「経口血糖降下薬の中でも、DPP-4阻害薬だけは新規処方したことがある!」
そんな研修医の先生が多いのではないでしょうか?確かにDPP-4阻害薬は比較的使用しやすく、基礎疾患がある方にも処方できるので、入院中の血糖コントロールのために頻用される薬剤です。ただし、糖尿病診療における第一選択薬ではないことに注意が必要です。では、そんなDPP-4阻害薬について一つ一つ見ていきましょう。
DPP-4阻害薬の作用機序
腸管に食物が到達するとインクレチンというホルモンが分泌されます。ここで、インクレチンはグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)といった複数のホルモンの総称であることに注意が必要です。インクレチンは膵β細胞のインクレチン受容体に結合し、糖依存性にインスリン分泌を促進し血糖値を低下させます。また、インクレチンはジぺプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)という酵素により分解されます。DPP-4阻害薬はこのDPP-4を阻害し、インクレチンの分解を抑制することでインスリン分泌を促進します。
DPP-4阻害薬の種類
DPP-4阻害薬には以下のように複数の薬剤があります。基本的にはどの薬剤を用いてもよいと考えますが、投与回数・間隔や腎機能による調節が必要かどうかは選択する上での材料になるでしょう。
DPP-4阻害薬のエビデンス
■血糖低下作用
シタグリプチンとプラセボ、またはビルダグリプチンとプラセボを比較した研究のメタアナリシスでは、HbA1cが有意に低下していました(それぞれ-0.74%と-0.73%)。1)
また、一定量のメトホルミンで血糖が十分にコントロールされていない患者800人を対象に、サキサグリプチン5mgとシタグリプチン100mgを比較した試験では、18週の時点で両群ともHbA1cが低下していました(それぞれ-0.52と-0.62%)。2)
以上より、DPP-4阻害薬は十分な血糖降下作用があり、その効果はHbA1cで大体-0.5~0.8%程度と考えられます。
■体重減少
アログリプチンとグリピジド(SU剤)を比較したRCTでは、体重変化は104週の時点でアログリプチン12.5mg、25mg、グリピジドでそれぞれ-0.68kg、-0.89kg、0.95kgでした。3)
また、リナグリプチンとグリメピリド(SU剤)を比較したRCTでは、体重変化は104週の時点で-1.4kgと+1.3kgでした。4)
SU剤との比較になりますが、DPP-4阻害薬は体重を増加させにくい薬剤といえます。
■大血管合併症
ここがDPP-4阻害薬を語る上で一番難しい部分です。DPP-4阻害薬はSAVOR-TIMI53試験(サクサグリプチン)5)、EXAMINE試験(アログリプチン)6)、TECOS試験(シタグリプチン)7)、CARMELUNA試験(リナグリプチン)8)などの大規模臨床試験が行われていますが、いずれも心筋梗塞や脳卒中といった大血管合併症のリスクを減少させませんでした。以下、SAVOR-TIMI53試験のカプランマイヤー曲線を示します。
また、これらの試験の大部分を含んだシステマティックレビュー9)でも、総死亡がOR 1.00(95%CI 0.92-1.08)、大血管合併症がOR 0.99(95%CI 0.87-1.03)と、いずれも減らすとはいえないという結果でした。
これらの結果から、現時点ではDPP-4阻害薬には大血管合併症を減らす作用ははっきりしないと考えられます。
論文の解釈の仕方の勉強や他の機序の経口血糖降下薬の勉強がまだ足りないので、解釈や考え方が誤っているのかもしれませんが、これまでの研究結果で大血管合併症を減らす作用はないとまで言い切っていいのかはちょっとわからないなと思いました・・・。どなたか詳しい方、教えてください😢
DPP-4阻害薬の副作用
■消化器症状
頻度は低いですが、悪心、嘔吐、便秘、下痢といった消化器症状が現れることがあります。
■免疫機能への関与
DPP-4阻害薬は免疫系に変化を与えるとされており、鼻咽頭炎や尿路感染症が増加するといわれています。また、水疱性類天疱瘡やStevens-Johnson症候群といった皮膚疾患、DPP-4阻害薬関連の関節痛や関節炎の報告があります。日本では間質性肺炎との関連も指摘されることがあります。
■膵炎
DPP-4阻害薬に関連した急性膵炎の報告がありますが、現時点では因果関係は不明です。もしDPP-4阻害薬の使用中に急性膵炎を発症した場合、薬剤性の膵炎を鑑別に挙げてもよいかもしれません。
■心不全
サクサグリプチン、アログリプチンで心不全入院の増加が報告されています。基礎疾患に心不全がある患者には新規にDPP-4阻害薬を開始しない方が無難かもしれません。
DPP-4阻害薬の使い方
DPP-4阻害薬は使いやすい薬剤ではありますが、メトホルミンやSGLT2阻害薬と比較し大血管合併症の抑制効果など副次的な効果が乏しいのが欠点です。これらに優先して使用するものではないと考えます。まずはメトホルミンを使用し、それでも血糖コントロールの悪い場合に併用したり、高齢や腎機能障害でメトホルミンやSGLT-2阻害薬が使用しにくい場合に使用する、というのが現実的な使用方法でしょう。
また、頻度は低いですが水疱性類天疱瘡や心不全増悪のリスクがあることにも留意する必要があります。
参考
論文
1)JAMA. 2007; 298: 194-206.
2)Diabetes Metab Res Rev. 2010; 26: 540-549.
3)Diabetes Obes Metab. 2014; 16: 1239-1246.
4)Lancet. 2012; 380: 475-483.
5)N Engl J Med. 2013; 369: 1317-1326.
6)N Engl J Med. 2013; 369: 1327-1335.
7)N Engl J Med. 2015; 373: 232-242.
8)JAMA. 2019; 321: 69-79.
9)BMJ. 2017; 357: j2499.
文献
1)南江堂 できる!糖尿病診療
2)羊土社 Gノート 動脈硬化御三家