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Restless legs syndrom(むずむず脚症候群)

 

 Restless legs syndrom(RLS)とは、じっと座ったり横になったりすると、主に下肢にむずむずする、ぴりぴりする、虫が這うような感じがするといった強い不快感が現れる症候群です。症状は夕方から夜間に出現し、脚を動かすことで改善するも、じっとしているとすぐに症状が再燃します。むずむず脚症候群はRLSの異訳であり、下肢静止不能症候群とも呼称されることがあります。

 RLSの病態生理は分かっていないことも多いのですが、主に中枢神経におけるドパミン系機能低下鉄利用能障害が主要な原因だと考えられています。他にもグルタミン、ヒスタミン、GABAといった神経伝達物質の機能異常、末梢神経障害、下肢血管機能の異常といった要素も指摘されています。ここでは、ドパミンと鉄利用能障害の2つをピックアップして詳説します。

 

中枢神経におけるドパミン系機能低下

 RLSにはドパミンアゴニストが著効することから、ドパミン系機能低下が病態に深く関与していることが示唆されていますが、パーキンソン病患者における黒質ドパミン細胞の脱落のような明らかな病理学的所見は見つかっていません。一方、機能的MRI検査においては、RLSの患者ではドパミン作動性ネットワークの機能低下やドパミンの日内変動が見られることがわかっています。これらのことから、RLSはドパミンの機能性障害が根底にあり、パーキンソン病のような神経変性疾患ではないという考えが主流となっています。

鉄の利用障害

RLSの患者では、

・脳脊髄液のフェリチン低下

・黒質、線条体、視床、赤核における貯蔵鉄の低下

・剖検標本での中枢神経における鉄/フェリチン/トランスフェリン受容体の染色減少、トランスフェリンの染色増加

といった鉄動態に関する異常が多数報告されており、中枢神経系の貯蔵鉄の減少が病態に関与していることが確実視されています。実際、フェリチンの低下があるRLS患者に対して鉄剤投与を行うと、ドパミンアゴニストの併用なしで症状が改善することが多いようです。ただ、何故RLSでは中枢神経の貯蔵鉄が低下するのか?という点についてはよくわかっていません。この点についてもドパミン系と同様、病理学的には同定できない機能異常が背景にあるのかもしれません。

 RLSの有病率は地域、人種によって大きく異なっています。欧米での白人における有病率は4~15%ですが、アジア人では少ないとされており、本邦では1~4%程度の有病率とされています。年齢による変動は少ないとされていますが、若年者に多いという報告もあれば高齢者の方が多いという報告もあり、一貫した結果が得られていません。性別についてはほとんどの報告で女性の方が男性よりも多いことがわかっており、妊娠やホルモン変動の影響が示唆されています。また、第1度近親者にRLS患者がいる人のRLSの有病率は、いない人の3~5倍とされており、RLSの発症に遺伝的な要素が関与しているようです。

 

 他疾患に関連した二次性のRLSも数多く報告されており、腎不全(特に維持透析中)、鉄欠乏、妊娠などの頻度が高いです。脳神経疾患との関連も強く、脊髄症、糖尿病、末梢神経障害、パーキンソン病との関連も見られます。また、選択的セロトニン再取り込み抑制薬や三環系抗うつ薬、抗ヒスタミン薬による薬剤性の報告も散見されます。

 

 RLSの中核症状は「下肢を動かさずにはいられない衝動」であり、多くの場合、それと関連して下肢の異常感覚を伴います。この症状が「夕方から夜間に生じるあるいは増悪する」「安静によって増悪する」「運動によって改善する」のがRLSの特徴です。

 

異常感覚

 むずむず脚症候群という名称の通り、RLSにおける下肢の異常感覚は「むずむず」するというのが一般には知られています。ただ、実際にはRLSの患者さんは「虫が脚の中を這うような感じ」、「火照る」、「不快でたまらない」、「イライラする」といった多彩な訴え方をするため、「むずむず」に固執してしまうとRLSを見落としてしまうことになりかねません。うまく症状を言語化できなかったり、方言で表現される方もいらっしゃいます。このため、あまり「むずむず」という表現にはこだわらず、「何かしらの異常感覚を伴う下肢を動かしたいという衝動」という一連の病歴を重視するとよいでしょう。

症状の増悪と改善

 RLSの症状は夕方~夜間にのみ起こる、もしくは増悪するという日内変動が特徴です。逆に、朝の時間帯に症状が出現することは極めて稀です。また、安静により症状が始まり、増悪することも特徴であり、動きを制限されるほど、また安静が長時間になるほど症状が増悪します。

 

 このため、夜間および安静の両要素を伴う就床後は症状が出現しやすく、「寝床に入ってしばらくするとじっとしていなれなくなり寝付けない」、「夜中に目が覚めた時、脚が深いで寝付くことができない」という訴えが典型例となります。また、日中であれば「劇場や映画館で長時間座っていると脚が深いで耐えられなくなる」、「飛行機や新幹線で狭い席に座っているのがつらい」といった症状を訴えることもあります。

 

 RLSの症状は、歩いたり足を伸ばすなどの運動によって、少なくとも運動を続けている間は改善がみられるという特徴があります。患者さんは症状を改善するために、無意識あるいは意識的に運動による改善を図っており、寝床の中で脚を動かす、立ち上がって歩く、屈伸する、脚をさする、脚をたたく、マッサージするといった対処をしています。

周期性四肢運動

 周期性四肢運動(periodic limb movements:PLM)とは、睡眠中に主に下肢が周期的に短く動くものをいい、睡眠中あるいは覚醒時にも出現します。RLS患者の8割以上と高頻度にが合併することが知られており、就床すると下肢がぴくつく、入眠しかけると下肢がぴくついて眠れないといった症状を訴えることがありますが、多くの場合はPLMを自覚していないことが多いです。このため、PLMは病歴で捕まえることは難しく、終夜睡眠ポリグラフィによって同定されることがほとんどです。

RLS症状に伴う夜間・日中の障害

 RLSは夜間の睡眠を強く障害し、睡眠を量的にも質的にも低下させます。RLSが単なる不眠症として治療されていることも少なくない上、通常の眠剤の効果がないために、患者さんのQOLが大きく障害されていることがあります。また、日中の眠気や疲労感の原因となるだけでなく、自律神経の活性化につながり、血圧・心拍数を増加させ、高血圧、心血管イベントのリスクを上昇させることも分かっています。

 

 RLSの診断は病歴による臨床診断が基本であり、特殊な検査を必要としません。下記の診断基準における5つの必須診断基準と4つの補助的臨床的特徴を確認し、二次性RLSを除外することにより診断します。

 

 まず、病歴で把握できる範囲で必須診断基準と補助的臨床的特徴がないか確認していきましょう。症状の項目も参考にして頂き、丁寧に病歴聴取をしていくことになりますが、ここで重要なのがRLS mimicsの除外です。RLS mimicsはRLSの鑑別診断群であり、アカシジア、下肢ミオクローヌス、こむらがえり、下肢血管障害、気分障害、painful legs and moving toes症候群が該当します。下図にそれぞれの特徴をまとめましたので、問診の際に参考にしてください。

 

 

 基本的には必須診断基準が5つ揃った場合にRLSの確定診断としますが、初期には全てが揃わないこともあり、その場合には補助的臨床的特徴も参考とします。具体的にはドパミンアゴニストの効果を確認するために診断的治療を行ったり、睡眠中のPLMを同定するために睡眠ポリグラフ検査を追加するなど、病歴のみでは判断できない項目をチェックしていくことになります。

 

 RLSの診断となった後、二次性の要素がないか確認していきます。二次性RLSの原因として、薬物(抗うつ薬、抗精神病薬、メトクロプラミド、抗ヒスタミン薬など)の内服、鉄欠乏性貧血、透析患者、妊娠、末梢神経障害を呈する疾患、パーキンソン病、脊髄障害、関節リウマチといった疾患が知られています。鑑別の幅が広く、全てをカバーするには骨が折れますが、RLSらしい場合には、

・現在の内服薬

・筋固縮・振戦・歩行様式といったパーキンソン病症状の有無

・深部腱反射

・血液検査(肝腎機能、血糖、血清鉄、フェリチン、トランスフェリン、vitB12)

といった項目を最低限確認しておくとよいでしょう。また、一次性と二次性の区別がつかない、または両者を合併していることもあるため注意が必要です(特に鉄欠乏など)。

 RLSの治療には鉄剤、ドパミンアゴニスト、ガバペンチノイドが用いられます(クロナゼパムなどのベンゾジアゼピン系が使用されていたこともありますが、現在は補助的に使用されるに留まっています)。ここでは、3剤それぞれの適応と特徴を確認していきましょう。

 

鉄剤

 病態の項目でも触れた通り、中枢神経での貯蔵鉄不足がRLSの主要な要因であるとされています。血液検査で貯蔵鉄の低下、具体的にはフェリチン≦75μg/mlであれば鉄剤補充を行います。必ずしも鉄欠乏性貧血や血清鉄の低下を合併している必要はなく、あくまで貯蔵鉄の指標であるフェリチンが重要です。

 

 鉄剤の効果が出るには時間がかかり、症例によっては数か月かかる場合もあります。経口鉄剤よりも静注鉄剤の方が効果発現が早いとされます。一般にフェリチンが100μg/mlを越えることを目標に鉄剤を投与し、ヘモクロマトーシスなどの合併症を予防するために不必要に補充を継続しないようにしましょう。フェリチンが十分に上昇しても症状が改善しない場合、ドパミンアゴニストなど他の薬物治療を検討します。

  

 また、鉄剤の補充と共に、消化管出血といった鉄欠乏の原因検索も忘れないようにしましょう

ドパミンアゴニスト

 RLSに用いられるドパミンアゴニストとして、プラミペキソール(ビ・シフロール®)ロチゴチン貼付薬(ニュープロパッチ®)があります。症状が間歇的である場合には、症状が強いときにプラミペキソール 0.25mgを頓用してもらうようにします。それで効果がない場合や症状が持続性で強い場合には、プラミペキソール 0.25~0.5mgを眠前2時間に内服させる、またはロチゴチン貼付薬を2.25~6.75mg日で使用します。

 

 ドパミンアゴニスト共通の副作用として、内服開始時の悪心・嘔吐といった消化器症状や、日中の突然かつ強力な眠気があります。前者は1~2週間の経過で改善しますが、後者に関しては予防が難しく、運転や高所作業を避けてもらう必要があります。

 

 また、ドパミンアゴニストでRLSの治療する際に問題となる現象として、Argumentationがあります。これはドパミンアゴニストによる治療で生じる医原性のRLS症状の悪化を指し、6か月以上症状が安定していた患者がさらに投薬を要求した際に疑う必要があります。Argumentationを生じた場合、他剤への変更が必要となることが多いです。

ガバペンチノイド

 ガバペンチノイドにはガバペンチンエナカビル(レグナイト®)、ガバペンチン(ガバペン®)、プレガバリン(リリカ®)、ミロガバリン(タリージェ®)といった種類がありますが、RLSに保険適応があるのはガバペンチンエナカビル(レグナイト®)のみです。

 

 元々はドパミンアゴニストに次ぐ第二選択薬という位置づけでしたが、最近はargumentationを避けるために第一選択とすべきであるという意見が出てきています。実際、UpToDateではドパミンアゴニストを差し置いて第一選択薬とされています。また、不眠、疼痛が強い場合や、衝動制御障害の既往、全般性不安障害合併例など、ドパミンアゴニストが不適である症例には本剤で開始した方がよいとされます。

 

 投与方法については300mg/日で開始し、ふらつき、眠気の副作用がなければ600mgに増量していきます。主な副作用は眠気(20%)、ふらつき(10%)であり、argumentationを生じたという報告はありません。

  

 以上、RLSについてまとめてきました。私も外来でRLSの患者さんを担当していたことがありますが、その方にはプラミペキソールが著効し、大変感謝頂いたことが印象に残っています。レグナイト®の優先順位が高まってきている点はトピックとして押さえておいた方がよいでしょう。

 

 最後に重要事項を提示して本稿を締めくくりたいとと思います。

RLSは「下肢を動かさずにはいられない衝動」と「下肢の異常感覚」が中核症状であり、この症状が「夕方から夜間に生じるあるいは増悪する」、「安静によって増悪する」、「運動によって改善する」ことが特徴である。

・RLSの病態はわかっていないことも多いが、主に中枢神経におけるドパミン系機能低下と鉄利用能障害が主要な原因だと考えられている。

・RLSの診断は詳細な病歴聴取とRLS mimicsの除外による臨床診断により行う。

・診断時には最低限内服薬、パーキンソン病症状、腱反射、鉄動態を含めた血液検査を行い、二次性の可能性を検討しておく。

・治療は貯蔵鉄の低下があれば鉄剤から開始し、そうでなければプラミペキソール(ビ・シフロール®)やガバペンチンエナカビル(レグナイト®)を使用する

 

・標準的神経治療:Restless legs症候群 日本神経治療学会

・UpToDate

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