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睡眠時無呼吸症候群(SAS)の病態、疫学、診断

SASの治療については下記の記事もご参照ください。

  

概論

睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)とは、睡眠関連呼吸障害(sleep related breathing disorder:SRBD)の一種であり、その名の通り睡眠時無呼吸(sleep apnea:SA)により種々の弊害が生じる症候群です。

SASは無呼吸中にも呼吸努力を伴い、通常いびきが存在する閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome:OSAS)と、呼吸努力を伴わない中枢性睡眠時無呼吸症候群(central sleep apnea syndrome:CSAS)があり、同じSASといっても全く病態が異なります。また、前者のOSASの方が頻度・認知度が高いこともあり、OSASをSASと表現していることも多く、両者を混同しないように注意する必要があります。

無呼吸低呼吸指数 AHIについて

ここからOSAS、CSASについて解説をしていきますが、その前に無呼吸低呼吸指数(apnea hypopnea index:AHI)という指数を説明しておきます。AHIは睡眠1時間あたりの無呼吸と低呼吸の総数であり、AHI≧5で睡眠関連呼吸障害(SRBD)あり、と判断します

 

重症度もAHIによって行われ、以下のように分類されます。

・軽症:5≦AHI<15

・中等症:15≦AHI<30

・重症:30≦AHI

  

AHIは睡眠ポリグラフ(PSG)によって測定、算出され、SASの診断において重要な指数となりますので覚えておいてください。 

閉塞性睡眠時無呼吸症候群 OSAS

上気道、主に咽頭が睡眠中に虚脱・閉塞してしまうことがOSASの病態です。

上気道は解剖学的に狭小ですが、覚醒中はオトガイ舌筋を中心とした上気道開大筋群が気道の狭窄を防いでいます。しかし、睡眠中はトーヌスが低下し、これらの上気道開大筋群の機能が不十分となり、上気道が虚脱しやすくなります。ここに肥満(上気道周囲の軟部組織への脂肪沈着)、顎顔面形態、舌容積、扁桃肥大といった解剖学的な問題や、延髄呼吸中枢からの換気ドライブの不安定性など、他の条件が加わることで、いよいよ上気道が閉塞してしまうと、結果として低呼吸、無呼吸を呈することになります。

OSASの特徴としては、

・上気道閉塞+呼吸努力によりいびきを生じやすい

・高齢、男性、解剖学的問題(小顎など)、肥満が危険因子となるが、最も重要な因子は肥満である

といったことが挙げられます。

 

 

成人のOSASについての診断基準を以下に示します。

 

やや煩雑ですが、ざっくりまとめると

①AHI≧5で、なんらかの症状(日中の眠気、いびきなど)、ないしは合併症(HT、DMなど)がある場合

➁症状や合併症の有無に関わらず、AHI≧15の場合

にOSASと診断することになります。

中枢性睡眠時無呼吸症候群 CSAS

CSASは気道閉塞を伴わない、換気ドライブの変化を特徴とする多様な病態の集合です。気道閉塞がないためいびきは生じにくく、OSASと比較すると眠気といった症状も乏しいことが特徴です

現状CSASは以下の8病態に分類されています。

 

( ゚д゚)ポカーンといった感じですが、実臨床でお目にかかるのはチェーン・ストークス呼吸(Cheyne-Stokes breathing:CSB)に伴うCSASがほとんどであり、本邦のSASのガイドラインでは他の7病態についてはほぼ言及がありません。このため、CSAS≒CSBに伴うCSASと考えて差し支えないと思われます。

 

CSBは小さい呼吸から一回換気量が漸増し大きな呼吸となった後、一回換気量が漸減し呼吸停止(10-20秒程度)が起こり、その後同様の周期を繰り返す、周期性呼吸の一種です。心不全や、脳梗塞などの中枢神経疾患による呼吸中枢の障害により生じます。特に心不全との関連が強く、EF 45%未満の心不全患者では、CSBの有病率は11.7~49%とされています。

 

CSBの病態はかなり複雑であり、きちんと理解するのはなかなか大変ですが、

・肺うっ血や換気応答の亢進など、多因子が影響しあい、呼吸調節が不安定になることによって生じる

・心不全の状態で特に生じやすい

ということを抑えておいて頂ければOKです。

 

CSBによるCSASの診断基準を以下に示します。

 

CSBによるCSAS以外にも、CSASの病型ごとに診断基準がありますが、

①中枢性無呼吸あるいは中枢性低呼吸が睡眠1時間あたり5回以上ある

➁中枢性の無呼吸低呼吸が全体の睡眠時無呼吸低呼吸の50%を越えている

という点は共通しています。

 

SASの有病率

SASの有病率は、研究によってその定義が異なっており、数値にもバラツキがあります。

「AHI≧15」で定義すると、その有病率は50歳代の女性で10%弱、男性で10-20%弱程度とされています。

また、「SRBD(AHI≧5)+昼間の過度の眠気」と定義すると、男性5%前後、女性2-3%前後です。

 

CSASに限定して考えると、健常一般人では50歳代の女性で5%、男性で10%程度とされています。また、前述した通り、EF 45%未満の心不全患者では、CSASの有病率は11.7~49%とされています。

 

本邦では、2019年に中等症以上の成人OSASの有病者数が900万人も存在すると推測する報告が発表されており、有病率にすると7.5%ということになります。

SASの危険因子

ここでは主にOSASの危険因子を列挙します。

 

・高齢:60-70歳にかけて増加し、その後頭打ちとなる

・男性:女性と比較し2-3倍リスクが高いとされる

・肥満:体重が10%増加するとリスクが6倍増加する

・解剖学的異常:小顎、扁桃肥大など、特にアジア人では問題となる

 

その他、喫煙、いびき/OSASの家族歴、鼻閉の存在、アルコールといったものが危険因子として関連が示唆されています。

 

また、繰り返し申し上げている通り、OSASの最も強い危険因子は肥満となりますが、本邦ではOSASのうち4割は肥満ではない点に注意が必要です。本邦を含めた東アジアでは、欧米と比較すると小顎などの解剖学的異常に起因するOSASが多いことがその原因です。このため、瘦せているからという理由だけでOSASは否定すべきではありません。

SASの合併症

・高血圧

SASと高血圧患者は互いに合併率が高く、OSAS患者の50%に高血圧が、高血圧患者の30%にOSASの合併が見られ、二次性高血圧の原因の一つともされています。

 

・心血管疾患

また、SASのある患者では冠動脈疾患、不整脈、心不全、脳卒中のリスクが高くなります。特に心不全との関連は強く、SASにより心不全が増悪し、また心不全によりSASも増悪するという相互関係にあります

 

・居眠り運転、自動車事故

自動車事故は、OSASの患者では健常人と比較し2-3倍多く発生するとされています。CPAPなどの治療により事故リスクは低下するとされており、早期発見、早期治療が望ましいです。

 

・神経精神疾患

SASにより不注意、記憶障害、認知障害を誘発、または悪化させる可能性があります。また、易怒性、うつ病、性機能障害との関連も示唆されています。

 

・2型糖尿病

SASによりインスリン抵抗性が増大するとされており、2型糖尿病の独立した危険因子であると考えられています。

OSASの症状

OSASでは、いびき、日中の過度の眠気、睡眠中の窒息感とともに目が覚めることや喘ぎ呼吸の存在、不眠といった、多様な症状を呈します。

 

この中でOSASの患者を同定するために最も有用な所見は夜間の窒息または息苦しさであり、感度52%、特異度84%でした。

 

いびきは感度 80-90%とされていますが、特異度は50%未満です。いびきがあるからといって必ずしもOSASとは言えないものの、いびきがなければOSASの可能性は下がると言えます

 

日中の眠気も頻度の高い症状ですが、本邦ではOSAS患者の約半数は日中の眠気を感じていないとされています。

 

また、OSASでは不眠の有病率が84%と、健常人の30%と比較し著しく高く、診断上有用とされています。また、高齢女性のOSASでは入眠障害の頻度が高い(62%)ことも報告されています。

 

色々書いてきましたが、自他覚症状はOSASを疑う要素にはなりますが、睡眠ポリグラフなどの客観的検査と比較すると信頼度は劣るため、過信は禁物です。あまり病歴で詰めようとし過ぎず、疑わしければ客観的検査に移行するのがよいでしょう。

CSBによるCSASの症状

OSASと比較すると、日中の眠気、いびきなどの自他覚症状が乏しいことが特徴です。疲労感、夜間呼吸困難、他人からの無呼吸の指摘といった症状と、CSASとの関連が報告されていますが、いずれも非特異的で有用とまでは言い難いです。OSAS以上に自他覚的症状は当てにならず、睡眠ポリグラフなどの客観的な検査が重要とされています

 

ただ、そうは言っても自他覚症状の認識というきっかけがなければ、客観的検査に繋げることすらできないというのが現実です。CSBによるCSASでは心疾患、脳梗塞といった背景疾患が重要になりますので、こういった背景がある患者さんには積極的にSAS症状の問診を行ったり、家族に睡眠中の呼吸状態を観察してもらうようお願いするのがよいでしょう

 

SASの診断基準

ここでOSAS、CSBに伴うCSASの診断基準を再掲します。

 

OSASの診断基準

 

CSBに伴うCSASの診断基準

いずれの診断基準においても重要なのが、客観的検査である睡眠ポリグラフ検査(PSG)、または検査施設外睡眠検査(OCST)です。SASの診断において最も重要な要素になりますので、それぞれ詳しく説明していきます。

睡眠ポリグラフ検査

本邦では睡眠ポリグラフ検査と呼ばれることが多いですが、海外ではポリソムノグラフィ(polysomnography ; PSG)と呼称されています。睡眠時における脳波、呼吸、脚の運動、あごの運動、眼球運動、心電図、酸素飽和度、胸壁の運動、腹壁の運動、血圧などを記録するものであり、個々の検査記録はポリソムノグラムといいます。

  

下の写真のように、様々な測定機器を装着しておこなうため、入院し医療機関で施行する必要がある検査です

wikipediaより

AHIはもちろんのこと、総無呼吸数、(閉塞性、中枢性、混合性)無呼吸数、閉塞性無呼吸低呼吸指数(OAHI)、中枢性無呼吸低呼吸指数(CAHI)、呼吸努力関連覚醒反応指数(RERAI)、呼吸障害指数(RDI、AHI+RERAI)、酸素飽和度低下指数(ODI)など、実に多様な指数を測定することができます。むしろ情報量が多すぎて解釈に苦慮しそうな気がしてしまいますね。

 

PSGの特徴として重要なのは、

・睡眠時間と覚醒時間を区別することができる

・無呼吸、低呼吸の原因(閉塞性 or 中枢性)を判断できる

という2点です。入院の上でガチャガチャモニターを装着して行う分、非常に正確な評価を行うことができるわけです。

 

一方、入院が必要なことと、費用が高いということがあるため、そう気軽に行える検査ではありません。また、PSGの装置そのものや、PSGを行うことができる技師さんの存在が必要であるため、施設によってはそもそもPSGを行うことができません。自施設や近隣の施設が、PSGを行うことができるのかは一度確認しておくとよいでしょう。

検査施設外睡眠検査(OCST)

検査施設外睡眠検査(out-of-center sleep teating:OCST)は、その名の通り自宅で行うことができる、PSGの簡易版検査です。簡易モニター(portable monitor:PM)とも呼称されることがあります。

 

PSGと比較すると装着するモニターは少なくなりますが、

・鼻圧センサー

・胸腹部努力呼吸感知センサー

・パルスオキシメトリー

を最低限含んでいることが推奨されています。

  

例えば、医療機器メーカー大手のフクダ電子が販売している「睡眠評価装置パルスリープ LS-140」という機器では、パルスオキシメーター、鼻圧センサー、腹部の呼吸努力感知センサーベルトがセットとなっています。

参考までに以下にリンクを貼っておきます。

https://www.fukuda.co.jp/medical/products/sas_psg/ls_140.html

 

患者さんに説明の上で検査機器を自宅に持ち帰ってもらい、自分でモニターを装着した上で一晩寝てもらいます。後日、検査機器を返却してもらい、メモリーカードのデータを基に分析を行います。この際、PSGの訓練を受けた臨床医、または技師が生データを目視で判定する必要があります。

 

とにかく簡便であることがウリですが、PSGと比較すると圧倒的に精度が落ちてしまうのが難点です。まず、OCSTは脳波によって睡眠と覚醒を判断できません。このため、AHIを計算するためには、本来の「(無呼吸+低呼吸数)/総睡眠時間」ではなく、「(無呼吸+低呼吸数)/総記録時間」という計算式で行います。当然総記録時間>総睡眠時間となりますから、分母が大きくなりAHIを過小評価し、偽陰性が増える可能性があります。また、呼吸努力の低下あるいは消失を判定するためにはセンサー数が少ないため、閉塞性か中枢性かの判断が困難です。加えて、患者さんご自身で機器を装着してもらうため、データ不良も多くなってしまいます。

 

このような観点から、OCSTについてはガイドライン上は「心不全などの明確な併存疾患がなく、かついびき、眠気といった自他覚的症状が明らかで、中等症から重症OSASが疑われる場合、PSGの代替として診断に用いることを提案する」と推奨されており、併せて「CSASが疑われる場合にはOCSTを使用しないこと」も推奨されています。

基本的にはPSGによる検査を!!

 

ここで、以下にPSGとOCSTの相違点をまとめます。

 

SASを正確に診断したいのであれば、基本的にはPCSTよりもPSGを行うことが望ましいです。ただ、近隣にPSGを行うことができる施設がないという環境も少なくありません。この場合、「精度が落ちることを理解した上でOCSTによる検査を行い、重度のOSASが示唆されたり、CSASの可能性が否定できない場合に遠方の施設に紹介する」、というプラクティスは許容されると思われます。

 

なお、OSASの治療法としてCPAP療法がありますが、検査法によって保険適応の範囲が異なる点に注意してください。具体的には、PSGの場合はAHI≧20で、OCSTの場合はAHI≧40でCPAPが保険適応となります。要するに、「OCSTの場合、余程重症でなければPSG抜きでCPAP治療まで行うことはできない」ということです。

裏を返せば「重症のOSASであればPSGをしなくてもCPAP治療を導入することができる」ということになりますが、閉塞性に加えて中枢性の要素のある、いわゆる混合性のSASである可能性は残るため、やはり可能ならPSGまで行っておきたい所です。

1)Eur J Heart Fail. 2016 Apr;18(4):353-61.

2)N Engl J Med. 2015;373:1095-105.

3)日内会誌 睡眠時無呼吸症候群診療の現状と課題

https://www.jstage.jst.go.jp/browse/naika/109/6/_contents/-char/ja

4)睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020 日本呼吸器学会

5)UpToDate