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血管浮腫

 

血管浮腫は真皮深層および皮下組織への体液の血管外漏出によって生じる、局所的な浮腫を特徴とする疾患です。何らかの原因で毛細血管の拡張と透過性が亢進することで、口唇や粘膜などの疎性結合組織の多い部位に浮腫を生じます。

 

病因としては、大きく肥満細胞メディエーター依存性のものと、ブラジキニン依存性のものとに分類されます。

 

肥満細胞メディエーター依存性血管浮腫

食物や虫刺症に対するアレルギー反応により、肥満細胞からヒスタミンなどのメディエーターが放出されることで生じるものを肥満細胞メディエーター依存性血管浮腫と呼びます。血管浮腫に加え、蕁麻疹、紅潮、掻痒感、気管支痙攣、血圧低下などを合併することがあり、アナフィラキシーの診断基準を満たすこともあります。アレルゲンへの暴露から数分~数時間の単位で出現し、24~48時間で消失します。様々な物質が誘因となり得ますが、特にNSAIDsはロイコトリエンを増加させ、肥満媒介性血管浮腫を生じやすいため注意が必要です(アスピリン喘息と同様の病態です)。明らかにアレルギーが関与しているものを、アレルギー性血管浮腫とも呼称します。

 

また、肥満細胞の脱顆粒がないのにも関わらずヒスタミン作動性に血管浮腫を生じることもあり、これは特発性血管浮腫で認める病態です。蕁麻疹を伴いますが、アナフィラキシーのような呼吸器症状や血圧低下はきたしません。

 

加えて、好酸球性血管浮腫という疾患概念も知っておきましょう。著明な末梢好酸球増多に、四肢に限局した血管浮腫を伴うものを好酸球性血管浮腫と呼称します。好酸球が病態の主ということで、やはりヒスタミンなどのメディエーターが関与しており、蕁麻疹や掻痒感を伴います。若年女性に多く、反復性と非反復性に分類され、本邦では非反復性が多いです。通常は臓器障害を伴いませんが、伴う場合は好酸球増多症候群としての対応が必要です。

ブラジキニン依存性血管浮腫

炎症性メディエーターの一種であるブラジキニンにより生じるものを、ブラジキニン依存性血管浮腫と呼称します。掻痒感や蕁麻疹といった、いわゆるアレルギー的な症状は伴いませんが、消化管粘膜の浮腫を生じやすく、腹痛や嘔吐といった消化器症状を呈しやすいとされます。また、喉頭浮腫を生じる頻度が高く、致死的となりやすいです。経過もやや長く、24~36時間かけて出現し、2~4日かけて消失します。

 

ブラジキニンの過剰産生またはブラジキニンの分解阻害によって発症するとされており、病因として代表的なものとしてACE阻害薬とC1-INH(C1インヒビター)異常があります。ACEはブラジキニンを含んだペプチドを分解する働きがあるため、ACE阻害薬の投与でブラジキニンが増加し血管浮腫を生じます。ACE阻害薬内服患者のうち、0.1~0.5%に発症すると言われています。その他、DPP-4阻害薬やARBでもブラジキニン依存性血管浮腫を生じることがあるようです。

C1-INHと血管浮腫

C1-INH異常はブラジキニン依存性血管浮腫の主な要因ですが、その病態を詳説します。

C1-INHはC1を抑制し、補体系の活性化を制御しています。その他にも色々な分子に関与しており、ブラジキニン産生の抑制にも関与しています。このC1-INH活性が先天的あるいは後天的な理由で欠損することで、ブラジキニンの産生が増加してしまい、結果として血管浮腫を生じることになります。また、補体系の活性化に伴いアナフィラトキシンとも呼称されるC3a、C5aが増加することも血管浮腫の要因の一つなのではないかと考えられています。下図にブラジキニン系とC1-INHの関係性を示します。

 

 

C1-INH活性が先天的に異常があるものを遺伝性血管浮腫と呼んでおり、C1-INHの産生が低下しているType 1と、C1-INHの産生は正常だが機能に異常のあるType2に分類されます。いずれも常染色体優性遺伝で、10代で発症します。C1-INH活性、C1-INHタンパク質レベル、C4といった検査で鑑別が可能です。

 

また先天性のものには、C1-INHは正常であるものの、血液凝固第Ⅶ因子やプラスミノーゲンなど、C1-INH以外の異常で生じる正常C1-INH遺伝性血管浮腫も存在しています。Type3の遺伝性血管浮腫とも呼称します。この場合、C1-INH活性、C1-INHタンパク質レベル、C4はいずれも正常です。

 

一方、後天性血管浮腫は悪性リンパ腫などのリンパ増殖性疾患による補体の消耗や、C1-INHに対する自己抗体により生じます。通常40歳以降に発症します。C1-INH活性、C1-INHタンパク質レベル、C4はいずれも低下することが多いです。遺伝性血管浮腫と後天性血管浮腫の鑑別にはC1qの測定が重要で、前者はほぼ正常であるものの、後者では75%が低下します。

 

前項で病態に応じた分類として、肥満細胞メディエーター/ブラジキニン依存性血管浮腫を紹介しました。ただ、実臨床では他にも複数の呼称があり、大変ややこしいです。ここで一旦、これまで出てきた言葉の整理をしておきましょう。下の表にまとめましたのでご確認ください。

 

 

通常、血管浮腫は顔、口唇、口腔内、咽喉頭、四肢、生殖器などの疎な結合組織のある箇所に出現し、部位によって症状が異なります。数分~数時間で出現し、数時間~数日の経過で自然消失します。一般に、肥満細胞メディエーター依存性の方が、ブラジキニン依存性よりも経過が速いです

 

口唇、舌および口蓋垂は血管浮腫が起こりやすい部位であり、見た目に現れやすいこともあって血管浮腫の診断はそう難しくありません。対照的に口腔底部は障害されにくく、この場合は悪性腫瘍や口腔底蜂窩織炎、唾石症を鑑別に挙げる必要があります。浮腫が喉頭にまで及ぶと窒息の恐れがあり危険です。嗄声、咽頭絞扼感、嚥下困難といった症状がある場合には注意が必要です。

 

皮膚の浮腫は顔を主体に生じますが、好酸球性血管浮腫の場合は四肢が侵されやすいです。血管浮腫は圧痕を残さない浮腫であることが特徴です。アレルギー性の場合は蕁麻疹を伴ったり、紅潮や掻痒感を伴いますが、それ以外の病態では皮膚の色調変化は乏しいです。

 

また、血管浮腫は腸管壁にも生じることがあり、この場合疝痛のような腹痛症状として自覚されます。その他、嘔気、嘔吐、下痢を呈することもあります。腸管浮腫は画像で容易に認知できますが、腹部症状以外が目立たない場合、血管浮腫を鑑別に挙げるのはなかなか難しいかもしれません。10代の場合は遺伝性血管浮腫を、高齢者の場合は後天性血管浮腫やACE-Iの影響を考えます。

 

アレルギー性の場合は蕁麻疹や掻痒感、皮膚紅潮を伴いますが、特にアナフィラキシーの場合は気管支痙攣や血圧低下を併発し、致死的となるため迅速に対応する必要があります。

 

前述の通り、血管浮腫は顔、口唇、口腔内、咽喉頭、四肢、生殖器に出現し、数分~数時間で出現し、数時間~数日の経過で自然消失する浮腫をみた際に疑います

 

まず、頻度の高いアレルギー性血管浮腫を鑑別するため、蕁麻疹、紅潮、掻痒感、アレルギー歴の有無を確認します。緊急性が高いアナフィラキシーが併存していないかは要チェックです。

 

アレルギー性血管浮腫が除外されたら、内服薬にACE-IやNSAIDsがないか確認し、薬剤性血管浮腫の可能性を検討します

 

アレルギー性血管浮腫、薬剤性血管浮腫が除外された場合、遺伝性血管浮腫、正常C1-INH遺伝性血管浮腫、後天性血管浮腫の鑑別を行います。遺伝性血管浮腫は常染色体優性遺伝であり、家族歴の聴取は重要です。また、遺伝性血管浮腫、正常C1-INH遺伝性血管浮腫は若年発症であり、後天性血管浮腫は壮年期以降に発症することが多いです。

 

検査としては、血液検査で補体C4C1-INH活性C1-INH蛋白量を提出します。補体C4は遺伝性血管浮腫の発作時にはほぼ100%の症例で低下し、発作がないときでも98%の症例で低下しているため、スクリーニング検査として有用です。C4が正常であれば遺伝性血管浮腫は否定的と考えてよいです。C1-INH活性はより原因特異的な検査であり、遺伝性血管浮腫では50%以下になります。C1-INH蛋白量は病型の判断に有用ですが、保険適応外となるため注意しましょう。

 

C1-INH活性が低下している場合、後天性血管浮腫との鑑別を行うため、C1-INH遺伝子異常を同定できれば確定診断となります。C1-INH遺伝子単独の遺伝子解析と、「補体欠損症遺伝子検査(panel2)(遺伝性血管浮腫含む)」という遺伝子パネル検査があり、両者とも保険適応です。後者では正常C1-INH遺伝性血管浮腫に関連する遺伝子の解析が可能ですが、解釈が難しいため専門医や学会にコンサルトするのが妥当です。

 

なお、後天性血管浮腫の鑑別に補体C1qが有用であり、75%で低下しているとされます。ただし、保険適応外であることに注意が必要です。

 

以下、血管浮腫の鑑別のフローを示します。

 

 

気道管理

管浮腫は上気道粘膜を侵しやすいため、常に上気道閉塞のリスクを念頭に置く必要があります。上気道周囲に浮腫がある場合、基本的には入院管理とし、慎重にモニタリングするのが望ましいです。閉塞が差し迫っている場合は躊躇なく気管挿管や気管切開を行います。

アレルギー性血管浮腫

アナフィラキシーを伴う血管浮腫の場合、アドレナリン筋注を速やかに行う必要があります

それ以外のアレルギー性血管浮腫の場合、抗ヒスタミン薬またはグルココルチコイドによる治療を行います。どちらが良いのかの基準はありませんが、症状が重い場合にグルココルチコイドの使用を検討します。UpToDateではPSL 20~40mgを5~7日間かけて漸減するというレジメンが推奨されていました。

薬剤性血管浮腫

ACE-I、NSAIDsによる薬剤性血管浮腫が疑われる場合、すぐに薬剤を中止します。ACE-Iは薬剤の中止以外の治療について、エビデンスの高いものはありませんが、トラネキサム酸が投与されることが多いようです。NSAIDsに関しては肥満細胞媒介性であるため、抗ヒスタミン薬やグルココルチコイドの併用を検討します。

遺伝性血管浮腫および後天性血管浮腫

遺伝性血管浮腫の治療は、発作と予防の2つにわけられます。

発作時にはヒト血漿由来C1-INH(ベリナートP®)静注あるいはイカチバント(フィラジル®)皮下注を投与します。イカチバントはブラジキニンを直接阻害する薬剤であり、自己注射も可能です。

 

予防薬のエビデンスは限られていますが、トラネキサム酸、ダナゾール、メチルテストステロン、イプシロンアミノカプロン酸が効果があるとされています。アクセスの良さからトラネキサム酸が使用されることが多いようです(トランサミンカプセル250mg 6~9錠/日)。ヒト血漿由来C1-INH(ベリナートP®)静注あるいはイカチバント(フィラジル®)皮下注の長期予防効果も示されていますが、本邦では保険適応がありません。予防薬として、近年ベロトラルスタット(オラデオ®)が使用可能となっています。これは経口の血漿カリクレイン特異的阻害薬であり、ブラジキニンの産生を阻害します。

 

基本的には後天性血管浮腫も遺伝性血管浮腫と同様に治療を行いますが、保険適応の問題があります(後天性血管浮腫はかなり頻度が低いため、さほど問題にならないのかもしれませんが…)

特発性血管浮腫

原因のわからない血管浮腫の場合、発作時に抗ヒスタミン薬の投与を行います。多くは肥満細胞メディエーター依存性であることもあり、ある研究では86%で効果があったとされています。ただし、予防効果はあまり高くないようです。

 

・遺伝性血管性浮腫(HAE)ガイドライン 改訂2014年版 一般社団法人日本補体学会

・大阪大学 呼吸器・免疫内科学 血管性浮腫

http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/disease/d-immu07-4.html

・UpToDate

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