注目キーワード
  1. 高血圧
  2. 骨粗鬆症
  3. 糖尿病

レジオネラ症

皆さんはレジオネラ症と聞いてどういったことを連想するでしょうか?非定型肺炎、ヒメネス染色、比較的徐脈など・・・、色々あると思います。個人的には細菌性肺炎の診療をするとき、最も失念してはならない疾患であると考えています。なぜかと言えば、レジオネラ症は重症度が高い上、初手の抗菌薬選択で外してしまうことが多いためです。肺炎=第三世代セフェムの一点張りでは痛い目に合うので注意しましょう。ちなみに、私自身は5例ほど経験がありますが、あっという間に呼吸状態が悪くなって挿管が必要となることが多く、呼吸器内科時代のトラウマ疾患の一つです・・・。

レジオネラ症のポイントは、「重症だが喀痰の乏しい大葉性肺炎」、「識障害、横紋筋融解症、低Na血症など、肺外症状の強い肺炎」です。また、参考のreviewに記載されていた文言で印象的でしたが、「レジオネラ症は相当数が見逃されている可能性が高い」といわれています。とにかく、常日頃から肺炎を見る時はレジオネラ症でないかどうか?ということは意識するようにしましょう。あ、もちろん結核も忘れないように!

以下、レジオネラ症について勉強した内容をまとめます。

微生物学

・Legionellaは58種、3亜種に分類され、水性環境に広く分布している    GNRである。

・人間に対し30種の感染症を引き起こし、うちもっともよくみられるのは下気道感染症である。

・通常の培地では発育しにくく、システインなどのアミノ酸を含有する培地が必要になる。培養条件は厳しく、pH 6.7-7.0でないと増殖せず、至適温度は36℃である。環境中では人工培地と異なり幅広い環境で生育可能である。

・湖沼や河川などに分布し、アメーバなどの原生生物に寄生しながら生活している。

臨床的特徴

・Legionella症は肺炎球菌やその他細菌性肺炎と共通点を持つ非定型肺炎である。臨床、画像所見は肺炎球菌性肺炎によく似ているが、初期症状は全く異なっている。症状は軽度で外来治療で済むものから、入院が必要なものまで幅広い。

潜伏期間は2-14日間である。

・喀痰はない、または少ないことが多いが、典型的にはオレンジ色の喀痰を呈するとされる。

・前駆症状として頭痛、筋肉痛、倦怠感、食思不振が現れる。熱は免疫抑制者でなければあることが多く、比較的徐脈を伴う。消化器症状や神経症状など、肺外症状を伴う肺炎の場合はLegionellaを想起すべきである。消化器症状は下痢、嘔気、嘔吐、腹痛が多い。湿性咳嗽は50%程度でしか認めず、胸膜痛の頻度も高くない。意識障害、痙攣、巣症状を伴う頭痛を認めることがある。

・Legeonella症からの回復には時間がかかり、患者は倦怠感、神経学的異常などを訴え続けることがある。PTSDを発症する患者も見受けられる

・以下、文献から症状の頻度をまとめる。

38.8℃以上の発熱(67-100%)

咳嗽(41-92%)

悪寒(15-77%)

呼吸困難(36-56%)

40℃以上の発熱(21-62%)

神経学的異常(38-53%)

筋肉痛/関節痛(20-43%)

下痢(19-47%)

胸痛(14-50%)

頭痛(17-43%)

嘔気/嘔吐(9-25%)

・検査所見は非特異的なものが多く、低Na血症低P血症CK上昇ミオグロビン高値リンパ球優位の白血球上昇、赤沈亢進、CRP高値、フェリチン高値、顕微鏡的血尿などが見られる。

・Legionella症では疾患特異的な画像所見はないが、浸潤影を呈することが多い。最も頻度が高いのは斑状で単独肺葉内の浸潤影である。胸水は入院患者では15-50%にみられる。免疫抑制者では画像が派手になることがあり、10%程度で広範囲の浸潤影、空洞影を呈すると言われる。空洞は適切な抗菌薬治療を行っていても、14日以降に出現することがあるようである。

・頻度は少ないが、肺外病変として脾腫、脾破裂、心外膜炎、心筋炎、創感染症、心内膜炎、関節炎、CNS感染症を引き起こすことも報告されている。免疫抑制者であっても、最も頻度が高いのは肺炎であるが、肺外に伸展しやすく重症化しやすいという特徴がある。

・ポンティアック熱は一般的に予後良好で肺炎を伴わない、Legeonellaによる熱性疾患である。病態はわからないことが多いく、診断のための明確な定義や特異的な症状、検査所見は定まっていない。ポンティアック熱は以前よりも報告の頻度が減っており、抗菌薬治療は一般的には不要とされる。

疫学と病態生理

〇罹患率、有病率

・世界的な罹患率は判然としない。これは国ごとに検査体制や診断方法、報告の義務が異なっているからである。市中肺炎のうち2-9%程度ではないかと試算されている。Legionella症は見逃されている症例が相当数いると考えられる

・アメリカでは、2000年に3.9/100万人であったが、2009年には11.5/100万人と大幅に増加していることがわかっている。62%が夏から初秋に発症していた。年間の罹患率は降雨量など天候にも左右されると言われる。24%は旅行と関係していた。4%は集団感染であった。診断は97%が尿中抗原で、5%が培養検査でなされていた。

・2011年、4897例のLegionella病の解析がヨーロッパレジオネラ病サーベイランスネットワークから報告されている。この報告によれば、罹患率は9.7/100万人であった。67%が市中、24%が旅行関連、7%が医療介護関連、7%が集団感染であった。77%は尿中抗原で診断されていた。

・もし検査をしっかりと行った場合、入院、外来共に有病率は高くなることが分かっている。例えばドイツからの報告では、Legionella肺炎の診断について特化した微生物学的プロトコルを設定し、市中肺炎を診療した所、有病率は180-360/100万人であったという。

・Legionella属のうち、最も病原性が高く頻度が高いのがLp1である。Lp1のうち、一部がほとんどのLegionella症を引き起こしているようである。イギリスからの報告では、Legionella症のうち98%がLp1であった。一方、環境から分離されたLegionellaでは、Lp1は56%のみであったという。

・免疫抑制者ではLegionella pneumophila以外の菌種が増えてくると言われる。L.pneumophilaに次いで、L.micdadei、L.bozemanae、L.dumoffiといった菌が分離されることがある。

1)村上 日奈子. 臨床とウイルス., 2017; 45(3):82-86.

〇リスクファクター

・慢性肺疾患、喫煙、50歳以上、ステロイド内服、細胞障害性抗癌剤使用中の血液悪性腫瘍、有毛細胞白血病、固形癌、抗TNFα阻害薬使用中などがリスクと言われる。

・好中球減少はリスクとならない。

・HIV感染がリスクとなるかは明確にはわかっていない。

〇貯水槽との関係

・Legionella属は水性環境に遍在している。L.pneumophilaは50℃でも数時間は生存する。また、20℃以下では増殖しない。

・アメーバなどの原生生物の細胞内に寄生し生存する。アメーバはしばしば他の細菌と共にバイオフィルムを形成している。このバイオフィルムは一度形成されると除去が困難であり、形成を予防することがすなわちLegionellaのアウトブレイクを予防することに繋がるのである。バイオフィルム形成のリスクには、栄養素の存在、湯垢や腐食、高温環境、水のうっ滞などがある。低栄養環境ではLegionellaは代謝を落とし、増殖を停止するが、こうなると環境から取り除くこと、抗菌薬等で除菌するのが難しくなるため注意が必要である。

〇伝播様式

・Legeonella病は主にエアロゾルの吸入で感染する。頻度が少ないが、Legeonella属が含まれている水を誤嚥したり、創部感染を引き起こすこともある。冷却塔、ホットタブ、工業設備、家庭内配管システム、サウナ、河川などの排出孔、呼吸器やネブライザー等、エアロゾルを産生しうる場所ではどこでも感染源になりうる。暴露が度重なるほど、感染成立のリスクは増大する。また、エアロゾル内のLegeonella属の菌量が多いことも感染性と関連している。Legeonella longbeachaeは腐葉土に含まれており、ガーデニング後の手指などから感染する可能性があることが報告されている。ただ、明確な感染様式は不明確である。

・ポンティアック熱の感染様式もよくわかっていない。

〇病原性

・Lp1が最も病原性・頻度の高いLegeonella属である。Legeonella属の中でも種によって病原性が異なる。

・Legionellaの感染は、ホストの細胞に菌が接着する所から始まる。その後、線毛や膜表面タンパク質を介し、細胞内に侵入する。その後、ファゴゾーム-ライソゾーム融合による処理を避けつつ、マクロファージの中で増殖をする。ファゴサイトーシスの間、Legionellaは過酸化物の暴露やファゴゾームの酸性化、ファゴゾームの成熟化阻止、細胞小器官輸送の修飾などを行うことで細胞内での生存を可能にしているようである。

・Legeonella.pneumophila、L.longbeachaeの病原性は26 dot/icm遺伝子にコードされた一連のシステムが担っている。ホストの細胞への侵入、細胞内での増殖、ホスト細胞のアポトーシス阻止、ファゴサイト・ホスト細胞の膜破壊といった役割があり、ホストの細胞内で増殖した後、細胞を破壊・脱出し他の細胞での感染・増殖・・・という感染サイクルの根幹となっている。

・更なる病原性因子として、いくつかの細胞毒素、熱ショック蛋白、ホスホリパーゼ、リポポリサッカライドなどが同定されている。

診断

〇培養以外の手法

・レジオネラ症の患者は典型的には水様の喀痰を喀出するが、グラム染色で認識することは難しい。蛍光染色法という手段もあるが、感度はあまり高くない。

尿中抗原はLp1に限られるが、最もよい検査法といえる。尿中のリポポリサッカライドを同定する方法であり、発症から48-72時間後に陽性となり、数週間-数か月持続する。感度は56-99%、特異度は90%以上とされる。また、重症度とも関係しており、重症であるほど感度は高い。免疫抑制者ではL.peumophila以外のレジオネラ属や、その他の血清型の頻度が上昇するため、尿中抗原検査の感度が落ちることに留意が必要である。

・ATS/IDSAの市中肺炎ガイドラインでは、レジオネラ尿中抗原検査は

外来治療に反応しない肺炎

ICUに入室するような重症肺炎

免疫抑制者の肺炎

アルコール多飲歴のある患者の肺炎

過去2週間以内の海外渡航歴のある患者の肺炎

50歳以上の肺炎

レジオネラが流行している環境

介護関連肺炎

の場合に提出するよう推奨されている。

・血清型や種まで同定することができる分子生物学的アプローチも有用である。核酸増幅法は有用であるが、FDAが承認しているものは一種のみであり、かつアメリカでは販売されていない。本邦では気道検体のLAMP法が使用可能である。感度は気道検体では80-100%、血液検体は30-80%、尿検体は0-90%と報告されている。

※日本では旭化成ファーマからリボテストレジオネラが販売されている。尿検体を用いて15分で判定可能であり。血清型1-15がすべて検出可能である感度は86%と言われる。

〇培養

・気道検体の培養は今日でもレジオネラ症の診断においてゴールドスタンダートである。血清型や種の同定だけでなく、薬剤感受性試験まで行うことができる。

・感度は20-80%といわれるが、検体の質や培養技術に左右される部分が大きい。

〇薬剤感受性検査

・レジオネラの薬剤感受性試験は一般化された手法がなく、また試験管と実臨床の経過がしばしば合致しないことがあるため、解釈が非常に難しい。

治療

・レジオネラは細胞内寄生菌であり、効果のある抗菌薬は限られている。マクロライド系、テトラサイクリン系、ケトライド系、キノロン系が効果があるとされ、βラクタム系とアミノグリコシド系は効果がない。

抗原検査が陰性の場合でも、重症の肺炎であったり、肺外症状が目立つ場合はレジオネラまでカバーすることが無難である!定型肺炎の一種ではあるが、マイコプラズマやクラミジアの肺炎と比較すると重症度が全く異なるため、筆者は肺炎の起因菌を考える場合、まずはレジオネラなのかレジオネラなのか、それ以外の菌なのか、という考え方をするようにしている

・in-vitroではLVFXもAZMも細胞内での活性は同程度であり、いずれもオールドマクロライドよりもレジオネラへの効果が高い。しかしながら、LVFXとAZMを比較する試験はない。

AZM、DOX、LVFXが1st lineの抗菌薬として選択される。重症の場合、BTSはLVFXの使用を推奨している。軽症の場合、内服による外来治療も可能であるが、臨床的に反応が見られるまでは静注抗菌薬を使用するのが望ましい。

・エビデンスには乏しいが、IDSAはLVFX 750mgを推奨している。AZMは500mg/日が標準的な投与量である。LVFXとAZMの併用療法については有効であるとするエビデンスは今のところ存在しない。

・治療期間はLVFXで5-10日、AZMで3-5日である。免疫抑制者、慢性肺疾患、重症では治療期間を延長したほうがよい。

・また、レジオネラ症は総じて治療への反応が遅いことも頭に入れておくべきである。

参考

・Up to date

・Lancet. 2016; 387: 376–385.