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SGLT2阻害薬

SGLT2阻害薬の作用機序

Sodium glucose cotransporter 2(SGLT2)は近位尿細管に発現しており、尿糖の90%を再吸収しています。SGLT2阻害薬はこのSGLT2を阻害し、尿中に糖を排泄することで血糖降下作用を示します。

SGLT2阻害薬の種類

本邦では以下の6種類のSGLT2阻害薬が使用できます。

SGLT2阻害薬のエビデンス

■血糖低下作用

SGLT2阻害薬の血糖低下作用はそこまで強くなく、プラセボと比較してHbA1cを-0.4~-1.1%程度低下させます。

■大血管合併症

2型糖尿病患者を対象としたEMPA-REG OUTCOME試験1)では、エンパグリフロジンはプラセボと比較してしてprimary endpointである心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中を合わせた複合心血管イベントのリスクが有意に低下しました。また、心血管死、全死亡、心不全入院の個別のリスクについても有意に低下を認めました。

EMPA-REG OUTCOME試験のカプランマイヤー曲線

続いて、CANVAS試験2)ではカナグリフロジンはプラセボと比較して心血管リスクが有意に低下しました。

以上より、SGLT2阻害薬には大血管合併症の予防効果があると言えます。

■心保護作用

DAPA-HF試験3)において、HFrEF患者に対し心不全の標準治療にダパグリフロジンを追加した群ではプラセボ群と比較して、糖尿病の有無にかかわらず、心血管死や心不全による入院のリスクが有意に低下しました。

DAPA-HF試験のカプランマイヤー曲線

また、同様のシチュエーションでエンパグリフロジンとプラセボを比較したEMPEROR-Reduced試験4)においても同様に心血管死や心不全による入院リスクが有意に低下しました。

EMPEROR-Reduced試験のカプランマイヤー曲線

以上より、SGLT2阻害薬は糖尿病の有無に関わらず、HFrEF患者に対して心保護作用を示すことがわかります。

また、HFrEFだけでなく、これまで利尿薬しか治療薬のなかったHFpEFにもSGLT2阻害薬の効果が示され始めています。

EMPEROR-Preserved試験5)では、糖尿病の有無に関わらず、HFpEF患者をエンパグリフロジンとプラセボに割付けて比較した所、エンパグリフロジン群で心血管死と心不全を合わせた主要複合イベントのリスクが有意に低下することが示されました。

EMPEROR-Preserved試験のカプランマイヤー曲線

また、DELIVER試験6)では、糖尿病の有無に関わらず、HFpEF患者をダパグリフロジンとプラセボに割り付けて比較した所、ダパグリフロジン群で心血管死と心不全を合わせた主要複合イベントのリスクが有意に低下することが示されました。

DELIVER試験のカプランマイヤー曲線

NEJMばっかりですね・・・笑

以上より、HFpEF患者においてもSGLT2阻害薬は心保護効果を示すことがわかります。

本年の4月から添付文書の記載内容が変更され、エンパグリフロジンについてはHFpEFについても使用可能となりました。ダパグリフロジンもそのうち適応が通るでしょうか?

■腎保護作用

DAPA-CKD試験7)では、eGFR 25-75ml/分/1.73m2、尿アルブミン/クレアチニン比 200-5,000mg/gCreのCKD患者においてダパグリフロジンを追加することで、糖尿病の有無に関わらず、腎機能低下や腎臓・心血管に起因する死亡といったリスクが有意に低下しました。

DAPA-CKD試験のカプランマイヤー曲線

この結果より、SGLT2阻害薬には腎保護作用があることがわかります。

以上のように、SGLT2阻害薬には血糖低下作用に加え、大血管合併症の抑制、心保護作用、腎保護作用といった多面的な効果があることが示されています。今最も勢いのある薬剤といっても過言ではないでしょう。

SGLT2阻害薬の副作用

そんな向かうところ敵なしであるSGLT2阻害薬にもいくつか副作用があります。ひとつひとつ見ていきましょう。

■低血糖

単独で低血糖を起こすことは稀ですが、インスリンやSU剤と併用することで低血糖のリスクが上昇します。

■性器感染症

多くの臨床試験において、性器感染症のリスクが増大することが示されています。既往がある、もしくは治療中の患者には使用を控え、使用中も陰部掻痒感などの症状があれば中止を検討しましょう。

■尿路感染症

尿路感染症のリスクも指摘されていますが、これに関しては関連がないとする報告もあります。尿路感染症を頻回に起こしている方には使用しない方が無難でしょう。

■正常血糖ケトアシドーシス

SGLT2阻害薬を使用中の患者さんでは、血糖が正常のケトアシドーシスの症例が報告されています。もしSGLT2阻害薬内服中の患者で全身倦怠感、悪心、嘔吐などがある場合、正常血糖ケトアシドーシスを念頭において迅速にABGなどの検査を提出するべきです。

■下肢切断

主にカナグリフロジンにおいて下肢切断リスクの増大が報告されています。メカニズムは不明ですが、コントロールの悪い糖尿病性足病変がある患者さんには使用を控えた方がいいかもしれません。

■脱水、頻尿、サルコペニア

機序的に上記については注意を払う必要があります。特にご高齢の患者さんでは脱水、サルコペニアのリスクが増大するため、ある程度の認知機能と活動量が維持できている方に限って処方を行った方が無難でしょう。

SGLT2阻害薬の使い方

多面的なメリットが示されているSGLT2阻害薬ですが、やたらめったらに処方すればいいというものではありません。

種々のエビデンスより、

①心不全の既往がある

➁心筋梗塞や脳梗塞の既往があるなど、心血管リスクが非常に高い

③CKDを合併している

といった方には第一選択としてSGLT2阻害薬の使用を検討してもよいと考えます。

薬価の高い薬剤ですから、上記のグループのようなSGLT2阻害薬ならではのメリットが期待できる患者群でなければセオリー通りメトホルミンを優先して使っていくべきでしょう。

参考

Up to date

論文

1)N Engl J Med 2015; 373:2117-2128

2)N Engl J Med 2017; 377:644-657

3)N Engl J Med 2019; 381:1995-2008

4)N Engl J Med 2020; 383:1413-1424

5)N Engl J Med 2021; 385:1451-1461

6)N Engl J Med 2022; 387:1089-1098

7)N Engl J Med 2020; 383:1436-1446

文献

1)南江堂 できる!糖尿病診療