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感染関連糸球体腎炎

感染関連糸球体腎炎とは

感染関連糸球体腎炎(infection-related glomerulonephritis:IRGN)とは、細菌やウィルス感染に伴って生じる糸球体腎炎を指し、通常は急性で症候性ですが、self-limitedな経過を辿ります。

かつては感染を契機に急性発症する糸球体腎炎の80-90%がA群β溶連菌による扁桃炎もしくは皮膚感染症を原因とする溶連菌感染後急性糸球体腎炎(acute post-streptococcal glomerulonephritis:APSGN)でした。しかし、近年は小児に多く認められる予後良好なAPSGNが減少し、高齢者において溶連菌以外の感染症を原因とする症例も多く認められるようになり、IRGNと総称されるようになりました。

黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌などによる糸球体腎炎が多く、ARSGNと比較して予後不良で、高齢者、とくに糖尿病や悪性腫瘍などの合併症を有する患者は高リスクとされます。

疫学

APSGNは小児の急性腎炎において最も頻度の高い疾患ですが、主に発展途上国で多く、先進国で減少傾向です。これは先進国では連鎖球菌感染症の治療へのアクセスがよいこと、および連鎖球菌の毒性因子を抑制するフッ化物が水道水に含まれていることなど、衛生環境や栄養状況などの社会的な因子が要因として考えられています。

APSGNのリスクは5-12歳の小児と高齢者に多く、男性の方が女性の2倍の頻度で発生します。

A群β溶連菌の流行中に行われた研究では、臨床的なAPSGNは咽頭炎で約5-10%に、皮膚感染症で約25%とされています。

また、A群β溶連菌感染とAPSGN発症までの期間は感染部位によって異なっており、咽頭炎では1-3週間後に、皮膚軟部組織感染症では3-6週間後に発症するとされています

以下、A群β溶連菌を含め、感染関連糸球体腎炎の原因微生物についてまとめます。

病態

APSGNはA群β溶連菌の腎炎誘発株によって生じる糸球体への免疫複合体の沈着によって発症します。

原因となる抗原としては、腎炎関連プラスミン受容体(NAPlr)という、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)活性を有する解糖酵素が有力視されています。また、カチオン性システインプロテイナーゼである連鎖球菌発熱性外毒素(SPE B)も候補とされています。これらの抗原は糸球体に結合し、レクチン経路を介して補体を活性化する他、免疫複合体の形成につながる抗体応答を誘発します。

黄色ブドウ球菌感染による糸球体腎炎のメカニズムはよくわかっていませんが、ブドウ球菌エンテロトキシンBなどのスーパー抗原が関与すると考えられています。スーパー抗原は抗原提示細胞の主要組織適合性複合体(MHC)との相互作用、T細胞・B細胞の活性化することで免疫系の過剰応答を誘発します。また、ブドウ球菌で生じる糸球体腎炎では蛍光抗体法でC3の他にIgAが強く沈着しており、IgA IRGNとも呼称され、IgA腎症との鑑別が難しい場合があります。

症状/検査所見

症状

IRGNは、無症候性の顕微鏡的血尿から、肉眼的血尿、蛋白尿、浮腫、高血圧、血清Creの上昇を特徴とする急性腎炎症候群まで様々です。A群β溶連菌感染症の248人の小児を調べた研究では、ほとんどが無症候性であり、20人に尿の異常と血清補体活性の一時的な低下を認め、うち1人だけが有症状であったといいます。重症例では体液過剰による肺水腫を引き起こします。

一般内科医が抑えておくべき診断のゲシュタルトは、「咽頭炎や蜂窩織炎に感染した高齢者が、間隔をおいて急性に発症したCS1の心不全と尿所見異常を呈した場合、IRGNを鑑別に挙げる」ということです。

基本的にはself-limitedな病態であり、1-2週間の経過で改善します。

検査所見

腎機能:血清Creの上昇を認めます。ただし、透析を必要とする急性腎不全は稀とされます。

尿所見:血尿、蛋白尿、膿尿を認めます。患者によってはネフローゼ症候群の定義を満たすほどの蛋白尿を呈することもあります。

補体:約90%の患者でC3およびC50が著しく低下しますが、C4は保たれていることが多いです。C3とC50は最初の2週間で低下し、4-8週間で正常に戻るとされます。

ASO:A群β溶連菌の感染後に上昇するため、先行感染を示唆しますが、絶対的な指標ではありません。

病理所見

光学顕微鏡では顕著な血管内増殖と多数の好中球と伴うびまん性増殖性および滲出性糸球体腎炎を呈します(画像A)。

免疫蛍光顕微鏡では、メサンギウム細胞および糸球体血管内にびまん性粒状パターンで分布するC3およびIgGの沈着を認めます(画像B,C)。

電子顕微鏡では、ハンプと呼ばれるドーム型の電子密度の高い上皮下沈着物を認めます。これらは免疫複合体とされます(画像D)。

UpToDateより引用

診断

APSGNは急性腎炎の臨床所見と、最近のA群β溶連菌感染の証明によって診断されます。

通常は病歴と臨床所見で診断がつくため、腎生検は行われないことが多いです。

一方、A群β溶連菌に限らず先行する感染がはっきりしない場合や、2週間経過しても病状が改善しない場合は他の糸球体腎炎を鑑別に挙げ、腎生検を行う場合があります。

具体的には、C3糸球体腎炎、IgA腎症、急速進行性糸球体腎炎(ANCA関連血管炎など)、二次性糸球体腎炎(ループス腎炎やIgA血管炎)などが鑑別になり得ます。

治療

診断時に感染症がactiveな場合はそちらに対する治療を行います。

特定の治療法はなく、基本的には支持療法を行います。具体的にはナトリウム、塩分制限、ループ利尿薬による水分管理を行います。

稀に高血圧に伴う脳症を発症することがあり、ニカルジピンなどの降圧薬の投与が必要となる場合があります。

薬物療法に抵抗性の体液過剰や高カリウム血症、尿毒症がある場合は透析を行います

予後

ほとんどの患者、特に小児では予後良好とされ、尿所見や腎機能は正常化します。

成人ではIRGNを契機に高血圧、蛋白尿、腎不全は発症することがあり、注意が必要です。

特に腎生検で半月体形成を認めた場合は予後不良とされます。半月体が30%を超える患者ではステロイドパルス療法などが行われますが、積極的な免疫抑制療法が有益であるという確たるエビデンスはありません。

参考

・UpToDate

https://www.uptodate.com/contents/poststreptococcal-glomerulonephritis

・今日の臨床サポート

https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=69

・Pediatr Clin North Am. 2019 Feb;66(1):59-72.