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潜在性結核(Latent Tuberculosis Infection)

  • 2023年2月22日
  • 2023年2月22日
  • 感染症
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潜在性結核とは

潜在性結核(Latent Tuberculosis Infection:LTBI)とは、結核菌による感染は成立していますが、発病していない状態をいいます。大部分の患者さんは発病せずに一生を終えますが、一部は活動性結核に移行します。潜在性結核の治療目的は、体内に生きて潜んでいる結核菌を殺すことで活動性結核への移行を防ぐことにあります

2020年現在、本邦での結核既感染率は14.7%とされており、80歳以上では過半数が既感染と推計されています。このため、特に高齢者では潜在性結核に該当する患者が相当数いることになります。

潜在性結核の診断

潜在性結核の診断は、ツベルクリン反応またはIGRAの結果で判断されますが、本邦では大多数の国民がBCGの接種歴があるため、基本的にはIGRAで行われます。ただし、5歳以下の小児ではIGRAの十分な知見がないため、ツベルクリン反応を優先させて行います

ここで理解しておく必要があるのは、結核既感染=IGRA陽性ではないということです。IGRAは宿主の細胞性免疫を利用した検査ですが、感度は高くなく、特に免疫力が低下している高齢者では偽陰性の可能性が高まります。現状では結核既感染を判断するツールとしてはIGRA以外にはないため、IGRA陽性を潜在性結核として扱いますが、IGRAが陰性であっても結核既感染の可能性はあり、その中から活動性結核に移行する患者も存在しうるということです。つまり、特に免疫抑制治療を行う患者さんにおいては、IGRAが陰性でも活動性結核を発症しうることを頭の片隅に置いて診療に当たる必要があるわけです。

検査対象

結核の低蔓延国である我が国では、潜在性結核治療を効果的・効率的に行うために、対象として感染していて発病リスクが相当高く、かつ治療を行う有益性が副作用を上回ると考えられる人を適切に選択する必要があります。

潜在性結核感染症治療指針によれば、現時点で潜在性結核を疑って検査をすべき対象は以下の通りになります。

①感染性のある患者と概ね1-2年以内に接触があり、感染を受けたと判定される者

➁胸部X線上明らかな陳旧性結核の所見があるものでIGRAが陽性であり、結核の治療を受けたことがない者

③HIV感染者や免疫抑制薬の使用、悪性腫瘍罹患者など、医学的な結核発病リスクが高くツベルクリン反応またはIGRA陽性で結核感染を受けた可能性が大きい者

④地域流行がみられる地域からの移民、老健などの長期療養型施設の入所者、医療従事者など

特に、免疫抑制療法や化学療法を行う患者では治療前に必ず潜在性結核の有無を判断する必要があります。

なお、医療従事者の雇い入れや定期健診でIGRAを測定することがあると思いますが、陽性であった場合には別の発病リスクがなければ、最近の感染が疑われる場合にのみ潜在性結核の治療対象になるとされています。

治療前の確認事項

①本当に活動性結核ではないか?

最低でも胸部X線と喀痰の抗酸菌塗抹と培養は提出しておきましょう。胸部CTはルーチンでは不要とされていますが、小さな肺病変やリンパ節病変がないことを確認するのに有用です。

➁過去に適切な治療が行われた陳旧性結核ではないか?

既治療例には治療は不要です。病歴をしっかり確認しましょう。

③イソニアジド投与の禁忌または副作用のリスクがないか?

アルコール性肝炎、ウィルス性肝炎では肝障害のリスクが上昇します。高度の肝硬変ではイソニアジドの投与は避けた方がよいです。

④妊娠中ではないか?

妊娠中は潜在性結核の治療は原則実施しません。ただし、治療中に妊娠が判明した場合は継続することが多いです。

治療

本邦ではイソニアジドが使用されることが多いですが、the National Tuberculosis Controllers AssociationとCDCによる2020年のガイドラインによれば、リファンピシンベースのレジメンが推奨されています。

本邦で使用できる薬剤から、選択肢としては

①リファンピシン 10mg/kg/日(最大600mg/日)を1日1回経口投与、4か月間

➁リファンピシン 10mg/kg/日(最大600mg/日)+イソニアジド 5mg/kg/日(最大300mg/日)を1日1回経口投与、3か月間

③イソニアジド 5mg/kg/日(最大300mg/日)を1日1回経口投与、6-9か月間

の3つが挙げられます。

①は③と比較し同等の効果があり、副作用が少ないことがわかっています。また、➁は③と比較し同等の効果、副作用があることが報告されています。リファンピシンベースのレジメンが主流になりつつありますが、最大の弱点はリファンピシンに薬物相互作用が非常に多いことがあります。特に、CYP3A4の誘導により副腎皮質ステロイドの効果を減弱させてしまうため、自己免疫性疾患でプレドニゾロンを使用する場合は問題となります。

どのレジメンがよいとは一概には言えませんが、

・現在使用している、または今後使用しうる薬剤

・治療期間

・患者さんのアドヒアランス

を総合的に考えて選択していくのがよいのではないでしょうか。

また、潜在性結核の治療でも発生届を提出しなければいけないことと、申請すれば治療も公費で支払われることを合わせて覚えておきましょう。

参考

・MMWR Recomm Rep. 2020 Feb 14;69(1):1-11.

・レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版

・結核の知識 第5版 医学書院

・結核診療ガイド 南江堂

・結核既感染者数の推計

https://jata-ekigaku.jp/wp-content/uploads/2021/10/arc_kikansen.pdf