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間質性肺炎入門

  • 2023年2月5日
  • 2023年2月5日
  • 呼吸器
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今回はアンタッチャブルな分野である間質性肺炎に手を出してみようと思います。

皆さん、間質性肺炎(IP)というとどのようなイメージがありますでしょうか?「UIPパターンとかNSIPパターンとか、訳が分からん!!」といったように、苦手意識を持っている人が多いのではないかと思います。私自身、間質性肺炎の診療にはあまり自信がありません。

そこでこの記事では皆さんの苦手意識を取り払い、間質性肺炎について学習する“とっかかり”になることを目標にまとめを作っていこうと思います。可能な限り平易な言葉で解説するので、厳密には間違っていることもあるかと思いますが、ある程度はご容赦ください。

間質性肺炎とは何か

実臨床での間質性肺炎

さて、皆さんはどのようなときに「ややっ、この人は間質性肺炎かな?」と思うでしょうか?

間質性肺炎に典型的なCT画像を提示します。

このような画像を見た時、皆さんは間質性肺炎を早期するのではないかと思います。

この間質性肺炎らしい陰影を言語化しますと、“両肺底部にスリガラス影、網状影が主体の陰影”ということになるかと思います。時折、下記のような気管支拡張症の陰影が間質性肺炎として扱われていることがあるため、まずは間質性肺炎とその他の疾患の区別をつけるようにしてください。

気管支拡張症

もう一度反復します。

間質性肺炎=“両肺底部にスリガラス影、網状影が主体の陰影を認めるもの”

です。その他、画像所見としては、線維化を反映して牽引性気管支拡張や肺ボリュームの低下を認めることもありますが、こちらは余裕があれば調べてみてください。

もちろんですが、これだけでは間質性肺炎の理解としては不十分です。ここからは用語や組織学的な部分を整理した上で、間質性肺炎に対しる理解を深めていきましょう。

びまん性肺疾患とは

まず、「びまん性肺疾患」という疾患群を理解しておきましょう。びまん性肺疾患とは、その名の通り“両側肺野にびまん性の陰影が広がる疾患群”のことを指します。経過や陰影の形、病理学的所見に関係なく、両肺に影があればびまん性肺疾患に該当することになります。含まれる疾患は以下の通り多岐にわたり、なんと細菌性肺炎や結核ですら条件を満たせばびまん性肺疾患に仲間入りすることになります。もちろんですがすべて覚える必要はなく、両肺にびまん性の陰影がある=びまん性肺疾患であることをわかって頂ければOKです。

肺の組織学、用語の整理

さて、本題の間質性肺炎の話に移る前に、肺の組織学について復習しておきましょう。

まず、以下に用語の整理を行っておきます。

用語を理解した上で下図をご覧頂き、対応関係を確認いただければと思います。

間質性肺炎の病態生理

前述の部分をご理解いただいた上で、ようやく本題に入ります。

間質性肺炎とは、びまん性肺疾患の中でも肺の“間質”(肺胞隔壁が主体だが、小葉間隔壁、胸膜、気管支、脈管構造も含む)を主体に炎症、線維化を起こす病態と定義されます。

なかなかこの間質という概念が理解しにくいですが、細菌性肺炎と対比しすると理解しやすいかと考えます。通常の細菌性肺炎が肺胞腔の中で炎症が主体なのに対し、間質性肺炎の場合は肺胞腔ではなくその外枠(肺胞隔壁)での炎症が主病態になります。間質が肥厚してしまうために肺胞腔内と肺動脈の間が厚くなってしまい、O2交換が上手にできなくなってしまうのが間質性肺炎です。以下、病態の模式図を提示します。

間質性肺炎の病態は基本的には過剰な自己免疫が主体です。初期は疾患ごとに特異的な病態をとりますが(例えば過敏性肺炎なら抗原吸入後の肉芽種性炎症が主体となる)、どの疾患であっても進行すると不可逆的な線維化を呈します。その最終段階がいわゆる“honeycomb lung”、つまり蜂巣肺です。

私は患者さんには“間質性肺炎はばい菌やウィルスが原因ではなく、自分の免疫が暴走することで起こる肺炎です。最終的には肺が硬くなり、息が苦しくなってきてしまいます”というように説明をしていますが、ざっくりとそのように理解して頂ければOKです。

間質性肺炎の分類

間質性肺炎には、びまん性肺疾患の中でも

・過敏性肺炎

・塵肺

・膠原病によるもの

・薬剤性

・放射線性

・サルコイドーシス

などが該当します。これらが否定的であり、明らかな原因がない間質性肺炎を特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias:IIPs)と呼称します。IIPsはその病理組織学パターンと頻度に基づき、さらに下記のように分類されます。

色々あるわけですが、この中で頻度が高いのは、

・特発性肺線維症(IPF)

・特発性非特異性間質性肺炎(iNSIP)

です。

二次的な間質性肺炎もIPFとiNSIPのいずれかに類似した画像パターンを呈するため、この2疾患について画像所見を抑えておくと全体像が見えてくるのではないかと思います。本来は病理学的な理解も必要なのですが、今回はそこまで突っ込まずに画像的所見を中心に解説していきたいと思います。

特発性肺線維症

特発性肺線維症はIIPsの中でも最も頻度の高く、慢性かつ進行性の経過をたどり、高度の線維化が進行して不可逆性の蜂巣肺形成をきたす予後不良かつ原因不明の肺疾患です。

画像所見としては通常型間質性肺炎(Usual interstitial pneumonia:UIP)パターンを呈します。

その特徴として、

①胸膜直下優位で不均等な分布を示すこと

➁蜂巣肺(牽引性気管支拡張を伴う場合もない場合も)

の2点が挙げられます。以下、典型例のCT画像をお示しします。

Radiopaediaより

ただし、蜂巣肺は進行しないと出てこない所見ですから、初期は胸膜直下優位で不均等な分布を示す網状影やスリガラス影を呈します。以下、1枚目よりももう少し初期段階のCTを提示します。

Radiopediaより

この不均等な分布というのがキモで、上記画像を見て頂くとわかるよう、正常な部分と網状影・スリガラス影が強い部分がモザイク状に混在しています。一方で、後述するNSIPパターンはベタっと均一な陰影をとるため、この陰影の分布という点がUIPパターンとの鑑別点になってきます。

UIPパターンはIPFだけでなく膠原病による間質性肺炎や慢性過敏性肺炎、サルコイドーシスによる間質性肺炎でも認めます。また、NSIPパターンでも末期には蜂巣肺を呈し、UIPパターンと類似した画像を呈することに注意が必要です。

特発性非特異性間質性肺炎

NSIPパターンとは

特発性非特異性間質性肺炎では非特異性間質性肺炎(nonspecific interstitial pneumonia:NSIP)パターンを呈します。NSIPパターンの画像診断のキモは、

①両肺底部に均一なスリガラス影、網状影、浸潤影を呈する

➁気管支血管束優位の分布を示す

ということです。早速画像を見てみましょう。

Radiopaediaより

何となくUIPパターンとは違ってベタっと均一な影、というのがお分かりいただけるでしょうか?

もう一枚NSIPパターンを見てみましょう。

Radiopaediaより

こちらは1例目よりも進行していそうですね。陰影が比較的均一なことに加え、気管支血管束周囲の陰影が目立っています。

反復になりますが、“陰影が比較的均一で、気管支血管束周囲の陰影が目立つものがNSIPパターン”です。

iNSIP以外には、膠原病に伴う間質性肺炎でNSIPパターンを呈することが多いです。NSIPパターンの陰影を見た際、関節炎や皮膚所見など、膠原病的な側面がないかもチェックするようにしましょう。

fNSIPとcNSIP

この部分は余力のある方だけご覧になってください。

NSIPは線維化が主体のfibrotic NSIP(fNSIP)と細胞成分が主体のcellular NSIP(cNSIP)に分類されます。前者は網状影が主体、後者はconsolidationが主体と理解して頂ければOKです。早速画像を見てみましょう。以下はfNSIPの画像です。

Radiopaediaより

網状影、スリガラス影が主体であり、consolidationは目立ちません。

一方、以下はcNSIPです。

BMC Pulm Med. 2015 Dec 9;15:159.

ちょっと“均一”な分布とは言い難いですが、UIPパターンとは違う印象を受け、consolidationが気管支血管束周囲主体に認めます。このconsolidationは、線維化よりも細胞成分の浸潤が主病態であり、組織が“みずみずしい”ことを反映しています。実はこのcNSIPの画像、呼吸器内科医が震え上がるMDA-5抗体陽性皮膚筋炎の間質性肺炎の画像です。一般的にcNSIPはfNSIPよりもステロイド反応性がよいとも言われていますが、筋炎関連間質性肺炎が多く含まれており、中にはMDA-5抗体陽性例もありますから治療の上ので決して油断はできません。

最後に

今回は間質性肺炎についてまとめてみましたが、如何でしたでしょうか?少しビジーになってしまいましたが、

・間質性肺炎に関わる用語の整理

・UIPパターン:胸膜直下優位で不均一な陰影で、進行すると蜂巣肺を伴う

・NSIPパターン:比較的均一な陰影で、気管支血管束優位

の3点をまずは理解して頂ければよいかと思います。その上で、興味が深まれば病理学的所見や薬物治療にまで手を伸ばしてみてください。本記事が間質性肺炎が苦手な人のとっかかりになれば幸いです。有料になりますが、呼吸器学会のガイドラインはよくまとまっています。興味があれば読んでみてください。

最後になりますが、間質性肺炎を見つけたらそのまま経過観察とせず、一度は呼吸器内科受診を勧めるようにしてください!

参考

・Eur Respir Rev. 2018 Dec 21;27(150):180076.

・N Engl J Med 2022; 387:533-545

・N Engl J Med. 2020 Sep 3;383(10):958-968.

・BMC Pulm Med. 2015 Dec 9;15:159.

・特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き 2022 改訂第4版 日本呼吸器学会

・Radiopaedia