薬の前に・・・。
〇禁煙
COPD患者において、禁煙の症例は重要なステップです!というかCOPDなのに禁煙しないのは論外!!!禁煙することでFEV1など呼吸機能の低下を緩やかにすることができます。まずは禁煙指導を優先して行いましょう。
〇吸入技術
正しい吸入方法の教育はCOPDのマネジメントにおいて非常に重要です。ガイドラインでは、COPDの患者すべてに症状緩和のための短時間作用型の吸入薬を処方するよう推奨しています。この最初の処方でしっかり教育を行うことが今後のアドヒアランスに直結してくることになります。目の前でデモンストレーションを行った上で患者の手技を確認し修正していくことが理想です。ビデオを見せることもよい手段です。うまくできないのであればデバイスを変更したり、補助デバイスを使用することも一手です。外来でも定期的に吸入手技を確認し、適宜指導を行っていきましょう。また、本人の認知機能、関節機能などもデバイス選択の際に考慮すべきです。
●呼吸器リハビリテーション
継続的な呼吸器リハビリテーションは運動耐容能の改善、QOLの改善、呼吸困難の減少、入院やER受診の頻度を減らす役割があります。GOLDも治療ストラテジーに組み込むことを推奨しています。
●ワクチン接種
・肺炎球菌:COPDの患者で増悪とCAPの頻度を減らすエビデンスがある。
・インフルエンザ:COPDの患者で増悪と入院の頻度を減らす。
・百日咳:19歳以上でも一度ワクチンを打っておくことが推奨されている。
●栄養
確固たるエビデンスはありませんが、適正なBMIを保つべきとされます。肥満患者では減量が呼吸困難の改善、運動耐用能の向上につながります。るい痩がある場合、筋量減少が呼吸筋力の低下に直結し、予後不良因子になってしまうため、積極的なカロリー補助が望ましいです。るいそうがひどい患者にはエンシュア®など栄養補助食品の処方を検討しましょう。
COPDのステージング
元々は下記の通り、FEV1%、FEV1で重症度分類がされていました。
しかし、本人の症状や増悪の頻度が必ずしもFEV1%、FEV1と相関しないことがわかってきました。そのため、より臨床的に本人の症状と増悪のリスクで分類を行い、それに応じた治療を行っていくことが推奨されるようになっています。
まずはCOPDの重症度分類に基づき、下記の通り分類を行います。これがいわゆるGroup分類です。
●Group A:症状は少なく、増悪のリスクも低い群
●Group B:症状は強いが、増悪のリスクが低い群
●Group C:症状は少ないが、増悪のリスクが高い群
●Group D:症状は強く、増悪のリスクも高い群
GOLDの提唱する治療の大原則は、治療の目的は患者の症状を改善させ、増悪の頻度を減らし、患者の機能とQOLを向上させることにあり、また治療は重症度に応じて選択されるべきである、ということです。
治療の中心となるのはβ刺激薬や抗コリン薬の吸入であり、単独であったり、組み合わせたり、ICSを併用したりすることもあります。
GroupAでの薬物治療
●Group A:症状は少なく、増悪のリスクも低い群
Up to dateによれば、COPDのすべての患者で、呼吸困難時用にSABAまたはSAMAを処方すべきとされており、GroupAの患者群においては、通常これらの薬剤のみで事足りるとされます。
本邦のガイドラインではSABAやSAMAは運動時の呼吸困難の予防に有効であると考えられ、特に重症患者では入浴などの日常生活の予防に有用であるとされます。
では、SABAとSAMAについてそれぞれ見ていきましょう。
〇β刺激薬(SABA)
SABAにはアルブテロール(ベネトリン)、プロカテロール(メプチン)などがあります。これらは呼吸機能と症状を改善させることが示されています。副作用予防のため、SABAは症状があるときにのみ用いられ、定期吸入としては使用しません。基本的に推奨されている量で使用すれば安全性は高いです。
振戦、頻脈、末梢血管拡張、低K血症といった副作用予防のため、使用量については気管支拡張の効果が最も高い量よりもやや少ない量で使用することが推奨されています。
・下記の通り、メプチン®が製剤が多彩で使いやすいかと考えます。
〇抗コリン薬(SAMA)
SAMAもSABAと同様、呼吸機能と症状を改善することが示されています。SABAと異なり、定期吸入と発作時の吸入のどちらがよいか比較した試験はありません。日本ではアトロベント®くらいしか選択肢がない、というかアトロベント®も採用がない病院が多いと思います。
*SAMAとSABA、どっちがいいのか?
アルブテロールとイプラトロピウムの比較試験が存在し、結果からどちらを使ってもよさそうです。
*SABA+SAMAはどうなの?
上記の併用療法は、単独療法と比較し呼吸機能の改善で効果的とされますが、増悪予防においては有意差がないと言われています
結局、GroupAではSABA、特にメプチン®を処方するのがベストと思います。
GroupBでの薬物治療
●Group B:症状は強いが、増悪のリスクが低い群
SABAまたはSAMAに加え、定期的なLABAまたはLAMAの吸入が推奨されます。GroupBにおいて、LABAもLAMAいずれも効果的といわれます。どちらを選ぶかですが、患者の合併症や副作用のリスクを鑑みて決定することになります。
〇LABA
日本国内では、LABA単剤はサルメテロール(セレベント®)、インダカテロール(オンブレス®)、ホルモテロール(オーキシス®)が使用可能です。LABAは心血管イベント、特に不整脈を有意に増加させると言われていましたが、元々不整脈があったり心不全の症例を除外するとその有意差は消失しました。よって、症例を選べばほとんど安全に使用することが可能です。逆に、明らかな不整脈や心不全がある症例では注意が必要と言えます。製剤はすべてDPIで、ネブライザーやpMDIはありません。
〇LAMA
日本国内では、LAMA単剤はチオトロピウム(スピリーバ®)、グリコピロニウム(シーブリ®)、ウメクリジニウム(エンクラッセ®)、アクリジニウム(エクリラ®)が使用可能です。LABAと大きな差はないが、LAMAの方が増悪の頻度を減らすことが期待できるとされます。pMDI製剤はありません。シーブリ®、エンクラッセ®、エクリラ®がDPI、スピリーバ®がDPIとソフトミスト製剤が使用できます。
*レスピマット製剤について
DPIやpMDIとも異なるソフトミスト製剤です。イメージとしてはネブライザーに近い感じでしょうか。スピリーバ、スピオルトがありますが、他の製剤に比較し肺組織によく到達すると言われています。ただ、より全身循環への取り込みも多くなってしまうようで、BMJのメタアナリシスで心血管リスクの上昇が指摘されました。その後、TIOSPIR試験でハンディヘラー製剤との非劣勢が示されましたが、発売元の基金で行われた試験なので専門家の間でも評価が分かれています。循環器疾患がある患者では用いないのが無難かもしれません。
*結局LAMA、LABAをどう使い分けるか?
増悪の頻度を抑える効果はLAMA>LABAです。LAMAの中ではアドヒアランス的には1日1回の吸入でよいエンクラッセ®がオススメですが、採用がないならスピリーバ®になるでしょうか。緑内障、前立腺肥大があればLABAを選択します。
*LAMAの尿閉の頻度は?
エビデンスとしては決着がついてない部分です。ただ、添付文書上は禁忌となっています。あるにしても頻度はかなり少ないのではないかといわれています。明らかに前立腺肥大の症状コントロールができていない患者には使わないのが無難と思われます。症状が軽度であったり、排尿症状がコントロールできているなら、患者さんにしっかりと説明した上で慎重に使用を検討します。
色々書きましたが、結論から言えばGroupBでは前立腺肥大、緑内障がなければLAMAを、あればLABAの使用が推奨されます。ただ、あまりに症状が強いようであれば後述のLABA/LAMAの合剤を使用してもよいかもしれません。
GroupCでの薬物治療
●Group C:症状は少ないが、増悪のリスクが高い群
LAMAはLABAなど他の薬剤よりも増悪予防効果が高いため、この群では初期治療として推奨されています。
GroupDでの薬物治療
●Group D:症状は強く、増悪のリスクも高い群
初期治療としては増悪リスクを鑑みLAMA単剤が推奨されます。CAT>20で症状が強い場合はLAMA/LABAの合剤を使用してもよいとされています。単剤をそれぞれ使用するよりも合剤を使用した方がアドヒアランス向上やコストの削減など多くのメリットがあります。
好酸球が300/µL以上であったり、ACOの特徴があるのであればICS/LABAも選択肢となりえます。実際のところ、症状が改善し治療効果の実感がある方が患者のアドヒアランスがよくなるため、基本的にはLABA/LAMAから入ることが多いです。
LABA/LAMAはグリコピロニウム/インダカテロール(ウルティブロ®)、ウメクリジニウム/ビランテロール(アノーロ®)、チオトロピウム/オロダテロール(スピオルト®)、グリコピロニウム/ホルモテロール(ビベスピ®)の4種類があります。
どの薬剤を使用してもよいと思いますが、個人的には1日1吸入ですみ、デバイス操作も簡便なアノーロ®がオススメです。
ICS/LABAまたはICS/LABA/LAMAの役割は?
〇ICS/LABA
LABA/LAMAと比較すると呼吸機能の改善、増悪・肺炎の頻度で劣っていますが、LABAやICS単剤と比較すると死亡率や増悪の頻度を低下させることが分かっています。LAMAが前立腺肥大や緑内障などで使用しにくい上、LABA単剤での治療では症状や増悪が抑えきれない場合に使用を検討します。COPOで適応があるのはレルベア100®、シムビコート®、アドエア®の3種類です。
*フルティフォーム®、アテキュラブリーズヘラー®はCOPDに適応がありません。
〇LABA/LAMA/ICS(いわゆるトリプル製剤)
現在テリルジー100®とビレーズトリ®、エナジア®がCOPDで適応が通っています。テリルジー®はIMPACT試験で、ビレーズトリ®はETHOS試験が根拠となるevidenceとなっています。いずれの試験も直近1年以内に増悪したことがある中等症以上のCOPDに対して、2剤の吸入よりも3剤の吸入の方が中等度以上の増悪を予防し、死亡率も低くなると結論されています。ICSの影響で肺炎が多くなることには注意が必要です。
シンプルなCOPDでは重症、増悪を繰り返してどうしようもないときにトリプル製剤の導入を検討する、ということになるとおもいます。なんでもかんでもトリプル製剤にしてしまうのはどんな感染症治療にもメロペネムを使ってしまうようなものですから、症例は選ぶべきです。
COPDの吸入薬と剤形まとめ
吸入薬以外の薬剤
〇テオフィリン
FEV1の改善効果は吸入気管支拡張薬と比較し小さいですが、LABAと併用した際の気管支拡張作用の上乗せ効果が報告されています。また、抗炎症作用やCOPD増悪の抑制効果がある可能性があるとされます。副作用として嘔気や不整脈などがあるため、気管支拡張薬だけではコントロールできない場合に使用を検討します。濃度は5-15μg/mlの間でコントロールしますが、可能な限り低濃度とします。
〇去痰薬
呼吸困難や呼吸機能に対する有効性はありません。カルボシステインは増悪歴のあるCOPD患者において、増悪を抑制しQOLを改善することが分かっています。
〇マクロライド
抗炎症作用、喀痰現象作用、免疫調節作用など、抗菌作用以外に複数の機能を持ちます。増悪抑制や入院現象といった作用が報告されています。耐性菌の問題や消化器症状、QT延長といった副作用があるため、気管支拡張薬のみではコントロールできない症例に限って投与を行います。NTMの可能性を考慮し、アジスロマイシンに交差耐性のないエリスロマイシンを少量使用します(400-600mg程度)。
薬物治療以外の選択肢
〇HOT
PaO2≦55Torrあるいは56-60Torrで肺性心、右心不全や多血症を有するCOPD患者に対して、1日15時間以上のHOTは生命予後を改善することがわかっています。
〇NPPV
エビデンスは良質なものはないが、呼吸困難、起床時の頭痛、過度の眠気などの症状や肺性心の徴候があり、高二酸化炭素血症や夜間の低換気などの睡眠呼吸障害がある症例、あるいは増悪を繰り返す症例に導入を検討します。
〇外科・内視鏡療法
最大限の非外科手術が行われているのにも関わらず、呼吸困難で日常生活に大きな障害となっている症例に検討します。肺容量減量術(LVRS)は上葉優位に気腫性変化が偏在し、運動能力の低下した患者に適応があります。FEV1の改善効果は、術後約3年認められます。より低侵襲性の気管支鏡下肺容量減量術(BVR)の開発が進んでいるようです。とはいえ、日本ではなかなか手術療法は行うことは少ないですかねぇ。
参考
・COPD診断と治療のためのガイドライン 第6版 2022 日本呼吸器学会
・Up to date
・呼吸器ジャーナル 喘息・COPD
画像の引用元
https://www.otsuka-elibrary.jp/academic/copd/index.html
https://jp.gsk.com/media/7363/venetlin_inh-guide_202102.pdf
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https://www.drs-net.novartis.co.jp/dr/products/product/onbrez/document/
https://www.rad-ar.or.jp/siori/search/result?n=10854&plain=1
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https://jp.gsk.com/ja-jp/news/press-releases/20190522_trelegy-launch/