気管支拡張症は、かつては「治療の手立てが乏しい慢性疾患」として、やや脇役のように扱われてきた印象があります。しかし近年、欧米を中心に研究が進み、気管支拡張症を標的とした新規治療薬の開発・承認申請が相次いでいます。
こうした流れを受けて、
「そもそも気管支拡張症とはどのような病態なのか」
「従来治療は何を目指してきたのか」
を一度整理しておく必要があると感じ、本記事を書くことにしました。
疫学
気管支拡張症の疫学については、本邦では大規模データが乏しいのが現状です。一方、欧米ではレジストリ研究が進んでおり、有病率は高齢になるほど増加すると報告されています。欧州のレジストリ(EMBARC)などによると、気管支拡張症は高齢者に多く、女性にやや多い疾患とされています。
3~5割程度は特発性ですが、残りは基礎疾患を有する二次性です。基礎疾患は本邦と欧米で異なっており、欧米ではアレルギー性、COPD、先天性異常(原発性線毛形成機能不全症、嚢胞性線維症)が多い一方、本邦ではNTM症が非常に多いという特徴があります1)。
病態
気管支拡張症の病態は、ERSガイドライン2)でも示されている、“悪性の渦(vicious vortex)”という概念で理解すると分かりやすくなります。
この渦は、主に以下の4要素から成り立ちます。
・慢性的な気道感染
・過剰な炎症(主に好中球主体)
・粘液線毛クリアランス障害
・気道構造の破壊・拡張
これらが互いに影響し合い、一度回り始めると自然には止まりにくい、というのが本疾患の本質です。治療は、この渦の「どこか一部でも弱める」ことを目標に行われてきました。

症状、身体所見
代表的な症状は、
・慢性的な咳(98%)
・毎日持続する喀痰(78%)
・呼吸困難(62%)
・副鼻腔炎(73%)
・喀血(27%)
・再発性胸膜炎(20%)
です3)。また、他に嗅覚の低下、尿失禁、骨密度低下がみられることもあります。
経過は個人や基礎疾患によって様々であり、軽微かつ非進行性の人もいれば、増悪を繰り返し呼吸機能が悪化する人や、喀血を繰り返す人など、予後が悪いパターンもあります。ひとことに気管支拡張症といっても、非常にスペクトラムの広い疾患であることを忘れてはいけません。
進行に伴い、閉塞性・拘束性換気障害を呈することで、労作時の呼吸困難が出現し、最終的に消耗性のるい痩を呈することもあります。
身体所見として特異的なものはありませんが、聴診でcoarse crackles や rhonchi を聴取することがあります。ばち指がみられることは稀であるようです3)。副鼻腔炎の合併が多いため、鼻ポリープの有無や、副鼻腔叩打痛もチェックしておくとよいでしょう。
気管支拡張症にはCOPDと同様、“増悪”という概念があります。これは、「症状が日々の変動を超え、治療方針の変更を要する状態」と定義されており、具体的には咳嗽・痰の増加、痰の性状変化(膿性、硬さなど)、呼吸困難、倦怠感、喀血、発熱といった症状が含まれます。
診断と検査
気管支拡張症は、明確な診断基準が確立している疾患ではありません。臨床所見とCT所見を組み合わせて行われますが、症状そのものは呼吸器疾患として非特異的であるため、やはり重要なのはCT所見となります。
気管支拡張症に特徴的な所見は、以下の通りです。
・気管支内径が伴走する動脈より1.5倍(気管支内腔径/伴走肺動脈径)
・気管支が2cm以上にわたり先細りしていない
・気道が肋骨胸膜表面から1cm以内、または縦隔胸膜に接触して見える

また、気管支拡張症と、間質性肺炎など周囲の肺組織が収縮してしまう疾患に伴って気管支が拡張する、“牽引性気管支拡張”を混同しないよう注意しましょう。肺実質に網状影や蜂巣肺があり、肺容量が低下しているような場合には、気管支が拡張していても「あれ?これって間質性肺炎による牽引性のものかも…?」と考えるとよいです。
(詳しいCT画像の読み方は以下のサイトをご参照頂けるとよいと思います。気管支拡張症以外の疾患についても学習できおすすめです)
https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/21116
さて、臨床所見とCT画像から気管支拡張症の診断がついた後、重要なのが基礎疾患の検索です。疫学で触れた通り、本邦で最も多いのは特発性で次点がNTM症ですが、他にも
・結核、小児期の肺炎、ウィルス感染の後遺症
・アスペルギルス症
・関節リウマチやシェーグレン症候群などのリウマチ疾患
・免疫不全症(HIV、先天性免疫不全)
・先天性異常(原発性線毛機能不全症:PCD、嚢胞性線維症:CFなど)
といった可能性があります。
下記のERSのフローチャートの通り、検査・鑑別を進めていくのがよいでしょう。

特に、以下の3点は原因精査の上で抑えておきたいポイントです。
・免疫グロブリン(IgG、IgM、IgA)
・アレルギー性気管支肺アスペルギルス症の精査(非特異的IgE、アスペルギルス特異的IgE、アスペルギルスIgG、末梢血好酸球数)
・NTM症の精査(喀痰培養検査、気管支鏡検査など)
治療
気管支拡張症の治療目標は、①咳、痰などを抑制しQOLを改善する、②増悪を防ぐ、③肺機能の低下を防ぐの3つです。ただし、残念ながら③についてエビデンスが示された治療はなく、①、②が主な目標となります。先に述べた通り、気管支拡張症はスペクトラムの広い疾患であるため、個々人に合わせて治療をマネジメントする必要があります。
(存在するなら)基礎疾患の治療
記載の通りですが、存在するのであれば基礎疾患の治療を最優先で行います。本邦で頻度が高いNTM症は認知度が高まってきていますが、呼吸器内科へのアクセスや抗菌薬併用療法への忍容性など、課題が多いのが現状です。
気道クリアランス法
気道クリアランス法とは、気道分泌物を除去するための理学療法のことです。低コストである反面、QOLと症状の改善につながり、増悪を減らす可能性があるため、ERSのガイドラインでは強く推奨されています2)。ただし、気道クリアランス法を指導できる理学療法士が少なく、アクセスが限られるのが課題です。一般に、ACBT(Active Cycle of Breathing Technique)という、特別な器具は使わない排痰法が用いられます。下記の動画も参考にしてください5)。
ワクチン接種
予防接種が気管支拡張症の患者さんに与える効果を単独で検証したデータはほとんどありませんが、一般的な呼吸器疾患同様、増悪の原因となりうる疾患の予防接種は推奨されます。少なくともインフルエンザ、肺炎球菌の接種は行い、可能であればCOVID-19も接種しておくとよいでしょう。
長期マクロライド療法
長期マクロライド療法は気管支拡張症の治療として最も一般的に普及している手法です。ただ、そのエビデンスをしっかり確認したことがある方は少ないと思いますので、ここで改めて勉強していきましょう。
マクロライド系抗菌薬には、
・好中球主体の炎症を抑える
・サイトカイン産生を抑制する
・バイオフィルム形成を抑える
といった、抗菌作用とは別の作用(免疫調節作用)があることが知られています。気管支拡張症における長期マクロライド療法は、抗菌作用よりもこの免疫調節作用によって、vicious vortexのうち過剰な炎症を抑えることを期待して用いられます。
長期マクロライド療法の有効性は、複数のランダム化比較試験とメタアナリシスで示されています。代表的な試験では、
・増悪頻度の有意な減少
・増悪までの期間延長
・QOL指標の改善
が一貫して報告されており、ERSのガイドラインでも強い推奨となっています2)。
一方、死亡率や肺機能(FEV₁)を改善する効果は明確ではないという点は押さえておく必要があります。あくまで目的は増悪を減らす、QOLを改善する、の2点にあるのです。
では、次にどのような患者群が長期マクロライド療法の対象となるのかを考えていきましょう。
以前のERSのガイドラインでは、年3回以上の増悪がある患者と対象がかなり制限されていました。ただ、その後の研究で年1回以上の増悪を経験した患者でも、増悪リスクが高いと判断される場合には、長期マクロライド療法の恩恵があることが示されました。よって、現在のガイドラインでは、「標準治療にもかかわらず増悪リスクが高い患者には、長期マクロライド系薬剤を投与することを推奨する」とされています2)。
これはこれで漠然とした表現である気もします。個人的には、気道クリアランス法をしっかり指導した上で、
・少なくとも1回以上増悪の経験がある
・咳や痰により、QOLへの影響が大きい
場合には、長期マクロライド療法を導入してもよいのではないかと考えています。
また、使用するマクロライド系抗菌薬については、海外ではアジスロマイシンが用いられることが多い一方で、本邦では原則としてエリスロマイシンが選択されます。
その背景には、本邦では気管支拡張症の基礎疾患として非結核性抗酸菌症(NTM症)が比較的多いという事情があります。
現在、NTM症の標準治療はクラリスロマイシンを含む多剤併用療法です。マクロライド系抗菌薬は一般に交叉耐性を起こしやすく、ある薬剤への耐性が生じると同系統の他薬にも耐性が及ぶ可能性があります。そのため、もしNTM症を見逃した状態でクラリスロマイシンやアジスロマイシンを単剤長期投与してしまうと、将来的に治療の要となるクラリスロマイシンが使えなくなるリスクがあります。
一方、エリスロマイシンはクラリスロマイシンに対する交叉耐性を比較的起こしにくいとされており、NTM症の可能性を完全には否定できない症例においては、より安全な選択肢と考えられています6)。つまり、本邦でエリスロマイシンが選択されるのは、「将来のNTM治療を温存する」という戦略的な意味合いがある、ということになります。
治療導入をするのであれば、エリスロマイシン 200~400mg /日で処方します。消化器症状、QT延長、肝障害などに注意が必要であり、特にQT延長は致死的となるため、定期的な心電図検査が望ましいです。また、導入前に、少なくとも喀痰培養でNTMを含む抗酸菌検査を確認しておくのが安全です。
※1:ただし、エリスロマイシンがクラリスロマイシンの耐性を誘導する可能性があるという報告もあるため、絶対とはいえない点には注意が必要7)
※2:気管支拡張症に対する長期マクロライド療法のエビデンスのほとんどはアジスロマイシンによるものであり、エリスロマイシンの効果を実証したものは少ない
※3:エリスロマイシンは2025年から供給が不安定となっている
抗菌薬吸入療法
海外では治療法の一種として推奨されていますが、本邦ではトブラマイシン吸入薬(トービイ®)が嚢胞性線維症においてのみ使用が可能であり、気管支拡張症に対しては選択肢がないのが現状です。
エラスターゼ阻害薬:ブレンソカチブ
近年、気管支拡張症の新薬として注目を集めているのがブレンソカチブです。2026年2月現在、米国で承認されており、本邦でも承認申請がなされているところです。
ブレンソカチブは経口で可逆的なジペプチルペプチダーゼ1(DPP-1)阻害薬であり、好中球炎症の主要な媒介因子である好中球セリンプロテアーゼの放出を抑制します。ブレンソカチブはRCTで気管支拡張症の年間増悪頻度を20%程度低下させ、25mg投与の高用量投与群では肺機能(FEV1)が有意に改善しました8,9)。有害事象として、角化症の頻度の増加が示されています。
承認されたとして非常に高価な薬剤だと思いますし、示された臨床効果をどこまで重要視するかは意見がわかれる所だと推察しますが、治療オプションの限られる気管支拡張症において、一筋の光明となる可能性はありそうです。
まとめ
以上、気管支拡張症について整理してきました。
正直なところ、私が主戦場とするプライマリケアの環境では、できることは限られている印象があります。それでも、新しい治療を理解しておくことで、専門医へ紹介するタイミングをより適切に判断できるはずです。
今後も最新情報のキャッチアップを続けつつ、少なくとも“何となくのマクロライド療法”は避けるように心がけたいと思います。
参考
1)今日の臨床サポート
2)European Respiratory Journal 2025 66(6): 2501126;
3)UpToDate
4)European Respiratory Review 2018 27(149): 180016
5)日経メディカル 新薬登場が近い気管支拡張症、投薬の前に介入するべきことは
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t335/202601/591658.html
6)J Infect Chemother. 2018 May;24(5):353-357.
7)mSphere. 2018 Apr 18;3(2):e00103-18.
8)N Engl J Med. 2025 Apr 24;392(16):1569-1581.
9)亀田メディカルセンター 注目論文:気管支拡張症患者に対するDPP-1阻害薬ブレンソカチブの第3相試験