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睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療

SASの病態、疫学、診断については下記の記事をご参照ください。

 

ここでは、SASの治療を

・OSAS

・CSBと伴うCSAS

に分けて説明していきます。

概要

まず、本邦のガイドラインを参考に作成したOSAS治療のフローチャートを示します。

治療の第一選択はCPAP療法です。保険適応の関係もあり、20≦AHIをCPAP療法の対象としています。

代替治療として、口腔内装置(oral appliance:OA)療法、体位治療、外科的治療があります。

OSASにおける減量は有効性が高いため、どのシチュエーションでも治療の一部として加えてあります。

CPAP療法

持続陽圧呼吸療法(continuous positive airway pressure:CPAP)とは、気道に機械で持続的に圧力をかけることで、睡眠中の上気道の虚脱を防ぐ治療法です。OSASの治療の中では最も効果的であるとされています。

 

2019年時点でのCPAP患者数は40万人以上であり、中でも40歳から60歳のいわゆる働き盛りの年齢層が約半数を占めています。

 

陽圧のかけ方としては固定圧CPAPと自動圧調節型(auto CPAP)の2種類があります。両者それぞれ

に利点、欠点がありますが、ひとまずauto CPAPから開始し、データや患者さんの反応をみながら適宜調節していくことが多いです。機器は小型化が進んでおり、持ち運んで外泊先でも使用することが可能となっています。

日内会誌 109:1073~1081,2020より抜粋

 

基本的にはネーザルタイプのマスクを使いますが、ピロータイプやフルフェイスタイプを使用することもあります。

日内会誌 109:1073~1081,2020より抜粋

 

CPAPを開始した場合、在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料の算定対象となるため、基本的には1か月に一度の通院をしてもらいます。通院時、患者さんに機器のメモリーカードを持参頂き、使用データを解析することで、使用時のAHI、4時間以上の使用日数、装着率、平均使用時間などを分析することができます。良好なアドヒアランスの定義として、「4時間以上の使用日数が使用日の70%以上」があり、これを目標にCPAP療法を行っていきます。

 

ただ、治療継続率は5-8割、脱落率は20%以上とされており、CPAP療法を継続できないことも多いのが現状です。また、継続できたとしても、前述の目標値を達成している患者は4割程度に過ぎないと言われています。

 

実際に使ってみた患者さんのお話しを聞いてみると、

・マスクをつけて寝ることそのものに違和感がある

・陽圧による圧が不快

・鼻閉、鼻汁、鼻・喉の乾燥、刺激がある

・陽圧による呑気で腹部膨満感、胸部違和感がある

といった、様々な訴えがあります。

私もどうしてもCPAPを継続できないという患者さんを何人か経験したことがあります。

  

一応それぞれの訴えに応じた対策法があるにはあるのですが、そういった対策をしてもCPAP療法を継続できないことも少なくありません。その場合、CPAPを諦め、歯科・口腔外科に紹介してOA療法を試してみるのも選択肢の一つです。間違ってもアドヒアランスが悪いことで患者さんを責めるようなことはしないようにしましょう

CPAP療法により期待される効果

OSAS患者にCPAPを導入することで、日中の眠気、交通事故、脳心血管系疾患及びその基礎となる高血圧等の生活習慣病や、各種パラメータが改善したという様々な報告が存在しています。

 

まず、日中の眠気については、主観的な眠気の改善には4時間以上、客観的な眠気の改善には6時間以上、睡眠機能転帰の改善には7.5時間以上が必要との報告があり、少なくとも主観的な眠気が改善するためには4時間以上のCPAP療法が必要と考えられます

 

交通事故については、OSASの患者において、CPAPアドヒアランス良好群では健常群と同等のハザード比であったのに対し、CPAP未使用群では約5倍であったと報告されています。

 

血圧については、高血圧のあるOSAS患者に対してCPAPを使用することにより、2-5mmHg程度の降圧効果が期待できるとされています。また、その効果はCPAPの使用時間に比例しているとされています。

  

心筋梗塞や脳卒中といった脳心血管系疾患は予後に直結するため、内科医としてはこの点に最大の期待がありますが、残念ながら脳心血管系疾患の予防や死亡率の低減効果など、良質なエビデンスは示すことができていません。主要評価項目ではなく、あくまで事後解析での有意差であったり、動脈硬化指数などの間接的な指標の改善などに留まっているのが現状です。

   

まとめますと、

・日中の眠気といったOSASの症状を改善する

・交通事故のリスクを低減する

・血圧を2-5mmHg程度下げる効果がある

・脳心血管系疾患の予防のエビデンスは微妙

といった感じになります。

 

脳心血管系疾患の予防については、もう少し効果が期待できると思っていましたが、現実はなかなか厳しいですね。降圧効果も思っていたより控えめである印象です。ただ、日中の眠気を改善し、交通事故のリスクを低減する、ということも重要なアウトカムですし、CPAPを使用しながら他の動脈硬化因子に介入していけば、より効果的に脳心血管系疾患を予防することが期待できますCPAPの限界を知ったうえで、患者さんごとにうまく使いこなしていくことが肝要といえます。

 

CSBに対するCSASの治療には、

①基礎となる心疾患の治療

➁CSB自体を直接抑制する治療

の2種類があります。当然①は適切に行っていくとして、ここでは➁について解説していきたいと思います。

 

CSB自体を直接抑制する治療として、酸素療法(HOT)、CPAP、在宅NPPV、Adaptive servo ventilation(ASV)、酸素療法があります。

 

・酸素療法(HOT):酸素を流すだけで陽圧も換気もしない

・CPAP:持続的に陽圧をかけるが換気はしない

・在宅NPPV:換気を行う

という違いがありますが、この点は皆さんもご存じの範囲だと思います。

 

一方、Adaptive servo ventilation(ASV)というのは初めて耳にした方も多いのではないでしょうか?

NPPVが吸気時気道陽圧と呼気時気道陽圧を設定された一定の値で供給し換気サポートを行うのに対し、ASVはCSBの呼吸周期に合わせ、圧を調節して換気サポートを行います。いわばCSB専用の呼吸補助療法というわけです。

 

CSBの要因である肺うっ血が是正されることでCSBそのものを抑制することが期待され、その効果は酸素療法<CPAP<NPPV<ASVの順で高まるとされています

 

これだけ聞くと、ASVはとても効果的な治療法のように思えますが、その有効性についてはcontroversialな部分といえます。例えば、心不全に合併してCSB患者において、ASV治療によってLVEFや運動耐容能の低下といった心血管障害が改善し、予後も良好であったという報告があります。一方で、LVEF≦45%の慢性心不全患者を対象にした試験では、主要評価項目では両群間に有意差はなく、副次評価項目では全死亡と心血管死亡がASV群で有意に増加しているという結果が認められました1)2)。この結果から、米国、ヨーロッパのガイドラインでは、中枢性呼吸イベント有意でAHI≧15の慢性心不全患者(LVEF≦45%)に対するASVは推奨しないとされています。一方、わが国では安全性が懸念されるような研究結果が出ていないことや、ASV患者の診療体制が他国と異なる状況であることを踏まえ、禁忌ではないが導入する場合は慎重に使用すること、とされています。

  

CPAPについては、ASVのような予後悪化の報告はなく、心血管障害の改善や予後の改善が報告されています。また、酸素療法については心血管障害を改善する可能性はあるものの、予後の改善効果は示されていません。NPPVについては短期間でのLVEFの改善などが報告されていますが、設定の難しさや長期予後のデータがないことから実臨床で使用されることは少ないです。

 

以上を踏まえますと、CSBによるCSAS患者については、

・ASV療法は予後悪化の可能性があり、現状では勧められない

・CPAPの保険適応のあるAHI≧20の患者において、CPAP導入を検討する

といった推奨になるかと思われます。

 

そもそもCSBによるCSASの診断にはPSGが必須であるため、ある程度の規模の病院でなければ対応すること自体が難しく、一般内科医が対応することは少ないかもしれません。私も治療経験がなく、正直な所、イマイチ実態を掴むことができていません。CSBによるCSASについて、もし詳しい先生がいらっしゃればコメント頂けますと嬉しいです。

1)Eur J Heart Fail. 2016 Apr;18(4):353-61.

2)N Engl J Med. 2015;373:1095-105.

3)日内会誌 睡眠時無呼吸症候群診療の現状と課題

https://www.jstage.jst.go.jp/browse/naika/109/6/_contents/-char/ja

4)睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020 日本呼吸器学会

5)UpToDate