ビタミンB12の基本
ビタミンB12と吸収
ビタミンB12は別名コバラミンとも呼ばれる水様性ビタミンです。コバルトを含む構造のため、赤色又はピンク色を呈します。主に放線菌(プロピオニバクテリウム属)などの細菌が合成し、人間を含め動物の体内では生成することは基本的には困難です。
肉、乳製品、卵といった動物性食品に含まれており、特にレバーやアサリは多くのビタミンB12を含有しています。ビタミンB12が発見される以前では、経験則から悪性貧血の治療のために大量のレバーが摂取されていたこともあるそうです。通常の食事であれば欠乏することはまずありませんが、ビーガンや厳格なベジタリアンの方では欠乏症が生じる可能性があります。
1日当たりの推奨摂取量は2.4mcgとされています。ビタミンB12の体内貯蔵量は2-5mgの範囲にあり、その約半分が肝臓に貯蔵されています。ビタミンB12の摂取がなくなったとしても、欠乏症が起こるまでには1-2年はかかるとされています。
ビタミンB12の吸収は以下のような順番で行われます。
①ビタミンB12が胃内で食物から分離され、唾液のハプトコリンと結合する
➁ハプトコリンとの結合は膵蛋白分解酵素によって小腸で分離され、ここで胃の壁細胞から分泌された内因子(intrinsic factor:IF)と結合する
③ビタミンB12と内因子の複合体は回腸末端のcubilin-amnionless受容体と結合し、回腸粘膜細胞内に取り込まれる
④細胞内で内因子は分解され、ビタミンB12はMRP1と結合し血液中に放出される
⑤ビタミンB12は血液中でトランスコバラミン(TC)と結合する
⑥目標の細胞のTC受容体(CD320)と結合し、細胞内に取り込まれる
99%以上が上記の機序により吸収されますが、残りは受動的に拡散し吸収されます。ビタミンB12欠乏症の際、治療として高用量の経口ビタミンB12を投与するのはこの受動的な吸収を狙っています。
ビタミンB12の生化学
ビタミンB12は細胞内に取り込まれた後、以下の2つの補酵素として働きます。
①細胞質:ホモシステインをメチオニンへ変換する補酵素
➁ミトコンドリア:メチルマロン酸CoAをスクシニルCoAへ変換する補酵素
特に①は重要であり、ビタミンB12は葉酸と共に共同して作用します。この経路はプリンやピリミジンといったDNAの構成要素の合成に関わっているため、ビタミンB12(または葉酸)が欠乏するとDNA合成がうまくできなくなり、巨赤芽球性貧血を発症することになります。
葉酸とビタミンB12の関連
前述の通り、葉酸はビタミンB12と共同して働き、DNA合成に関わっています。
葉酸は動物性食品だけでなく植物にも含有されており、体内の貯蔵量は0.5-20mgとされています。ビタミンB12と異なり、摂取量が低下すると数週間から数か月で欠乏症が起こる可能性があります。ただし、先進国では多くの食品に付加されているため、葉酸欠乏症をきたすことはほとんどありません。
例外としてメトトレキサートやトリメトプリムといった薬剤は葉酸代謝を阻害するため、葉酸欠乏症の症状が出現する可能性があります。
ビタミンB12欠乏症の原因
ビタミンB12は上述の通り複雑な吸収プロセスを辿るため、その欠乏症には多数の原因が存在しています。
極端な偏食による摂取量低下
通常の食事をしていればビタミンB12が不足することはまずありませんが、ビーガンなど動物性タンパク質を制限している方には欠乏症が起こる可能性があります。こういった方々の多くはサプリメントの摂取によりビタミンB12を補っていることがほとんどのようですが、巨赤芽球性貧血を見た際には食習慣もしっかりと聴取するべきです。
悪性貧血による吸収低下
悪性貧血による吸収低下はビタミンB12欠乏症の原因として最も頻度が高いとされています。有病率は10万人あたり50-4,000人で、年齢の中央値は70-80歳です。アフリカやヨーロッパで多く、アジアでは比較的少ないとされています。
抗内因子抗体が産生されることでビタミンB12と内因子の結合が阻害され、ビタミンB12の吸収が大幅に低下してしまう、という機序が一般的に知られていることかと思います。ただし、この抗内因子抗体は悪性貧血の患者のうち50-70%にしかみられず、感度の面で問題があることに注意が必要です。
他に悪性貧血に関与する自己抗体として、抗胃壁細胞抗体も知られています。こちらは健常人やPylori菌感染でも陽性となることがあるため、悪性貧血における病的意義は判然とせず、特異度の面で問題があります。
加えて、細胞性免疫による胃壁細胞の破壊という機序も想定されています。この場合、上部消化管内視鏡では萎縮性胃炎を認めることが多いようです。
また、悪性貧血では橋本病やシェーグレン症候群、尋常性白斑などの自己免疫疾患との合併が高いことが知られています。加えて、萎縮性胃炎を伴う場合は代償性の高ガストリン血症により胃癌を合併する可能性が高いため、ビタミンB12欠乏症を疑ったら一度は上部消化管内視鏡検査を行うことが望ましいです。
消化不良による吸収低下
このカテゴリーには多くの病態が入りますが、頻度が高いのが胃切除後など、胃に起因するものです。この場合、胃酸とペプシンが不足することにより、食品からビタミンB12が遊離できず、なおかつ内因子の産生が減少するためビタミンB12の吸収が極度に低下してしまいます。
胃全摘あるいは胃亜全摘術を受けた患者の16%でビタミンB12欠乏症を発症するとされており、術後にはビタミンB12の補充が必須となります。
プロトンポンプ阻害薬やH2ブロッカーといった制酸薬も食品からのビタミンB12遊離を阻害します。ある研究では、オメプラゾール20mgの内服により、吸収率が3.2%から0.9%に大きく減少したことが示されています。内因子の分泌自体は保たれているため、胃全摘と比較すれば欠乏症に至る可能性は低いといえますが、プロトンポンプ阻害薬が頻繁に使用されている現状を鑑みるとビタミンB12欠乏症の鑑別として覚えておくべきでしょう。
また、メトホルミンを内服している患者でもビタミンB12の吸収が低下します。一部の研究では30%の患者で何らかの影響があるとされており、数年単位でメトホルミンを内服している患者では定期的にビタミンB12をチェックしておくことが推奨されています。なお、その機序はカルシウムの恒常性に関連しているとされており、ビタミンB12-内因子複合体がカルシウム依存性にエンドサイトーシスされる部分にメトホルミンが干渉してしまうようです。
その他、慢性膵炎などの膵機能不全、小腸の慢性炎症または広範囲の小腸切除後、条虫感染などもビタミンB12の吸収に悪影響を与え、欠乏症をきたすことがあります。
遺伝性疾患
非常に稀ですが、Imerslund-Gräsbeck syndrome(回腸のビタミンB12-内因子複合体の受容体の遺伝子異常)、若年性コバラミン欠乏症(内因子の遺伝子異常)など、遺伝性疾患が背景にあることがあります。
ビタミンB12欠乏症の疫学
オランダの一般診療集団における貧血患者3,324人を対象とした2016年の研究では、249人が大球性貧血と診断されました。そのうちビタミンB12欠乏症が46人(貧血患者全体の1.4%、大球性貧血患者の18%)、葉酸欠乏症が16人(貧血患者全体の0.5%、大球性貧血患者の6%)でした。
カナダで行われた入院患者に関する2015年の研究では、ビタミンB12と葉酸の測定を受けた患者について解析が行われました。ビタミンB12を測定された患者は3,154人で、うち98人(3.1%)にビタミンB12欠乏を認めました。また、葉酸を測定された患者は2,564人であり、うち4人(0.16%)に葉酸欠乏を認めました。
また、高齢者を対象とした複数の研究では、若年者よりもビタミンB12欠乏症の有病率が圧倒的に高く、5-14%の範囲と試算されています。
前述の通り、葉酸については多くの先進国で食品に付加されるようになっており、有病率は低下傾向にあります。一方、ビタミンB12欠乏症の有病率は長期間変わっていないとされています。現在の日本の環境を考えると、大球性貧血をみたら葉酸欠乏症よりもビタミンB12欠乏症を優先して考慮するのがよいと思われます。
ビタミB12欠乏症の臨床症状
ビタミンB12欠乏症を疑うきっかけとなるのは、
・貧血に伴う症状
・神経症状
の2つです。他にも、消化管症状を呈したり、検診で偶然に大球性貧血を指摘されて気が付かれるパターンも多いです。以下、NEJMのビタミンB12欠乏症の症状をまとめた図を提示します。
大球性貧血
骨髄の造血幹細胞は頻回に細胞分裂を行っており、ビタミンB12欠乏によるDNA合成障害の影響を最も受けやすく、いわゆる巨赤芽球性貧血として表現されることになります。
症状は一般的な貧血と同様、易疲労感や息切れ、全身倦怠感等がみられます。
神経症状
ビタミンB12は中枢神経の発達や髄鞘形成・維持に必要不可欠です。不足することで神経の脱髄が起こり、結果として種々の神経障害を呈します。葉酸欠乏でも神経症状を呈することはありますが、ビタミンB12欠乏の方がより頻度が高いとされます。
ビタミンB12欠乏症で生じる神経症状は下記の3つに大別されます。
・認知機能低下、情動障害
・亜急性連合脊髄変性症
・末梢神経障害
認知機能低下、情動障害は頻度が高く、特に高齢者のteratable dementiaとして重要です。うつ症状、イライラ、不眠症、物忘れ、妄想など、多彩な症状を呈します。高齢者に甲状腺機能を測りたくなったらビタミンB12も測定するようにすると見落としが少なくなるかもしれません。
亜急性連合脊髄変性症は髄鞘形成障害を反映し、白質病変が主体です。主に脊髄の後索と側索が障害され、上位運動ニューロン障害による脱力や振動覚、位置覚の低下、触覚低下をきたします。初期には四肢の位置覚および振動覚の低下と軽度の筋力低下を認め、進行すると痙性麻痺、運動失調をきたします。末梢神経障害を合併するため、神経学的評価はしばしば解釈が困難となります。脊髄のMRI検査では逆ハの字型のT2WI高信号を呈することがあり特異的とされます。
末梢神経障害は上肢から、特に両手のしびれから発症する例が多いことが特徴です。また、経過は様々で急性経過を辿ることもあります。
その他、ジストニアやむずむず肢症候群を呈することもあります。
また、必ずしも貧血を合併せず、神経症状のみ呈することがあるため注意が必要です。
このように、ビタミンB12欠乏症による神経症状は多彩なパターンをとるため、とにかく疑うことが重要です。高齢者における認知機能低下、意識障害、四肢のしびれ、脱力、歩行困難などを見た際、丁寧な神経診察を行いつつも、ビタミンB12欠乏を精査する閾値を下げておくと見逃しが減るかもしれません。
消化器症状
粘膜組織は細胞増殖の速度が高いことから、造血幹細胞と並んでビタミンB12欠乏の影響を受けやすいです。舌炎や口腔内潰瘍、下痢といった症状を呈します。
その他、頻度は低いですが不妊症や脳静脈洞血栓症、全身の色素沈着といった症状を認めることがあります。
ビタミンB12欠乏症の評価
ビタミンB12欠乏の評価を行うべき対象としては、UpToDateでは以下の1つ以上に該当する患者とされています。
・原因不明の貧血(特に大球性貧血)、汎血球減少、過分葉好中球
・説明のつかない神経症状または精神症状
・ビーガンなど厳格な食事制限
・甲状腺炎や白斑症といった特定の自己免疫疾患
・メトホルミンを数年単位で内服している
・舌炎、味覚障害、食思不振、下痢などの消化器症状
血算と末梢血スメア
ビタミンB12欠乏症では巨赤芽球性貧血を呈するため、血算と末梢血スメアの評価が有用です。
MCVが100fL以上を大球性と表現しますが、ビタミンB12欠乏症や葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血では特にMCVが大きくなる傾向があり、115fL以上であることが多いです。130fL以上であれば巨赤芽球性貧血として間違いないと言われます。ただし、鉄欠乏性貧血や骨髄異形成症など、他疾患の影響でMCVが正常となることもあるため、原因不明の貧血ではMCVによらずビタミンB12の評価は行っておくべきです。
他にも無効造血を反映して間接ビリルビン上昇、LDH上昇、ハプトグロビン低下を示します。白血球や血小板、網赤血球も低下し、末梢血スメアでは過分葉好中球を認めます。
ビタミンB12
血清ビタミンB12の測定はビタミンB12欠乏の診断で必須といえます。ただし、測定しているのはあくまで血清中に存在するビタミンB12、つまりトランスコバラミンと結合しているものに限られます。ビタミンB12の多くは肝細胞内に貯蔵されているため、血清ビタミンB12濃度は全体のごく一部を反映しているに過ぎないのです。このため、血清ビタミンB12濃度に加え、ホモシステインを測定することで補正を行い、機能的な欠乏を評価します。こちらについては後述します。
まず、血清ビタミンB12の濃度とその解釈は以下のようになります。
①300pg/mL以上:正常であり、欠乏の可能性は低い
➁200-300pg/mL:境界域であり、欠乏の可能性があり、ホモシステインの評価が必要
③200pg/mL以下:単独で欠乏と判断してよい
なお、以下の場合はビタミンB12が高くなるため留意する必要があります。
・悪性腫瘍
・骨髄増殖性腫瘍
・アルコール性肝疾患
・腎臓病
ホモシステイン
さて、血清ビタミンB12が➁の境界域であった場合、ホモシステインを測定することになります。ホモシステインは下図の通り、ビタミンB12が補酵素となってメチオニンに変換されます。
このため、真にビタミンB12が欠乏するとこの反応が進まなくなり、結果としてホモシステインが蓄積し血中濃度が上昇します。ホモシステインはビタミンB12欠乏の他にも葉酸欠乏、ホモシステイン尿症、腎障害でも上昇してしまうため、解釈には注意が必要です。
なお、海外ではビタミンB12欠乏により特異的なメチルマロン酸が測定されることがスタンダードとされます。メチルマロン酸は脂肪酸代謝の産物であり、こちらもビタミンB12が欠乏することで蓄積し血中濃度が上昇しますが、ホモシステインと異なり葉酸欠乏や腎不全の影響を受けません。残念ながら本邦では測定ができないため、ホモシステインで代替するしかないのが現状です。
抗内因子抗体・抗胃壁細胞抗体
抗内因子抗体、抗胃壁細胞抗体は悪性貧血の病態の一翼を担っているため、測定が診断に有用といえます。ただし、前述の通り双方が感度・特異度の面で問題がある上、両者とも本邦では保険収載されていません。このため、日常診療で活用することは難しいのが現状です。
上部消化管内視鏡検査
ビタミンB12欠乏症の診断において必須の検査ではありませんが、萎縮性胃炎の検出やそれに伴う胃癌合併を検索するために一度はやっておくべき検査といえます。
その他の検査
ビタミンB12欠乏を伴わない大球性貧血や、ビタミンB12を補充しても改善を認めない場合、骨髄穿刺を追加で行うことがあります。
また、神経伝導速度検査や脊髄MRIといった画像検査も必須ではありませんが、神経症状がビタミンB12欠乏で説明できない場合や、治療によって改善しない場合は検討されます。
まとめ
最後にビタミンB12欠乏症ないしは巨赤芽球性貧血を疑った場合の対応をまとめます。
まず、初期の検査として、
・血液検査:血算、生化学、網状赤血球、ビタミンB12、葉酸、末梢血スメア±その他の貧血精査項目
・上部消化管内視鏡検査
を行います。
血清ビタミンB12が境界域であった場合にホモシステインを追加で提出します。
抗内因子抗体、抗胃壁細胞抗体は保険収載がなく、病院の持ち出しとなるためルーチンでは行いません。
ビタミンB12欠乏症の治療
ビタミンB12欠乏症と診断された場合、ビタミンB12の補充を行います。
実臨床では『胃切除後の方は内服では吸収されない』ため、筋注での投与をルーチンで行われている印象がありますが、これはどこまでエビデンスがあるのでしょうか?実は、胃切除後の方、つまり内因子が不足している人であっても、ビタミンB12の経口投与は効果がある、というのがその答えになります。
かなり昔の研究ですが、健常人と悪性貧血の患者において放射性物質で標識されたビタミンB12を経口で摂取させた所、悪性貧血の患者でも受動拡散によって0.5-4%が吸収されることが示されています(1,000μg投与すると5-40μgが吸収される)。
別の研究において、悪性貧血、萎縮性胃炎、または回腸切除術の既往がある患者を対象に、1日2,000μgの経口投与と非経口投与(最初の1か月で1,000μgを7回筋注、その後月に1回1,000μgを筋注)させたRCTでは、4か月目の時点で臨床所見は両群とも改善しており、むしろ血清ビタミンB12濃度の上昇とメチルマロン酸の低下は経口投与群で優れていました。
このため、ビタミンB12欠乏症に対しては、筋注よりも経口投与でのビタミンB12の投与を優先するべきといえるでしょう。筋注は痛いですし神経障害や出血のリスクも少なからずありますしね。
通常、ビタミンB12の補充により1週間で網赤血球数が増加し、6-8週間で巨赤芽球性貧血が改善するとされます。反応が見られない場合、鉄欠乏性貧血や骨髄増殖性疾患など他疾患の可能性を念頭におき再評価を行います。
経口投与
処方例:メコバラミン(メチコバール®) 500μg 3T/日
なお、欠乏症がある場合、UpToDateでは2,000μg/日の投与が推奨されていますが、本邦では1,500μg/日が保険適応となっていることに注意が必要です。
悪性貧血や胃切除後の方の場合、基本的には終生内服を継続します。
余談ですが、メチコバール®については添付文書上は末梢神経障害が適応症となっています。実際、手足のしびれに対して漫然と処方されていることが見受けられますが、残念ながらビタミンB12欠乏に起因しない末梢神経障害に対するメチコバール®内服のエビデンスは低いです。ポリファーマシーの一因にもなりますので、可能であればこのような使い方は避けるようにしましょう。
筋肉内投与
処方例:メコバラミン(メチコバール®)500μg/1ml 月1回筋肉内注射
参考
・N Engl J Med. 2013 Jan 10;368(2):149-60.
・Blood (1998) 92 (4): 1191–1198.
・UpToDate
・医学事始 http://igakukotohajime.com/2020/02/11/vitamin-b12%E6%AC%A0%E4%B9%8F/
・https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/102/12/102_3261/_pdf