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好酸球増多

 

好酸球はエオジンでピンク色に染まる好酸性顆粒を持つ、顆粒球系統の白血球です。通常、全白血球中の2%を占めます。その生理学的機能は不明な点も多いですが、感染に対する免疫応答(特に寄生虫)、組織修復、腫瘍免疫、他の免疫細胞の維持などに関与しているとされています。

 

好酸球はIL-5、IL-3、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)の影響下で骨髄内で増殖、分化します。特にIL-5は好酸球の選択に重要であり、抗IL-5抗体や抗IL-5受容体抗体の投与により末梢血の好酸球は激減します。

 

一応、好酸球は好中球同様に弱い貪食能と走化能を持ちますが、通常の感染防御上の意義は疑わしいです。好酸球は寄生虫感染で増加・遊走し、特殊な表面分子を使って寄生虫上に接着し、そこで主要塩基性タンパク質(MBP)や活性酵素を分泌することで寄生虫を殺します。寄生虫は好中球やマクロファージが貪食するには大きすぎるため、このように好酸球が寄生虫に特化した働きを持っているのです。

 

また、好酸球の働きは寄生虫への免疫に留まらず、免疫制御にも関わっているとされます。肥満細胞と好塩基球は好酸球遊走活性化因子を分泌するため、それらの多い組織に好酸球も集まってきます。そして、肥満細胞や好塩基球から分泌される炎症誘導物質のいくつかを解毒したり、アレルゲン-抗体複合体を貪食して破壊したりと、局所の炎症制御に関わっているとされます。アレルギーといえば好酸球が悪さをしているイメージがありますが、どちらかというと好酸球は肥満細胞、好塩基球の過度な活性化に反応して上昇しているだけのことが多いようです。

 

末梢血中では、好酸球数 500/μLまでが正常とされています。実は好酸球は組織に遍在しており、末梢血中の好酸球は全体の1%にも過ぎないとされています。健常人において、好酸球が特に偏在しやすい臓器は脾臓、リンパ節、胸腺、消化管であるようです。

 

好酸球は顆粒内容物(MBP、好酸球ペルオキシダーゼなど)、脂質メディエーター、各種サイトカインを放出する機能がありますが、これらが組織内で過剰に放出されてしまうと組織に損傷を与えることになってしまいます。ただ、好酸球が増えれば組織障害を起こしやすいのかというとそういうわけでもないようで、分子細胞生物学が発達した現代であっても好酸球の働きは未だ謎に包まれた部分が多いです。

 

好酸球増多、好酸球増多症、好酸球増多症候群など、様々な用語が存在しており、混乱の源となっています。まず、この項目で用語の整理をしておきましょう。

 

〇好酸球増多

末梢血の好酸球数≧500/μLを好酸球増多と定義し、以下のように軽度、中等度、高度の3段階で程度を評価します。

・軽度:500~1,499/μL

・中等度:1,500~5,000/μL

・高度:>5,000/μL

〇好酸球増多症

好酸球数≧1,500/μLを原則2週間以上の間隔で2回以上認める場合、好酸球増多症(hypereosinophilia:HE)と定義します。元々は「好酸球数>1,500/μLを原則1カ月以上の間隔で2回認める場合」と定義されていましたが、2023年に「原則2週間以上の間隔」に変更されました。血液検査で2回評価を行う必要がありますが、好酸球増多に伴う臓器障害が明らかで、緊急性が高い場合はその限りではありません

 

好酸球増多ないしは好酸球増多症をきたす原因疾患としては、以下のようなものが挙げられます。

〇好酸球増多症候群

好酸球増多症の基準を満たし、好酸球増多症による臓器障害を伴うものを好酸球増多症候群(hypereosinophilic syndrome:HES)と定義します

 

臓器障害は好酸球の著明な組織浸潤や好酸球由来蛋白の組織沈着によるもので、

①線維化(肺、心臓、消化管、皮膚、その他臓器)

➁血栓症

③皮膚の紅斑

④慢性または反復性の症状を認める末梢または中枢性神経障害

⑤肝臓、膵臓、腎臓などの他の臓器障害

の5つに分類されています。

すべての臓器が障害される可能性がありますが、特に皮膚、肺、消化管、心臓が障害されやすいです。

 

なお、好酸球性肺炎や好酸球性胃腸症など、単一臓器のみが侵されている疾患は好酸球増多をきたす臓器特異的疾患としてHESとは区別します。また、アトピー性皮膚炎や喘息など、アレルギー性疾患に伴って好酸球が増加しているものの、臓器障害への関与が明らかではない場合もHESとは区別して扱います。以下に好酸球増多をきたす臓器特異的疾患を示します。

 

 

また好酸球増多+複数の臓器障害というと、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)を想像される方が多いのではないでしょうか。一応、HESとEGPAは区別することになっていますが、実際には鑑別が困難な症例も少なくありません(ANCAが陰性だったり、病理で肉芽腫がはっきりしない場合など)。下図のように、両者の概念は一部overlapしていると考えられています。

J Clin Med. 2018 Dec 8;7(12):529.より引用

 

このように、HESの定義は結構難解です。

ひとまず、好酸球増多症+臓器障害を見たら、下記のように場合分けして考えて頂けるとよいのではないかと思います。

①臓器障害が単一臓器に留まっている→該当する好酸球が増多する臓器特異的疾患として対応

➁臓器障害が複数臓器に渡るが、EGPAらしい所見が揃っている→EGPAとして対応

③臓器特異的疾患にもEGPAにも該当しない→HESとして対応

 

HES、好酸球増多をきたす臓器特異的疾患、EGPAといった疾患概念は、互いにoverlapしており明確に区分できない場合も多いです。あまり分類には拘り過ぎず、治療の上でどの疾患として対応するのがベストなのか?という観点からアプローチするのも選択肢ではないかと思います。

 

好酸球増多、ないしは好酸球増多症を発見した際、

①原因の同定

②臓器障害の評価

の二つの面からアプローチを行います。

 

原因の同定

好酸球が増加する原因で最も多いのは二次性であり、アレルギー疾患好酸球増多をきたす臓器特異的疾患などが含まれます。世界的には寄生虫感染の頻度が高いですが、衛生環境の整った本邦では稀です。アレルギー疾患の頻度が最も多く、特に薬剤、漢方薬、サプリメントの関与に注意する必要があり、内服歴をしっかりと聴取しなければなりません。

 

二次性が否定された場合、血液疾患の検索に移ります。好酸球が増加する血液疾患には様々なものがありますが、専門的な内容となるためここでは割愛します。骨髄検査や遺伝子検査などが必要となることがあるため、明らかな二次性の要因がない場合は一度血液内科専門医への紹介を検討します

 

血液疾患が除外されれば、臓器障害の有無に応じて特発性好酸球増多症候群または意義不明の好酸球増多症の診断となります。以下に好酸球増多に対する原因検索のフローを示します。

 

また、個人的には二次性好酸球増多の一種である、好酸球増多をきたす臓器特異的疾患(好酸球性肺炎など)やEGPAと考えられる症例についても、原則血液内科へのコンサルトが望ましいと考えます。というのも、血液疾患で増加した好酸球が臓器障害をきたすこともありえ、臓器障害の存在が血液疾患の否定にはならないためです(実際、好酸球増多に伴う白血病において、心筋障害や肺炎をきたすことがあるようです)。UpToDateでも慢性好酸球性肺炎やEGPAの鑑別として血液疾患が挙げられています。血液内科へのコンサルトなしで好酸球性肺炎やEGPAとして治療を開始する場合にも、必ず血液疾患の可能性は頭の片隅に入れておくようにしましょう。

臓器障害の評価

好酸球は組織中で過剰に働いてしまうと臓器障害を生じることになりますが、前述の通り、基本的には反応性に増加し免疫を制御するような働きをするため、好酸球増多が必ずしも臓器障害をきたすわけではありません。好酸球数と臓器障害の関連を検討したある研究では、呼吸器疾患と皮膚疾患は好酸球数 750/μLでそれぞれオッズ比2.11、1.88と増加しましたが、好酸球数1,000/μLでプラトーに達し、それ以上のオッズ比の上昇はありませんでした。また、心臓、神経、消化器疾患の合併と好酸球数との間には関連はみられませんでした2)

 

評価を行う線引きは難しいですが、少なくとも背景に明らかなアレルギー疾患がない場合や、好酸球増多症の定義に該当するような好酸球増多の場合には臓器障害の有無を検索します

 

好酸球が増加し臓器障害をきたす疾患には好酸球増多症候群、好酸球増多をきたす臓器特異的疾患、EGPAなどがありますが、共通して障害される頻度が高いのは皮膚、呼吸器、消化器、神経、心臓です。特に心疾患、呼吸器疾患は致死的となることもあるため注意が必要ですSpO2の測定、胸部X線写真、心電図は原則として全例に行い、必要に応じて心臓超音波検査心筋トロポニン測定胸部CT、呼吸機能検査などを考慮します。結果に応じ、循環器内科、呼吸器内科などの専門医への紹介を検討します。

 

以上、好酸球増多症候群を中心に、好酸球増多に対するアプローチを概説してきました。好酸球増多関連の用語が複数あることや、疾患同士のoverlapが理解を難しくしている印象です。正しく理解できていない部分もあるかと思いますので、間違いがあればご指摘頂けると幸いです。

 

最後に、本稿のkey pointをいくつかまとめて終わりにしたいと思います。

・好酸球増多、好酸球増多症、好酸球増多症候群の定義を理解する

・好酸球増多の原因で最も多いのはアレルギー性などの二次性である

・二次性を除外したのち、血液疾患の有無を評価する

・二次性、血液疾患も除外され、臓器障害を伴うものを好酸球増多症候群とする

・好酸球が障害しやすいのは皮膚、呼吸器、消化器、神経、心臓であり、特に心臓、呼吸器は致死的となるため注意する

・好酸球増多をきたす臓器特異的疾患やEGPAについても理解しておく

・好酸球増多は可能であれば全例血液内科へのコンサルトを検討する

 

1)J Clin Med. 2018 Dec 8;7(12):529.

2)Ann Med Surg (Lond). 2019 Sep;45:11-18.

3)今日の臨床サポート

4)UpToDate