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VEXAS症候群

VEXAS症候群とは

VEXAS症候群とは、

Vacuoles:骨髄細胞の空胞

E1-ubiquitin-activating enzytme:ユビキチン活性化酵素(E1)の変異

X-linked:X染色体

Autoiflammatory:自己炎症性疾患

Somatic:体細胞性

の頭文字をとったもので、成人後期に発熱、血球減少、骨髄前駆細胞と赤血球前駆細胞の特徴的な空胞、骨髄異形成、皮膚および肺の好中球性炎症、軟骨炎、血管炎などを伴う治療抵抗性の自己炎症性疾患です

VEXAS症候群は2020年にBeckらによって初めて報告された疾患です。発見の経緯がなかなかに面白いので紹介しておきます。まず、未診断の再発性発熱、全身性炎症を呈する1477人と、非定型で未分類の1083人の患者を対象とし、末梢血のエキソームとゲノムを解析した所、X連鎖遺伝子UBA1のメチオニン-41(p.Met41)に変異のある3人の男性を同定しました。この3人は重症の炎症性症候群を50-70歳の間に発症しており、共通する症状は歯槽骨炎、耳と鼻の軟骨炎、皮膚病変、血栓塞栓症でした。著者らはさらに臨床的表現型の一部が共通するUBA1変異陽性者を22人同定し、最終的に25人の患者が同定されました。計25人の患者はUBA1遺伝子のコドン41に3通りの変異(p.Met41Val, pMet41Thr,p.Met41Leu)のいずれかを有しており、多くが発熱を繰り返し、肺、皮膚、造血障害、骨髄空胞化などの所見を認めていました。また、患者の細胞を対象としてこの変異の有無を検討した所、末梢血中の造血幹細胞の半分超が変異陽性でしたが、リンパ球や線維芽細胞には認められず、骨髄に限定的な変異であることが示唆されました。さらに、これらの患者の親族を調べたところ、同じ変異を持つものはおらず、この変異は体細胞変異であると見なされました。最後に、ヒトのUBA1と相同性の高い遺伝子を有するゼブラフィッシュをモデルに選んで、CRISPR-Cas9システムを用いて遺伝子編集を行い、細胞質のUBA1アイソフォームの相同遺伝子をノックアウトした所、全身性炎症が引き起こされることを確認しました。

このように、

①未診断の患者を集めエキソームとゲノムを解析し、UBA1のメチオニン-41変異のある3人を同定

➁UBA1変異陽性の患者を計25名集積し、発熱などのいくつかの症候が類似することを確認

③UBA1変異が骨髄細胞に限定していることを確認

④患者の親族を調査し、UBA1変異が家族性のものではなく体細胞変異であることを確認

⑤ゼブラフィッシュで遺伝子編集でUBA1変異個体を作成すると全身性炎症が惹起されることを確認

という過程を通し、Beckらが提唱した疾患概念がVEXAS症候群というわけです。遺伝子に基づくアプローチを用いて一見関連性のない成人発症の炎症症候群同士を関連付ける疾患を同定した、画期的な報告ということになります

病態

前述の通り、VEXAS症候群はUBA1変異が原因で起こる疾患ですが、ここで一度UBA1の役割を整理しておきましょう。UBA1はユビキチン活性化酵素をコードする代表的なものになりますが、この酵素が含まれるのがユビキチンシステムです。ユビキチンは76個のアミノ酸からなる蛋白質で、他の蛋白質の修飾に用いられ、主に不要な蛋白質の除去を始めとする重要な役割を持っています。標的蛋白質に対するユビキチンの付加は、ユビキチン活性化酵素(E1)、ユビキチン結合酵素(E2)、ユビキチン転移酵素(E3)によって順に行われ、最終的にポリユビキチン化された標的蛋白質はプロテアソームと呼ばれるプロテアーゼによって分解されます。ユビキチン化というのは不要な蛋白質を処理する上でのタグ付けということになるわけですね。ヒトではE2、E3は複数ありますが、E1についてはUBA1とUBA2のたったの二種類しかありません。VEXAS症候群では骨髄細胞において、このうちのUBA1に変異があるためユビキチン化に支障をきたしていることが推測され、これが発熱や軟骨や肺、皮膚といった各臓器での炎症に寄与していると考えられています。

VEXAS症候群の特徴

VEXAS症候群の症状は多彩で多臓器に及び、再発性多発軟骨炎、sweet病、結節性多発動脈炎、巨細胞性動脈炎など既知の炎症性疾患の診断基準を満たすものも多いとされます。現在報告されているもので最も症例数が多いのは、フランスからの116人のケースシリーズです3)

この報告では2020年11月-2021年5月までの間に116人のVEXAS症候群の患者がフランスの多施設登録簿に紹介され、それらの患者について診断から追跡調査の終了までの症状と転帰についてまとめられています。

VEXAS症候群の臨床的特徴は、皮膚病変(83%)、発熱(64%)、体重減少(62%)、肺病変(50%)、眼症状(39%)、再発性軟骨炎(36%)、静脈血栓症(35%)、リンパ節腫脹(34%)、関節痛(27%)でした。

皮膚病変では好中球性皮膚症(39.6%)、皮膚血管炎(25.9%)、紅斑性丘疹(21.6%)、注射部位反応(7.8%)が多く認められました。

肺病変では浸潤影(40.5%)、胸水(9.5%)が多い所見でした。

眼症状ではブドウ膜炎(9.5%)、強膜炎(8.6%)、上強膜炎(12.1%)、眼窩周囲浮腫(8.6%)を認めました。

また、骨髄異形成症候群は50%にみられ、うち12例がMGUSを合併していました。

治療としてはグルココルチコイドが86例(74.1%)、DMARDが30例(18.2%)、生物学的製剤が49例(33.1%)で用いられていました。DMARDでは20例がメトトレキサート(17.2%)、6例にシクロホスファミド(5.2%)、ミコフェノール酸モフェチル(3.4%)が使用されていました。生物学的製剤ではIL-6拮抗薬が22例(19.0%)、IL-1拮抗薬が19例(16.4%)、TNFα阻害薬が8例(6.9%)が使用されていました。その他、3例(2.6%)でリツキシマブが、15例(12.9%)でJAK阻害薬が、14例(12.1%)でアザルフィジンが使用されていました。グルココルチコイド依存例は53例(45.7%)で認め、プレドニゾロンの中央値は20mgでした。

VEXAS症候群の発症から中央値3.0年の追跡調査で、18例(15.5%)の患者が死亡し、9例は感染症、3例はMDS、2例で心血管イベント、1例は全く別の原因によるものでした。

文献2)より引用
文献1より引用

VEXAS症候群は提唱されてからまだ2年しか経っていないこともあり、まだわかっていないことが多い疾患です。治療も確立されておらず、グルココルチコイドを始めとした免疫抑制療法が主体で行われているようです。病態からは骨髄移植も効果が期待されていますが、今後の報告が待たれるところです。

参考

1)N Engl J Med. 2020;383(27):2628-2638.

2)Blood. 2021 Jul 1;137(26):3591-3594.

3)Br J Dermatol. 2022 Mar;186(3):564-574.

4)Diagnostics 2022, 12(7), 1590