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禁煙

喫煙については下記の記事もご参照ください。

 

喫煙率の推移

厚生労働省による発表では、現在習慣的に喫煙している者の割合は16.7%であり、男女別にみると男性27.1%、女性7.6%とされています。この10年でみるといずれも有意に減少していますが、年齢階級別にみると30-60歳代男性ではその割合が高く、約3割が習慣的に喫煙していると言います。また、加熱式タバコの使用者は男性で27.2%、女性で25.2%とされており、近年増加傾向です。喫煙率には地域差があり、北海道、東北、北関東で高いことがわかっています。

 

がん情報サービスより引用

 

一方、世界の2016年の喫煙率は男性33.7%、女性6.2%とされています。こちらも地域差が大きく、特に東ヨーロッパ、ロシア、中央アジア、中国、東南アジアで喫煙率が高くなっています。世界平均と比較し、本邦は男性の喫煙率はやや少ないものの、女性の喫煙率は多いということが言えます。

禁煙の意思と本邦における禁煙目標

習慣的に喫煙する人の中にはタバコをやめたいと思っている人も多くいます。「やめたい」と回答した人は男性で約25%、女性で30%で、「本数を減らしたい」と回答した人を合わせると。男女とも半数を超えています。一方で、「やめたくない」と回答した人も2-3割存在しています。

がん情報サービスより引用

 

  

本邦では2010年時点で約20%の喫煙率を、2022年までに12%に下げることを目標としていました。ただ、残念ながらその目標値は達成できていないのが現状です。

 

概論

前回の記事において、喫煙によるデメリットをこれでもかというくらい書き連ねました。ただ、この点を強調するまでもなく、おそらく喫煙者の方々もタバコが体に悪いということは百も承知で喫煙をしておられるのだと思います。ニコチンへの依存の影響で、有害だとわかっていてもやめられない、というのがタバコの怖い所なのです(しかも違法薬物と異なり、こんなものが平気でコンビニで購入できてしまうというのがこれまた恐ろしい事実です…)。経験上、喫煙者の方にいくら喫煙を継続することによるデメリットを説明しても、ほとんど効果がありません。そんなわけで、ここでは喫煙者の皆様に向けて、いわば「北風と太陽」の寓話のように、禁煙することでどのようなメリットがあるのか?という点にフォーカスして解説していきたいと思います

 

まず、以下の図をご覧ください。これは禁煙によるメリットを時系列順にまとめたものです。

禁煙開始から20分で血圧・脈拍の正常化といった反応が見られ、なんと24時間後には早くも心臓発作の可能性が減少します。数か月で呼吸器症状・運動耐用能が改善し、2-4年後には虚血性心疾患のリスクが35%減少し、脳梗塞のリスクも著減します。また、5-9年で肺癌のリスクが明らかに低下し、10-15年で様々な病気にかかるリスクが非喫煙者のレベルにまで近づくとされます

 

e-ヘルスネットより引用

 

この図だけで如何に禁煙が健康にとって有用か、一目で理解できると思います。次項からは、禁煙のメリットをもう少し具体的に確認していきます。

寿命が長くなる!

禁煙により、寿命、健康寿命の両方の延長が期待できます。

30歳時点で禁煙すれば、元々喫煙しなかった人と同等の余命が期待できますし、50歳になってから禁煙しても6年寿命が延長することがわかっています。また、35歳未満で禁煙すれば、喫煙が原因で亡くなるリスクが大幅に下がることも報告されています。

 

がんの発症を予防できる!

喫煙が各種がんのリスクを上昇させるのは有名ですが、禁煙による効果はどれほどなのでしょうか?

具体的には、禁煙して10年後には肺がんになるリスクが喫煙者に比べて約半分に下がり、口腔がん、食道がん、胃がん、喉頭がん、膀胱がん、子宮頸がんになるリスクも低下することが報告されています。

 

がんになってしまうと種々の治療が必要となり、莫大な時間とコストがかかります。早期に見つかったとしても、肺切除や胃切除といった侵襲性の高い手術が必要となりますし、残念ながら発見が遅れてしまった場合、根治術(がんをきれいさっぽり取り除く治療)ができず、抗がん剤を使いながらがんと一生付き合っていくことになってしまいます。

 

がんになってしまった場合、自分の生活がどう変わってしまうのかということを、具体的に喫煙者に想像させることができれば、禁煙への意欲が大きく高まるのではないかと思います。この辺りを短い外来でどうやって達成していくのかが、臨床医の腕の見せ所だと言えます。

e-ヘルスネットより引用
COPD(肺気腫)発症を予防でき、やりたいことを制限せず行うことができる!

喫煙者の15-20%がCOPDを発症し、COPDの90%は喫煙が原因であるとされています。つまり、COPDは禁煙によってほとんどが予防できる疾患なのです

 

COPDが悲惨な病気であるということは、医療者の間では共通認識だと思いますが、一般の人には思った以上に理解されていないように思われます。「酸素を引っ張って歩かなきゃいけない病気でしょ?」という所で止まってしまっているイメージです。よく、「ピンピンコロリで死ねるなら本望だよ」という喫煙者がいますが、残念ながらそううまくはいかないのが実情です。

 

COPDは、“労作時息切れにより日常生活が制限され、大変苦しみながら時間をかけて死へと向かっていく病気”であるという事実を、しっかり喫煙者側に周知していく必要があると思います。がんと同様、COPDという病気が如何に自分の人生に悪影響を与えるものなのかを真に理解してもらえれば、禁煙での大きな動機付けになるはずです。

健康な肌・歯を維持でき、体臭や口臭に悩まされることがなくなる!

喫煙は健康に関する部分だけではなく、見た目(スモーカーフェイス、歯のヤニ)や口臭、体臭といった、整容面での悪影響も多大です。

 

以下はBBCが2001年に制作した有名な写真です。22歳の双子の姉妹で。左のカースティさんは喫煙者、右のケリーさんは非喫煙者であり、二人が40歳になった時の顔の比較です。喫煙者のカースティさんの方が圧倒的に老けてみえますね。この画像により、喫煙者独特の顔貌であるスモーカーフェイスという言葉が広まりました(ただし、この画像は実際のものではなく、“あくまで40歳までタバコを吸ったと仮定して”作成されたものであることには留意しておく必要があります。如何にも合成・加工された画像という雰囲気があり、時代を感じさせますね)。

 

http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/1566191.stmより引用

上記はあくまで仮定の画像でしたが、実際に喫煙によりしわ、たるみ、顔の色のくすみといった、顔の老化が進むことは間違いありません。

 

いつまでも若々しく、清潔感のある人間でいることができる、というのは禁煙の大きなメリットだと思います

家族の健康を守ることができる!

前回の記事で、受動喫煙による家族への悪影響や、妊婦、子供への有害性について詳しく解説しました。喫煙が自分の健康だけを害するのであれば、自己責任という言葉で片づけることができたかもしれませんが、残念ながら他人、特に一緒に生活する家族への影響も多大なものがあります。国立がん研究センターの推計では、わが国では毎年1万5千人が受動喫煙により死亡していると試算されています

 

なかなか禁煙する気が起きないという方には、酷ではありますが、自分の喫煙のせいで大切な伴侶、子供ががんになってしまうことを、具体的にイメージしてもらうとよいきっかけになるかもしれません。

経済的に自由になることができる!

禁煙をすることで、下手な節約を行うよりも大幅に家計を改善させることが可能です。禁煙により具体的にどのくらい経済効果があるのか、具体的な数字をみながら確認していきましょう。まず、現在紙巻きタバコはほとんどの銘柄が500-600円です。また、加熱式タバコも、本体が5000円前後、タバコが20本で400-500円程度です。喫煙をすることで1日500円かかるとして計算しますと、禁煙することでなんと毎月15,200円、1年で182,500円の節約が可能ですこれを50年続けると、なんと9,125,000円と、1000万円近い節約に繋がります。禁煙は健康にいいだけでなく、資産形成にも役立ち、まさに一石二鳥といえるでしょう。

 

ちなみに、「タバコ税を納めて国や地方に貢献してきたんだ!」と声高に訴える喫煙者の方が時折いらっしゃいますが、これは全く見当違いの主張です。現在、タバコ税収は年間約2兆円とされますが、喫煙が原因とされる疾患にかかる医療費が1兆6,900億円、これらの病気で必要になった介護費が2,600億円、タバコによる火災などの関連費が1,000億円であり、総額2兆500億円がタバコによる総損失額であると試算されています。全然貢献してないんですね、実際は。何もお国のために、とまではいいませんが、より俯瞰的な視点で考えて頂けると、禁煙へのよいモチベーションに繋がるかもしれません。

  

ここからは、いよいよ具体的な禁煙の方法について解説していきます。

まず、禁煙をする上で抑えておくべき基本原則をいくつか紹介します。

 

①タバコは大麻や覚せい剤よりも強力な依存性薬物であること

依存性スコアを比較しますと、ヘロイン(3.00)、コカイン(2.39)、タバコ(2.21)、アルコール(1.93)、ベンゾジアゼピン(1.83)、覚せい剤(1.67)、大麻(1.51)となり、タバコはヘロイン、コカインに次ぐ強力な依存性を持っています。喫煙者が一定時間喫煙を行わないと、血中のニコチン濃度が低下し、抑うつ、イライラ、焦燥感、集中力の低下、頭痛、倦怠感といった離脱症状が出現します。この離脱症状は喫煙してニコチンを摂取することで速やかに改善するため、結果としてまた喫煙を続けてしまう、という悪循環を生みだします。この悪循環のことを「ニコチン依存症」と呼んでいます。ニコチン依存症はICD-10やDSM-5にも記載のある、れっきとした病気の一つなのです。

 

このため、コーヒーやチョコレートなどの嗜好性物質をやめるのとは異なり、禁煙には医学的な介入が必要となります。医療者側も、喫煙者はタバコによる被害者であって、治療が必要な患者さんの一人であるということを認識する必要があります。自戒の念を込めてにはなりますが、医療者が喫煙者を甘えだとか、健康リテラシーが低いだとか、糾弾するようなことは決してあってはなりません。

➁離脱症状はいずれ必ず消失すること

ニコチン依存症から離脱する際には、多かれ少なかれ離脱症状が出現します。この離脱症状は、禁煙補助薬を使用しないで一度に禁煙をしたときには、最初の3日間が最も強く、以後は少しずつ薄れていき、3週間後には減弱し、3か月後には消失します。最初が辛いことは確かですが、離脱症状は数週間~数か月で必ずなくなるものであることを知っておきましょう。

 

また、禁煙補助薬を上手に使用することで、離脱症状の出現を最小限に抑えることが可能です。

③自ら禁煙を決意することが何よりも重要であること

禁煙は離脱症状との闘いであり、その根幹には自分自身の禁煙に対する強い意志が必要です

禁煙しようと思う動機は何でも構いませんが、とにかく自発的に禁煙しようと思って頂かないといけません。もし自分の外来にかかっている人であれば、外来の度に禁煙を勧め、少しでも禁煙に取り組むきっかけができるよう、粘り強くアプローチしていく必要があります。禁煙に前向きになってもらう方法論として、5R指導法や動機付け面接法がありますが、これらについては後述します。

④減煙ではなく、きっぱりと禁煙すること

1本でも吸ってしまえばニコチンへの渇望が起こり、再喫煙が起こってしまうため、基本的には減煙ではなく、完全に禁煙することが原則です。この点はしっかり患者さんに伝え、理解して頂く必要があります。ただし、患者さんが自発的に少しずつ減煙しているような場合、1本吸ってしまったことを責めるのではなく、禁煙の過程や努力していることを認めてあげることも大切であり、何事も極端ではなく、中庸の精神が肝要といえます。

⑤禁煙外来や禁煙補助薬を利用することで禁煙の成功率が大幅に上昇すること

自分ひとりで禁煙しようとしても、その成功率は1年後には5-8%程度にしかなりません。禁煙外来と禁煙補助薬は禁煙治療としてセットで行われますが、禁煙外来5回すべての診察を受けた人は治療終了時で75%、治療終了後9か月でも約50%の人が禁煙に成功するというデータがあります。このため、臨床医は禁煙の意思のある患者さんに対しては、積極的に禁煙外来を紹介することが勧められます。

  

まず禁煙治療のフローチャートを下記にお示しします。

 

まず、本人に禁煙の意思があるかどうかで場合分けを行います。

 

禁煙の意思がない、または禁煙したいと思っているがまだ行動に移すつもりはないという喫煙者に対しては、外来で粘り強く禁煙を勧めつつ、必要に応じて5R指導法動機付け面接を行い、禁煙に対する動機付けを試みます。

 

禁煙したいと思っている喫煙者に対しては、禁煙外来を通じて強力に禁煙のサポートを行っていきます。禁煙外来では、5A指導法カウンセリングを行いつつ、バレニクリンやニコチンパッチといった禁煙補助薬を処方します。薬局でニコチンガムを購入し、自分で禁煙を試みるというのも選択肢ですが、成功率の高さを考慮し、できれば禁煙外来の利用を勧めます。

 

また、禁煙に成功した患者さんについても、再喫煙しないよう予防していくことも重要です

 

5R指導法

喫煙をやめるつもりのない患者さんには、5R指導法による動機付けを試みます。

5Rというのは具体的には下記のようなものになります。

Relevance(関連性):なぜ禁煙が本人に関係しているのかを説明し、できるだけ個別に励ます

          ex.本人の健康への影響、家族への影響、社会的な立場など

Risk(リスク)   :喫煙のデメリットを説明する

         ex.悪性腫瘍、心血管疾患、COPD、受動喫煙など

Rewards(報酬)  :禁煙のメリットを説明する

         ex.健康増進、整容面の改善、貯蓄など

Roadblock(障害) :本人の禁煙を妨げる障害は何かを尋ね、その解決法を助言する

         ex.離脱症状への恐れ、体重増加、喫煙の楽しみの消失など

Repetition(反復) :禁煙の動機づけを諦めず、外来ごとに粘り強く行う

 

当然、一回の外来で5Rの全てを行うことは難しいですから、外来を重ねながら少しずつ指導を進めていく必要があります。また、医療者側の意見の押し付けに終始してしまわないよう、患者さんの考え方に寄り添ってコミュニケーションをとることが重要です。次項で動機付け面接についても解説しますが、最低限この5R指導法を徹底することができれば、一般外来での禁煙指導としては及第点だと思われます。

動機付け面接

5R指導法よりも強力な手段として、動機付け面接があります。ちょっと専門的な内容になってしまい、私も完全に理解できているわけではないため、ここでは簡単な紹介に留めさせて頂きます。

 

これは、臨床家が患者さんへの間違い指摘反射(言い換えますと、タバコはダメ!!と正論で殴りつけること)を控え、患者さんの言葉に耳を傾け、「聞き返し」というスキルを活用しながら、患者さん自身の大切にしている価値観や感情を言語化する手法です。その会話の中で行動変容へ向かう言語「チェンジトーク」を拾って、禁煙への動機を十分に引き出してから具体的な計画を立てていきます。動機付け面接は面接・会話のスタイルの一種であり、面接の手順ではありません。そのため、しっかりと勉強した上で、楽器やスポーツのように練習を繰り返すことで初めて身に着けることが可能となります。

 

患者さんに禁煙したいという意思が確認できた場合、積極的なサポートを行います。この場合いくつか選択肢はありますが、禁煙外来をベースにしたアプローチが最も有効とされているため、ここでは禁煙外来を中心に解説していきます。

 

本邦では、以下の要件を満たす場合、禁煙外来を保険診療で受けることが可能です。

①ニコチン依存症のスクリーニングテストでニコチン依存症と診断されること

➁35歳以上では、喫煙指数要件(1日の喫煙本数×喫煙年数≧200)を満たすこと

③直ちに禁煙を希望すること

 

ちなみに、ニコチン依存症のスクリーニングには、TDS(Tabacco Dependence Screener)ニコチン依存度テストを使用します。10点中5点でニコチン依存症の診断となります。下記にリンクを貼っておきますので、興味があれば確認してみてください。

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/tobacco/yt-048.html

〇禁煙外来の実際

禁煙外来は12週間が基本で、その間に医師の診察を初回、2週間後、4週間後、8週間後、12週間後の計5回受けます。保険診療であれば5回の診療の費用は1-2万円で済み、治療期間中にタバコを1日1箱ずつ吸い続ける金額よりも安くなります

がん情報サービスより引用

 

最近は対面診療だけでなく、オンライン診療の要件も緩和されつつあり、禁煙外来へのアクセスがより簡便になってきています。

 

禁煙外来では、5A指導法を中心としたアプローチを行います。ちょっと細かくなりますが、5Aアプローチの概要を下の表にまとめます。AskやAdviseについては、一部5R指導法と重複しているような気もします。患者さん本人に禁煙の意思が芽生えた禁煙外来というシチュエーションでは、特にAssistの部分にが重要といえるでしょう

 

 

禁煙外来では、Assistに該当する医師による診察やカウンセリングによる対話的なアプローチと、禁煙補助薬によるアプローチが両輪となります。

 

対話的なアプローチの中心となる医師による診察時には、禁煙の状況や患者さんの心理面について丁寧に問診を行います。禁煙を継続できている場合には、そのことを認めて称賛することで、禁煙継続のモチベーションに繋がります。医師の診察のみでは限界があるため、必要に応じて看護師によるカウンセリングを追加することで、禁煙効果をより増強することができます。保険を使った禁煙外来には専任の看護師の配置が必須となっていますが、実際に医師だけでなく看護師や多職種で禁煙支援を行うことで、禁煙治療の成功率が上昇することが種々の研究で示されています。医師一人ではなく、医療機関全体で禁煙に関して理解を深めていく必要があるということですね。

 

禁煙外来時に禁煙補助薬を処方することにより、ニコチンの離脱症状が緩和され、禁煙の成功率を大幅に改善させることが期待できます。このため、禁忌がない場合には基本的には禁煙補助薬を併用することが望ましいといえます

 

禁煙補助薬にはニコチンガムニコチンパッチバレニクリン(チャンピックス®)があります。ニコチンガムとニコチンパッチは処方箋なしで薬局で購入することが可能ですが、大きいサイズのニコチンパッチやバレニクインは医療機関での処方が必要となります

 

Cochraneレビューによると、12カ月後の禁煙率は、プラセボを1とした場合、ニコチンガム(ニコレット)1.66、ニコチンパッチ 1.81、バレニクリン 3.22とされており、バレニクインの効果が最も高いことが示されています

 

〇ニコチンガム

口腔粘膜からニコチンを吸収させるタイプのニコチン製剤であり、薬局で購入することが可能です。ニコチンによる粘膜刺激により咽頭痛や口内炎を生じたり、唾液を飲み込むことで嘔気、胃痛を引き起こすことがあります。

 

代表的な商品としてニコレット®がありますが、60日間で1.7万円程度の費用がかかります。

 

e-ヘルスネットより引用

〇ニコチンパッチ

身体に貼ることで皮膚からニコチンを吸収するタイプのニコチン製剤です。

10mg、20mgは薬局でも購入可能です。30mgを含んだ医療用医薬品のものは医療機関での処方が必要です。皮膚炎を引き起こしやすいため、毎回違う場所に貼付する必要があります。

医療用医薬品:e-ヘルスネットより引用
一般医薬品:e-ヘルスネットより引用

〇バレニクイン(チャンピックス®)

バレニクインは2008年1月に承認された、「ニコチンを含まない」禁煙補助薬です。α4β2ニコチン性アセチルコリン受容体部分作動薬として働き、以下の2つの作用機序を持ちます。

①ニコチン受容体に結合しアンタゴニストとしてニコチンが結合するのを阻害する

➁ニコチン受容体を選択的に刺激し(アゴニスト作用)、少量のドパミンを放出することで、禁煙に伴う離脱症状を緩和する

 

バレニクインの特記すべき特徴として、「最初の1週間は喫煙してもよい」ということが挙げられます。いきなり本数を0にするのは患者さんにとって心理的負担が大きく、タバコを吸いながら禁煙治療ができるというのはその負担軽減に役立ち、禁煙治療の敷居を下げたと言えます。

  

禁煙開始日7日前から食後に服用します。1-3日は0.5mgを1日1錠、4-7日は0.5mgを1日2錠(朝夕食後)、8日以降は1mgを1日2錠(朝夕食後)服用します。服用開始7日間は喫煙しながら服用します。服用後8日目から禁煙してもらいます。

 

基本は禁煙外来に合わせて12週間の使用が標準ですが、禁煙をより確実にするため、さらに12週間延長して使用すると効果的とされています。ただし、延長した期間は自費診療となってしまいます

 

副作用として、嘔気、頭痛、消化器症状、異常な夢、不眠などがありますが、これらの症状は一過性であることが多いです。めまい、傾眠、意識障害等が現れ、自動車事故に至った例も報告されたため、服用中は自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事しないこととされています。このため、自動車の運転が必要な方はニコチン製剤を選択するなどの対応が必要です。

 

ニコチン製剤、バレニクリンにそれぞれ一長一短がありますが、効果の面から基本的にはバレニクリンを第一選択とし、バレニクリンが使用できない場合にはニコチン製剤を使用するのがよいと思われます。

 

以上、禁煙に関して一通り解説してきました。

 

禁煙治療では5R指導法、5A指導法、動機付け面接といった、患者さんとの対話技術が随所で要求されるため、想像していた以上に難易度が高そうだなぁというのが正直な感想です。今回参考にした日本禁煙学会の禁煙学という本は非常によいテキストではありましたが、これだけでは禁煙治療を真に理解するには不十分であり、やはり先達の下で勉強する必要があるなぁと思いました。幸い、私の勤務している病院では禁煙外来が行われているため、担当医に話を聞いて指導を仰ごうかと考えています。

 

・禁煙学 日本禁煙学会 改訂4版 南山堂

・今日の臨床サポート

・国立がん研究センター がん情報サービス  

 https://ganjoho.jp/public/index.html

・厚生労働省 e-ヘルスネット

 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/

・日本医師会

 https://www.med.or.jp/forest/kinen/loveforthesociety/