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グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症(GIOP)

副腎皮質から分泌されるグルココルチコイドはホメオスタシスを維持する内在性ホルモンです。

合成グルココルチコイドは強力な抗炎症作用と免疫抑制作用を有し、膠原病など幅広い領域の多様な疾患の治療に使用されます。

近年は副作用の観点からできるだけグルココルチコイドを使用しない、steroid sparing therapyが主流となってきていますが、それでも一定数グルココルチコイドに依存してしまう症例が存在しています。

グルココルチコイドは糖、脂質、骨、血管などの代謝異常を惹起しますが、このうち骨代謝異常をグルココルチコイド誘発性骨粗鬆症(GIOP:ステロイド骨粗鬆症)と呼称します。グルココルチコイドを使用する上で、易感染性などと並んでこのGIOPのマネジメントは必須といえます。

2023年、日本骨代謝学会よりGIOPのガイドラインが刊行されたため、ここにそのマネジメントをまとめていこうと思います。

グルココルチコイドは間葉系幹細胞から骨芽細胞への分化を抑制し、骨芽細胞や骨細胞にアポトーシスを誘導して骨形成を低下させます。また、直接的および二次性副甲状腺機能亢進を介して破骨細胞の成熟・活性化を促し、骨吸収を促進します。つまり、骨形成の低下と骨吸収の促進という双方向の作用を持つため、通常の骨粗鬆症と比して骨密度の低下が顕著となります。

骨量減少は投与量に依存しますが、安全域はなく、プレドニゾロン(PSL)換算で5mg/日以下であっても起こります。グルココルチコイドの投与から3-6か月後までに骨粗鬆症が急速に進行し、脆弱骨折率も高くなります。短期間(30日未満)の使用でもリスクの増加が報告されています。

PSL換算5mg/日以上のグルココルチコイドを3か月以上内服すると骨折率は50%増加し、長期使用患者の30-50%に骨折が発生します。具体的には、椎体骨折リスクは約3倍、大腿骨近位部骨折リスクは2倍になると報告されています。グルココルチコイドの中止により骨折リスクは急激に減少します。

GIOPの明確な診断基準はないため、具体的な患者総数は不明です。グルココルチコイドの全身投与がされている患者数から概算すると、本邦では約100万人がGIOPの可能性があるとされています。

前述の通り、GIOPには診断基準がありません。

そのため、その治療対象については国やガイドラインによって微妙に異なります。

例えば、アメリカリウマチ学会(ACR)の2017年のガイドラインでは、

・40歳以上の例で、既存脆弱性骨折があり、グルココルチコイドの投与量が1日平均PSL換算30mg以上

・30歳以上の例で、前年の総投与量がPSL換算5,000mg以上

・グルココルチコイドの1日平均投与量がPSL換算7.5mg以上で骨密度Zスコアが-3未満、または骨密度の年間減少量が10%以上

などの場合に薬物治療開始を勧めています。

また、英国骨粗鬆症学会ガイドライングループ(NOGG)の2022年のガイドラインでは、

・70歳以上の女性

・閉経後の女性と50歳以上の男性

・既存脆弱性骨折がある

・グルココルチコイドがPSL換算で1日平均7.5mg以上を3か月、または30mg以上を4週間使用

・FRAX®が介入閾値を超えている

などの場合に薬物治療開始を推奨しています。

さて、本邦の2023年のガイドラインではどのように推奨されているのでしょうか?

以前に骨粗鬆症の記事でも取り扱いましたが、骨粗鬆症のリスク評価としてFRAX®があります。これは2007年にWHOが提唱したツールです。上記のように、英国ではGIOPの治療開始基準としても使用されています。ただ、FRAX®では閉経前女性と若年男性が対象外となっており、またグルココルチコイドのリスク評価が“あり”か“なし”かの2者択一となっており、投与量や投与期間などが勘案されていません。他にも種々の問題があることを鑑み、今回のガイドラインでは、GIOPについてはFRAX®を使用しない方針となっています

代わりに、以下のようなアルゴリズムによる治療対象の選別を推奨しています。

2023年版のGIOPのアルゴリズム

さて、ここでは右表の危険因子によりスコアリングを行い、3点以上での治療を推奨しています。

内容を見てみますと、65歳以上やPSL換算7.5mg/日以上など、1つの項目だけでも簡単に治療対象となることがわかります。実臨床では膠原病や間質性肺炎についてはPSL換算で0.5-1.0mg/日程度から開始することがほとんどですから、グルココルチコイドの全身投与を一定期間行う場合、基本的に全例にGIOPとしての薬物治療を行うことになると考えて差し支えないです。

GIOPの治療は概ね通常の骨粗鬆症の治療に準じて行われます。ただし、骨粗鬆症に使用されている薬剤のうち、一部はGIOPに対するエビデンスが乏しいものがあることに注意が必要です。

活性化ビタミンD製剤

活性化ビタミンD製剤にはエルデカルシトール、アルファカルシドールがあります。

通常の骨粗鬆症では、ビタミンDとカルシウムは十分量摂取がされていることを前提に治療が行われます。本邦では、多くの場合全例に活性化ビタミンDを使用し、そこにBP製剤といった骨粗鬆症の治療薬を併用していきます。GIOPにおいても基本的にはこの使い方に準じ、活性化ビタミンD製剤は全例に併用することが勧められます

また、GIOPについては、活性化ビタミンD製剤そのものが骨密度を上昇させたり、非椎体骨折予防効果があることが報告されています。

BP製剤

BP製剤は骨粗鬆症治療の第一選択薬ですが、GIOPについても最も優先して使用すべき薬剤といえます。

GIOPにおいて、BP製剤は腰椎、大腿骨両者の骨密度を上昇させ、椎体、非椎体骨折予防効果のエビデンスがあり、ガイドラインでも使用が推奨されています。

薬剤は通常の骨粗鬆症と同様、エビデンスの蓄積を考慮してアレンドロン酸リセドロン酸の内服薬を使用します。週1回の製剤が使用されることが多いと思います。

また、最近上梓された点滴製剤であるゾレンドロン酸(リクラスト®)は、RCTにおいてリセドロン酸より有意に優れた椎体骨密度増加効果が報告されています。点滴製剤であるため粘膜障害が起こらず、年1回の投与でよいという強みがあります。ただし、薬価は高いです。

コストの面を鑑み、最初はアレンドロン酸やリセドロン酸から開始し、逆流性食道炎等で内服薬に忍容性がなかったり、内服薬では骨密度が低下してしまうような場合はゾレンドロン酸への変更を検討します。

通常の骨粗鬆症では異型骨折のリスクを鑑み、3-5年の使用に留めますが、GIOPについては本邦のガイドラン、UpToDateには推奨がありませんでした。ただ、同様に3-5年で別の薬剤に変更することが望ましいと思います。

抗RANKL抗体(デノズマブ:プラリア®)

抗RANKL抗体は今回のガイドラインにおいて、最も注目を集めた薬剤です。

前回の2014年度版では十分なエビデンスがないことを鑑み、使用を推奨されていませんでしたが、ついに使用が強く推奨されるようになりました。

2021年に発表されたメタアナリシス1)では、抗RANKL抗体はプラセボと比較し有意に椎体骨折を減少させたことが報告されています(OR:0.32,95% CI 0.12-0.86)。ただし、非椎体骨折では有意差を示すことができませんでした(OR:1.7,95% CI 0.66-4.50)。

また、2020年のメタアナリシス2)では、椎体骨折(RR:-0.38,95% CI -1.31-0.54)、非椎体骨折(RR:0.60,95% CI -0.72-1.92)ともにプラセボに対して有意な効果は示していませんでした。一方、骨密度については大腿骨頸部において有意に骨密度を上昇させました(SMD:12.63,95%CI;5.46-21.07)。

前者の報告ではGIOPの予防および治療を分けずに検討しており、後者の報告はGIOPの治療を主体とした検討になっており、結果に違いがでたものと考えられます。

このように、以前よりはエビデンスは増えていますが、大腿骨頸部骨折予防などのエビデンスは証明されておらず、BP製剤と比較すると優先順位は低くなってしまうと考えます。このため、まずはBP製剤を使用し、忍容性がない場合や骨密度が低下してしまう場合の切り替え先として使用するのがよいでしょう。抗RANKL抗体も、通常の骨粗鬆症と類似した使い方となっています。

SERM

SERMはガイドラインでは使用を提案されるレベルに留まっており、UpToDateでは選択肢にも挙がっていません。このため、積極的に使用する薬剤ではなく、その他の薬剤が軒並み使用できない場合にのみ検討します。

テリパラチド

テリパラチドはGIOPにおいて椎体骨折予防のエビデンスがあり、BP製剤と比較し有意な骨密度増加効果が示されています。ただし、通常の骨粗鬆症と同様、大腿骨骨折予防のエビデンスはありません。

このため、通常の骨粗鬆症において重症例が対象となっていること、コストが高いことを考慮し、GIOPにおいても骨折の危険性の高い症例に使用することが推奨されています

抗スクレロスチン抗体

抗スクレロスチン抗体(ロモソズマブ:イベニティ®)は新しい薬剤であり、通常の骨粗鬆症について椎体骨・大腿骨骨折予防のエビデンスがあり、重症例において使用されています。

新規薬剤であることから、GIOPに対するエビデンスは全くありません。

このため、ガイドラインでは“明確な推奨ができず、今後の研究課題とする”とされています。

おそらくGIOPにおいても効果が期待できますが、現時点では使用しないことが無難でしょう。

GIOPの治療のまとめ

最後にGIOPの治療について、私見も交えてまとめます。

・活性型ビタミンD製剤は全例に投与する。

・最初はアレンドロン酸、リセドロン酸を使用する。使用は3-5年に留める。

・アレンドロン酸、リセドロン酸では骨密度が低下したり、忍容性がない場合にゾレンドロン酸、または抗RANKL抗体に変更する。

・骨折のリスクが高い症例ではテリパラチドの使用を考慮する

・抗スクレロスチン抗体、SERMは基本的には使用しない。

1)Rheumatology (Oxford). 2021 Feb 1;60(2):649-657.

2)PLoS One. 2020 Dec 16;15(12):e0243851.

・UpToDate

・グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン2023 日本骨代謝学会 南山堂 

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