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感染症の原則②-基本となる細菌群-

  • 2022年10月3日
  • 2023年1月26日
  • 感染症
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感染症の原則①では、感染症のトライアングルについて説明させて頂きました。患者を中心とし、臓器、微生物、抗菌薬の3要素が互いに関与しあっている構図が感染症のトライアングルなのでした。このうち、微生物の知識、理解が抜け落ちていることが多く、感染症診療を正しく行う上での弊害になっていることがよく見受けられます。今回は、この微生物の中で実臨床で遭遇しやすい細菌群についてまとめていきたいと思います。

GPCとGNRを理解しよう

細菌はGram染色への染まり方でGram陽性菌Gram陰性菌に分類され、更にそこから菌の形から球菌桿菌に分けられます。つまり、最終的にGram陽性球菌(GPC)、Gram陽性桿菌(GPR)、Gram陰性球菌(GNC)、Gram陰性桿菌(GNR)の4種に分類されることになります。補足ですが、Gram陽性菌は紫色に、Gram陰性菌は赤色に染まります。このうち、臨床的に頻度が高く、優先して覚えるべきグループはGPCGNRです。一応言っておくと、決してGPRとGNRを覚えなくていいということではないのですからね!

グラム陽性球菌(GPC)

まず、GPCについて学んでいきましょう。GPCは皮膚・軟部組織感染症、血流感染症を起こしやすい菌群であり、その形態によってブドウ球菌(cluster)連鎖球菌(chain)に分類されます。更に、ブドウ球菌は病原性の強いStaphyrococcus aureusと、病原性の弱いコアグラーゼ陰性Staphyrococcus(CNS)に分けられます。ここでは臨床的に重要なS.aureusについて詳しく見ていくことにします。S.aureusはメチシリンという抗菌薬に感受性であるMSSAと、耐性であるMRSAに分けることができます。メチリシンはペニシリン系抗菌薬の一種ですが、「MRSAには全てのβラクタム系抗菌薬が全く効果がない」というふうに理解した方がわかりやすいかと思います。我が国では、MSSAにはセファゾリンが、MRSAにはバンコマイシンが第一選択として使用されてます。

続いて連鎖球菌ですが、通常のStreptococcus sspと、異質なEnterococcusの2群に分類できます。前者の中には多くの連鎖菌が含有されており、乱暴なくくり方であることに注意が必要ですが、耐性化が進んでいないことが多く、ペニシリンGが第一選択として使用できます。一方、Enterococcusは連鎖球菌に属するにも関わらず、セフェム系が全く効果がなかったり、カルバペネム系の効果もイマイチであったりと、まるで異質な性質をもっています。そのうち、E.faecalisE.faeciemの2大菌種として有名です。この2種の大きな違いは、前者はペニシリン系抗菌薬であるアモキシシリンが第一選択なのに対し、後者にはβラクタム系がほとんど耐性であり、VCMが第一選択になる、という点です。ここはMSSAとMRSAの関係にていますね。

さて、上述のGPCについての内容を下図にまとめてみました。まずはこの図が自然に頭に思い浮かぶよう、何度も書いて覚えてみてください。

グラム陰性桿菌(GNR)

続いてGNRを見ていきましょう。GNRは尿路感染症や胆管炎などの腹腔内感染症を引き起こす菌群であり、最初に大きく二種の菌種、腸内細菌科ブドウ糖非発酵菌に分類できます。「腸内細菌科の定義は?」とか、まずは難しいことは考えないようにしましょう。腸内細菌科はGram染色では比較的太くて先端の丸い菌体をしています。このグループでは最初に市中感染で頻度の高いE.coli、Proteus mirabilis、Klebsiella pneumoniaeの3種の細菌を押さえておきましょう。人によっては頭文字をとってPEKなんて呼ぶ人もいます。これらの細菌はESBLを産生し耐性化することがあるので注意が必要です。続いて、医療関連感染で頻度の高いCitorobacter、Enterobacter、Serratiaの3種の菌を抑えましょう。こちらは頭文字をとってSCEと呼んだりします。これらの細菌はAmp-Cというβラクタマーゼを過剰産生し、耐性化することがあるので注意が必要です。ESBLとAmp-Cについてはまた後述しますね。

さて、ブドウ糖非発酵菌ですが、Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)Acinetobacterの2種を覚えてください。Gram染色では前者は細く先端の尖ったような形をしており、後者は小さく丸く、球菌に近い形をしています。この2種は腸内細菌科とは全く違った性質を持っており、個別に理解しておく必要があります。いずれも市中よりも医療関連感染でお目にかかることが多く、元々の性質として抗菌薬への耐性を持っており、更に抗菌薬暴露で耐性を獲得していく能力も高いです。幸い、本邦ではAcinetobacterの耐性菌が問題となることは少ないですが、P.aeruginosaについてはどの診療科の先生方もその耐性に悩まされる菌種であると思います。

以下、腸内細菌科のPEK、SCE、ブドウ糖非発酵菌の緑膿菌、Acinetobacterについて図にまとめました。確認して復習してみてください。

ESBLとAmp-Cについて

GNRのところでESBLAmp-Cという単語が出てきて、何のこっちゃという方もいるかもしれません。いずれもβラクタマーゼといってβラクタム系抗菌薬を分解してしまう酵素のことです。いずれもGNR感染症使用されることの多い、セフトリアキソンやセフォタキシム、セフタジジムといった第三世代セフェムが効かないというのがポイントです。この酵素を産生する可能性がどのくらいかによって、抗菌薬をどこまで広域にするかを判断していくことになるため、抗菌薬決定の上で押さえておくべき耐性機序ということになります。いずれも第一選択はメロペネムなどのカルバペネム系ですが、軽症であれば代替薬の使用が検討できます。細かい違いについては下記にまとめましたので参考にしてください。

嫌気性菌と細胞内寄生菌

さて、ここまでGPCとGNRについて見てきましたが、もちろんその他にも感染症を起こす細菌は星の数ほど存在するわけです。全てを取り扱うとキリがないので、特殊なグループである嫌気性菌細胞内寄生菌について簡単に説明してこの項の締めとしたいと思います。

まず、嫌気性菌についてです。嫌気性菌はClostridioides difficile、Bacteroides fragilis、口腔内嫌気性菌の3つのグループに分けて考えるとよいでしょう。C.difficileは言わずもがな抗菌薬関連下痢症の代名詞であり、院内での発熱でよく目にする原因です。バンコマイシンの内服など、抗菌薬選択が少し特殊なのでこれは別で覚えましょうB.fragilisは横隔膜より下の嫌気性菌口腔内嫌気性菌は横隔膜より上の嫌気性菌と呼称されます。B.fragilisはペニシリナーゼを産生するため、βラクタマーゼ阻害薬を配合ペニシリン系抗菌薬、具体的にはアンピシリン・スルバクタム等が必要になります。また、クリンダマイシンが効かないことも特徴です。一方で、口腔内嫌気性菌の多くにはペニシリン系抗菌薬単体で効果があり(すべてではありません)、クリンダマイシンも効きます。この違いのため、両者は区別して扱うべきとされています。

最後に細胞内寄生菌についてです。感染症の大家・青木眞先生はこのグループを「LLMNSS」と呼んでいますが、これはListeria、Legionella、Mycobacterium、Nocardia、Salmonella、Staphylococcus aureusの頭文字を取ったものです。このグループはその名の如く細胞内に寄生する菌であり、よく使用するβラクタム系の効果がない、または効きにくく、抗菌薬選択に注意する必要があります。また、熱源として同定しにくいことが多く、その確定診断に生検が必要となることもしばしばあります。血流感染症や膿瘍性疾患と共に不明熱の鑑別には必須ですので、必ず覚えるようにしましょう。

以上で本項は終了です。何となーく抑えるべき細菌達への理解は深まったでしょうか?大体ここに出てくる細菌の特徴を覚えておけば実臨床で困ることは少なくなるのではないかと思います。最初は覚えるのは大変かもしれませんが、少しずつ記憶に定着させていきましょう^^