Ca代謝について
Caは99%が骨に存在していますが、それ以外に平滑筋の収縮、神経伝達、心筋の刺激伝導、血液凝固など、種々の重要な働きをしている電解質です。
Ca代謝にとって重要なホルモンとして、PTH(副甲状腺ホルモン)と活性型ビタミンDがあります。
PTHは、
①骨吸収しCaを血中に動員
➁ビタミンDを活性化→腸管からのCa吸収増加
③腎臓遠位尿細管でのCa再吸収を増加
という3つの機序で血中Ca濃度を上昇させます。
一方、活性型ビタミンDは、
①腸管からのCa吸収増加
➁PTH分泌抑制
③骨吸収>骨形成
というように働きます。基本的にはCaを増加させる方向に働きますが、PTHを抑制する作用もあります。
また、Ca濃度はCaSR(Calcium-sensing receptor:Ca感知受容体)という受容体が副甲状腺・腎遠位病細管に存在し、同部位で感知することでCa濃度の調整を行っています。
これらのメカニズムにより、血液中のCa濃度は8.5-10.5mg/dLの間で厳密にコントロールされています。
CaはAlbと結合して存在しているため、低Alb血症では補正が必要です(Ca+0.8×[4-Alb])。
病態
高Ca血症の原因については、骨吸収の亢進、Ca吸収の増加、その他に分類されます。
骨吸収の亢進
原発性副甲状腺機能亢進症ではPTHが自律的に分泌されることで高Ca血症を呈します。
CKDの患者では腎からのCa排泄が低下しますが、それ以上にビタミンDが不足することで腸管からのCa吸収が低下し、低Ca血症を呈します。それにより副甲状腺は過形成となり、血中PTHは上昇することになります。これを二次性副甲状腺機能亢進症と呼称します。この時点では血中Ca濃度は低-正常値を示しますが、ビタミンDや炭酸Caの内服などのCa負荷が急にかかってしまうと急激な高Ca血症を呈することがあります。
また、CKDが持続することでさらに副甲状腺が過形成となると、PTHがCa濃度によらず自律性に分泌されるようになってしまいます。この状態を三次性副甲状腺機能亢進症と呼称します。このような状態で腎移植を行うと、術後に一過性の高Ca血症を呈することがあります。
悪性腫瘍による高Ca血症は頻度が高く、常に鑑別に挙げておく必要があります。その機序は主に3つあり、①腫瘍によるPTH関連蛋白(PTHrP)の産生、➁腫瘍による活性型ビタミンDの産生、③骨転移に伴う溶骨です。
甲状腺機能亢進症では骨代謝が亢進することにより、最大20%の患者で軽度の高Ca血症を認めるとされています。
Ca吸収の増加
ビタミンDを内服している骨粗鬆症患者さんは多いですが、これにより腸管からのCa吸収が亢進することで高Ca血症を呈することがしばしばあります。
CKDだけでは通常低Ca血症となりますが、炭酸CaとビタミンD内服を行うことで吸収されるCa量が増加し、高Ca血症となり得ます。
ミルクアルカリ症候群は過度のCa摂取により高Ca血症、代謝性アルカローシス、腎不全を呈する疾患です。かつて胃潰瘍の治療にCa製剤が使用されていたことによく見られましたが、今日では稀です。現在では骨粗鬆症で炭酸Ca製剤を内服している患者さんで起こることがあるようです。
その他
リチウム製剤を内服しているとPTH濃度が上昇し、高Ca血症を呈します。
サイアザイド系利尿薬は尿中Ca排泄が低下することで血中Caが上昇しますが、臨床的に問題となることは少ないです。
褐色細胞腫でも高Ca血症を呈することがありますが、これは多発性内分泌腫瘍2型(MEN2)で同時に発生する副甲状腺機能亢進症によるものと、褐色細胞腫そのものがPTHrPを産生するものとに分けられます。
副腎不全では骨吸収の増加、近位尿細管でのCa再吸収増加、血液濃縮など、複数の要素で高
Ca血症をきたします。コルチゾールの補充により数日以内に改善するようです。
横紋筋融解症では筋肉内のCaが放出されることにより高Ca血症を呈します。
症状
高Ca血症は正常上限~12mg/dLを軽症、12~14mg/dLを中等症、14mg/dL以上を重症として扱います。
軽症の場合は無症状のことが多いですが、便秘や抑うつなどの非特異的な症状を呈することがあります。中等症の場合、Ca値の上昇が急激であると種々の症状が出始めますが、慢性経過の場合は無症状のこともあります。重症の場合は基本的には症候性となります。
以下、高Ca血症で生じる症状を表にまとめます。
診断
日本人では悪性腫瘍による高Ca血症が最も多く、6-7割を占めます。次点で原発性副甲状腺機能亢進症が2割を、その他をビタミンD過剰などが占めています。
原因の評価では、まず血清Mg、Cr、PTHを評価します。
正常-高値であれば続いて24時間蓄尿Ca/Crを評価することで鑑別をつけることができます。
PTH低値の場合はPTHrP、25(OH)D、1,25(OH)2Dを追加で評価を行います。PTHrPが上昇していれば悪性腫瘍に伴う高Ca血症として原発巣の検索を行います。25(OH)Dが上昇している場合、リンパ腫やサルコイドーシスの他、結核の可能性もあり得ます。
以下に診断までのフローを掲載します。
治療
輸液
高Ca血症では腎性尿崩症による脱水を伴うことが多いため、まずは生理食塩水による補液を行います。乳酸リンゲル液などにはCaが含まれているため避けた方がよいでしょう。教科書的には250-500ml/hと記載されていますが、体液量をみながら調整する必要があります。
ループ利尿薬
脱水が補正された後、フロセミド20-40mg静注によるCa排泄を促します。
サイアザイド系利尿薬は高Ca血症を助長するため禁忌です。
ゾレンドロン酸
ゾレンドロン酸(ゾメタ®)4mgを15分以上かけて点滴静注を行います。効果発現まで2-4日かかりますが、4-7日後には60-90%で血清Ca濃度の正常化を認めます。一回の投与で2-4週間効果が持続するため基本的には単回投与に留めますが、添付文書上は2回目の投与までは許容されています。
カルシトニン
カルシトニンは添付文書上40単位1日2回皮下注で使用しますが、海外での用量と比較するとかなり少ないため(4-8単位/kg 1日2回)、あまり効果は期待できません。また、escape phenomenonという効果の減弱が起こり、24-48時間しか有効でないため長期は投与しません。
透析
腎機能障害や溢水が著明で補液ができない場合、透析を検討します。
また、ステロイドは悪性リンパ腫に伴うビタミンDが上昇している高Ca血症で使用を検討します。
参考
・Up to date
・ホスピタリストのための内科診療フローチャート 第2版
※Ca代謝の図は妻に作ってもらいました。ありがとう!