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スタチンと筋関連の有害事象

総論

スタチンとは

スタチンはHMG-CoA還元酵素阻害薬であり、高LDL-C血症の治療として広く使用されている薬剤です。高LDL-C血症は動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)、つまりは心筋梗塞やアテローム血栓性脳梗塞のリスクであり、これを是正することでそのリスクを低減できることがわかっています。具体的には、二次予防では1000人あたり50件の心血管イベントが減少し、一次予防では1000人あたり25件の心血管イベントが減少すると試算されています。このような効果から、スタチンは世界中で何百万人もの人々が内服する薬剤となっています。

スタチンと筋関連の有害事象

さて、そんなスタチンですが、切っても切り離せないのが筋関連の有害事象です。学生時代、スタチンの副作用=横紋筋融解症と習った方が多いのではないでしょうか。実際に横紋筋融解症に至る症例はかなり少ないようですが、実臨床では多かれ少なかれ筋痛を訴える患者さんにはしばしば遭遇し、スタチンの内服継続が困難となることも多々あります。一方、報告によってはスタチンが原因とされている筋痛は、いわゆるノセボ効果によるものが多く、ほとんどはスタチンが原因ではない、という話もあります。先日、私もスタチンによる筋痛なのか非常に悩ましい症例を経験し、結局スタチンの内服を中止することになってしまいました。今回はそんな経験を踏まえ、スタチンと筋関連の有害事象についてまとめていこうと思います。

病態

スタチンが筋関連の有害事象を引き起こす機序は十分に理解されていません。それでも遺伝的研究を含め、いくつかの仮説が提唱されています。

〇“筋細胞膜の変化仮説

スタチンによるコレステロールの合成阻害が筋細胞膜の性状を変化させ、筋症状につながるという理論です。一見それらしい機序ですが、その一方でコレステロールが減少する遺伝病の患者では筋症状が確認されておらず、あくまで推測の域に留まっています。

〇“コエンザイムQ10”仮説

コエンザイムQ10は筋細胞のエネルギー産生に重要であり、スタチンはこの合成に影響を及ぼす可能性が指摘されています。スタチンにより筋細胞のコエンザイムQ10が減少することで、スタチン関連の筋障害が起こるとされています。いくつかの研究でスタチンが骨格筋および血漿のコエンザイムQ10を減少されることがわかっていますが、その一方で相反する報告も出ており、結論は出ていません。

〇チトクロムP450遺伝子変異

チトクロムP450はスタチンの代謝に関与する酵素であり、具体的にはCYP3A4、CYP3A5、CYP2D6およびビタミンD受容体遺伝子が含まれています。これらの遺伝子の異常でスタチンの濃度が上昇し、筋関連の有害事象の原因となるとされています。

SLCO1B1 rs4149056遺伝子変異

これはスタチンの肝臓への取り込みに関与しているタンパク質であり、機能喪失変異によりスタチン、特にシンバスタチンやアトルバスタチンの血漿レベルが上昇するとされており、筋細胞を含む全身でスタチンの暴露が増加します。

まとめますと、

・コエンザイムQ10は筋障害に関与している可能性あり

・代謝酵素の遺伝子変異などでスタチンの血中濃度が上昇すると筋障害をきたしやすい

ということになるでしょうか。後述しますが、エリスロマイシンなどチトクロムP450を阻害する薬剤とスタチンを内服することでスタチンの血中濃度が上昇し、筋症状を呈しやすくなることからも、スタチンの血中濃度と筋症状には確からしい関連がありそうです。

スタチンと免疫介在性壊死性ミオパチーとの関連

免疫介在性壊死性ミオパチー(IMNM)は重症筋障害の臨床症状と筋線維壊死を特徴とする病理所見から、2003年に提唱された特発性炎症性筋疾患です。自己抗体が関与しているとされ、抗SRP抗体、抗HMGCR抗体、さらにどちらも検出されない血清反応陰性の3タイプが提唱されています。これまで皮膚症状を伴わない筋炎は多発筋炎として治療がされてきましたが、その大部分がこの疾患に該当するのではないかと推定されており、現在診断や治療についてまさに変遷が起こっている分野といえます。

中でも抗HMGCR抗体についてはスタチンとの関連が指摘されており、NEJMでもreviewが出た程です。1) ちなみに、本論文ではスタチンによるIMNMの頻度は100,000人当たり2-3人とされています。ただし、本邦の解析ではスタチンの服用歴のある例は抗HMGCR抗体陽性のIMNM患者の18%に留まり、また抗SRP抗体陽性IMNM患者の4%でも、スタチンの内服歴を有していました。このことから、スタチンは抗HMGCR抗体陽性IMNMの誘因の一つである可能性はありますが、発症に必須でないことが明らかになっています。2)

また結論の出ていない部分になりますが、IMNMとスタチンに関連がある可能性がある、ということは頭に入れておいたほうがよさそうです。スタチンによるIMNMは薬剤の中止後も改善しないというのが特徴のようなので、その場合はIMNMを想起し専門家への紹介を検討するべきでしょう。

疫学

ある意味では疫学の部分が一番重要なポイントになるかもしれません。スタチンの筋症状といっても、軽度な筋痛に留まるものからCKの高度上昇を伴う横紋筋融解症まで様々であり、定義をどう設定するかによって疫学は異なってきます。ここでは筋壊死、横紋筋融解症、筋肉痛の3つに分類してその頻度を見ていこうと思います。

〇筋壊死

CKの上昇を伴う筋症状を筋壊死と定義します。正常の10倍を超える血清CKの上昇と定義される重大な筋壊死については、大規模臨床試験において患者の0.5%未満で発生したとされています。

また、プライマリケアの設定で1014人の患者を1年間レビューしたという報告では、0.9%の患者が正常の5倍を超えるCK上昇を示しましたが、これらはいずれもスタチンとは関連がなかったようです。また、2.1%(14人)の患者で正常の2.5-5.0倍の上昇があり、このうち2人はスタチンの使用と関連している可能性があるようでした。

以上より、軽度も含めてCK上昇を伴う筋壊死はそれほど頻度は高くないことがわかります。

〇横紋筋融解症

また、ミオグロビン尿または急性腎障害を伴う筋壊死を横紋筋融解症と定義した場合、薬物相互作用の可能性など、他の危険因子を持たない患者では横紋筋融解症の発生はありませんでした。

横紋筋融解症の報告はいずれも腎障害、肝障害、または薬物相互作用に伴うものがほとんどのようであり、後述のリスク因子がない限りは臨床的な横紋筋融解症は基本的には起こらないと考えてよさそうです。

〇筋肉痛

CKが正常で、運動中または運動直後の筋肉痛、硬直、筋圧痛、痙攣などの筋肉の不快感を伴う症状を筋肉痛と定義します。

2022年に行われた19件の大規模試験を対象としたメタ解析では、スタチンで治療された参加者の27.1%が中央値4.3年間に少なくとも1回の筋肉痛または筋力低下のエピソードがあったのに対し、プラセボ群でも26.6%に同様の症状が報告されました。特に治療開始1年目はスタチン群において筋肉痛または筋力低下が相対的に7%増加していましたが、これは1000人年あたり11件の過剰絶対リスクに相当することになります。もう少しわかりやすい数字にしますと、スタチン群の筋症状に関する報告のうち、真にスタチンに起因するものは1/15に過ぎないということになります3) この研究の著者らは、「筋痛があるからといって安易にスタチンは中止してしまうと、心血管イベントのせいで患者さんを失うことになる可能性がある」、と警鐘を鳴らしています。

また、n-of-1試験といって、これまでCKが上昇していない“スタチンによるとされている”筋痛を呈した患者さんを対象に、ブラインドでスタチンとプラセボを交互に内服させて筋症状の有無を見る、といった研究についての面白い報告があります。4) この研究では8人の患者さんに対して行われましたが、いずれもスタチンでもプラセボでも同じような筋痛を訴え、その疼痛スコアに差はなかったとのことです。

以上を踏まえますと、CK上昇を伴う筋壊死や臨床的な横紋筋融解症は思っていた以上に少なく、スタチンが原因とされている筋症状の大多数がノセボ効果によるものといえるようです。確かに患者さん目線で考えれば、「この薬を飲むと筋肉痛がでるよ」だとか、「筋肉が溶けちゃうことがあるから痛みがあったらすぐ教えてね」なんて医師から言われると、普段は気にならない筋肉痛がものすごく気になってしまう…なんてことはありそうですね。

ただ、実臨床ではスタチンを内服することで筋痛を呈する患者さんはやはり一定数いますし、さらにそれが真にスタチンによる筋症状かどうか、ということを証明することはかなり難しいです。結局、原因がどうあれ患者さんが筋痛で困っているようならスタチンは中止せざるを得ないでしょう。

危険因子

〇スタチンの種類

筋症状を引き起こす能力はスタチンの種類、また用量によって異なるようです。

リスクが低い薬剤として、フルバスタチン、プラバスタチン、ピタバスタチンが挙げられます。これらのスタチンはCYP3A4によって代謝されないため、薬物相互作用に関与する可能性が低いためだとされています。一方で、シンバスタチンとアトルバスタチンはCYP3A4の影響を強く受けるため、併用薬によっては筋症状のリスクが上昇します。

ロスバスタチンは最強のスタチンとして有名ですが、健康な成人17,802人を対象とした試験では、20mg/日では筋毒性はプラセボ群と同等であったようです。より高用量では横紋筋融解症の発症について注意が喚起されていますが、本邦での最大投与量が20mgであり、実際にはさらに低用量で使用されていることを考えるとそこまで心配する必要はないかもしれません。

〇既存の神経筋疾患

ALSや重症筋無力症、ミトコンドリア脳筋症など、既存の神経筋疾患があると筋症状が出やすい傾向があるようです。特にALSでは脂質代謝が予後に影響するとされており、基本的にはスタチンは投与しないことが望ましいといわれています。

〇甲状腺機能低下症、腎不全、肝疾患

上記疾患の患者ではスタチンによる筋症状が発生しやすくなるといわれており、既往にある場合は注意が必要です。甲状腺機能低下症自体でも高LDL-C血症や高CK血症を呈することを考えるに、スタチンによる筋症状との関係は複雑なのかもしれません。

〇ビタミンD欠乏

ビタミンD欠乏がある患者ではスタチンによる筋症状の発生率が高くなるとされています。低値である場合、補充を行うことでスタチンへの忍容性が改善される可能性があります。

まとめ

以上、スタチンと筋関連の有害事象について、病態、疫学、危険因子についてまとめました。

“スタチンといえば横紋筋融解症”と教えられてきましたが、実際には横紋筋融解症のような重篤な筋壊死に至る頻度は極めて低いようです。また、実臨床ではCK上昇を伴わない筋症状はそれなりに遭遇しますが、最近のメタ解析の結果から真にスタチンが原因であることは思った以上に少ないことが示されています。

この論文では“筋症状で安易にスタチンを中止しない”ことの重要性が説かれていましたが、その一方で患者さんは実際に筋症状で困っているわけなので、そちらに寄り添う姿勢も忘れないようにしたいものです。今回私が経験した症例では、“寄り添いの姿勢”が足りなかったなぁと反省しています…。自戒の念を込めたところで、今回の記事を締めくくりたいと思います。

参考

1)N Engl J Med. 2016 Feb 18;374(7):664-9.

2)日本臨床78巻11号 免疫介在性壊死性ミオパチーの臨床と筋病理 斎藤良彦

3)Lancet. 2022 Sep 10;400(10355):832-845.

4)Ann Intern Med 2014; 160:301.

・UpToDate

https://www.uptodate.com/contents/statin-muscle-related-adverse-events