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過活動膀胱

 

 過活動膀胱(overactive bladder:OAB)とは、尿意切迫感を主症状とし、通常はこれに頻尿、夜間頻尿を伴い、場合によっては切迫性尿失禁を合併する状態です。症状や診断の項目でも説明しますが、尿意切迫感=急に起こる我慢できないような強い尿意が必須症状であり、単なる頻尿のみでは過活動膀胱の定義を満たさないため注意が必要です。

 

 なお、下部尿路症状は

・蓄尿症状:頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感、切迫性尿失禁

・尿排出症状:尿線途絶、尿勢低下、腹圧排尿、尿閉

・排尿後症状:残尿感

の総称であることを押さえておきましょう。過活動膀胱では主に蓄尿症状が前景に立ちます。

 過活動膀胱の発症機序は未だ十分に解明されていませんが、明らかに神経疾患に起因すると考えられる神経因性と、それ以外の非神経因性の2つの機序に大別されます。前者は問診・診察で評価できますが、後者に関しては他覚的に評価することは困難です。

 

神経因性

 いわゆる神経因性膀胱のうち、蓄尿症状が強いものがこちらに該当します。

・脳:蓄尿期の下部尿路からの求心性神経入力の処理障害

・脊髄・末梢神経:蓄尿期の下部尿路からの求心性神経伝達の病的亢進

が具体的な機序として考えられており、脳、脊髄、末梢神経のいずれが障害されても過活動膀胱を発症する可能性があります。神経因性膀胱では尿排出症状が優位となることもあり、この場合は排尿困難や尿閉といった症状を呈します。

 

非神経因性

 過活動膀胱の患者さんのうち、大多数がこの非神経因性に該当します。

・高血圧や代謝異常に伴う血管内皮障害

・自律神経の亢進

・全身または局所の炎症

・性ホルモンの低下

といったことが想定されていますが、多かれ少なかれ加齢に伴う変化が関与しているものと考えられています。

 さらに、女性の場合は骨盤臓器脱が、男性の場合は前立腺肥大が症状を修飾することがあります。

 

 過活動膀胱症状は対象や報告によってばらつきがありますが、地域住民のうち2.1~33.9%の頻度でみられます。一般に年齢とともに増加し、性別では女性に頻度が高く、失禁を伴う過活動膀胱ではさらにその差が明らかとなります。長期間の縦断的調査によれば、発症率は6~40%とされています。リスクは肥満、排尿症状の併存、うつ症状です。

 過活動膀胱では下部尿路症状のうち蓄尿症状が主体となり、尿意切迫感を必須症状とし、頻尿、夜間頻尿、切迫性尿失禁が含まれます。“尿意切迫感”とは、急に起こる強い尿意で、それを抑制するのが困難な病的知覚のことを指します。尿の貯留に伴い膀胱壁が伸展すると、これが尿意となって大脳に伝達されます。この求心性情報伝達が機能的に亢進すると、尿意切迫感という病的知覚の出現につながります。

 

 また、特に男性で背景に前立腺肥大がある場合、蓄尿症状だけでなく尿排出症状、排尿後症状を伴うことがあります。

過活動膀胱の診断は、

・病歴の聴取

・過活動膀胱症状スコア(OABSS)

・身体所見

・尿検査

・腹部エコー/残尿測定

を基本として行います。

症例に応じて排尿日誌、尿流測定、台上診(女性)、直腸診(男性)、血液検査を追加します。

 

病歴の聴取

 過活動膀胱症状である尿意切迫感、昼間・夜間頻尿、切迫性尿失禁について問診を行いますが、繰り返しになりますが必須症状である尿意切迫感の評価が最も重要です。当然「尿意切迫感はありますか?」と聞いても患者さんに理解頂けないため、問診には工夫が必要です。「急に尿がしたくなり、我慢が難しいことがありましたか?」という聞き方が最も一般的ですが、特に“急に強い尿意が起こる”という点を強調するようにするとよいでしょう。また、蓄尿症状だけでなく、尿排出症状や排尿後症状といった下部尿路症状全般や、女性では骨盤臓器脱に関する症状(歩行時や率維持の外陰部の下垂感)についても問診するようにしましょう。

 

 既往歴としては、脳血管障害やパーキンソン病などの神経疾患、糖尿病、脊椎疾患、骨盤臓器脱、前立腺肥大、婦人科手術や放射線治療などを確認します。加えて、反復する尿路感染症、肉眼的血尿、便失禁、便秘、内服薬についても聴取します。多飲・多尿が蓄尿症状の原因となることもあるため、水分摂取量やカフェイン・アルコール摂取に関する生活習慣の聴取も行いましょう。

過活動膀胱症状スコア(OABSS)

過活動膀胱の蓄尿症状に関する問診には、以下のOABSSを用いるとよいです。

 

 

 質問3の尿意切迫感スコアが2点以上、かつ質問票の合計点数が3点以上の場合に、治療が必要な過活動膀胱ありと判定します。なお、5点以下を軽症、6~11点を中等症、12点以上を重症とします。

身体所見

 まず、併存する神経疾患がないか神経診察を行います。どこまで行うかは悩ましいですが、上位運動ニューロン/下位運動ニューロン障害を検出するために下肢の腱反射とBabinski徴候を、パーキンソン病評価のために歩行様式や固縮の有無を見ておくとよいでしょう。続いて、下腹部の膨隆や腫瘤がないか腹部の診察を行います。男性では前立腺肥大の評価のため直腸診を追加します。女性では骨盤臓器脱の評価のために外陰部の診察を行うことが望ましいですが、一般内科外来で全例に行うのは難しいかもしれません。問診で骨盤臓器脱が疑われる患者さんに絞って行うのがよいかもしれません。

尿検査

 過活動膀胱の鑑別として尿路感染症、膀胱癌、尿路結石などの評価を行うために重要なスクリーニング検査であり、基本的には全例に行います。血尿があれば膀胱癌等の評価のため泌尿器科的精査が必要となり、専門医への紹介を検討します。

腹部エコー/残尿測定

 膀胱癌などの尿路悪性腫瘍や、骨盤内腫瘍の影響で下部尿路症状が出現することがあるため、腎・尿管・膀胱・下腹部/骨盤内臓器(特に女性器や前立腺)について腹部エコーによる評価を行います。自分で診察室で行ってもよいですが、難しければ検査室でのエコーを予約しましょう。

 

 また、神経因性膀胱や前立腺肥大による下部尿路閉塞が過活動膀胱の原因となることがあり、かつ残尿の有無が治療選択の重要な要素となるため、過活動膀胱の患者さんでは残尿測定を必ず行いましょう。具体的には、下図のように測定を行います。

 一般に、残尿量が100mlを越える場合を病的と捉えます。残尿測定で100ml以上の残尿がある場合、過活動膀胱治療薬の導入で尿閉のリスクがあり、また過活動膀胱以外の鑑別疾患に関する精査も必要であるため、速やかに専門医への紹介を行います

行動療法

 行動療法はリスクがほとんどないため、薬物治療に先んじてすべての患者に実施すべき一次治療とされています。生活指導、膀胱訓練、理学療法、排泄介助などが該当します。

 

 生活指導では、過剰な水分・塩分摂取や、多量のカフェイン・アルコール摂取を制限します。具体的には、1日飲水量として1L前後を目標としてもらいます。便秘がある場合には過活動膀胱を悪化させる要因となるため、排便コントロールを積極的に行います。また、体の冷えも過活動膀胱の誘因となるため回避するよう指導します。

 

 膀胱訓練は、排尿を我慢し少しずつ排尿間隔を延長することにより、膀胱容積を増大させる訓練法です。理学療法で主体となるのは骨盤底筋訓練であり、意識的に骨盤底筋を収縮させる訓練法で、特に女性において有効性が示唆されています。NHKの動画付き解説のURLを貼っておきますのでご参考ください。https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_1542.html

薬物療法

 行動療法でも改善が見られない場合、薬物治療を検討します。繰り返しになりますが、残尿量が100mlを越える場合には治療薬導入前に一度専門医への紹介を検討しましょう。

 

 過活動膀胱の治療薬には抗コリン薬β3刺激薬があります。過活動膀胱で使用する抗コリン薬は高齢者にも比較的安全に使用できるとされていますが、それでも口内乾燥、便秘、認知機能低下といった副作用リスクは高く、使用しにくい場面も少なくありません。一方、β3刺激薬では抗コリン作用を有さないため、高齢者や男性でも使用しやすく、UpToDateでは抗コリン薬よりも優先して使用すべきとされています。ただ、後発品のある抗コリン薬と比較すると薬価がかなり高いため、患者さんの経済状況も勘案した上で処方する必要があります。流通や薬価を考慮しますと、抗コリン薬としてはプロピベリン(バップフォー®)ソリフェナジン(ベシケア®)を、β3刺激薬としてはミラべグロン(ベタニス®)を覚えておくとよいでしょう。以下に過活動膀胱で用いる薬剤を表にまとめます。

 

 

 

 なお、抗コリン薬またはβ3刺激薬で効果が見られない場合、両者の併用が有効であることがあります。ただ、単剤で効果がない時点で、他疾患鑑別のために一度は専門家に紹介とするのが無難だと思います。

その他の治療

 難治例では仙骨神経刺激法やボツリヌス毒素膀胱壁内注入といった治療を行うことがあります。

 

 以上、過活動膀胱についてまとめてきました。

今回勉強をしてみて、

・これまで“切迫性尿失禁”という症状にあまりfocusして問診していなかった

・残尿測定をルーチンで行っていなかった

という点が大きな反省点でした。安易に女性の下部尿路症状=過活動膀胱としてしまっていた部分もあり、今後は注意して診療していこうと思います。

 最後に、重要事項をまとめて本稿を締めくくりたいと思います。

・過活動膀胱(overactive bladder:OAB)とは、尿意切迫感を主症状とし、通常はこれに頻尿、夜間頻尿を伴い、場合によっては切迫性尿失禁を合併する状態である。

・神経疾患が原因である神経因性過活動膀胱と、神経疾患のない非神経因性(特発性)過活動膀胱に分類される。

・頻度の高い疾患であり、男性より女性に多く、加齢に伴い有病率が上昇する。

・女性では骨盤臓器脱、男性では前立腺肥大の合併に注意する。

・診断は病歴の聴取、過活動膀胱症状スコア(OABSS)、身体所見、尿検査、腹部エコー/残尿測定で行う。

・残尿量が100mlを越える場合、治療導入前に専門医への紹介を検討する。

・まずは生活指導、膀胱訓練、骨盤底筋訓練など、行動療法を全例で行う。その上で症状が残存する場合、薬物治療を導入する。

・治療薬には抗コリン薬、β3刺激薬がある。抗コリン作用のないβ3刺激薬が使用しやすいが、新規薬剤であるため薬価が高いのが難点である。

・過活動膀胱診療ガイドライン 第3版 日本排尿機能学会/日本泌尿器科学会

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