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帯状疱疹ワクチン

帯状疱疹については下記の記事もご参照ください。

帯状疱疹は非常にコモンな疾患であり、85歳までに約半数の人が経験するとされています。

世界全体で帯状疱疹は増加傾向であるといわれており、例えば1997-2017年に行われた宮崎県からの報告では、1997年には3.5人/1000人・年であったものが2017年には6.0人/1000人・年まで増加しており、特に60歳以上の高齢者では顕著に増加していました1)2)

帯状疱疹は後根神経節に潜伏しているVZVが、宿主免疫の低下を契機に活性化することで起こります。免疫といっても自然免疫や獲得免疫、さらに獲得免疫には液性免疫や細胞性免疫…といったように、多くのカテゴリーが存在していますが、帯状疱疹の発症に特に関わっているのは細胞性免疫であるといわれています

 

このことは様々な観点から示されており、例えば高齢者やリンパ増殖性疾患のような細胞性免疫が低下している群では帯状疱疹の発症頻度、重症度が上昇することがわかっています。また、低γグロブリン血症の小児において、重症の水痘や帯状疱疹の発生率の増加は見られず、液性免疫の役割はさほど大きくないことが示唆されています。

 

VZVに対する細胞性免疫は経時で弱まっていきますが、水痘の小児と接し、外因性のVZVに暴露することで増強されます。他にも、無症候性のVZV活性化、つまり内因性のVZV暴露による免疫増強効果の存在も考えられています。このように、外因性にせよ内因性にせよ、定期的にVZVに暴露することで宿主のVZVに対する免疫が維持され、VZVが再活性化して帯状疱疹に移行することを防いでいます

 

しかし、近年は小児に対する水痘ワクチンの定期接種化により、集団内でのVZVの絶対数が減少してきています。このため、外因性のVZVに暴露する機会が減少することで細胞性免疫の追加免疫効果(ブースター効果)が得られず、結果として中高年における帯状疱疹の発症数が増加してきていると考えられています。

 

このような環境ですから、追加免疫効果を期待し、ワクチン接種を推奨することで帯状疱疹の予防を図っていくことは合理的な戦略といえます。現在、帯状疱疹のワクチンは生ワクチンと不活化ワクチンの二種があります。次項からは、それぞれのワクチンについて特徴をまとめていきます。

導入

弱毒化したウィルスを直接ヒトに接種するワクチンを生ワクチンと呼んでいます。本邦では、乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」®という販売名のものが使用されています。小児における水痘予防にも同様の製剤が使用されています。

  

余談ですが、このワクチンは1971年に水痘患児から採取されたウィルス株を基に作成されており、その患児が岡という姓であったことから“岡株”ワクチンと呼称されています。米国では、この岡株を用いてメルク社が作成したOka-Merk株ワクチンが小児の水痘ワクチンとして使用されていますが、帯状疱疹の予防にはさらに力価を強めたOka-Merk株を使用した、ZOSTAVAX®というワクチンが用いられていました。つまり、海外では小児の水痘予防と成人の帯状疱疹予防に用いるワクチンが異なる場合があるわけです。UpToDateや海外の文献を参考にする際、この辺の違いは確認しておいた方がよいでしょう。ちなみに、すでに米国や英国ではZOSTAVAX®は販売されておらず、後述の不活化ワクチンに一本化されているようです。

 

ここからは水痘生ワクチンのエビデンスについてまとめていきますが、本邦のワクチン製剤ではなくZOSTAVAX®のエビデンスであることに留意してください。本邦の水痘生ワクチンとZOSTAVAX®は力価がほぼ同等であり、臨床効果も一致するものと見なされているからです。

有効性

さて、この生ワクチンですが、帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛の発生率を減らすことがわかっています。

60歳以上の成人38,546人を対象としたプラセボ対照試験3)では、生ワクチンはプラセボと比較して帯状疱疹の発生率を51%減少させました(1.6%vs3.3%)。また、その効果は70歳以上と比較して60-69歳の間で有意に高かったようです。また、帯状疱疹後神経痛の発生率はプラセボと比較し67%減少しました(1000人年あたり0.46人vs1.38人)。帯状疱疹とは異なり、60-69歳よりも70歳以上でより有効であったようです。

また、75,000人以上のワクチン接種患者を含んだコホート研究4)では、ワクチン接種群では帯状疱疹のリスクが有意に低下していました(HR 0.45;CI 0.42-0.48)。眼部帯状疱疹や入院のリスクも有意に低下していたようです。

高齢者だけでなく、50-59歳の患者においても生ワクチンの有効性が示されています5)

効果の持続期間

1,395人の患者を対象とした研究6)では、プラセボと比較してワクチン接種後6週間でVZV特異抗体と細胞性免疫の上昇が示されました。これらは3年間の追跡期間中持続しましたが、細胞性免疫応答の程度については経時で低下していました。

少なくとも5年間は帯状疱疹の予防効果は持続するようですが7)、8年目以降は顕著に低下するようです8)

有害事象

生ワクチンは忍容性が高く、発熱などの全身症状は稀とされます。

最も多いのは注射部位反応であり、約半数に注射部位の疼痛が見られます。

ワクチン接種後に急性網膜壊死、ブドウ膜炎、視神経炎といった重篤な眼科疾患を発症した症例がcase reportレベルで存在しており、頭の片隅には入れておいた方がいいかもしれません。

 

また生ワクチンということで、PSL 20mg/日以上内服していたり、リツキシマブやTNFα阻害薬といった生物学的製剤を投与されているなど、免疫抑制状態にある場合は禁忌となります。

投与方法と費用

生ワクチンは単回皮下注射を行います。

費用は1回あたり7,000-8,000円程度です。

導入

生ワクチンでは弱毒化したウィルスそのものを投与しますが、不活化ワクチンではウィルスの糖蛋白など、一部のみを接種します。このため、免疫抑制状態であっても使用できる点が強みと言えます。VZVの糖タンパク質E抗原を用いて作成されたシングリックス®が不活化ワクチンとして使用できます。

シングリックス®はグラクソスミスクライン社により開発され、2017年に米国で使用が開始されました。本邦では2020年1月から使用が可能となっています。

有効性

不活化ワクチンも帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛の発生率を減らすことが示されています。

50歳以上の15,411人を対象としたプラセボ対照試験9)では、平均3年間の追跡期間において、プラセボと比較して帯状疱疹の発生リスクを97.2%減少させました(95% CI 93.7-99.0、6人vs210人)。帯状疱疹後神経痛の症例はプラセボ群では18例報告されたものの、不活化ワクチン群では認めませんでした。

70歳以上の成人13,900人を平均3.7年間追跡したプラセボ対照試験10)では、プラセボと比較して帯状疱疹の発生率を90%減少させました(95% CI 84.2-93.7、23人vs223人)。さらに、帯状疱疹後神経痛は89%減少させました(95% CI 68.7-97.1)。

持続期間

上記2つの臨床試験の延長研究11)では、7年間の時点で細胞性免疫応答と帯状疱疹の予防効果が高いまま(それぞれ84%と91%)であることが示されました。

有害事象

不活化ワクチンは生ワクチンと比較すると局所反応や全身症状が強く出やすいとされています。

注射部位反応は78%で生じ、9.4%では日常生活に支障のでる疼痛、発赤、腫脹がみられました。

また、全身症状として筋肉痛(44.7%)、倦怠感(44.5%)、頭痛(37.7%)、発熱(20.5%)がみられました。

投与方法と費用

不活化ワクチンは筋肉内投与を2回行う必要があります。通常1回目から2か月後に2回目を接種しますが、リスクの高い患者では1か月後の接種も可能です。

非常にコストが高いのがネックで、1回あたり22,000円もかかります

以上を踏まえ、生ワクチンと不活化ワクチンの特徴を表にまとめます。

 

特に有効性と費用の違いが重要で、有効性をとるなら不活化ワクチン、費用を抑えたいなら生ワクチン、ということになるでしょうか。

米国や英国では効果の面が重視され、生ワクチン自体の販売が終了しているようです。

UpToDateでも臨床効果の面から不活化ワクチン>生ワクチンという推奨です。

費用対効果は不活化ワクチンの方がよいとされていますが、本邦では生ワクチンの方が良好であるとの試算もあります12)

 

自治体によっては補助を出してもらえるため、それを踏まえて最終的には患者さんに決めて頂くのがよいでしょう。私の勤務先においては、それぞれ半々の割合で選択されている印象です。また、帯状疱疹の免疫抑制状態にある患者さんには、積極的に不活化ワクチンを推奨するべきだと思います。

兎にも角にも、シングリックス®は高すぎますね。一回当たり1万円程安ければより患者さんに勧めやすいのですが…。

1)J Med Virol. 2009 Dec;81(12):2053-8. doi: 10.1002/jmv.21599.

2)https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2433-iasr/related-articles/related-articles-462/8235-462r07.html

3)N Engl J Med. 2005;352(22):2271. 

4)JAMA. 2011;305(2):160. 
5)Clin Infect Dis. 2012 Apr;54(7):922-8. Epub 2012 Jan 30.

6)J Infect Dis. 2008;197(6):825. 
7)Am J Epidemiol. 2018;187(1):161.

8)Clin Infect Dis. 2015;60(6):900. 

9)N Engl J Med. 2015;372(22):2087. Epub 2015 Apr 28.

10) N Engl J Med. 2016;375(11):1019. 

11)Clin Infect Dis. 2022;74(8):1459. 

12)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2019/192141/201919003A_upload/201919003A202005292025545360004.pdf

・UpToDate