定義
現在の最新版であるCOPDガイドライン第6版では、
「タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入暴露することなどにより生ずる肺疾患であり、呼吸機能検査で気流閉塞を示す。気流閉塞は末梢気道病変と気腫性病変が様々な割合で複合的に関与し起こる。臨床的には徐々に進行する労作時の呼吸困難や慢性の咳、痰を示すが、これらの症状に乏しいこともある」
と定義しています。
以前のガイドラインでは「肺の炎症」という文言が含まれていましたが、危険因子が明らかでない非喫煙者や肺の発育障害に起因するCOPDも存在することが分かっており、「非炎症性」や「肺の成長障害」という概念を取り入れるため削除されたという経緯があります。
簡潔にすると、以下の条件をみたすものをCOPDとして扱うということでよいと思います。
①長期の喫煙歴などの暴露因子があること
➁気管支拡張薬吸入後のスパイロメトリーでFEV1/FVC<70%以下であること
③他の気流閉塞をきたしうる疾患を除外すること
疫学
NICE studyより、本邦では40歳以上の10.9%(男性 16.4%、女性5.0%)に閉塞性換気障害を認め、気管支喘息の可能性のある患者を除くと40歳以上の日本人のCOPD有病率は8.6%と考えられています。40歳以上の人口が7600万人程度なので、全体で600万人程のCOPD患者が存在することになります。
世界的には40歳以上の10%前後がCOPDと考えられており、本邦の世界の国々と同程度の高い有病率といえます。
厚生労働省の調査では、COPDの有病率は日本人全体の0.2-0.4%、患者数は約26万人と報告されています。つまり、上記の報告と乖離があり、未診断のCOPD患者が500万人以上存在することになります。COPDはunder-diagnosisな疾患であるといえるでしょう。
病因
〇外因性危険因子
COPDの外因性危険因子にはタバコ煙、大気汚染物質の吸入、有機燃料(バイオマス)を燃焼させた煙の室内における吸入、職業性の粉じんや化学物質への暴露、受動喫煙、呼吸器感染症、社会経済的要因などがあります。
喫煙は最大の危険因子であり、喫煙者の15-20%がCOPDを発症するといわれています。ただし、60 pack-yearsの患者でも30%は呼吸機能が正常であり、COPDになりやすい患者となりにくい患者が存在し、喫煙に対する感受性を決定する遺伝子の存在が想定されています。
COPD患者の15%は職場での暴露が原因とされており、職業の聴取が重要です。具体的には農業、畜産、炭鉱、トンネル工事、コンクリート工事、ゴム加工工場などあらゆる職種で発生する埃、ヒュームなどです。
〇内因性危険因子
COPDと関連性が疑われる遺伝子が検索されてきましたが、α1-アンチトリプシン欠損症を除いてはCOPDの責任遺伝子として確定したものはありません。また、日本人ではα1-アンチトリプシン欠損症はほとんどいないとされ、あまり内因性危険因子は考えずともいいかもしれません。
病態生理・病理
COPDの病理学的変化はまず気道に生じますが、進行すると肺実質や肺血管にも変化が生まれてきます。その程度は慢性気管支炎、肺気腫、アンチトリプシン欠損など、どの病態が有意かによって異なります。実際のCOPDで呼吸器病理の生検検体を確認することは難しい、というかやりませんが、代わりにHRCTでは肺実質、気道、肺血管の組織学的変化を捉えることも可能とされます。では、それぞれにどのような変化が現れるのか、病理像も合わせて見ていきましょう。
〇気道
まずは気道です。COPDにおける気道の病理学的特徴は、慢性炎症、杯細胞の増加、粘液腺組織の過形成、線維化、末梢気道の狭小化と、肺気腫の肺胞隔壁の破壊による通気性の低下などがあります。COPDの慢性炎症では好中球が関与していると言われています。一方で、喘息では好酸球による炎症が主体となります。
気道病変の病理①:盃細胞の増生、気管支粘膜の肥厚、粘液栓による閉塞が認められる
気道病変の病理➁:好中球の浸潤が高度にみられる。写真Aは重症COPD、写真Bは軽症COPD患者。赤いのが好中球
〇肺実質
肺実質はいわゆる細葉を構成する呼吸細気管支、肺胞管、肺胞腔、肺胞と、毛細血管と狭義の間質が組み合わさり形成されています。これらが炎症によって破壊されてしまった状態を肺気腫ないしは気腫性変化と呼称します。気腫性変化はCTでとらえることが可能であり、周辺の正常肺と比較して黒く抜けたような低吸収の領域として認識されます。CTにおける気腫性変化の分布により、下記の小葉中心性肺気腫、汎小葉性肺気腫、傍隔壁性肺気腫の3種に分類されます。
①小葉中心性肺気腫 centrilobular
呼吸細気管支の異常な拡張・破壊によって生じ、細葉の中心が首座となります。一般的に喫煙が原因ですが、炭鉱労働者の塵肺でも認めることがありえます。
②汎小葉性肺気腫 pan-ainar
細葉のすべての構造が拡張、破壊されることで生じます。
α1アンチトリプシン欠損症や、進行した喫煙者のCOPDで認めます。
③傍隔壁性肺気腫 paraseptal
肺胞管が病変の首座です。他の気腫と併存して生じることが多いですが、傍隔壁性肺気腫が単独で生じる場合、しばしば若年者の自然気胸の原因であることが多いです。
気腫性変化の病理:肺胞腔が拡大している。また、炭粉の沈着も認める
〇肺血管
COPDの患者の肺血管では、慢性低酸素による血管収縮で内膜の過形成や平滑筋の過形成、肥大が病理学的所見として見て取ることができます。このような変化は病態としては肺高血圧として表現されます。また、肺気腫による肺胞の破壊は、肺毛細血管床の減少に繋がり、より一層肺高血圧を悪化させてしまいます。
〇肺弾性力について
気道、肺実質、肺血管以外にも、COPDの病態における重要な点として、肺弾性力の低下があります。これは虚脱した気道をもとに戻す力ですが、肺実質の支持組織が破壊されているCOPDではこの肺弾性力が低下してしまっています(肺コンプライアンスの上昇)。気道の狭小化と合わせ、末梢気道抵抗が増加する大きな要因となりえます。
と、病理について色々書いてきましたが何のこっちゃねんという感じだと思います。
簡潔にまとめると、それぞれの病理学的所見・病態が下記のように臨床所見として表現されてくるといえます。
・気道:慢性炎症で狭窄、粘液分泌増加→湿性咳嗽の症状+換気量低下でⅡ型呼吸不全になる
・肺実質:肺胞の破壊(肺気腫)による拡散障害、VQミスマッチ、シャントでⅠ型呼吸不全になる
・肺血管:進行すると肺高血圧症になる
・肺弾性力低下:末梢気道狭窄の増強→進行すると換気量低下によるⅡ型呼吸不全になる
臨床所見
●喫煙や吸入暴露のエピソード
前述の通り、COPDの最も重要なリスクは喫煙に加え、職業歴を詳細に聴取する必要があります。喘息の既往も重要です。頻度は低いですが、アンチトリプシン欠損症を念頭にCOPDの家族歴も聴取しましょう。
●症状やそのonset
呼吸困難、慢性咳嗽、喀痰増加がCOPDの三徴であり、最も早期に出やすいのが労作時呼吸困難です。喘鳴や胸部絞扼感の頻度は少ないとされます。
COPDの患者は以下の3つの経過をとりやすいとされます。
①あまり労作をせず、症状の自覚がない患者
仕事がデスクワーク中心であったり、普段から労作をしない患者はCOPDの症状に気が付きにくいです。中には無自覚のうちに労作をしないようになり、労作時呼吸困難を感じていない患者もいます。こういった患者は発見が遅れてしまいがちであるといえます。こういった患者を拾い上げるため、他の疾患で通院している喫煙者には、症状がなくても医師が積極的に呼吸機能検査などのスクリーニング検査を行う必要があるといえます。
②慢性咳嗽と呼吸困難を訴える患者
呼吸困難は労作時の息切れとして自覚されることが多いです。しかし、進行するとより軽度の労作で息が切れたり、休息をとっても改善しないようになってきます。慢性咳嗽は喀痰を伴う湿性のものであり、最初は朝方に多いです。こちらも進行するにつれて朝に限らず一日中出るようになってきます。一日あたり60mlを超える喀痰量の患者もいるくらいです。通常この喀痰は粘液性ですが、増悪の際は膿性となることが多いとされます。
③咳嗽、膿性喀痰、喘鳴、全身倦怠感、呼吸困難を断続的に訴える患者
喘息や心不全、気管支拡張症、細気管支炎などと誤診しやすいパターンです。身体所見や検査所見を総合して鑑別を進めていく必要があります。
その他、COPDの患者は体重増加(労作の減少のため)、体重減少、咳嗽性失神、うつ症状など多様な症状を呈します。体重減少は予後不良因子ですが、実際には肥満のCOPD患者の方が頻度は多いです。また、肺癌や気管支拡張症、心血管疾患、骨粗鬆症、フレイル、うつ病といった多彩な疾患を合併しうるとされます。
〇mMRCとCAT
COPDの臨床症状の評価を行うため、mMRC、CATスコアを活用するとよいとされます。治療方針決定で症状の評価にも使用します。
身体所見と検査所見
〇身体所見
病初期では身体所見はほぼないといても過言ではありません。あっても呼気延長や強制呼気時の喘鳴くらいとされます。閉塞性障害が進行すると、過膨張による所見(打診で鼓音)、呼吸音低下、wheezes聴取、肺底部のラ音、心音の低下などが現れてきます。より重症になるとビア樽状胸郭なども認めるようになります。COPD末期では、手のひらやひじで体重を支えながら前傾姿勢をとり、呼吸が楽な姿勢を保とうとする。これにより手のひらやひじに肘に圧迫によるタコのような皮疹が出現することがあります。胸鎖乳突筋(患者の親指より太いと有意)や僧帽筋の肥大、口すぼめ呼吸、肋間筋の奇異性運動(Hoover’s sign)も認めます。チアノーゼやアステリキシスは高二酸化炭素血症の徴候です。外頚静脈の怒張や肝腫大は右心不全を示すとされます。撥指はCOPD単独では生じにくく、肺癌や間質性肺炎、気管支拡張症などの合併を示唆します。
下記は,マクギーの身体診察に掲載されている有名な図です。経験上、左側のるい痩が強い高齢男性が重症なCOPD患者には多い印象です。
〇血液検査
COPDの診断において血液検査は必須ではありません。ただ、ある種の検査は他の疾患を除外する上で有用となります。貧血の有無は呼吸困難の鑑別として確認しておくべきです。また、BNPは心不全の除外に有効です。CO2貯留を疑うのであれば血液ガス検査も行っておきたいところです。AATの検査はAAT欠乏症の診断に有用です。
※AATについて
血中のプロテアーゼインヒビターであり、種々の炎症の際に増加する急性相反応物質のひとつです。喫煙は肺の酸化ストレスを増加させAATの不活化を促す作用があり、COPDを引き起こす一つのメカニズムと考えられています。AAT欠損症の患者では更に酸化ストレスへの脆弱性が増しており、プロテアーゼが優位に働くことで肺胞を構成するエラスチンを破壊し、気腫性病変の形成に至ると考えられています。とはいえ、日本での有病率は1000万人に2人程度と著しく低く、ルーチンでの検査は全くの不要といえます。
以下の場合にAATの検査を行うべきとされています
- 若年者(45歳以下)でCOPDを発症している場合
- 職業暴露歴のない非喫煙者で肺気腫(特に下肺野優位)を認める場合
- COPDや原因不明の肝硬変の家族歴がある場合
- 皮下脂肪式炎の患者
- 黄疸または肝酵素の上昇がある新生児
〇胸部Xp
肺癌、気管支拡張症、胸膜疾患、ILD、心不全など、COPDの鑑別となる他疾患の除外に用いることを目的に施行されます。COPDの所見を捉える、ということについては感度が低く、有用でないとされます。よほど重症でなければX線で所見は出てきません。
COPDの所見は以下の通りです。
・正面像で肺野の透過性亢進、横隔膜平坦化、滴状心
・側面像で胸骨後面の透過性亢進
・1cm以上の大きな肺嚢胞を形成していればXpで捉えることができる
・肺高血圧症を合併していれば肺血管陰影の増強が見られる
〇胸部CT
気腫性変化を捉えるという点ではXpよりも感度・特異度共に高いですが、ルーチンでの撮影は不要であり、肺炎や気胸など、COPDの合併症や鑑別疾患を疑った際に撮影することが多いです。肺癌のスクリーニングにも有用です。個人的には肺癌の早期発見のため、1年に1回は低線量CTを取った方がいいと考えています。
〇血液ガス検査
以下の場合は動脈血液ガス検査を行い、CO2の貯留を評価すべきです。
・FEV1% 50%以下
・SpO2 92%以下
・意識障害
・COPD増悪
・酸素投与後から30-60分後
また、HOTの適応を検討するときもABGでPaO2が低いことを証明する必要があります。
〇呼吸機能検査
COPDの診断で最も重要な項目です。FEV1%<70%を確認します。薬剤吸入後のFEV1/FVCが気流制限の有無を決めることになります。ガイドライン的には気管支拡張薬使用後のFEV1%での診断としていますが、拡張薬導入前の数値で診断してしまってもよいと思います。
また、重症度や薬物への反応性、疾患の進行など、さまざまな評価に用いることができます。スパイロメトリーを行う際、SABA吸入の前後で検査を行うと気道の可逆性の評価を行うことができ、喘息との鑑別に有用です。可逆性が少ない、またはほとんどないのがCOPDらしいといえます。
また、肺拡散能評価のDLcoも重要です。肺実質が障害されない喘息との鑑別に有用といえます。FeNOも喘息、ACOとの鑑別や、ICS導入の適応の判断に有用です。
〇運動負荷試験
特に6分間歩行試験は頻用されます。安静時のSpO2が正常値でも、労作により低下する場合があり、6分間歩行試験で拾うことができます。HOT導入の適応にもなってきます
〇心電図、心エコー
心不全との鑑別や、肺高血圧症の合併を判断するために有用です。COPD患者の肺高血圧症は軽度から中等度(平均肺動脈圧 20-35mmHg)のことが多く、心拍出量は正常もしくは上昇していることが多いです。
鑑別疾患
〇閉塞性換気障害をきたす疾患
・喘息:気道可逆性検査、FeNO、肺拡散能、HRCT
・びまん性汎細気管支炎:HRCT
・気管支拡張症:HRCT
・閉塞性細気管支炎(移植後や膠原病関連):吸気、呼気のHRCT、肺気量分画、肺拡散能、クロージングボリューム
・リンパ脈管筋腫症:HRCT
・塵肺症:HRCT
・肺結核:HRCT、抗酸菌検査
〇呼吸困難をきたす疾患
・心不全、不整脈:心電図、心エコー、BNP
・肺高血圧症:上記に加え、右心カテ
・肺血栓塞栓症:Dダイマー、造影CT検査
・間質性肺炎:呼吸機能検査
・全身性疾患(神経筋疾患、貧血、甲状腺機能異常など)
〇慢性の咳、痰をきたす疾患
・肺癌
・間質性肺炎
・後鼻漏
参考
・Up to date
・COPD 診断と治療のためのガイドライン2022 第6版 日本呼吸器学会