Meigs症候群
Meigs症候群とは
Meigs症候群とはMeigsらによって定義された疾患であり、良性卵巣腫瘍に胸水/腹水を伴う症候群です。
Meigsによれば、
①卵巣の良性腫瘍がある(線維腫、鞘腫、顆粒膜細胞腫、ブレンナー腫瘍)
➁腹水
③胸水
④腫瘍摘出後の腹水と胸水の消失
のすべてを満たすものをMeigs症候群と定義しています。ただし、この定義は1954年というかなり昔に提案されたものであることに注意が必要です。
現在は前述の定義を満たすものを古典的Meigs症候群と呼称し、古典的Meigs症候群の定義に含まれる卵巣腫瘍(線維腫、鞘腫、顆粒膜細胞腫、ブレンナー腫瘍)以外の良性の卵巣、卵管、または靭帯腫瘍による腹水、胸水を、非古典的Meigs症候群をして別個にカテゴライズするようになっています。
疫学
Meigs症候群は全卵巣腫瘍の1%で発生するとされ、卵巣線維腫に最も合併しやすいといいます。卵巣線維腫自体は卵巣腫瘍の2-5%程度と比較的稀です。
閉経後、特に50-70歳の女性によく見られ、30歳以下の若年では稀です。
病態生理
①腫瘍による腹部リンパ管の圧迫
➁卵巣腫瘍からの間質液の漏出
③腫瘍からの血管内皮増殖因子(VEGF)の産生による血管透過性の亢進
④女性ホルモンの増加
といった機序が考えられていますが、Meigs症候群における腹水、胸水の病態は十分に解明されていません。
臨床像
Meigs症候群は以下のような胸腹水貯留や腫瘍による症状を主訴に疑われることがほとんどであり、特異的なものはありません。
胸水：呼吸困難、乾性咳嗽、胸膜痛
腹水：腹部膨満
腫瘍：腹部膨満、子宮脱、尿失禁、両下腿浮腫
また、胸水は右側ないしは両側に出現することが多いようです。これは、右横隔膜に欠損部があることが多く、腹水が右胸腔に移動しやすいことを反映しているものと考えられています。
診断
Meigs症候群の診断においては、胸腹水をきたすその他の疾患を除外することが重要です。特に悪性腫瘍に伴う胸腹水との鑑別は丁寧に行う必要があります。その上で、卵巣腫瘍を切除し、胸腹水が消失することを確認してようやくMeigs症候群の診断となります。胸腹水+卵巣腫瘍＝Meigs症候群！と安易に結論づけないようにしましょう。
胸腹水の検査(生化学、細胞分画、細胞診など)、CTや上下部内視鏡を最低限行い、悪性腫瘍の検索を行います。
Meigs症候群における胸腹水は滲出性が多く、漏出性であることは稀とされています。
治療
卵巣腫瘍を摘出することが根治治療です。
胸腹水に対しては必要に横して対症療法的にドレナージを行います
pseudo-Meigs症候群
pseudo-Meigs症候群とは、良性の卵巣腫瘍以外の腹部ないしは骨盤内腫瘍に続発する胸腹水を指します。さらに良性腫瘍によるものと悪性腫瘍によるものにカテゴライズされますが、特に後者の悪性腫瘍によるpseudo-Meigs症候群がMeigs症候群との鑑別で重要となります。
胸水/腹水の細胞診で悪性所見がないこと、腫瘍の生検組織が良性であることを確認できればpseudo-Meigs症候群は否定できますが、悪性胸膜炎/腹膜炎胸水の診断において細胞診の精度は必ずしも高くないため、必要に応じて複数回検査を行う必要があります。
ちなみに、悪性胸膜炎における細胞診の感度は、卵巣癌で85%、腺癌で78-83%、乳癌で65%、小細胞癌で53%、悪性胸膜中皮腫で29%、扁平上皮癌で25%とされています。
pseudo-pseudo-Meigs症候群
ややこしい話ですが、世の中にはpseudo-pseudo-Meigs症候群という概念もあります。
pseudo-pseudo-Meigs症候群はTjalma症候群とも呼ばれます。これは全身性エリテマトーデス(SLE)における胸腹水と、卵巣癌の腫瘍マーカーであるCA-125の上昇が組み合わさった状態で、2005年にTjalmaが初めて報告しています。
最初は「いやいや、そもそもSLEでCA-125なんて図らないでしょ~?」と思ったのですが、これには複雑な事情があるようです。SLEといえば漿膜炎が有名であり、胸水、腹水を認めること自体は多くありません。ただ、稀にお腹がパンパンになってしまうような超大量腹水をきたすことがあり、このようなSLEに非典型的な腹水の場合は悪性腫瘍、肝疾患、感染症、心不全など、他疾患との鑑別が難しくなります。
この際、悪性腫瘍の鑑別の一助にCA-125が測定されるわけですが、SLEの漿膜炎単独でもCA-125が上昇することがあるため、臨床医としてはより一層悪性腫瘍の存在に悩んでしまうわけです。実際、悪性腫瘍が否定しきれず、開腹手術まで至ってしまった症例報告もありました。
つまり、『pseudo-Meigs症候群(悪性腫瘍)の偽物』という意味で“pseudo”-pseudo-Meigs症候群という名前になっているということですね。
参考
・In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2023 Jan.2023 Jul 4. Meigs症候群のreview
・Medicine (Baltimore). 2015 Dec;94(49):e2114.
・Clin Exp Rheumatol. 2012 Jan-Feb;30(1):93-8.
・Mod Rheumatol Case Rep. 2021 Jul;5(2):292-299.
・UpToDate
・https://radiopaedia.org/articles/meigs-syndrome