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ビグアナイド系(メトホルミン)

経口血糖降下薬の第一弾は不動のNo.1、ビグアナイド系のメトホルミンです。私もメトホルミンは頻繁に使用するのですが、そのエビデンスをしっかりと調べたことはありませんでした。ここに勉強したことをまとめてみたいと思います。

メトホルミンの作用機序

メトホルミンは肝臓での糖新生を阻害することで肝臓のグルコース産生を減少させることで効果を発揮します。ミトコンドリアレベルでグリセロール-3-リン酸をジヒドロキシアセトンリン酸に変換する酵素であるグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(GPD)を阻害することが詳しいメカニズムのようです。また、GPDの阻害により細胞内NADHの蓄積と、乳酸のピルビン酸への変換を抑制し、乳酸が肝臓で糖新生に用いられることを抑制します。結果、余ったグリセロールと乳酸は血漿に放出されます。この機序がメトホルミンによる乳酸アシドーシスに関与しているようです。

さらにメトホルミンは末梢組織(筋肉や肝臓など)でのインスリンを介したグルコース利用を増加させます。また、肝細胞のAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化することで脂肪酸合成を低下させ、血中LDLコレステロールやTGの低下に寄与します。

久しぶりに生化学チックな内容を勉強しました。医学生の頃に必死に覚えた糖新生経路ですが、すっかり忘れてしまっていました^^;

メトホルミンのエビデンス

■血糖低下作用

米国の多施設で行われた研究で、食事で十分にコントロールできていない肥満のある2型糖尿病患者を、メトホルミンとプラセボのいずれかに無作為に割り当てられました。メトホルミンは850mgから開始され、4週間ごとに850mgごとに増量し、最終的に2550mgまで増量されました。29週間後の平均HbA1cは、プラセボ群の8.6%と比較して、メトホルミン群で7.1%と有意に低下していました。この研究から、プラセボと比較してメトホルミンには血糖降下作用があることが裏付けられました。1)

1)の研究におけるHbA1cの推移

■体重減少

SU剤とチアゾリジン系、メトホルミンの3剤を比較した試験では、SU剤が平均1.6kg、チアゾリジン系が平均4.8kgと体重が増加してしまったと比較し、メトホルミンでは平均2.9kgの体重減少が認められました。2)

SU剤、チアゾリジン系、メトホルミンの体重推移

また、メトホルミンとGLP-1受容体作動薬であるデュラグルチドと比較した試験では、52週時点での体重減少はメトホルミンで-2.22kg、デュラグルチド1.5mgで-2.29kgと2群間で類似していました。3)

デュラグルチド0.75mg、1.5mg、メトホルミンの体重減少の推移。52週時点でのデュラグルチド1.5mgとメトホルミンの体重減少は同等であった。

以上より、メトホルミンには体重減少作用があることがわかります。

■細小血管合併症、大血管合併症

英国で行われたUKPDS34試験4)では、2型糖尿病のある肥満患者に対し、従来行われていたSU剤ないしはインスリン療法を行った群と、メトホルミンを投与した群を比較した結果、メトホルミン群で大血管合併症と細小血管合併症を含んだ糖尿病関連イベントと全死亡率が有意に低下しましたままた、2次エンドポイントである心筋梗塞は有意に低下していました。

その後10年間フォローを行った観察研究であるUKPDS80試験5)では、メトホルミン群では大血管合併症のリスク低下効果が維持されていました。なお、この研究では細小血管合併症のリスク低減効果については従来群と差はなかったようです。

また、179件の介入試験と25件の観察研究に対するメタアナリシスでは、SU剤と比較しメトホルミンの方が心血管死亡率が低いことが示されました。6)

上記より、メトホルミンは細小血管ははっきりと予防するエビデンスがあります。また、肥満のある患者群など、特定の集団に対して、メトホルミンは心筋梗塞など大血管合併症を減少させる効果があると言えます。

■その他の作用

あくまで観察研究による評価ではありますが、発がんリスクを低下させる可能性が示唆されています。

メトホルミンの副作用

■消化器症状

メトホルミンで最も多い副作用です。味覚異常、食思不振、嘔気、腹部不快感、軟便や下痢など、様々な消化器症状を呈します。通常は軽度かつ一過性であり、食物と一緒に摂取することで最小限に抑えることができます。患者さんに事前に消化器症状について説明しておくこと、少量から開始し漸増していくことが重要です。

■乳酸アシドーシス

メトホルミンといえば乳酸アシドーシス!というくらい有名な副作用です。一方でその発生率は非常に低いといわれ、100,000人あたり4.3症例と試算されています。また、基本的には腎機能障害、肝障害の併発、アルコール多飲、急性心不全、組織灌流の減少または血行動態の不安定、低酸素状態、メトホルミン療法中の乳酸アシドーシスの既往など、併存疾患の存在下で発生するといわれます。死亡率は高く、36%程度と試算されています。具体的な注意事項として、以下の場合は使用しないべきです。

①腎機能障害患者(eGFRが30mL/分/1.73m2未満、透析患者)

➁過度の飲酒、脱水、シックデイ

③心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害

④高齢者(80歳以上からの新規使用は控える)

⑤ヨード造影剤使用後48時間前後

■ビタミンB12欠乏症

メトホルミンはビタミンB12の腸管吸収を減少させる作用があります。メトホルミン内服患者におけるビタミンB12欠乏症の有病率は5年間で20%にも及ぶとされており、定期的なモニタリングを考慮すべきです。

メトホルミンの使い方

上記の通り、メトホルミンはしっかりとした血糖低下効果、細小血管合併症予防効果のエビデンスがあり、大血管合併症を減少させる可能性もあります。症例を選べば乳酸アシドーシスなど重大な合併症が起こることも少ないです。また、薬価も500mg 1錠 10円前後と非常に安価といえます。これらのことから、現時点でも経口血糖降下薬の中でも第一選択とされる薬剤です

実際には、消化器症状を減らすために250mg 2錠を朝・夕と、少量かつ分割して開始します。その後、経過をみながら漸増していきます。メトホルミンは用量依存性に効果がでるといわれており、各種の研究デザインから最低でも1,000mgに増量したい所です。ですので、500mgでは効果を感じないこともあります。

メトホルミンについてのまとめは以上です。経口血糖降下薬の第一選択であることは知っていましたが、勉強してみると効果の高い薬剤であることが改めて再確認できました。皆さんも経口血糖降下薬の絶対王者であるメトホルミンを是非使いこなせるようになりましょう!

参考

論文

1)N Engl J Med. 1995; 333: 541-549.

2)N Engl J Med. 2006; 355: 2427-2443. 

3)Diabetes Care. 2014; 37: 2168-2176.

4)Lancet. 1998; 352:854-865.

5)N Engl J Med. 2008; 359: 1577-1589.

6)Ann Intern Med. 2016; 164: 740-751.

文献

1)南江堂 できる!糖尿病診療

2)羊土社 Gノート 動脈硬化御三家