注目キーワード
  1. 高血圧
  2. 骨粗鬆症
  3. 糖尿病

GLP-1受容体アゴニスト

GLP-1受容体アゴニストの作用機序

up to dateより

グルカゴン様ぺプチド(GLP-1)およびグルコース依存性インスリン分泌促進性ポリペプチド(GIP)は食事の摂取に伴い分泌されるホルモンで、総称してインクレチンと呼ばれます。主な作用として膵β細胞に作用し、グルコース依存性にインスリン分泌を促します。また、胃内容物排出を遅延させ、食後のグルカゴン分泌を抑制し、食事摂取量自体を減少させるなど、多面的な働きを示します。

GLP-1受容体アゴニストは体内のDPP-4によって分解されにくく、皮下注射後に血中濃度が維持されるように開発された製剤です。また、最近はGLP-1受容体だけでなく、GIP受容体にもアゴニストとして作用する、GIP/GLP-1受容体アゴニストであるtirzepatideという薬剤がFDAに承認されています

〇GLP-1受容体アゴニストの種類

現在、本邦ではバイエッタ®、リキスミア®、ビクトーザ®、ビデュリオン®、トルリシティ®、オゼンピック®、リベルサス®の7種の製剤が発売されています。

作用時間により大きく(超)長時間作用型短時間作用型に分類され、前者は糖尿病の病態の根幹にあるインスリン分泌不全とグルカゴン分泌亢進を同時に是正することで血糖改善効果を発揮し、後者は胃内容物排出遅延により食後高血糖を是正するとされます。

また、最近セマグルチドの経口薬であるリベルサス®が販売開始されました。ペプチドを骨格とするセマグルチドは分子量が大きく、経口投与は困難と考えられていましたが、吸収促進剤であるSNAC(サルカプロザートナトリウム)を含有することで、主に胃からの吸収が可能となり、経口投与が実現しました。ただし、後述の複数の要素から使いにくさの残る薬剤といえます。

加えて、前述したとおり、GIP/GLP-1受容体アゴニストであるtirzepatideもいずれ本邦でも承認されることになると思われます。

GLP-1受容体アゴニストのエビデンス

■血糖降下作用

数々の研究でGLP-1受容体アゴニストの血糖降下作用が証明されています。

経口血糖降下薬でのコントロールが不良の2型糖尿病患者に対し、GLP-1受容体アゴニストとプラセボ、ないしは別のGLP-1受容体アゴニストと比較した34件のRCTのメタアナリシスでは、すべてのGLP-1 受容体アゴニストはプラセボと比較してHbA1cを低下させ、その範囲は-0.55~-1.38%でした。1)2)

その他の研究も加味すると、GLP-1受容体アゴニストはおおよそHbA1cを1.0~1.5%低下させる効果があるようです。また、短時間作用型よりも長時間作用型の方が血糖降下作用は強いようです。

■大血管合併症予防効果

リラグルチドはLEADER試験3)において、50歳以上の場合は少なくとも1つの心血管疾患を有すること、60歳以上の場合は少なくとも1つの心血管リスクファクター(高血圧、微量アルブミン尿など)を有することを条件とした9340人の2型糖尿病患者において、リラグルチド群とプラセボ群を比較しました。なお、ほとんどの患者は併用療法を受けており、メトホルミンが76%で使用されていました。追跡期間中央値 3.8年で、複合イベント(心血管系の原因による死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳梗塞)は、リラグルチド群で有意に減少しました。

LEADER試験

セマグルチド皮下注投与はSUSTAIN-6試験4)において、50歳以上で心筋梗塞・脳梗塞の既往、心不全、慢性腎不全がある、ないしは60歳以上で少なくとも一つの心血管リスクファクターを有する2型糖尿病患者において、セマグルチド群とプラセボ群を比較しました。2年間の追跡期間において、複合イベント(心血管系の原因による死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳梗塞)は、セマグルチド群で有意に低下しました。

SUSTAIN-6試験

一方、セマグルチド経口投与はPIONEER-6試験5)において、50歳以上で心筋梗塞・脳梗塞の既往、心不全、慢性腎不全がある、ないしは60歳以上で少なくとも一つの心血管リスクファクターを有する2型糖尿病患者において、1日1回のセマグルチド経口投与群/896とプラセボ群を比較しました。中央値15.9か月の追跡期間の後、複合イベント(心血管系の原因による死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳梗塞)は両群間で有意差を示すことができませんでした。一方、個々の要素を見てみますと、心血管系の原因による死亡のみセマグルチド群で有意に低下していたようです。

PIONEER-6試験

デュラグルチドはREWIND試験6)において、50歳以上で心筋梗塞・脳梗塞の既往がある、ないしはそのリスクファクターを有する2型糖尿病患者において、デュラグルチド群とプラセボ群を比較しました。追跡期間中央値5.4年の時点で、複合イベント(心血管系の原因による死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳梗塞)はデュラグルチドで有意に減少しました。

REWIND試験

以上より、アテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD:心筋梗塞、脳梗塞)のある2型糖尿病患者において、リラグルチド、セマグルチドの注射製剤、デュラグルチドはASCVDの発症を抑制する効果が示されたといえます。一方で、セマグルチドの経口投与はASCVDの発症を抑制する効果を示すことができませんでした。これはやはり投与経路に伴う吸収効率の悪さが関与していると考えられ、セマグルチド経口薬の大きな弱点であるといえます。

■心保護作用

SGLT2阻害薬と異なり、現在のところGLP-1受容体アゴニストは心不全患者の心不全転帰を改善させるエビデンスを示すことができていません

■腎保護作用

リラグルチド、セマグルチド皮下注、デュラグルチドは前述のLEADER試験、SUSTAIN-6試験、REWIND試験において、副次評価項目としてではありますが、アルブミン尿の抑制やCre値の悪化など、腎症の転帰を改善させました。GLP-1受容体アゴニストには腎保護効果を含め細小血管イベントリスクを低下させる可能性が示唆されます

■体重減少

GLP-1受容体アゴニストには胃内容物排泄遅延や満腹中枢への作用など、多面的な機序で体重を減少させます。種々の研究から、どの薬剤も2-3kg程度の体重減少が見込めます

GLP-1受容体アゴニストの副作用

■嘔気、嘔吐、下痢などの消化器症状

消化器症状はGLP-1受容体アゴニストの副作用で最も多いものであり、特に嘔気、嘔吐、下痢が頻繁に認められます。頻度は10-50%と高率であり、GLP-1受容体アゴニストを継続できない原因にもなります。嘔気は治療期間と共に軽減する可能性があり、用量漸増で予防できます。

■膵炎

GLP-1受容体アゴニストに関連した急性膵炎が報告されています。因果関係があるかどうかは議論となる部分ですが、膵炎の既往がある患者には使用しない方が無難そうです。

■皮膚症状

注射部位反応が起こることがあります。また、頻度は低いですが、アナフィラキシーの報告もあります。

GLP-1受容体アゴニストの使い方

前述の通り、GLP-1受容体アゴニストは作用時間の違いによって長時間作用型と短時間作用型に分類されます。長時間作用型のGLP-1受容体アゴニストは大血管合併症を低下させるエビデンスがあり、かつ腹部症状がでにくいことや、1日1回または1週1回の使用でよいということが患者にとって有益性・利便性が高いため、長時間作用型の使用を優先することが望ましいと考えます

また、セマグルチドの経口製剤(リベルサス®)は前述の通り大血管合併症のリスク低下を示すことができなかったため、基本的には注射薬を優先して使用します。

となるとリラグルチド(ビクトーザ®、1日1回投与)デュラグルチド(トルリシティ®、週1回投与)セマグルチド(オゼンピック®、週1回投与)の3種が残ってきます。このうち、継続のしやすさ、訪問看護や家族のサポートでも注射ができることを考慮すると、個人的には週1回製剤であるデュラグルチド(トルリシティ®)、セマグルチド(オゼンピック®)が優先して使用すると思います。

細かい違いとして、セマグルチド(オゼンピック®)の方がデュラグルチド(トルリシティ®)よりもHbA1c低下作用、体重減少作用が強いですが、消化器症状などの副作用がやや多いという特徴があります。

これらを総合し、最終的に使用する薬剤を決定していくのがよいでしょう。

実際に使用するタイミングとしては、注射薬というハードルもありますから、まずはメトホルミン、SGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬を使用し、それでも治療に難渋する場合に導入を検討するのがよいと考えます。特に、心血管リスクが高い患者さんには早期に導入を検討してもよいでしょう。

いずれGIP/GLP-1受容体アゴニストであるtirzepatideもいずれ本邦でも承認されると思われ、時間があればそちらもエビデンスをチェックしてみたいと思います。

参考

論文

1)Diabetes Obes Metab. 2017;19(4):524-536.

2)Diabetes Obes Metab. 2018;20(9):2255. 

3)N Engl J Med. 2016;375(4):311.

4)N Engl J Med. 2016;375(19):1834.

5)N Engl J Med. 2019;381(9):841.

6)Lancet. 2019;394(10193):121.

文献

・南江堂 できる!糖尿病診療