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骨粗鬆症治療薬ごとの効力の違いはどのくらい?

 

骨粗鬆症の治療薬にはビスホスホネート(BP)製剤、SERM、抗RANKL抗体、テリパラチド、ロモソズマブと、複数の選択肢があります。本ブログの初期にも記事を書きましたが、薬剤ごとに作用機序、椎体骨折/大腿骨骨折予防のエビデンス、副作用、薬価といった複数の要素を検討し、患者さんにとって最適な治療薬を選択していきます。

 

中でも頻用されるのはBP製剤、SERM、抗RANKL抗体で、これらの薬剤で効果が不十分であったり、骨折の危険が極めて高い場合にはテリパラチド、ロモソズマブの使用を検討します。裏を返せば、後者二つは効力が強いということになりますが、そもそも骨粗鬆症治療薬ごとの効力差というのはどこまで検討されているものなのでしょうか?今回はその点を深めてみたいと思います。

骨粗鬆症の1st choiceであるBP製剤は、新規薬剤に対するコントロール群として設定されていることが多いです。まずはBP製剤との比較を基本に、抗RANKL抗体、テリパラチド、ロモソズマブについてエビデンスを確認していきたいと思います。

 

まず、抗RANKL抗体(デノズマブ)を見ていきましょう。

2009年に発表された研究において1)、低骨密度の閉経後女性1,189人を対象に、デノズマブ投与群とアレンドロン酸投与群に分け、骨密度の変動を比較しました。1年後、骨密度はそれぞれ腰椎(5.3% vs 4.2%)、股関節全体(3.5% vs 2.6%)、大腿骨頸部(2.4% vs 1.8%)と、わずかではありましたが有意にデノズマブ群の方が大きく上昇していました。

また、アレンドロン酸とデノズマブ使用者における骨折の発生率について調べたデンマークの研究2)がありますが、3年以内の骨折の発生率は両者の間で同等でした。ただし、あくまで3年間という評価期間での話であり、より長期間で見た場合、有意な差が出てくる可能性があります。

これらの研究結果を踏まえますと、「骨密度の上昇幅は抗RANKL抗体>アレンドロン酸だが、骨折の予防効果については両者の間で差を示すことができていない」ということになります。

 

続いてテリパラチドについて確認していきます。 

この2018年にLancet誌に掲載された研究3)では、少なくとも2件の中等度、もしくは1件の重度の椎体骨折を有し、骨密度Tスコアが-1.50以下である閉経後女性680人を対象に、テリパラチド投与群とリセドロン酸投与群において、骨折の予防効果を比較しています。投与開始から24か月時点で、椎体骨折は5.4% vs 12.0%であり、テリパラチド投与群で有意に減少していました(p<0.0001)。なお、大腿骨頸部骨折を含んだ非椎体骨折については有意差はありませんでした(大腿骨頸部骨折については両群併せて10件弱しか発生しませんでした)。

この研究結果から、「テリパラチドは椎体骨折についてはリセドロン酸よりも有意な予防効果を持つが、大腿骨骨折については予防効果を示すことができていない」ということが言えるかと思われます。

 

最後に、ロモソズマブについて見ていきます。

まず骨密度について検討した論文を提示します。

2014年にNEJMに掲載された論文4)では、ロモソズマブの第2相試験として、骨密度の低下した閉経後女性419人を対象に、ロモソズマブ皮下投与群(用量 70mg、140mg、210mgを毎月、または140mg、210mgを3か月毎)と、皮下プラセボ、アレンドロン酸、テリパラチドにランダムに割り当てて比較を行いました。投与から12か月の評価にて、プラセボ群との比較では腰椎、股関節全体、大腿骨頸部の全ての骨密度が有意に増加しており、特に毎月210mgを投与する群で最大となっていました(腰椎で+11.3%、股関節全体で+4.1%、大腿骨頸部で+3.7%)。また、アレンドロン酸、テリパラチド投与群と比較しても有意に増加していました。

4)より引用。薬剤ごとの骨密度の推移

また、2017年にLancet誌に掲載された論文5)では、ロモソズマブの非盲検の第3相試験として、少なくとも3年間アレンドロン酸による治療歴のある、低骨密度ないしは骨折歴のある閉経後の女性436人を対象に、ロモソズマブ群とテリパラチド群に無作為に割り当てて比較を行いました。投与開始から12か月後の時点で、骨密度の上昇は股関節全体(+2.6% vs -0.6%)、腰椎(+9.8% vs +5.4%)でロモソズマブ群で有意に大きいという結果でした。

 

ロモソズマブの骨折の予防効果についても検討がなされています。

2016年にNEJM誌に掲載された論文6)では、骨粗鬆症の閉経後女性7,180人を、ロモソズマブ群とプラセボ群にランダムに割り当てて12か月間投与を行いました。その後、後療法としてすべての女性がさらに12か月間抗RANKL抗体を投与されています。椎体骨折の発生率は、12か月後が0,5% vs 1.8%、24か月後が0.6% vs 2.5%であり、ロモソズマブ群の方が有意に低くなっていました。一方、副次評価項目である非椎体骨折の発生率については有意な差はありませんでした。

別の試験7)では、骨粗鬆症と脆弱性骨折の既往のある閉経後の女性4,093人を、ロモソズマブ群とアレンドロン酸群に無作為に割り当てて12か月間投与を行いました。その後、後療法としてすべての患者が12か月間アレンドロン酸による治療を行いました。24か月後の時点で、椎体骨折は6.2% vs 11.9%、非椎体骨折 8.7% vs 10.6%、股関節骨折 2.0% vs 3.2%と、いずれもロモソズマブ群の方が有意に低くなっていました。なお、本試験ではロモソズマブ群で重篤な心血管イベントが増加していた(0.8% vs 0.3%)ことも付記しておきます。

 

これらの研究をまとめますと、「ロモソズマブはアレンドロン酸、テリパラチドと比較すると骨密度を上昇させる効果が強く、骨折の予防効果も椎体・大腿骨骨折の両方でアレンドロン酸よりも有意に高い」ということになります。

 

最後に、2019年に発表されたメタアナリシス8)について確認していきましょう。この研究では107件の試験を対象としており、閉経後女性193,987人が含まれ、追跡期間中央値は28か月で、骨粗鬆症治療薬ごとの骨折予防効果を検討しています。プラセボと比較し、股関節骨折はロモソズマブ(RR 0.44)、抗RANKL抗体(RR 0.56)、ゾレドロン酸(RR 0.60)、アレンドロン酸(RR 0.61)、リセドロン酸(RR 0.73)で有意に減少していました。

 

また、椎体骨折についてはテリパラチド(RR 0.27)、抗RANKL抗体(RR 0.32)、ロモソズマブ(RR 0.33)、ゾレドロン酸(RR 0.38)、アレンドロン酸(RR 0.57)、リセドロン酸(RR 0.61)、バセドキシフェン(RR 0.61)で有意に減少していました。

8)より引用。椎体骨折に関する比較。

 

本論文では、テリパラチド(+アロパラチド)、抗RANKL抗体、ロモソズマブは最も高いRR低減効果を持っていたと結論づけられています(ただし、ここでもテリパラチド、アロパラチドは股関節骨折の予防効果を示すことができていません)。また余談ですが、全体として椎体骨折への予防効果は股関節骨折のそれと比較すると明らかに大きい傾向があり、椎体骨折と比較すると股関節骨折の予防は難易度が高いことが示唆された、というのが本論文の面白い所です。

以上、骨粗鬆症治療薬の効果を比較した論文をいくつか見てきました。

 

全体をまとめますと、私個人としては、

骨密度の上昇幅:ロモソズマブ>テリパラチド、抗RANKL抗体>BP製剤

椎体骨折予防効果:ロモソズマブ≒テリパラチド>抗RANKL抗体、BP製剤

大腿骨骨折予防効果:ロモソズマブ>抗RANKL抗体、BP製剤>テリパラチド

  

という結論に至りました。

以下、それぞれの薬剤に対する雑感をつらつらと書いて終わりにしたいと思います。

 ロモソズマブが骨密度の上昇、骨折予防効果の両面で最強であることは確かなようですが、心血管イベントが増える可能性があり、現時点では内科としては積極的に使用し難いというのが正直な所です。

 個人的には抗RANKL抗体が思った以上に善戦しているなぁと思いました。半年に一度の投与で使いやすいですし、重症の骨粗鬆症の人にはより積極的に使用してもよいかもしれません。  

 テリパラチドはやはり大腿骨骨折予防のエビデンスがないのが大きな欠点ですね。骨折の一次予防として骨粗鬆症の治療するのであれば、他の大腿骨骨折の予防効果のある薬剤を優先するべきと考えます。ただ、椎体圧迫骨折で体動困難・入院となってしまったような患者さんに二次予防として開始し、その後大腿骨骨折の予防効果がある薬剤に繋げていく、という使い方はアリかもしれません。

 BP製剤は色々と比較対象になって気の毒な感じもありますが、大腿骨骨折の予防を含めた豊富なエビデンスがあり、費用対効果を考えると不動の第一選択薬であると思われます。

 

1)J Bone Miner Res. 2009 Jan;24(1):153-61.

2)JAMA Netw Open. 2019 Apr 5;2(4):e192416.

3)Lancet. 2018 Jan 20;391(10117):230-240.

4)N Engl J Med. 2014 Jan 30;370(5):412-20.

5)Lancet. 2017 Sep 30;390(10102):1585-1594.

6)N Engl J Med. 2016 Oct 20;375(16):1532-1543.

7)N Engl J Med. 2017 Oct 12;377(15):1417-1427.

8)J Clin Endocrinol Metab. 2019 May 1;104(5):1623-1630.

9)UpToDate