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インスリン製剤について

2型糖尿病は基本的に経口血糖降下薬+GLP受容体アゴニストの注射製剤で治療を行いますが、中にはインスリンが必要となる患者さんもいらっしゃいます。今回の記事では、一般内科として必要なインスリンに関する知識についてまとめていきます。

 

生体において、インスリンは血糖値を下げる唯一のホルモンです。膵臓のβ細胞で産生されるペプチドホルモンであり、細胞の表面に存在するインスリン受容体に結合します。それに伴い、細胞質のGLUT-4が細胞表面に浮上し、グルコースをカリウムと共に血中から細胞内に取り込みます。

 

インスリンは常に分泌されている「基礎インスリン」と、食事摂取に伴い分泌される「追加インスリン」に分けられ、ともに血糖コントロールに不可欠なものです。

 

インスリン分泌そのものが枯渇する(インスリン分泌不全)、ないしはインスリンへの反応性が低下する(インスリン抵抗性)ことにより糖尿病を発症します。1型糖尿病では自己免疫的機序により膵β細胞が破壊されることで、絶対的なインスリン分泌不全を生じます。一方、2型糖尿病ではインスリン分泌不全、インスリン抵抗性の両者に加え、遺伝因子、環境因子が関わるというように、多因子が複雑に絡み合うことで発症します

 

インスリンが発見されたのは1921年のことであり、ジョン・ジェイムズ・リッカード・マクラウドの研究室にて、整形外科医・フレデリック・バンティングと医学生・チャールズ・ハーバート・ベストの二人が共同で発見しました。その後、「インスリンの発見」について、1923年にマクラウドとバンティングの二人がノーベル賞を受賞しています(あれ、医学生は…?)。

 

1922年には早速インスリンの臨床導入が試みられ、14歳の1型糖尿病患者に世界初のインスリンの投与が行われました。当初は精製技術が未熟なためアレルギー反応が出てしまいましたが、精製しなおしたものを再投与したところ、今度は副作用を引き起こすことなく、患者の血糖値を低下させることができたそうです。

 

その後、ブタの膵臓からインスリンを抽出する技術が確立し、徐々に臨床応用が普及していきました。1940年代には本邦にもインスリン療法が導入されましたが、マグロなどの魚やクジラからインスリンを抽出して使用していたそうです。1970年代にはヒトインスリンを合成する技術が確立し、1990年代後半からはアミノ酸を改変することで作用時間を修飾した製剤(インスリンアナログ)、具体的には超速効型・持効型インスリンが上市され、現在に至っています。

 

積極的な導入が必要な症例

1型糖尿病膵全摘後など、インスリン分泌が絶対的に枯渇している場合、インスリン療法は必須です。また、厳格な血糖コントロールが必要な妊娠糖尿病や糖尿病合併妊娠においても、経口血糖降下薬が胎児に影響を与える可能性があるため、食事療法で改善が乏しい場合にはインスリン療法が必要となります。

状況に応じて導入を検討する症例

2型糖尿病では食事療法と運動療法がすべての治療の基本であり、そこに経口血糖降下薬を上乗せして対応することがほとんどです。インスリンは低血糖や体重増加のリスクがあるため、2型糖尿病への導入は最小限としたいところですが、以下の場合にはインスリン導入を考えます。

 

①経口血糖降下薬だけでは血糖コントロールがつかない症例

病態に合わせ、適切に経口血糖降下薬を使用しても血糖コントロールがつかない場合、インスリンの適応となります。

 

②インスリンの分泌自体が低下している症例

2型糖尿病ではどちらかというとインスリン抵抗性が病態の主となりますが、インスリン分泌不全が主体となる症例も少なからず存在します。このような症例では経口血糖降下薬でインスリン抵抗性を改善させるだけでは不十分なことが多く、最終的にはインスリンが必要となってきます。

 

③腎機能や肝機能が低下した症例

メトホルミンは2型糖尿病におけるキードラッグですが、腎機能や肝機能が低下してくると乳酸アシドーシスのリスクからその使用が難しくなります。同様に、他の経口血糖降下薬の選択肢も限られるため、このような場合はインスリンを導入せざるを得なくなります。

 

④経口血糖降下薬で副作用を認める症例

多くはありませんが、副作用のため経口血糖降下薬そのものが使用できない場合もインスリンの適応となります。

 

⑤手術前後、感染症合併の症例

このような場合、ストレスによりインスリン抵抗性が上昇する上、メトホルミンなどの経口血糖降下薬の副作用が出現しやすくなってしまうため、良好な血糖コントロールのためにインスリン治療が必要となる場合があります。

まず、下記にインスリン製剤の種類を表にまとめて示します。

*1 ノボノルディスクファーマ社の混合型製剤には、超速効型の混合比率(%)を示したノボラピッド30ミックス注、ノボラピッド50ミックス注、ノボラピッド70ミックス注、速効型の混合比率(%)を示した30R注がある。

 また、日本イーライリリー社の混合型製剤には、超速効型と中間型の混合比率が25%と75%のヒューマログミックス25注、および50%と50%のヒューマログミックス50注、速効型と中間型の混合比率が30%と70%のヒューマリン3/7注がある

*2 混合インスリン製剤が、超速効型または速効型インスリンと、それぞれの中間型インスリンを様々な比率であらかじめ混合した製剤であるのに対して、配合溶解製剤のライゾデグは、超速効型インスリンであるノボラピッドと持効型インスリンであるトレシーバの2種の異なるインスリンを、3:7の割合で1本の注射器に配合した製剤である

 

うわっこんなにあるの!?と面食らった方も多いと思いますが、すべて記憶する必要はありませんからご安心ください。

 

インスリン製剤は作用発現時間や作用持続時間によって、①超速効型、②速効型、③混合型、④配合溶解型、⑤中間型、⑥持効型溶解に分類されます。主に基礎インスリンを持効型溶解が、追加インスリンを超速効型が担当しており、一般内科医としては、持効型溶解と超速効型の2種を適切に使用できればよいと思います。私は持効型溶解はトレシーバ、ランタス(≒グラルギンBS)を、超速効型はノボラピッドを使用しています。

 

なお、最近のトレンドである、新しい超速効型インスリン(アピドラ、フィアスプ、ルムジェブ)と、持効型溶解インスリン/GLP-1受容体作動薬配合剤について、ここで簡単に触れておきます。

 

〇新しい超速効型インスリン(アピドラ、フィアスプ、ルムジェブ)

これらは従来の超速効型インスリンよりも作用発現/消失がさらに速く、より生理的なインスリン分泌パターンを実現できます。糖尿病の病型を問わず、低血糖のリスクの増加なく食後血糖の有意な改善が示されています。また、従来の超速効型インスリンは食前投与になりますが、食直後投与を念頭においた検討もなされ、既存/新規製剤の食直前投与群と比較してHbA1cの低下で非劣勢を示しています。発売されたばかりということで、一般内科医が積極的に使用する必要はないと思います。ただ、これから先、これらの新規超速効型インスリンが主流となる可能性も十分に考えられるでしょう。

 

〇持効型溶解インスリン/GLP-1受容体作動薬配合剤

本邦ではゾルトファイとソクリアが上市されています。持効型インスリンとGLP-1RAを合剤とすることで、インスリンの強力な血糖低下作用と、GLP-1 RAの体重減少および低血糖リスク低減効果が相補的に作用し、単剤開始よりも質の高い血糖コントロールが可能とされています。

 

持効型溶解インスリン/GLP-1受容体作動薬配合剤の最大量使用時の配合用量

 

上記のように、配合比の違いからGLP-1RAの最大用量を使うと、基礎インスリン量に倍以上の違いが出ることに注意が必要です。現時点では一般内科医が使うにはややハードルが高い印象がありますが、こういった新たな製剤がどんどん市場に出てきていることは押さえておくべきでしょう。

 

糖尿病専門医へのコンサルトを恐れずに!

まず前提として、1型糖尿病は全例糖尿病専門医にコンサルトするのが望ましいです。また、2型糖尿病であっても、若年で余命が長く、包括的な管理が望ましい症例については、可能であれば専門医へのコンサルトを検討します。何事も餅は餅屋、無理に頑張って患者さんの予後を悪くしては元も子もありません。まずは自分の実力で対応可能な糖尿病なのか、よくアセスメントするようにしましょう。

BOT(basal supported oral therapy)について

BOTという用語は正式なものではないようですが、本邦では広く認知されています。BOTは食事・運動療法に経口血糖降下薬(±GLP-1 RA)を併用しても、設定した血糖コントロール目標の達成が困難な際に、内服薬に1日1回の持効型インスリンを併用する方法です。つまり、BOT=経口血糖降下薬(±GLP-1 RA)+持効型インスリンということですね。

 

当然ですが、ほとんどの患者さんはインスリン注射の導入に抵抗を感じています。そのため、いきなり複数回のインスリン注射を導入しようとしてもうまくいかないことが多いです。一方、BOTは元々の内服治療を中心とし、そこに持効型インスリンを補助的に使用する方法であり、注射のタイミングもフレキシブルに決められるため、インスリンを導入しやすい治療法といえます。

 

低血糖のリスクを回避するため、持効型インスリンの用量は少なめから開始することが重要です。大体4-6単位から開始するのがよいでしょう。

 

BOT開始の一例をお示しします。メトホルミン2000mg/日、ダパグリフロジン(フォシーガ®)10mg/日、シタグリプチン(ジャヌビア®)50mg/日でも血糖コントロールが悪い患者さんに対し、トレシーバ4単位/日から開始します。

強化インスリン療法について

基礎インスリンを持効型インスリンの投与で、追加インスリンを超速効型インスリンの投与で再現する投与法のことを強化インスリン療法と呼びます。簡単にいいますと、強化インスリン療法=持効型インスリン+毎食の超速効型インスリンということになります。

 

糖尿病性ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群など、高血糖緊急症に対し、持続インスリン静注での治療後に、強化インスリン療法に切り替えて継続することが多いです。

  

2型糖尿病の外来治療で強化インスリン療法を行う症例はそう多くなく、BOTで血糖コントロールがつく場合がほとんどです。

インスリン療法を行うことで、血糖測定を保険適応で行うことができます。ここでは血糖自己測定(SMBG)と持続グルコース測定(CGM)について紹介します。

 

血糖自己測定(SMBG)

血糖自己測定(self-monitoring blood glucose:SMBG)とは、簡易血糖測定器を用いて自分で血糖値を測定することです。外来時だけでなく、日常の血糖値を知ることでより良い血糖コントロールを目指すことができます。測定方法は機械によって異なりますが、多くは指先を穿刺して行います。

 

SMBGはインスリン製剤やGLP-1 RAなど、注射製剤を使用している方が保険適応となります。血糖測定の回数ごとに保険点数が異なりますが、月90回以上(1日3回以上測定)、月120回以上(1日4回以上測定)に関しては、適応が1型糖尿病または膵全摘後の患者に限るとされているため、2型糖尿病の診療では1日1-2回の血糖測定が現実的かと思われます。

持続グルコース測定(CGM)

持続グルコース測定(continuous glucose monitoring:CGM)とは、皮下にセンサーを留置して、間質液中のグルコースを連続的に測定する血糖測定法です。SMBGは測定のたびに穿刺が必要となり、かつ測定時の血糖値しか確認できず、血糖変動の全体を把握することが難しいという欠点があります。一方、CGMは持続的に皮下間質液中のグルコース濃度を測定して、SMBG値もしくはアルゴリズムによる補正が行われることにより、血糖値に近似した値を示します。SMBGでは把握の難しい、食後や夜間などの血糖変動も確認でき、また食事による血糖上昇が可視化されるため、食生活の改善にも有効とされます。ただし、あくまで間質液中のグルコースを測定しているため、数値が血糖値よりも遅れて動くことを覚えておきましょう。

 

保険適応はインスリン注射を1日1回以上行っている患者であり、GLP-1 RA注射薬は適応となりません。SMBGのように病型による回数の制限がなく、2型糖尿病の患者さんでも1日の血糖変動を確認することが可能です。FleeStyleリブレ®は導入が比較的であり、一般に普及しています。

・Hospitalist(ホスピタリスト) Vol.6 No.2 2018(特集:糖尿病) 

・総合診療 2023年 3月号 特集 自信がもてるようになる! エビデンスに基づく「糖尿病診療」大全 新薬からトピックスまで