最近、国内で百日咳の流行が報告される機会が増えています。百日咳というと小児の感染症というイメージが強いかもしれませんが、近年は思春期・成人の発症が目立つことが知られています。成人例では症状が非特異的なことも多く、慢性咳嗽の原因として見逃されやすいのが実情です。本記事では、小児ではなく成人の百日咳に焦点を当て、外来診療で役立つ知識を整理してみたいと思います。
百日咳菌について
百日咳はBordetella pertussis(百日咳菌) による急性感染症です。
百日咳菌はグラム陰性の小型球桿菌で、ヒトを唯一の宿主とする点が特徴です。環境中での生存性は低く、感染は飛沫感染によって起こります。潜伏期間は1週間程度とされます。
百日咳菌は、百日咳毒素(pertussis toxin)をはじめとする複数の毒素・付着因子を産生し、これらが気道上皮の線毛障害や強い咳反射の原因となります。その結果、感染後も長期間にわたり咳嗽が持続します。
疫学
ワクチン導入前は百日咳は典型的な小児疾患でしたが、ワクチン免疫が年数とともに減弱することが明らかになり、現在では青年期・成人の感染が増加しています。
海外では、1990年代以降、百日咳患者の半数以上が思春期・成人という報告もあり、成人が乳児への感染源となることが問題視されています。
本邦では、2024~2025年に大流行が見られました。 2018~2025年の各年における届出例の年齢分布を次に示します2)。

2021~2023年は、0~4歳の割合が前年までと比して大きく増加し、全体の約25%を占めていました。一方で、2024年、2025年は前年までと比して10~19歳が大きく増加し全体の約50%を占め、0~4歳の割合が減少しています。なお、2025年は診断週第12週時点で、年齢群別では10~19歳が60.3%(2,532例)と最も多く、次いで5~9歳が21.0%(880例)でした。
この結果より、百日咳に罹患するのは大半が小児ではあるのですが、一方で青年期以降の患者数も少なくなく、内科外来で遭遇する可能性があることを頭に入れておくべきでしょう。
症状
百日咳は、一般に
カタル期 → 発作期 → 回復期
という3つの段階を経て経過します。全体として2〜3か月(いわゆる“百日”)に及ぶことも珍しくありません。ただし、成人ではこの典型的な経過が分かりにくいことが多く、診断を難しくしています。
カタル期(1~2週目)
カタル期は、最も感染力が強い時期である一方、症状は非常に非特異的です。
・軽い咽頭痛
・鼻汁、鼻閉
・倦怠感
・軽度の咳嗽
といった、感冒様症状が主体で、発熱は目立たないことが多いとされています。
この時期に診断・治療できれば、症状の遷延や感染拡大を抑えられる可能性があるとされています。ただ、実際にはこの時点で百日咳の診断をすることは極めて難しく、多くは「風邪」「急性気管支炎」として経過観察されることがほとんどです。
発作期(2週目以降)
発作期に入ると、百日咳に特徴的な発作性咳嗽が前面に出てきます。
小児では、
・連続する激しい咳発作
・吸気時笛声(whoop)
・咳発作後の嘔吐(posttussive emesis)
を認めます。
What does whooping cough sound like?
No Description
一方、成人ではwhoopや嘔吐が目立たないことが多く、注意が必要です。それ以外では、以下のような症状を認めやすいといわれています。
・夜間や早朝に悪化する咳
・笑う・会話・運動をきっかけに出現する咳発作
・咳発作による睡眠障害、日中の疲労
・尿失禁、肋骨骨折などの“機械的合併症”
・咳に伴う嘔気、胸部不快感
UpToDateによると、成人百日咳では発作性咳嗽が最も感度の高い症状とされる一方、特異度は低く、「あるから百日咳」「ないから否定」と単純に判断できるものではありません3)。
回復期(数週~数か月)
回復期では、咳発作の頻度や強さは徐々に軽減していきますが、
・軽い刺激(感冒、冷気、会話)で咳が再燃する
・咳だけが長く残る
といった経過をたどることがあります。
このため、患者からは「もう感染症は治ったはずなのに、咳だけが残る」と訴えられることが多く、感染後咳嗽や咳喘息など、いわゆる慢性咳嗽としての鑑別が問題になる時期でもあります。
百日咳を外来で疑うポイント
では、内科外来では百日咳はどのタイミングで、どのような時に疑うべきかを考えてみましょう。
まず、繰り返しになりますが、カタル期に百日咳の診断を下すことは極めて難しいです。治療効果が最も高い時期ではあるのですが、症状が非特異的であり、感冒との区別が困難だからです。例外として、百日咳と診断されている患者との接触歴が明確であるならば、この時点での疑うことも可能です。
次に、発作期、回復期ですが、この時期には、“急に咳が出始め、しばらく止まらない”、つまり“発作性咳嗽”がキーワードとなります。もちろん、これはマイコプラズマ肺炎や喘息発作といった一般的な呼吸器疾患や、感冒後咳嗽、咳喘息といったいわゆる慢性咳嗽でも認める非特異的な症状であるため、特異度が低いことには注意が必要ですが、とにかく感度を高く引っかけることが重要です。
また、原因のわからない咳嗽を見た時に、“周りに百日咳といわれた人はいませんか?”としっかり聞いておくことも大切です(他にも結核、マイコプラズマ、インフル、コロナと、聞くべき対象がたくさんあることが辛い所ですが…)。
診断
百日咳の診断には、培養検査、分子生物学的診断法(PCR、LAMP法)、血清学的診断法、抗原検査の4通りがあります。
培養検査
診断のゴールドスタンダードとされています。鼻咽頭の分泌物をスワブで採取し培養に提出します。一般的な綿のスワブでは菌の生育が阻害されてしまうため、ダクロン、アルギン酸カルシウムで覆われた特殊なスワブを使用する必要があります。
発症から2週間程度が最も感度が高いと言われますが、ワクチン接種歴、抗菌薬使用歴、年齢、検体の採取法、輸送方法など、多数の因子の影響を受けます。感度は15~80%とバラつきが大きいです。そのため、最近は分子生物学的診断法、血清学的診断法で代替し、培養検査そのものをスキップすることも少なくありません。
分子生物学的診断法
鼻咽頭の核酸増幅検査(PCRやLAMP法)があり、感度は培養よりもよく、抗菌薬使用初期であれば影響は少ないとされます。ただし遺伝子を検出するため、死菌、コンタミネーションの可能性があります。
UpToDateによれば、感度は61~94%、特異度は88~98%であり、精度は高いとされています。ただし、発症から3週間が経過すると感度が低下するため、注意が必要です。
通常のPCR法よりも結果が早く出るLAMP法が主流ですが、外注検査として提出する施設の方が多いと思われ、結果が出るまで数日かかってしまいます。
血清学的診断法
本邦では従来より良く行われてきた方法です。PT(百日咳毒素)に対するIgG抗体(抗PT-IgG抗体)が最も頻用されます。抗PT-IgG抗体はワクチン接種でも上昇するため、本来は単血清ではなくペア血清で経時で上昇することを確認する必要があります。ただ、実際には単血清しか採取できないことが多く、また国内外の知見を踏まえ、100EU/mL以上あればほぼ「急性感染」を確定できるであろう、とされています4)。IgGが上昇するまでは時間がかかるため、発症から2週間以降に測定することが望ましいです。逆にいえば、発症早期には使用できない点に注意が必要です。他にもIgM抗体、IgA抗体を測定する方法がありますが、年齢の影響を受けやすく、解釈が難しいとされています。
また、FHA(線維様血球凝集素)に対するIgG抗体を提出することもできますが、他のBordetella属でも反応が起き、他の微生物(Hemophilus influenzae やMycoplasma pneumoniae)でも交差反応があるとされており、使用は推奨されません。
分子生物学的診断法と同様、外注検査となるため、結果が出るまで数日かかってしまいます。
抗原検査
2021年5月に体外診断用医薬品として承認された新しい抗原検査法であり、鼻咽頭拭い液中の百日咳菌抗原(リボソームタンパク質L7/L12)を検出する方法です。(リボテスト®百日咳:極東製薬工業株式会社)。本検査キットは百日咳菌以外に百日咳類縁菌(パラ百日咳菌とBordetella holmesii)にも交差してしまうため、国外ではまだ導入されていません。PCR法との全体一致率は95.9%とされていますが、エビデンスの集積が待たれるところであり、運用する場合は他の検査法と併用することが望ましいでしょう4,5)。
検査方法まとめ
最後に、検査方法の違いを以下にまとめます。

悩ましいところですが、私であれば、
・発症初期であればLAMP法±抗原検査
・発症から2週間以降なら抗PT-IgG抗体
を選択します。抗原検査の迅速性は魅力的ですが、如何せん精度面でのエビデンスが不足していることがネックですね…。
治療
治療の中心は、アジスロマイシンを中心とするマクロライド系抗菌薬です。マクロライド系が使用できない場合、ST合剤が代替薬となります。
UpToDateでは、抗菌薬の投与は“咳嗽が出現してから3週間以内”が推奨されています。これは、この時期が感染リスクが最も高く、抗菌薬投与により感染拡散を予防できるためです。また、咳嗽を始めとする症状を軽減する可能性も示唆されていますが、効果は限られており、“この時期に抗菌薬を投与すれば咳嗽がスパッとよくなるわけではない”点には注意が必要です。
3週間以降になると抗菌薬を投与する意義はほとんどありません。これは、既に他者への感染性はほぼない上、咳嗽も菌そのものではなく毒素による気道粘膜障害に関連しているためです。ただし、喘息やCOPDなどの慢性呼吸器疾患がある、ないしは免疫抑制状態にあるなどの場合は、3週間以降も抗菌薬の投与を検討します。
上記の通り、抗菌薬を投与するのであれば発症早期が望ましいため、百日咳の可能性が極めて高い患者では、LAMP法や抗PT-IgG抗体の結果が返ってくる前に治療を開始するべきです。ただ、実際には発症初期のカタル期での診断の難しさ、また検査の多くが即日結果が出ないことから、発症から3週間以内に抗菌薬を投与できないケースの方が多いと推測されます。
なお、患者さんを苦しめる長期間かつ重度の咳嗽発作ですが、残念ながら有効性の示された治療はありません。通常の咳嗽診療同様、デキストロメトルファンや漢方薬など、一般的な鎮咳薬を使用します。
予防接種
百日咳ワクチンは小児期の定期接種に含まれていますが、免疫は5~10年程度で減弱することが知られています。そのため、思春期・成人でも感染が起こります。
本邦では、成人に対する定期的な追加接種は一般的ではありませんが、
・医療従事者
・乳児と接触する機会の多い成人
では、追加接種を検討する意義があります。
「ワクチンを打っているから大丈夫」とは言い切れない点は、成人診療において意識しておきたいところです。
まとめ
以上、成人を対象とした百日咳診療について概説してきました。
検査の解釈が難しい、早期診断が困難、抗菌薬治療の意義があるタイミングが限られる、患者さんを苦しめる咳を止める方法は少ないなど、本当に医者泣かせの疾患だと感じました…。
成人の百日咳は見逃されていることが多いと思われるため、私もこれを機に咳嗽診療の際には本疾患を想起するよう心掛けたいと思います。
参考
1)The Journal of Infectious Diseases, Volume 224, Issue Supplement_4, 1 October 2021, Pages S310–S320
2)国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト
https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ha/pertussis/020/2504_pertussis_RA.html
3)UpToDate
4)感染症法に基づく医師届け出ガイドライン 百日咳 第三版 国立感染症研究所
https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ha/pertussis/040/pertussis_guideline_20250326.pdf
5)極東製薬工業株式会社 リボテスト®百日咳
https://www.kyokutoseiyaku.co.jp/products/ribotest-hyakunichizeki
6)今日の臨床サポート