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しびれの総論

  • 2023年1月31日
  • 2023年1月31日
  • 神経
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日常診療で「しびれ」を主訴に外来を受診される患者さんは少なくありません。一方で、非神経内科医の多くはこの「しびれ」に対して苦手意識を持っています。かくいう私も「しびれ」が苦手ですし、なんなら神経内科分野自体が得意ではありません。しびれ=とりあえずメチコバール!とならないよう、自戒の念を込めつつ、非神経内科医なりの立場で「しびれ」についてまとめていきたいと思います。

「しびれ」とはなにか?

早速哲学的な話ですね(笑)

〇感覚障害について

一般的なしびれの定義を示しますと、「末梢神経から大脳までの感覚神経伝導路の障害(感覚障害)であり、感覚鈍麻、異常感覚、錯感覚、感覚過敏の4種に大別される」というものです。

患者さんはしばしば麻痺(筋力低下)、振戦、筋痛、筋けいれん、関節に起因するこわばりなどを「しびれ」と表現することがあります。従って、「しびれ」が主訴の患者が受診した場合、真の「しびれ」、つまり感覚障害なのかどうかを見極める必要があるわけです。それが感覚障害でよさそうなら、さらにその種類まで言語化できると病態の把握に役立ちます。

以下に感覚鈍麻、異常感覚、錯感覚、感覚過敏についてまとめます。

病歴

では次に、病歴の取り方を見ていきましょう。

〇しびれ感の本態をとらえる

前述の通り、患者のしびれは雑多な症候が含まれます。

・麻痺(運動障害)

・振戦

・筋痛

・関節のこわばり

・感覚障害

などなどです。まずはしびれが何を指すのか、具体的に話をきいて言語化するようにしましょう。

特に感覚障害の場合、「ビリビリする」「ピリピリする」「ジーンとする」「触った感じが鈍い」「一枚皮が被ったよう」「足の裏に何かがくっついているよう」「砂利のような違和感がある」など、言い換えを促すとその種類がわかります。「正座で足がしびれた時」に例えてもらうというのも一つの手です。

また、運動障害の場合、「力が入らない」「動きが悪い」などの言葉に置き換えたり、箸を使う、書字、鍵を回す、ペットボトルのふたを開ける布団の上げ下ろし、階段昇降など、具体的な動作を尋ねることで障害部位を同定できます。

〇経過を把握する

しびれに限った話ではありませんが、経過を把握することは重要で、特に緊急性の高い疾患かどうかの判断に用いることができます。下記のように、病歴から経過をイメージするとよいでしょう。特にSudden onsetのしびれの場合、血管が破れた(脳出血、SAH、急性硬膜外血種)、詰まった(脳梗塞、急性動脈閉塞)、裂けた(大動脈解離)など、危険な疾患である可能性が高いため注意しましょう。

〇しびれの分布

自覚的な感覚障害の分布も有用な情報となり得ます。特にニューロパチーを疑う場合、分布、経過から単ニューロパチー、多発単ニューロパチー、多発ニューロパチーなのかを判断することで鑑別を絞ることができます。ただし、多発単ニューロパチーの初期は単ニューロパチーと区別がつかないことがあるので注意しましょう。

分布については、例外を抑えておくことも重要です。

手根管症候群の場合、自覚的な感覚障害の分布が正中神経領域に留まらず、小指を含めた手全体に及ぶことがあるので注意が必要です。また、手根管症候群でも前腕、肘、肩などのしびれ感、違和感などを訴えるproximal symptomの存在が知られているため、近位の症状があるからといって手根管症候群ではないと即断してはいけません。

頸椎症によりしびれは髄節に応じて何本かの指に限局するのが原則ですが、中高位頸椎の脊髄症では手全体のしびれ感となることもあります。また、頚椎症で四肢遠位部にしびれ感を生じ、多発ニューロパチーと紛らわしいことがあり、偽多発ニューロパチー型と呼ばれます。頚椎症では頸部、肩に加え、背部、肩甲骨間部に痛みを感じることが多いのも特徴です。

また、Wallenberg症候群の場合、そもそも自覚的なしびれがないことがあります。

〇しびれの寛解・増悪因子

どのような動作や状況でしびれ感が増悪・軽快するかという情報が診断に有用である場合があります。手根管症候群では起床時の増強、夜間覚醒、車や自転車の運転での増強や、しびれたときに振ると軽快するflick signが特徴的です。

頚椎症性神経根症のしびれ、痛みは咳やくしゃみ、いきむなどの静脈圧を上昇させる動作や頸部運動で増悪します。

腰部脊柱管狭窄症では、一定時間歩き続けると痛みが強くなって歩けなくなり、座って休むと回復する間欠性跛行が特徴的です。自転車では腰部前屈位をとるため症状が出現せずいくらでも長く乗ることができます。

〇障害部位は長さ依存性か長さ非依存性か

末梢神経障害を疑う場合、長さ依存性かどうか、という点が鑑別の上で極めて重要です。

以下、医学事始様の“末梢神経障害”の項より引用させて頂きます。

■長さ依存性の障害(遠位から障害される: length-dependent):代謝障害(糖尿病、ビタミンB1欠乏など)
■長さ非依存性の障害(近位も遠位も障害される:non-length-dependent):自己免疫機序(ギラン・バレー症候群、CIDPなど)

“・個人的にはこの点は極めて重要と感じております。神経が栄養不足に陥ると栄養を供給する細胞体から最も遠い場所からダメージを受けます(遠いところから順番に荷物を届けられなくなる)。例えば糖尿病性やビタミン不足などの代謝性が原因の場合はこのようなパターンで障害されます。よく学生の時に末梢神経障害では「遠位」、筋疾患は「近位」が障害されると習ったかもしれませんがそれはこのパターンを反映しています。
・しかし、末梢神経障害でも近位が障害される場合があります。これは栄養不足ではなく多くは自己免疫機序で抗体が神経を攻撃するパターンです。なのでCIDPでは近位筋と遠位筋が同時に障害されるパターンが多く、近位筋が先に障害を受ける場合もあります。近位筋障害の場合はつい筋疾患を想定してしまいますが、深部腱反射が低下している、感覚障害も伴うなど筋疾患としての矛盾点がある場合は末梢神経を病巣として想起する必要があります。
・また逆に糖尿病の患者さんが手がしびれて受診した場合にそれは糖尿病性ニューロパチーなのでしょうか?糖尿病性ニューロパチーは通常長さ依存性の障害になるため、必ず足から障害されます。このため手のしびれを呈した場合は手根管症候群や頚椎症性神経根症など別の原因を考慮する必要があります。このように長さ依存性かどうか?という視点は診断に常に有用な示唆を与えてくれるため必ず考慮するべきです。”

〇まとめ

上記をまとめると、以下のように病歴聴取をするとよいと考えます。

Step1.経過はどうか:緊急性のあるSudden onsetではないか。

Step2.しびれの本態は何か:感覚障害なのか運動障害なのかそれ以外か。

Step3.しびれの分布はどうか:感覚障害の場合どのニューロパチーに該当しそうか、長さ依存性かどうか。

Step4.しびれの増悪、寛解因子はあるか

身体所見

〇感覚障害

しびれのある部位の他覚的な感覚障害の診察が神経学的評価の出発点となります。ただし、しびれ感があっても他覚的感覚障害がないこともしばしばあります。逆に、自覚症状がなくても調べてみると痛覚低下、脱失がある場合があり、Wallenberg症候群、脊髄空洞症、近位型頚椎症性筋萎縮症でのC5領域の痛覚低下がその代表です。手根管症候群で自覚的なしびれは神経分布によらないことを前述しましたが、身体所見による感覚障害はring-finger splittingを示し、“他覚的な感覚障害はうそをつかない”ことを覚えておきましょう。

診察時は痛覚、温度感覚、触覚、振動覚、位置覚などの各modalityを調べますが、触覚などの感覚刺激を与えた時の錯感覚も他覚的感覚障害の1つといえます。感覚障害ではその範囲の決定が診断において最も役立つものであり、いずれかのmodality(通常錯感覚、ないし触覚、痛覚低下)を用いて範囲を明確にする方が、全てのmodalityについて調べるよりも効率がよいです。

感覚障害の範囲が末梢神経の支配に一致するか、髄節性か皮節性か、距離依存性かどうかなどは診断に直結するためよく確認するようにしましょう。

〇反射

腱反射は入力が感覚神経、中枢は脊髄、出力は運動神経で、その反射弓のどこの障害でも低下、消失しますが、特に感覚神経の時間的分散に鋭敏に反応して低下するので、ギランバレー症候群やCIDPなどの脱髄性ニューロパチーで早期から低下、消失します。

糖尿病性神経障害においても、大径線維有意に障害され、かつ若干の脱髄があるために、早期から反射は低下します。特に最も軸索長の長いアキレス腱反射が早期から低下し、診断基準にも採用されています。

頚椎症では上腕二頭筋反射(C5>C6)、上腕三頭筋反射(C7)、指屈筋反射、すなわちTromner反射、Hoffmann徴候(T1>C8支配)の間で解離を見出すことが、直ちに診断に結び付くことが多いです。

〇筋力低下

しびれ感に運動障害を伴う場合は、筋力低下の分布を詳細に検討することで、多くの場合正しい局在診断を下すことが可能です。

〇局所所見と誘発テスト

手根管症候群ではPhalen徴候、Tinel徴候、carpal compression testなどが用いられます。Tinel徴候はその他の種々の絞扼・圧迫性ニューロパチーにおいても重要な徴候となります。頚椎症では頸椎の稼働制限、Jackson徴候、Spurling徴候などが重要です。腰仙骨神経根障害においては神経進展徴候であるLasegue徴候、神経根圧迫の徴候であるKemp徴候などが用いられます。大腿神経を主体とする高位腰神経根での障害は、femoral nerve stretch signが認められます。これらの神経伸展徴候は根の物理的圧迫意外に、ギランバレー症候群、CIDP、血管炎でも陽性となることに留意しておきましょう。

検査

〇画像検査

しびれ感の評価のために用いられる画像検査としては脊椎や頭部のMRIが代表です。種々の疾患の評価に有用であることは間違いありませんが、特に脊椎のMRIでは健常者でも異常所見を呈するという偽陽性の率が高く、所見の特異度が低いとされます。このため、病歴や神経所見をおろそかにしてMRIに頼った診療を行うと誤診を招く可能性があり注意しましょう。

〇電気生理学的検査

電気生理学的検査は機能をみることができる点が利点であり、感覚障害、筋力低下などの患者の臨床徴候と直接対応する所見を得られる可能性があります。こちらも病歴、身体所見があって初めて有用となる検査であることに留意しておきましょう。

〇その他の検査

血液検査や神経生検が診断に有用である場合があります。

以下、医学事始様より末梢神経障害の各種精査について引用させて頂きます。

1.血液検査
・血算(血液像も)・生化学(Cre含む)・HbA1c・ビタミンB1/B12,葉酸(±銅)・甲状腺機能
・感染症関連:HBV, HCV, HIV, HTLV-1、サイトメガロウイルス
・異常蛋白血症関連:免疫電気泳動(免疫固定法)・免疫グロブリン(IgG, IgM, IgA)・κ/λ比・VEGF
・血管炎関連:CRP・赤沈・抗核抗体・抗SS-A/B抗体・PR3/MPO-ANCA・クリオグロブリン・ACE
・脱髄関連:抗ガングリオシド抗体・抗MAG/SGPG抗体
・傍腫瘍性神経症候群:抗Hu抗体・抗Yo抗体
・遺伝子検査:PMP22遺伝子・CMT関連・TTR(家族性アミロイドポリニューロパチー)
2.尿検査:尿沈渣(糸球体腎炎→血管炎を示唆する所見)・尿免疫電気泳動
3.画像検査:末梢神経障害と鑑別となる頸髄病変や腰髄病変などの検索目的 or 神経根の肥厚評価(造影MRIもしくはneurography) *神経根の造影効果に関してはこちらにまとめがあるのでご参照ください。
4.髄液検査
5.神経伝導検査:脱髄、軸索障害、分布の評価 こちら
*神経生検:こちらにまとめがあるのでご参照ください。”

見逃してはいけないしびれ

〇血管炎による多発単ニューロパチー

早期の治療介入で機能予後に大きな影響を与えるため、早期診断が重要です。

一方で、初期は単ニューロパチーを呈するため、診断が難しい場合があります。明らかな圧迫の病歴がないのに急に下垂足を呈したり、疼痛が非常に強い場合(血管炎による炎症を反映している)には鑑別に挙げるようにしましょう。

〇脳梗塞によるしびれ

言わずもがな見逃してはいけない疾患です。

特に自覚症状のない感覚低下を呈するWallenberg症候群や、特徴的な手足口症候群を呈する視床梗塞などに注意しましょう。

〇ギランバレー症候群

呼吸筋麻痺により致死的となりうる疾患です。

免疫学的機序を反映して急性発症であり、“発症日”を同定できることが多いです。通常は単相性の経過で通常2週間以内で症状はピークに達します。初期から近位筋、遠位筋がどちらも障害され、長さ非依存性の末梢神経障害を呈することが特徴です。

参考

・標準的神経治療 しびれ感 日本神経治療学会

・医学事始

末梢神経障害 neuropathy