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腎血管性高血圧

 

腎血管性高血圧の病態

腎血管性高血圧は腎動脈の狭窄あるいは閉塞による二次性高血圧であり、治療抵抗性高血圧や腎機能障害の原因疾患としても重要です。

 

腎動脈の狭窄があると腎灌流圧が低下し、傍糸球体細胞からのレニン分泌が増加します。増加したレニンがアンギオテンシン産生、アルドステロン分泌を促進し、最終的に血圧が上昇します。アルドステロンが自律的に分泌されてレニンが抑制される原発性アルドステロン症とは異なり、レニンが増加した結果、アルドステロンが増加しているのが腎血管性高血圧の病態です

また、高アルドステロン状態を反映し、低カリウム血症および代謝性アルカローシスを生じます。

  

線維筋性異形成とは

腎動脈狭窄の原因としては、中・高年ではアテローム性動脈硬化が、若年者では線維筋性異形成が多いとされています。その他、高安動脈炎、大動脈解離、血栓・塞栓が原因となることもあり得ます。

 

アテローム性動脈硬化はともかく、線維筋性異形成とはどのような疾患なのでしょうか?この疾患は「40-60歳の女性に好発し、動脈硬化でも炎症性でもない一群の異質な動脈変化を起こす」と定義されています。原因は不明ですが、少なからず遺伝的要素があると考えられ、喫煙が危険因子とされています。

 

一般的には動脈中膜にコラーゲンを含む線維筋性の異形成、肥厚が出現し、血管狭窄、閉塞、動脈瘤を引き起こします。腎動脈に生じる頻度が最も高い(60-70%)とされていますが、頸動脈および頭蓋内動脈(30%)、腹腔内動脈(10%)を侵すこともあります。くも膜下出血や特発性冠動脈解離(SCAD)を引き起こすこともあるため、一度線維筋性異形成の診断がついた患者さんでは包括的な血管評価を行うことが推奨されています1)

 

腎血管性高血圧は全高血圧患者の1%程度を占めるとされ、原発性アルドステロン症と比較すると頻度はそう多くないといえます。一方、急性、重度、あるいは治療抵抗性高血圧に限れば、10-40%が本疾患が原因であるとも試算されており、このような状況では積極的に疑う必要があります。

 

アテローム性動脈硬化性腎動脈狭窄(50%以上の狭窄率)の罹患率は、冠動脈疾患合併高血圧で10%、動脈硬化性末梢動脈閉塞症で25%、腹部大動脈瘤で33%とされ、加齢や脳心血管病の合併と共に多くなります。

 

線維筋性異形成は一般住民の0.4%と推定されており、圧倒的に女性が多いです。

腎動脈狭窄は片側性のことが多いとされますが、両側性のこともあります。好発部位は原因疾患によって異なり、アテローム性動脈硬化では腎動脈の起始部に、線維筋性異形成では中遠位部に多いとされています。

 

腎血管性高血圧そのものによる特異的な症状はありませんが、比較的若年者で血圧が急激に上昇した場合や、高血圧性肺水腫を発症した場合には疑う必要があります。

  

また、低下した腎血流をRAA系に依存して保持しているため、ACE阻害薬などRA系阻害薬を投与することで急激に腎機能が悪化した際(eGFRで30%以上の低下)には本症を強く疑う必要があります

 

その他、治療抵抗性高血圧や低カリウム血症など、原発性アルドステロン症と共通した特徴もあるため、一方を鑑別に挙げた際にはもう一方も検討する必要性があります。以下、本邦の高血圧ガイドラインに記載されている本症を疑う手がかりをまとめます。

 

 

腹部血管雑音

腎血管性高血圧といえば腹部血管雑音が聴取されることがよく知られています。ただ、その感度は40%と低いため、聴取されないからといって否定はできない点に注意が必要です。一方で特異度は99%と高く、診断の上では有用です。高血圧患者全員に行うにはコスパが悪いと言わざるを得ませんが、腎血管性高血圧を疑う患者さんには行う価値がある身体所見といえます。

 

雑音は収縮期だけでなく、一部拡張期にかけて聴取され、腹部の片側に放散します。患者さんを仰向けにし、聴診器の膜型を使って左右の上腹部と臍部、計4か所で聴診を行います。

 

以下、腹部血管雑音のYouTube動画を貼っておきます。 

 

腎動脈超音波検査(Duplex超音波法)

腎動脈超音波検査(Duplex超音波法)は腎血管性高血圧の診断においてスクリーニングとなる検査です。

  

まず、通常の腹部超音波検査と同様、左右の腎臓の大きさを評価します。差が1.5cm以上あれば有意な萎縮として考え、慢性的な狭窄が疑われます。 

  

次に、腎動脈の血流速度(Duplex超音波法)の測定を行います。これは動脈造影検査と比較して腎動脈狭窄に対する感度は84-98%、特異度は62-99%とされています。造影CTやガドリニウム造影MRA、3D-MRAと比較するするとやや精度は落ちますが、非侵襲的である上に低コストです。ただし、正確な診断に検査の熟練を要し、検査時間も通常の腹部超音波検査より長くなってしまいます(1時間前後)。事前に検査が可能かどうか、所属されている病院の技師さんに確認しておくことが必要です。

MRA/CTA

腎動脈超音波検査の施行が困難である場合、MRAやCTAによる評価を行います。腎血管性高血圧では病態上腎機能障害を合併しやすいため、造影剤を使った検査が難しいことも少なからず遭遇します。ただ、近年は検査機器の進歩により、非造影のMRAでも造影MRAとほぼ同等の精度であるとする報告もあるようです。

 

腎動脈超音波検査で腎動脈狭窄が明らかな場合も、血行再建術を念頭により詳細な解剖学的評価のためにMRA/CTAを行うことがありますが、この部分は専門医に依頼する方がよいでしょう。

血漿レニン活性(PRA)、カプトプリル負荷試験

病態を考慮するとPRAの上昇が予想されますが、両側性腎動脈狭窄の場合には必ずしも高値にならず、また腎血管性高血圧の患者の約20%では正常範囲内とされています。このため、PRA測定単独で腎血管性高血圧の評価を行うことは推奨されていません

 

分腎レニン採血は、カテーテルを腎静脈に挿入して採血を行い、狭窄側のPRAが健側よりも1.5倍高値であれば有意な腎動脈狭窄と考えます。画像検査は解剖学的な狭窄の同定に留まりますが、本検査では機能的な狭窄を評価することができ、治療適応の検討に有用です。ただ、原発性アルドステロン症における副腎静脈サンプリングと同様、そう簡単にできる検査ではありません。

    

カプトプリル負荷PRAやカプトプリル負荷レノグラムなど、カプトプリルを用いた負荷試験によって機能的な腎動脈狭窄の評価を行うことができます。この点は分腎レニン採血と同様、画像検査にはない強みと言えます。特にレノグラムでは分腎機能、腎血流の左右差を評価することもできます。ただし、その精度は必ずしも高いものではないため、治療を検討する上で補助的に使用することが望ましいです。

  

以上より、この項目に挙げた検査は、非専門医は基本的には行う必要はないと考えます。ただ、高血圧患者に対する原発性アルドステロン症のスクリーニングとして行った採血で、偶発的にPRAが上昇していた場合には、本症を疑うきっかけにはなるかもしれません。

 

薬物治療

薬物治療は血行再建術を行うかどうかに関わらず、腎血管性高血圧における重要な治療です

 

腎血管性高血圧そのものへの効果的な薬物利用は確立されていませんが、降圧薬、スタチン、アスピリンに加え、禁煙、糖尿病の血糖管理を組み合わせることが有用と考えられています。

 

降圧薬間を比較したRCTはないものの、RA系阻害薬(ACE阻害薬、ARB)は腎動脈狭窄での生命予後、脳心血管病の発症率、腎予後を改善させることが多くの研究で示されています。このことから、特に片側性の腎動脈狭窄ではRA系阻害薬を優先して使用します。ただし、腎腎動脈狭窄がある場合はRA系阻害薬の使用により急激に腎機能が低下することがあるため、少量から開始し、その後も慎重にモニタリングを行う必要があります。両側性の腎動脈狭窄の場合は安全性が確立されていないため、RA系阻害薬は原則禁忌です

経皮的腎動脈形成術(PTRA)

線維筋性異形成では、手技的に困難でない限りはPTRAによる治療が優先されます。PTRAの初期成功率は高く、アテローム性動脈硬化と比較すると高い降圧効果や、降圧薬の減量や中止が期待できます。降圧効果は若年者や高血圧罹患歴の短いもので大きいことが示されています。ただし、線維筋性異形成のPTRAは基本的にステントを使用しないことなどから、術後の再狭窄も少なくないようです。

 

一方、アテローム性動脈硬化による腎動脈狭窄では、線維筋性異形成と比較するとPTRAによる降圧効果は弱く、腎機能保護や脳心血管病の発症予防についても有意な治療効果は証明されていません。むしろ合併症のリスクが懸念されるため、現時点ではPTRAよりも薬物治療単独が推奨されています

 

また、かつては腎摘や外科的バイパス術も行われていたようですが、現在は世界的に減少してきており、血行再建術としてはPTRAに限られてきています。

  

以上、腎血管性高血圧についてまとめてきました。以前まとめた原発性アルドステロン症と比較すると稀ではありますが、高血圧診療の上で抑えておくべき疾患といえるでしょう。以下に本症を疑った際の診断・治療プロトコルを掲載しておきます。

  

さて、この腎血管性高血圧ですが、一般内科医としてはどこまで評価を行った上で紹介とするべきなのでしょうか?例えば私の勤務しているような地方の小病院では精密な腹腎動脈超音波検査は難しいため、疑った段階で大病院に紹介することになってしまいます(一応造影CTは撮影できますが、3Dに再構成して血管狭窄を評価することができません。また、MRIはありせん)。腎の左右差やPRAの上昇があれば紹介する上での根拠になり得ますが、これからないからといって腎血管性高血圧は否定できない点が難しい所です。実際の所は、若年で治療抵抗性の高血圧がある場合には、その他の二次性高血圧の評価も含めて大病院に紹介とするのが患者さんにとってベストなのかもしれません。

  

大病院の内科医として勤務している場合、腎動脈超音波検査や造影画像検査までは行ってもよいでしょう。その上で腎血管性高血圧が疑わしい場合、内分泌内科に紹介した上で血行再建の当該科(血管外科、放射線科)に繋いでもらうというのがベストだと思います。

最後に本稿でのキーポイントをまとめて終わりたいと思います。

・腎血管性高血圧は腎動脈の狭窄によりレニンが増えることで生じる

・腎動脈狭窄の原因にはアテローム性動脈硬化と線維筋性異形成がある

・線維筋性異形成による腎動脈狭窄の場合、脳血管を含めた全身の血管評価を行う

・診断の上で重要なのは腎動脈超音波検査であり、適宜CTAやMRAを追加する

・薬物療法を治療の基本とし、適応がある症例でPTRAを検討する

1)Vasc Med. 2019 Apr;24(2):164-189.

2)高血圧治療ガイドライン2019 日本高血圧学会

3)UpToDate

4)今日の臨床サポート