サルコペニアとは
サルコペニアとは、「主に加齢によって筋肉量や筋力が減少し、身体機能が低下する状態」と定義されます。例えるならば、骨粗鬆症の筋肉版と言えるかもしれません。
以下にAsian Working Group for Sarcopenia(AWGS)が2019年に改訂したサルコペニアの診断基準を示します。
DXA法やBIA法など、難しそうな検査や試験が並んでいますが、実臨床では体重減少を認めたり、視診で羸痩がひどい場合にサルコペニアがあるとみなすことが多いです。
サルコペニアは加齢による一次性サルコペニアと、安静臥床・疾患(代謝、消耗性疾患)、栄養不良など、明らかな原因のある二次性サルコペニアに分類されます。
サルコペニアのある患者さんでは、転倒・骨折・フレイル・脳心血管死など、健常人と比較し様々なリスクが上昇することが指摘されています。
フレイルとは
フレイルとは、高齢者が筋力や活動が低下している状態と定義され、身体、社会、精神の3つの要素から形成されています。前述のサルコペニアは身体的フレイルに含まれているため、フレイルはサルコペニアよりもより広い概念だと言えます。また、ロコモティブシンドロームという、「運動器の障害のために身体機能が低下した状態」と定義される言葉がありますが、こちらも身体的フレイルに包含されます。
以下にフレイルの診断基準を示します。
こちらは項目が簡便であり、サルコペニアのものよりは使いやすそうですね。
さて、フレイルは予備機能が低下し、IADLに支障は出ているものの、ADLは何とか自立している状態であり、要介護状態に至る前段階と位置付けられます。
フレイルもサルコペニアと同様、転倒・骨折・術後合併症、要介護状態、認知症、施設入所、死亡といった、負のアウトカムのリスクになることが分かっています。
実臨床でサルコペニアとフレイルをどう用いる?
ここまでサルコペニアとフレイルについて、どのような概念なのかを見てきました。続いて、これらをどのように実臨床に活かしていくのかを考えていきたいと思います。
さて、「疾患の診断がつく→特定の治療を行う」というのが、一般的な疾患に対する診療のプロセスになりますよね。ただ、残念ながら、今のところサルコペニアとフレイルには特異的な治療はないため、治療に繋げるという意味ではこのようなラベリングはあまり役に立たないということになります。
ここで文献3を参照してみると、サルコペニア/フレイルと、高齢者総合機能評価(CGA)の関連性について述べられています。CGAとは、高齢者の健康状態を包括的に評価するためのツールであり、身体的、精神的、社会的な機能を多角的に分析し、個別化された介護・治療計画を立てるために用いられます。
フレイルも、高齢者の脆弱性を、身体、社会、精神の3つの面から多角的に評価した概念になりますから、CGAはまさにフレイルを評価するためのツールとも言い換えることができます。
CGAを行うことで明らかになった問題、つまりフレイルは、医学的な介入だけでは対処が難しいことが多く、患者さん本人に加えて家族のサポートが不可欠です。さらに、ケアマネージャーや訪問看護師など、多職種との連携が求められることもあります。
まとめますと、サルコペニア/フレイルという概念を理解し、CGAなどのツールを用いてプロブレムを具体化することで、その後のケアに適切に繋げていくことに意義があるといえるでしょう。
参考
1)サルコペニア診療ガイドライン2017年 一部改訂 https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00426/
2)フレイル診療ガイド http://jssf.umin.jp/clinical_guide.html
3))外来・病棟でのマルチモビディティ診療 石丸裕康 金芳堂