外来診療において、動脈硬化疾患である糖尿病、高血圧、脂質異常症の三疾患は避けては通れません。この項では、糖尿病の中でも2型糖尿病にfocusし、総論的な部分をまとめていきたいと思います。
糖尿病の診断
糖尿病は血糖値(空腹時血糖、OGTT2時間値、随時血糖)やHbA1cをもとに診断され、概ね各国で共通です。HbA1c(HbA1c≧6.5%)のみでは糖尿病と診断することはできず、必ず血糖値の基準(①空腹時血糖≧126mg/dL、➁OGTT2時間値≧200mg/dL、③随時血糖≧200mg/dLのいずれか)を満たす必要があります。糖尿病の診断には至らない場合でも、糖尿病の疑いがあれば数か月ごとの経過観察を行うべきです。空腹時血糖や随時血糖で診断できない場合、75gOGTTまで行うことを検討します。
糖尿病型
・血糖値(空腹時≧126mg/dL,OGTT2時間値≧200mg/dL,随時≧200mg/dLのいずれか)
・HbA1c≧6.5%
糖尿病の種類とその見極め方
私が学生の時、代謝・内分泌内科を回っていた際に、指導医の先生に「糖尿病といっても色々な種類がある。どんなものがあるか答えてみて。」と質問を頂きました。その際私は1型糖尿病と2型糖尿病しか答えらなかったのですが、びっくりするぐらい怒られたのをよく覚えています笑。そんなに怒らなくても・・・と当時は思ったものですが、それでも知っておく必要があることは確かです。
糖尿病には、以下の4つのタイプがあります
・2型糖尿病
・1型糖尿病
・その他の疾患による糖尿病
・妊娠糖尿病
このうち、最も頻度の高いものは圧倒的に2型糖尿病です。2型糖尿病は膵β細胞量が減少し、血糖値を下げるのに十分なインスリンが出なかったり(インスリン欠乏)、肥満・運動不足によるインスリンが効きにくくなること(インスリン抵抗性)など、複数の因子が関与して発症します。2型糖尿病と他の糖尿病では治療法が大きく異なるため、最初に2型糖尿病かそれ以外の糖尿病なのかを見極めることが重要です。以下、それぞれの糖尿病の特徴についてまとめます。
■1型糖尿病
1型糖尿病は、自己免疫的機序によって膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンが絶対的に欠乏することで発症する糖尿病です。ひとことで1型糖尿病といっても、発症様式によって①急性発症、➁劇症、③緩徐進行の3つに分類されます。分類のポイントは著明な高血糖や高血糖に関連する諸症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)が出現してからの経過と膵島関連自己抗体の有無です。著明な高血糖やDKAやHHSといった高血糖緊急症を起こすまでの期間は、急性発症型は3か月以内、劇症型は1週間前後の経過であることが多いです。また、急性発症型では膵島関連自己抗体が陽性となることが多いですが、劇症型では陰性です。ただ、急性発症型と劇症型は当然急な経過で発症し、受診時にはとんでもない高血糖であったり高血糖緊急症に至っていることが多いため、2型糖尿病との鑑別に迷うことは少ないです。一方で、しばしば2型糖尿病との鑑別が困難となるのが緩徐進行型1型糖尿病です。最初は無症状で高血糖を呈さないことが多く、一見2型糖尿病と同じ経過を辿ります。両者の鑑別には抗GAD抗体もしくは膵島細胞抗体(ICA)を測定することが有用です。糖尿病を疑った患者全例に測定するのは流石にやりすぎなので、2型糖尿病として治療している際、急にコントロールが悪くなった時に測定してみるのがよいでしょう。先日、2型糖尿病として治療中、急に血糖コントロールが悪くなった患者さんで抗GAD抗体を測定してみた所、見事陽性となりおおっと思ったことがありました。ただし、急激に血糖コントロールが悪くなった場合、緩徐発症型1型糖尿病だけでなく、膵癌などの悪性腫瘍の存在も念頭に置くようにしましょう。
■その他の疾患による糖尿病
このカテゴリーには膵疾患や遺伝子異常など特定の機序、疾患による糖尿病が含まれます。具体的にはには急性膵炎、慢性膵炎、膵腫瘍などの膵疾患、肝硬変などの肝疾患、MODY(muturity-onset disbetes of the young)やミトコンドリア糖尿病、ステロイドによる糖尿病などがあります。診断や治療が難しいことが多いので、迷ったら専門医に相談するのが吉です。
■妊娠糖尿病
妊娠中にはじめて発見、または発症した、糖尿病に至っていない糖代謝異常のことを妊娠糖尿病と呼びます。一般内科医が妊娠糖尿病をみることは少ないと思いますので詳細は割愛します。
インスリン抵抗性とインスリン依存性の指標
欧米では肥満を背景としたインスリン抵抗性が主体の2型糖尿病が多いことから、メトホルミンが1st choiceに位置付けられています。一方で、日本人にはインスリン分泌能の低下した2型糖尿病がみられることが多く、最初にインスリン抵抗が主体なのか、インスリン欠乏が主体なのかを評価した上で治療を行うべきだという意見があります。具体的には、空腹時血糖と同時に血中インスリン、あるいはCペプチド値を測定することによって評価を行います。下記に各指標についてお示しします。
ただ、実臨床でこの指標を全症例にチェックしているかと言えば微妙な所です。以前私の拝聴させてもらったとあるセミナーでは、実際の2型糖尿病に対する診療方針が変わらないため基本的にはチェックしない、ということを言っていました。ここは人によって意見が変わる所で、やるかやらないかの二元論で語るにはなかなか難しい部分です。また、インスリンとCペプチドを同時に測定すると保険で切られてしまうことも注意が必要です。私自身は、この指標を活かして治療を変更する自信がないため、基本的にはこの指標は用いていません。ただ、以前インスリンを使用中の患者さんにCペプチドを測定してインスリン分泌能をチェックし、インスリンを中止できるかどうかの判断に用いたことがありました。その際は空腹時Cペプチドが0.5と低値であったため、インスリン欠乏状態にあると判断し、無理なインスリンの中止は行いませんでした。このように、使いどころを選んで自分のマネジメントが変わると言える場面でのみ検査を行うのがよいのかもしれませんね。他にも使いどころがあれば是非教えて頂きたいのでコメントお待ちしております。
2型糖尿病の治療目標
さて、ここからは2型糖尿病の診断がついた以降の話をしていきます。糖尿病は網膜症、腎症、神経障害といった細小血管障害に加え、心筋梗塞などの大血管障害の原因となります。これらの疾患を予防するために血糖をコントロールするわけですが、具体的にどのような数値を目標にすればよいのでしょうか?この辺は実は近年(といってももう10年前にですが)に大きく考え方が変わりました。各国の診療ガイドラインで共通して協調されるようになったのが「individualization(個々の患者さんに合わせた血糖コントロールを目標の個別化)」ということです。かつては血糖値は低ければ低い程よい、「the lower, the better」という考え方が主流でしたが、2008年のACCORD試験を代表として、血糖を下げることが必ずしも患者さんの利益に結び付かないことがわかったことで潮目が変わったわけです。ざっくりわけると糖尿病発症早期の患者さんと、長期罹患者・心血管イベントリスクの高い患者さん・合併症をもつ患者さんでは血糖コントロール目標が大きく異なるため、2つに場合分けしてまとめていきたいと思います。
■発症早期(発症8-10年)で合併症のない患者の場合
発症早期の2型糖尿病患者では、厳格な血糖コントロールが大血管障害・細小血管障害を予防するというエビデンスがあります。2型糖尿病発症早期の患者さんにHbA1c約7.0%を目標にし、厳格な血糖コントロールを行ったUKPDS33試験1)では、HbA1c約8.0%を目標とした群と比較し、糖尿病関連合併症(細小血管障害、大血管障害、死亡などをすべてまとめたもの)を12%低下させることを示しました。一方、この試験では心筋梗塞などの大血管障害のリスクは低下しませんでした。
ただし、肥満者のみを対象としてメトホルミン投与による強化療法群と従来療法群を比較したUKPDS34試験2)では、強化療法群では心筋梗塞や大血管症のリスクを有意に低下させました。
また、両試験の研究終了後に10年間フォローアップした観察研究であるUKPDS803)では、HbA1cの差はなくなっていましたが、発症早期に厳密に血糖コントロールを行った群で大血管障害、細小血管障害、死亡率は低いままでした。これはlegacy effectと呼ばれており、発症早期に厳格な血糖コントロールを行うことで、その後の血糖コントロールが甘くなったとしてもその効果が持ち越されるわけです。
以上より、発症早期はHbA1cを7.0以下を目標とし、しっかりと血糖コントロールを行うことが重要と言えます。
■長期罹患者(発症8-10年以上)か、合併症をもつ患者の場合
さて、次は長期罹患者、合併症を持つ患者さんについて見ていきましょう。結論から申しますと、この患者群に対する厳格な血糖コントロールは害になることが分かっています。ACCORD試験4)は心血管イベントのリスクファクターを持つ糖尿病長期罹患者を対象とし、厳格な血糖コントロール(HbA1c 6.0未満)と標準治療(HbA1c 7.0~7.9%)を比較したRCTです。この試験では標準治療群に比べて厳格な血糖コントロール群で非致死的心筋梗塞が24%減ったものの、死亡率が1.35倍に有意に増加してしまい、研究が途中で中止されてしまいました。
また、このACCORD試験の結果を指示するコホート研究5)があります。発症後約8年の糖尿病患者では、HbA1cと死亡リスクの関係は下図のようなJカーブをとり、最も死亡率が低いのは内服治療でHbA1c 7.0-9.0%、インスリン治療では7.5-8.0%でした。この結果から、長期罹患者では緩やかな血糖コントロールをすべきといえます。
これらの研究結果を受け、近年の各国の診療ガイドラインでは糖尿病長期罹患者、心血管イベントリスクの高い患者、余命が短い患者、重篤な合併症や重度の認知機能低下のある患者、ADLの悪い患者の血糖コントロールは甘めに設定されるようになってきています。下図は本邦の診療ガイドラインに掲載されている図になります。
以上より、長期罹患者または合併症がある2型糖尿病の患者さんでは、経口血糖降下薬のみの使用ではHbA1c 7.0-9.0%、インスリン使用の場合はHbA1c 7.5-8.0%を目標とするのがよいでしょう。
経口血糖降下薬総論
ここにきてようやく治療についての内容です。まずは食事・運動療法が超重要になってくるのですが、紙面の関係もあり割愛させてください。決して軽視しているわけではないですからね!
さて、経口血糖降下薬とは、その名の通り糖尿病診療において経口投与で血糖を下げる薬剤の総称です。そのため、注射薬が多いGLP-1受容体作動薬は厳密には当てはまりませんが、ここではインスリン以外の糖尿病治療薬として経口血糖降下薬にカテゴライズさせてください。
経口血糖降下薬といっても様々な種類があります。研修医の先生方に一番身近なのは、入院中にも導入しやすいトラゼンタ®などのDPP-4阻害薬でしょうか?はたまた、救外に低血糖で運ばれてくるSU剤でしょうか?とにかく、色々あってわけわからん!というのが正直な所だと思います。まず、経口血糖降下薬を考える上で重要なポイントを4つ、お示しします。
①血糖降下作用の強さ
➁心血管イベントリスクの減少や腎保護作用といった副次的効果があるか
③薬価がどれくらいか
最初にこれらをまとめたものを提示してしまいます。
・・・何が何やらという感じでしょうか?笑
今後は経口血糖降下薬の各論についてまとめていきます。最終的にこの表が理解できるように記事を書いていくつもりなのでよろしくお願いします。ではでは、本日はこの辺で^^
参考
論文
1)Lancet. 1998; 352:837-853.
2)Lancet. 1998; 352:854-865.
3)N Engl J Med. 2008; 359: 1577-1589.
4)N Engl J Med. 2008; 358: 2545-2559.
5)Lancet. 2010; 375: 481-489.
本
・羊土社 Gノート 動脈硬化御三家
・南江堂 できる!糖尿病診療