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インフラマソーム

  • 2023年4月14日
  • 2023年4月14日
  • 膠原病
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今回はインフラマソームと関連疾患についてまとめていこうと思います。インフラマソームについて述べる前に、前提となる知識として自然免疫とパターン認識受容体について説明します。

自然免疫とパターン認識受容体

自然免疫(innate immunity)は、体内に侵入した異物(細菌、ウィルス、真菌など)や細胞内の異常な状態を検知し、早期に対応するための免疫応答です。

自然免疫の中でも、パターン認識受容体(pattern recognition receptors:PRRs)と呼ばれる受容体は、異物や細胞内の異常を認識するために重要な役割を担っています。PRRsは細胞表面に存在するToll様受容体(TLRs)やシグナル伝達受容体(STING)、細胞内に存在するNLRファミリー、RIG-Iファミリーなどのタンパク質からなりますが、中でもTLRsは有名で聞いたことがある方が多いのではないでしょうか。

PRRsは様々な微生物で共有されている分子構造を認識することができますが、この分子構造群を病原体関連分子パターン(PAMPs)と呼称します。PAMPsには細菌のリポ多糖やリポタイコ酸、鞭毛や、ウィルスの二本鎖DNAなどが該当します。また、自然免疫系は、損傷あるいは死にゆく細胞から産生・分泌される自己分子も認識し、このような成分を障害関連分子パターン(DAMPs)と呼びます。DAMPsには熱ショック蛋白質やヒストン、DNAなどが該当します。

獲得免疫が病原体を特異的に認識し特異的に対応するのとは対照的に、PAMPsやDAMPsといった共通の分子をPRRsによって大雑把に認識し、炎症反応などの非特異的な生体防御応答を引き起こすのが自然免疫と言えます。

インフラマソームとは

インフラマソーム(inflammasome)は細胞内で炎症を引き起こすタンパク質複合体のことです。前述のPAMPsやDAMPsの存在を認識した際に活性化され、炎症反応を惹起します。

インフラマソームについてもう少し詳しく見ていきましょう。まず、インフラマソームはNLRファミリー(具体的にはNLRB、NLRC4など)やパイリン領域を有したAIM2ファミリーなど、細胞質内のPRRsが中心となって形成されています。ここで、パイリンとはN末端にパイリン領域を有し、インフラマソームを形成するNLRファミリー以外のPRRsのことをいいます。パイリンは後述する自己炎症性疾患と関連があるため、覚えておいてください。

さて、細胞質内のPRRsがPAMPsを認識すると、これらが集まってきて他のタンパク質と会合し、インフラマソーム複合体を形成します。これに伴い、プロカスパーゼ-1というタンパク質がカスパーゼ1に切断され、活性化されます。活性化したカスパーゼはIL-1βやIL-18といった炎症性サイトカインの前駆体を切断し、成熟したサイトカインを生成します。これによって細胞内で炎症反応が引き起こされます。

要するに、PAMPsを認識したPRRsが集合しインフラマソームを形成し、最終的にサイトカインを産生することで炎症反応が惹起されるということになります

インフラマソームは自然免疫系の重要な構成要素であり、感染症や細胞ストレスに対する免疫応答に関与しています。一方、インフラマソームの活性化が不適切に起こることで様々な疾患が引き起こされることがわかっています

インフラマソームと結晶性関節炎

インフラマソームが関与する疾患の代表例が痛風などの結晶性関節炎です。

元々痛風は尿酸ナトリウム結晶の関節への沈着によるものと長く考えられていました。近年の研究結果から、結晶が炎症細胞に貪食されると、結晶が細胞のリソソーム膜に損傷を与え、その結果としてインフラマソームが活性化され、炎症反応が誘導されることが明らかとなっています。

このため、従来の抗炎症薬に耐性である重症の痛風に対し、カナキヌマブなどのIL-1阻害薬が有効であることが明らかになっています(実際に使うかは別の話ですが…)。また、痛風ではコルヒチンが用いられますが、これは微小管を阻害する薬剤です。好中球の遊走を抑える作用がありますが、細胞内でも作用し、インフラマソームの形成を阻害することで抗炎症作用を発揮するとされています。

その他、シリカやアスベストの吸入で発症する塵肺にもインフラマソームが関与しているとされており、IL-1阻害薬の投与が効果的である可能性が期待されています。

インフラマソームと自己炎症性疾患

さて、本日の本題です。インフラマソーム構成分子の常染色体性の機能獲得性遺伝子変異によるインフラマソームの恒常的活性化は、IL-1の過剰な産生を誘導します。これにより、反復性の発熱と、皮膚、関節、腹腔を中心とした限局性の炎症が生じます。このような疾患を、自己炎症性疾患の1つとして、inflammasomopathyあるいはIL-1β活性化症候群と呼んでいます

この代表例が家族性地中海熱(FMF)です。これは前述のPRRsであるパイリンをコードするMRFV遺伝子の変異により発症します。FMFは12-72時間の周期的な発熱と漿膜炎をきたす遺伝性周期性発熱症候群であり、日本では約500名と推定されています。

また、PRRsのNLRP3は別名クライオパイリン(クリオピリンとも)とも呼ばれていますが、このNLRP3遺伝子変異により発症する自己炎症性疾患をクリオピリン関連周期熱症候群(CAPS)と呼ばれています。CAPSには軽症の家族性寒冷自己炎症性症候群(FCAS)、中等症のマックル・ウェルズ症候群(MWS)、重症の慢性乳児神経皮膚関節症候群(CINCA症候群)/新生児期発症多臓器系炎症性疾患(NOMID)の3病型に分類されますが、明確に病型を区別できない場合も多いです。日本では約100名と推定されています。

治療についてはFMFではコルヒチンが用いられます。これは前述の通りインフラマソームの形成を阻害することで抗炎症作用を発揮します。コルヒチンに抵抗性のFMFや、CAPSに対しては、IL-1βに対する遺伝子組み換えヒトIgG1モノクローナル抗体であるカナキヌマブ(イラリス®)が用いられます。これはインフラマソーム活性化による主要な産物であるIL-1βを阻害することで抗炎症作用を発揮します。

以上、分子生物学的な観点からインフラマソームの概要と、それに伴って生じる諸疾患についてまとめてみました。アバス-リックマン-ピレ分子細胞免疫学を中心に勉強していますが、これがなかなかに難しく、四苦八苦しています…。

参考

・アバス-リックマン-ピレ分子細胞免疫学 原著第10版 ELSEVIER

・wikipedia インフラマソーム

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%9E%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%83%A0