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急性膵炎

  • 2023年2月14日
  • 2023年2月14日
  • 消化器
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病態

急性膵炎は何らかの原因で膵臓に炎症が起こり、心窩部痛と血中膵酵素の上昇などをきたす疾患です。

膵臓にはインスリンなどの内分泌機能とタンパク質分解酵素であるトリプシンなどの外分泌機能があります。急性膵炎では、胆石やアルコールといった刺激を契機に膵臓組織内でタンパク質分解酵素の活性化が起こり、自己消化による高度の炎症が生じます。さらに膵臓の障害が進むと、膵酵素が血中に放出されることで種々のサイトカインが活性化し、全身性炎症反応症候群(SIRS)となり、多臓器不全を引き起こします。

疫学

急性膵炎の罹患率は高所得国では34人/10万人年とされています。

重症化するのは20%とされており、全体の死亡率は5%です。最初の2週間ではSIRSと多臓器不全による死亡が多く、2週間後は敗血症による死亡が多いです。

原因としては胆石(45%)、アルコール(20%)が最も多い原因です。

その他は以下のものがあります。

・薬剤性(アザチオプリン、6-MP、バルプロ酸、ACE阻害薬、メサラジン、DPP-4阻害薬など

・ERCP後(5-10%の確率で発症)

・高トリグリセライド血症(TG>1000mg/dlがリスク)

・高カルシウム血症

・感染症

・遺伝

・自己免疫(IgG4関連疾患、SLE、SSj)

・外傷

一方で、年齢が上がるにつれて原因のはっきりしない特発性の頻度が上昇するとされます。

症状

急性膵炎で最も多い症状は腹痛であり、92.1%とされています。ついで嘔吐(27%)、発熱(16.9%)、背部痛(16.7%)が頻度の高い症状です。後腹膜主体に炎症が広がるため、疼痛の割に腹部は柔らかい場合が多いです。前屈で疼痛が改善し、後屈で増悪するのが特徴的とされます。

一方で腹痛全体では急性膵炎は2.9%とされており、血中膵酵素の測定は腹痛患者でルーチンに行うべきではないとされています。

有名なGrey-Turner徴候やCullen徴候、Fox徴候などの皮膚着色斑は出現頻度は低く、3%とされています。

診断

診断基準

ガイドラインにおける診断基準を以下に示します。

血液検査

急性膵炎の診断において、膵酵素の測定は一般的には血中アミラーゼ、リパーゼの測定が行われています。

アミラーゼは急性膵炎の発症から6-12時間以内に上昇するとされ、正常上限の3倍をカットオフ値とすると感度は67-83%、特異度は85-98%になります。一方、リパーゼは発症から4-8時間以内に上昇し、感度は82-100%とされています。一般的にリパーゼがアミラーゼよりも精度が高いとされていますが、報告によりまちまちで優劣はつけがたい印象です。

その他、炎症による白血球増多、BUN上昇、低カルシウム血症、糖代謝異常を伴うことがあります。

CT

CTは急性膵炎の診断に有用で、膵臓全体の形態変化が可能であるだけでなく、膵周囲の炎症波及領域や液体貯留の評価、膵嚢胞など合併症の描出も可能です。Up to dateでは発症から3日以上後に撮影することで膵壊死の範囲と局所合併症の評価が可能とされています。後述の重症度評価においても造影CTによるCT grade分類が使用されます。

MRI

MRI/MRCP1は総胆管結石の他、膵・胆管合流異常、膵管癒合不全などを描出し、急性膵炎の成因診断に有用であるとされます。ただし、撮影に時間がかかることが欠点で、患者さんの状態が安定してから検査を行う必要があります。

重症度分類

予後因子3点以上もしくは造影CT grade2以上を重症として扱います。

白:Grade1、灰色:Grade2、黒Grade3

また、入院後に重症化する例も存在するため、繰り返し重症度評価を行うことが推奨されています。特に予後因子はvitalや採血項目で評価が可能であるため、少なくとも診断時、翌日、さらにその翌日までは繰り返し実施することが勧められています

治療

輸液

特に発症24時間以内の細胞外液輸液が最も重要です。乳酸リンゲル液など晶質液を使用します。MAP 65mmHg以上、尿量 0.5ml/kg/h以上を維持することを目標とします。ただし、2021年のガイドラインでは腹腔内コンパートメント症候群など過剰輸液の弊害についても強調されており、ただ大量輸液を行うのではなく、体格や複数の静的指標+動的指標を用いて個々人に合わせた輸液を行う必要があります。

鎮痛

急性膵炎では迅速な鎮痛薬の使用が推奨されています。まずはアセトアミノフェン、NSAIDs、ペンタゾシンなどの非オピオイドの投与を行い、その後、疼痛の程度に応じてフェンタニルなどのオピオイドの使用も考慮します。

予防的抗菌薬

腸管内からのtranslocationによる二次感染が起こりうることを考慮し、以前は膵炎に対する予防的抗菌薬投与は広く行われていました。しかし、予防的な抗菌薬投与がこれを予防しないことがわかってきており、原則急性膵炎に対して抗菌薬の予防投与は行いません。ただし、胆石性膵炎などで胆管炎の併発があるなど、感染が明らかな場合には抗菌薬投与を行います。

蛋白分解酵素阻害薬

こちらについても予後改善効果は証明されていないため、原則投与を行いません。

また、PPIやH2ブロッカーなど胃酸分泌抑制薬もルーチンでの投与は不要です。

早期経腸療法

炎症により消耗したエネルギーを補うことに加えて、腸管からのbacterial translocationを予防する効果があるため、重篤な腸管合併症のない重症例では、経腸栄養を少量からでも48時間以内に開始することが推奨されています

合併症

腹腔内コンパートメント症候群

急性膵炎では大量輸液や炎症に伴う浮腫により、後腹膜および腹腔内の内圧が上昇することがあり、これを腹腔内コンパートメント症候群と呼称します。腹腔内圧亢進に伴い、後腹膜および腹腔内の臓器虚血と胸腔内圧上昇による呼吸不全、循環不全を発症して予後不良となってしまいます。

膀胱内圧による腹腔内圧測定を行いモニタリングを行い、必要に応じて適切な水分管理、消化管内の減圧、十分な鎮痛や鎮静、経皮的ドレナージ術を行い、さらに悪化するようであれば外科的減圧術を考慮します。

感染性膵壊死

急性壊死性貯留(ANC)および被包化膵壊死(WON)に感染を合併したものを感染性膵壊死と呼称します。

診断は検査所見や画像所見を含め総合的に判断されます。まずは抗菌薬投与など保存的加療を試み、全身状態が保たれていれば被包化してから(4週間以降)にインターベンション治療を行います。まずは低侵襲なドレナージから段階的にネクロセトミーに移行するという、Step-up approachが推奨されています。

参考

・Up to date

・急性膵炎診療ガイドライン2021 – 日本膵臓学会

・Antaa slide 急性膵炎診療ガイドライン 番場祐基

https://slide.antaa.jp/article/view/9136447a9cc048d7#1