン:60秒くらい持続する均一な疼痛

・反復性パターン:180秒程度、繰り返す刺すような疼痛

・鋸歯状パターン:240秒程度持続する、完全に0にはならない、増悪・改善を細かく繰り返す疼痛

・プラトー様+増悪パターン:300秒持続する、完全に0にはならない、増悪・改善を不定期に繰り返す疼痛

 半数の患者は発作によって異なったパターンを経験するようです。

 発作は年に1-2回程度発生し、数日から数か月持続してから寛解することを繰り返します。また、一部の患者は三叉神経領域に間隔低下やアロディニアを伴うことがあります。

 以下にSUNHAの診断基準を示します。

 SUNHAの発作期には、リドカインの静脈内投与が有効です。不整脈を起こしうるため、医療施設で厳格な管理の元で行う必要があります。他にインドメタシン内服や後頭神経ブロックといった選択肢もありますが、有効性は一定していないようです。

 予防薬としては、抗てんかん薬であるラモトリギンが最も有効性が高いとされています。代替・併用薬として、トピラマート、ガバペンチンも選択肢となります。

持続性片側頭痛

 持続性片側頭痛とは、その名の通り頭部片側の頭痛が3か月以上持続し、更に同側に自律神経症状を伴うTACsの一種です。

 ノルウェーの研究では有病率は10万人に2.2人であり、まれな疾患ですが、近年は診断されていない症例も多いものと考えられています。40-60歳頃に好発し、男女比は1:2です。

 頭痛は原則持続的ですが、20%程度の患者は1日~数か月の間欠期があるようです。疼痛は変動が強く、発作的な増悪を繰り返します。部位は眼窩部、前頭部、側頭部に多く、後頭部にまで至ることもあります。痛みの程度は中等度~重度であり、群発頭痛と比較すると軽度である傾向があるようです。

 他の病型同様、自律神経症状を伴いますが、こちらも比較的軽度であるとされます。本疾患によくみられる訴えとして、“目に何かが入っているかのような不快感(偽異物感)”があります。

 以下に本疾患の診断基準を示します。

 

 発作性片側性頭痛と同様、本疾患にはインドメタシンが絶対的な効果を示し、診断基準にも組み込まれています。インドメタシンを中止すると症状が再燃することが多く、こちらも終生内服が必要になることが多いようです。

 以上、TACsについてまとめてきました。最後にそれぞれの病型の特徴を以下にまとめます。

 なお、通常のインドメタシン製剤は本邦では販売が終了となっています。一方、インドメタシンのプロドラッグは市場にいくつか残っており、用いるのであればこれらが選択肢となります。この点も以下に表としてまとめておきます。この中では、アセメタシン(ランツジール®)のみがICHD-3の目標量であるインドメタシン150mgを達成できるようなので、基本的には本剤を用いるのがよいでしょう。

・UpToDate

・頭痛の診療ガイドライン2021  日本神経学会、日本頭痛学会、日本神経治療学会 医学書院