注目キーワード
  1. 高血圧
  2. 骨粗鬆症
  3. 糖尿病

伝染性単核球症

 

伝染性単核球症(infectious mononucleosis:IM)は、思春期から若年青年層に好発し、大部分がEpstein-Barrウィルス(EBV)の初感染によっておこる、発熱、咽頭痛、リンパ節腫脹を特徴とする感染症の一種です。頻度は低いですが、EBV以外にも、サイトメガロウィルス(CMV)など、様々な病原体により発症する可能性があります。他の病原体によるものを単核球症様疾患(mononucleosis-like illness:MLI)と呼ぶこともあります。

 

IMの歴史を簡単にまとめます。19世紀末頃にFilatovとPfeifferがほぼ同時に発熱、咽頭炎、リンパ節腫脹を3主徴とする疾患を腺熱として報告し、1920年にSpruntとEvansら腺熱の患者の末梢血にリンパ球増加と異型リンパ球がみられることから、最初にIMという名称を用いました。1932年にPaulとBunnellがIM患者の血清が羊の赤血球を凝集させる特徴があることを発見し、異好抗体(heterophile antibody)の存在が血清学的診断に有用であることを報告しました。1964年にEpstein、BarrによってEBVが発見され、1968年にHenleらが初めてIMとEBVの関連性を報告しました。

 

EBVの疫学

EBVはヒトからヒトへ伝播するヘルペスウィルスの一種です。感染力はあまり強くなく、飛沫感染というよりも、唾液や性交渉によって感染します(このため、kissing diseaseとも呼ばれます)。

  

一般的には小児期に感染し、成人期にはほぼ既感染となるとされており、本邦では2~3歳までに70%が感染を経験し、20歳代で90%が抗体を保有しているといいます。一方、欧米では生活習慣の違いのためか、乳幼児期の感染は20%程度に留まり、それに伴って若年層の抗体保有率も低く、IMの発症率は本邦より多いと考えられています。

 

余談ですが、最近衛生環境の改善のためか、妊娠可能年齢におけるCMVの抗体保有率が、従来の90%から70%にまで低下してきていることが報告されています。EBVについてもCMV同様に既感染率が低下し、ともすればIM患者数が増加していくことが懸念されています。今後の疫学情報を注視したい所です。

IMの疫学

IMは届け出の義務はないため、本邦での正確な患者発生数は不明ですが、米国の報告では年間一般人口10万人あたり50人の患者発生が認められています。好発年齢は10代後半-30代であり、15~24歳がピークであるといいます。また、咽頭痛で受診する16-20歳の8%を占めるともされています。

年齢を経るにつれてIMの罹患率は低下しますが、稀に中高年でも発症することがあります。高齢になるほど咽頭痛やリンパ節腫脹と言った典型的な症状が目立たなくなり、不明熱化しやすくなる傾向があります。

 

IMの90%はEBVが原因ですが、残りの10%はサイトメガロウィルス(CMV)、HIV、HHV-6、アデノウィルス、HSV、HAV、HBV、トキソプラズマ、リケッチアなど、その他の病原体によるとされています。EBVに次いで多いのはCMVで、5~7%程度と見積もられています

 

特にHIV感染症は早期発見により予後の改善が期待できるため、IMっぽい症状を見たらHIV急性感染の可能性を念頭におく必要があります

 

EBVは中咽頭上皮細胞に感染して増殖し、リンパ濾胞に存在するBリンパ球に感染します。EBVに感染したBリンパ球はリンパ網内系を介して全身に広がり、Bリンパ球だけでなくTリンパ球、NK細胞にも感染していきます。EBV感染Bリンパ球を排除するためにEBV特異的細胞障害性Tリンパ球やNK細胞が活性化し、そうしたリンパ球から産生される炎症性サイトカインによる過剰な免疫反応の結果、発熱などの様々な臨床症状が生じます。

 

IM患者の血液塗抹検体では異型リンパ球を認めますが、これはEBV特異的細胞障害性Tリンパ球です。異型リンパ球というと、なんだか悪さをしている細胞のような印象を持ちますが、むしろ感染の制御のために働いてくれている善玉細胞なんですね。

 

なお、EBVはIMが治癒した後も、6か月~1年間も咽頭~口腔内に排出が続くとされています。このように、ウィルスの排出期間が非常に長いため、接触の機会が多い小児期にEBVの感染が普遍的に広がるものと考えられています。

 

EBVによるIMについて

典型的な徴候とされるのは発熱、咽頭炎、リンパ節腫脹、倦怠感、リンパ球増多であり、そこにしばしば筋痛、頭痛、微熱といった症状が先行します。

以下、各症状の頻度を表にまとめます。

 

40歳以上では咽頭炎、筋痛が前景に立ち、リンパ節腫脹が目立たず、発熱も数週間持続することもあります。このため、しばしば不明熱として扱われることもあるため注意しましょう。

 

咽頭炎はしばしば白苔のある扁桃腫大を呈し、口蓋の点状出血を伴うこともあります。時には溶連菌性咽頭炎の所見と酷似するため、慎重に鑑別を行う必要があります。

 

リンパ節腫脹は対称性かつ後頚部リンパ節腫脹が特徴です。腋窩や鼠径リンパ節腫脹があればよりIMらしいといえます。自発痛はなく、圧痛も強くはありません。1週間でピークとなり、2-3週間で次第に消退します。

 

また、病初期に診られる両側上眼瞼浮腫はHoagland signと呼ばれ、50%程度に認めるとされます。涙腺炎による浮腫であると考えられています。

BMJ Case Rep. 2022 Jun 22;15(6):e250857.より引用
EBV以外のIM(mononucleosis-like illness:MLI)について

EBVによるIMと、CMVやHIVによるもので臨床的な違いはあるのでしょうか?

まず、CMVの場合、年齢が30歳以降と比較的高めであることと、咽頭炎やリンパ節腫脹が乏しいのが特徴であるとされています。

 

HIVでは口腔内潰瘍や皮疹、無菌性髄膜炎がある際、HIVの急性感染を疑う必要があります。基本的に、IMを見た際は性交渉歴を確認し、HIV感染のリスクがあるか評価するべきです

 

頸部リンパ節の圧痛が極端に弱い場合、トキソプラズマ症の可能性が高まります。羊肉、豚肉、鶏肉などの生食、猫との接触歴を確認するようにしましょう。

 

また、フェニトイン、カルバマゼピン、ミノサイクリンなどによるアレルギー反応、特に薬剤性過敏症症候群(DIHS)はIMによく似た臨床所見を呈するため注意が必要です。内服薬にこれらの薬剤があり、特に最近内服が開始されていたり、皮疹を伴う場合にはDIHSを強く疑います。

 

EBVは胎児に影響をきたすことはありませんが、鑑別診断となるCMVやトキソプラズマ症は大事に影響を持つものがあり、IMを疑った際には妊娠の有無をよく確認しましょう

 

以下、EBV以外のIM(mononucleosis-like illness:MLI)について特徴を表にまとめます。

 

Am J Med. 2007 Oct;120(10):911.e1-8.より引用改変
IMの合併症について

ギランバレー症候群、顔面神経麻痺や他の脳神経麻痺、髄膜脳炎、無菌性髄膜炎、横断性脊髄炎、末梢神経炎、視神経炎など、多彩な神経疾患をきたす可能性があります。これらは発症後2-4週間たって発生する傾向があり注意が必要です。

 

また、脾腫を50-60%に合併しますが、発症後3週間で軽快します。0.1-0.5%と稀ですが、脾破裂を合併することがあり、突然の左上腹部痛や左肩痛をきたした場合には本疾患を想起します。

 

血小板減少、溶血性貧血の他、まれに再生不良性貧血、血球貪食症候群など血液疾患を合併することもあります。

  

外来で咽頭痛、発熱、筋痛、倦怠感などの症状を訴える若年者で、咽頭炎、扁桃腫大、後頚部リンパ節腫脹がある患者ではIMを強く疑います。また、血液検査で50%以上のリンパ球増多、10%以上の異型リンパ球、原因不明の肝機能障害がある患者でもIMを想起します。なお、EBVによるIMは潜伏期間が約4-6週間と長いため、性交渉等のイベントを聴取する際にはそこまで遡る必要があります

リンパ球数、異型リンパ球について

末梢血で4,500/μL、白血球分画で50%以上のリンパ球増多があるか、末梢血塗抹検体で全リンパ球の10%以上の異型リンパ球がある場合、IMの可能性を強く見積もります。≧50% リンパ球かつ≧10% 異型リンパ球であるとすると、IMの診断において感度 43%、特異度 99%だとされています。

 

なお、異型リンパ球自体はCMVやHIVによるIM、風疹、ウィルス性肝炎、流行性耳下腺炎、DIHSなどでも出現するため注意が必要です。

Paul-Bunnell反応

Paul-Bunnell反応はEBV初感染者の血清中に一過性に出現し、異種動物の赤血球を凝集させる抗体(heterophil antibody:異好抗体)を検出する検査で、古典的にIMの診断法として用いられてきました。現在は保険収載がなく、日本人では感度が低いという報告もあり、ほとんど行われることがなくなってきています。

EBV特異抗体について

Virus capsid antigen(VCA)抗体IgM、VCA抗体IgG、EBV nuclear antigen(EBNA)抗体の3つが有用とされており、それぞれ以下のような特徴があります。

・VCA-IgM:急性期に検出され、1-6週でピークになり、3か月後には消退するため急性期の指標となる

・VCA-IgG:急性期から陽転化、回復期に上昇し生涯陽性が持続するため、既感染の指標となる

・EBNA抗体:感染後6-12週間後に陽性化し生涯陽性が持続する

 

VCA-IgMが陽性(10倍以上)、VCA-IgGが陽性(640倍以上)でEBNAが陰性の場合、急性感染と診断できます。ただ、単回の検査では評価が困難な場合もあり、厳密には急性期と回復期の複数の血清を用いて判断すべきです。また、3つを使って評価をすると感度 95-100%、特異度 87-90%で評価が可能とされますが、保険請求上は1項目しか算定できないため注意が必要です。病院収益のことを考慮するとルーチンで3つとも提出するのは難しそうなので、VCA-IgMを単独で提出するのが現実的な落としどころでしょうか?この辺は他の先生のご意見も伺いたい所です。

その他の検査

EBV以外のIMの可能性がある場合、適宜検査を追加します。

CMVは比較的頻度が高いため、ルーチンで提出してもよいかもしれません。特異的IgM、IgGを測定し診断を行います。トキソプラズマ症も特異的IgM、IgGを測定して診断します。

 

粘膜潰瘍、皮疹、無菌性髄膜炎を認め、性交渉歴にリスクがある場合には急性HIV感染を想起して検査を提出します。HIV抗原、抗体検査はwindow期により陰性となることがあるため、疑う場合はHIV-PCRを提出すべきです。ただし、HIVは陽性となると色々大事になってしまう感染症であるため、勝手に測定してしまうと患者さんとトラブルになる可能性があります。事前に患者さんとよく話し合い、同意を得てから検査を出すのが無難です。

 

溶連菌による咽頭炎との鑑別が難しい場合、centor基準を参考に、迅速検査や咽頭培養などを行います。

 

以下にIMを疑った際の診断チャートを提示します。

 

今日の臨床サポートより引用改変

 

IMの予後は良好で、2-3週間で自然軽快します。

治療は対症療法が中心となり、アセトアミノフェンやNSAIDsが主体です。コルチコステロイドやアシクロビルは、症状の改善といった臨床的な効果を示すことができておらず、基本的には使用しません。ただし、扁桃腫大などで気道閉塞をきたしている場合など、特定の状況ではコルチコステロイドを使用することもあります。

 

また、脾破裂を予防するため、発症後3週間は運動を禁止とします。サッカーやラグビー、レスリングといったコンタクトスポーツは特に脾破裂のリスクが高いですが、これらのスポーツに関しては3週間で臨床症状が改善していれば許可できるという見解や、4週間あるいは8週間まで禁止とした方がよいという見解もあり、一定の見解がありません。

 

急性HIV感染症の場合、早期の抗ウィルス薬治療が推奨されるため、速やかに専門医への紹介を行います。(早期に治療開始することで、ウィルス学的セットポイントを低くすることで予後が改善する可能性がある、他人への感染リスクを低下させられる、といったメリットが期待できるようです)

以上、IMについてまとめてきました。現在の勤務先ではIMのリスクの低い高齢者の患者さんがほとんどで診療する機会がないのですが、今後の勤務先でより若い年代を診療することになりそうなので、今回勉強をしてみた次第です。

 

最後に本記事の重要ポイントをまとめて筆を置きたいと思います。

 

・IMは発熱、咽頭炎、リンパ節腫脹を主体とする感染症である!

・EBVによるものがほとんどだが、CMV、HIV、トキソプラズマにより生じることもある!

・リンパ球≧50%、異型リンパ球≧10%以上でIMが強く疑われる!

 ・EBVによるIMの診断にはVCA-IgM、VCA-IgG、EBNA抗体が有用であるが、保険で請求できるのは1項目のみ→一つ選ぶとしたらVCA-IgMを提出すべし!

・EBV以外が疑わしいようであれば、必要に応じて検査を追加する!

・治療は対症療法がメイン、脾破裂予防のため最低3週間は運動禁止!

 

1)BMJ Case Rep. 2022 Jun 22;15(6):e250857.

2)Am J Med. 2007 Oct;120(10):911.e1-8.

3)国立感染症研究所 伝染性単核球症とは

 https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/444-im-intro.html

4)UpToDate

5)今日の臨床サポート