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慢性心不全

  • 2023年1月25日
  • 2023年1月25日
  • 循環器
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慢性心不全とは

〇心不全の診断基準

50年前に提唱された、病歴や身体所見を中心としたFraminghamの診断基準が長らく心不全の診断基準として使用されてきました。2021年、心エコーやBNPを加えた心不全の“Universal Definition ”が新しく提唱されました1)2)

1),2)を参考に作成

これに準じますと、「心不全の症状・徴候」を示す「構造的・機能的心機能異常(主に心エコー)」と、「ナトリウム利尿ペプチド系の上昇」または「うっ血の客観的指標(胸部X線や右心カテ)」を確認して初めて心不全と診断することができます。この診断基準は現代の環境にマッチしており、非常に理解しやすいと思います。

〇心不全の分類

心不全の重症度・種類を表す分類がいくつかありますので、重要なものを3つ紹介したいと思います。

①NYHA心機能分類

NYHA(New York Heart Assciation)心機能分類は患者本人の自覚症状とそれに伴う運動耐用能を表しています。重要な点は、心不全の状態により改善したり悪化したりする指標であるということです。

➁ステージ分類

前述のNYHA分類と区別すべきがこのステージ分類です。ステージA、Bは無症状ではあるが心不全リスクとなっている段階です。ステージAは高血圧や糖尿病などの基礎疾患のみ、ステージBは構造的、機能的異常(EF低下や弁膜症など)やバイオマーカーの異常を伴う段階を指します。さらに息切れ、両下腿浮腫などの有症状になるとステージCとなります。外来で利尿薬を導入したり、1回でも心不全入院をしたことがあればステージCということになり、ステージBに戻ることはありません。そして年2回以上の心不全入院を繰り返すなど治療抵抗性となるとステージDになります。「一方通行」の進行性の概念であり、これと共に描かれた下記の病の軌跡は患者への啓発、教育についても重要です。

厚生労働省 脳卒中と心臓病その他の循環器病に関わる診療体制提供の在り方について、平成29年7月より引用

③EFによる分類

次に心エコーによるEFによる分類です。一般に心機能が落ちているというのは「HFrEF」を指すことが多く、特にEF<35%では突然死リスクが高いといわれています。一方、日本の心不全患者の過半数は「HFpEF」であり、HFrEFと共に予後不良な経過を辿ります。また、中間の「HFmrEF」はrEFとpEFのいすれの特徴も有している未解明な領域として扱われるようになりました。EFだけで心不全を分類することは難しいですが、後述の薬物治療の上で重要となるため押さえておきましょう。

HFrEFの治療

ここでは薬物治療についてまとめていきたいと思います。

〇ACE阻害薬/ARB/ARNI

ACE阻害薬は基礎疾患のみの高血圧、糖尿病などステージAから使用できる薬剤です。急性期からの血管拡張作用に加えて、RAA系抑制による長期的な心保護作用を示します。HFrEF患者に対し、全死亡を減らす働きがあります。

ARBはACE阻害薬でしばしば問題となる空咳がないことが特徴ですが、基本的にはACE阻害薬をまず使用して忍容性がない場合の代替薬としての役割が妥当と考えます。

ARNIは一般名はサクビトリルバルサルタンといい、名前の通りサクビトリルとARBであるバルサルタンの単一化合物です。詳細は下記の別項に譲りますが、ACE阻害薬との比較で20%も心血管死、心不全再入院を減らした薬剤です。HFrEFの患者には積極的にACE阻害薬、ARBからの切り替えを検討してもよいと考えます。ただし、ACE阻害薬から切り替える際は血管浮腫予防のため36時間以上の休薬を挟むようにしましょう。

〇β遮断薬

無症候性のEF低下や虚血性心疾患など、「器質的異常」が指摘されたステージBから投与が推奨されます。突然死予防効果や用量依存性の逆リモデリング効果が高いため、最大用量を目標に徐々に増量します。

〇ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)

ACE阻害薬/ARBやβ遮断薬と同様にHFrEFの予後改善のために使用します。また、K保持性の利尿薬としてうっ血改善目的に使用することもあります。

〇SGLT2阻害薬

心不全の一次予防、二次予防および治療を目的に使用します。導入推奨時期はいまだ定まっていないですが、現時点では急性期または亜急性期など早期からの開始が有効であることを示した研究結果が示されています。後述しますがHFpEFにも心保護作用を発揮することがわかっています。

ここまで4つのグループの薬剤を紹介してきました。特にARNI、β遮断薬、MRA、SGLT-2阻害薬の4剤併用療法は“Fantastic 4”と呼称され、HFrEFの死亡率を73%も軽減するとされます。これらは互いの効果は独立していることがポイントで、併用療法でより高い効果を示します。

また、イバブラジンについては下記のまとめをご参照ください。

以下、HFrEFの治療をまとめます。

HFpEFの治療

これまでHFpEFに有効性を示した薬剤はなく、うっ血がある場合の利尿薬が推奨されるのみでした。

そんな中、EMPEROR-Preserved試験とDELIVER試験の結果より、SGLT-2阻害薬がEF≧40%以上のHFmrEFとHFpEFに対して有意に心不全イベントを示すことが報告され、一躍脚光を浴びました。ただし、HFpEF患者には高齢者が多く、フレイルや脱水のリスクがあるため一律にSGLT-2阻害薬を処方すればよいわけではない点に注意が必要です。SGLT-2阻害薬についての詳細は下記を参照ください。

ARNIとMRAはHFpEFやHFmrEFの中でも特にEFが低い層で治療効果があることがわかっていますが、未だ推奨となるほどのエビデンスではないというのが現状です。

〇プライマリケア医としての視点

HFrEFに対する“Fantastic 4”やHFpEFに対するSGLT-2阻害薬など、プライマリケア医が対応しうる慢性心不全のベース薬が目まぐるしく発展してきています。循環器専門医程は難しいと思いますが、最新のエビデンスにできる限りついていく必要がありそうです。また、今回は割愛しましたが、慢性心不全に至る原因を追究する姿勢も重要です。プライマリケア医として最初に心不全の診断を行った場合、虚血などの精査目的に一度専門医に紹介しておくのが無難でしょう。

参考

1)J Card Fail. 2021 Mar 1;S1071-9164(21)00050-6.

2)循環器のトビラ 杉崎洋一郎 メディカル・サイエンス・インターナショナル

3)循環器薬ドリル 池田隆徳 羊土社