本日はSU剤についてのまとめです。私個人としては処方したことがなく、記憶にあるのはSU剤内服中の患者さんが低血糖で搬送されて緊急入院・・・という研修医の時の経験のみです笑
もちろん低血糖のリスクはある薬剤ですが、今回は活躍できる場面にもfocusしつつまとめていきたいと思います。
SU剤の作用機序
スルホニル尿素(SU)受容体は膵β細胞のATP感受性カリウムチャネルの構成要素です。SU受容体にSU剤が結合するとATP感受性カリウムチャネルが阻害され、細胞膜が脱分極し、電位依存性カルシウムチャネルが開口してCaイオンが細胞内に流入することでインスリンの分泌が促されます。
SU剤には膵外作用もある可能性があり、インスリン感受性を改善するといわれますが、臨床的には微々たる効果でしかないようです。
SU剤のエビデンス
古い薬剤のため、そのエビデンスを現在の2型糖尿病診療に当てはめてよいものか難しい所ですが、そのエビデンスを下記にまとめます。
■血糖低下作用
31件の研究のメタアナリシスでは、SU剤単独療法はプラセボよりもHbA1cを1.5%低下させました(9件の研究より)。また、メトホルミンまたはチアゾリジン系にSU剤を追加すると、プラセボよりもHbA1cが1.62%低下しました(4件の研究より)。1)
上記より、SU剤はHbA1cにして-1.5%前後と強い血糖降下作用を持つことがわかります。
■細小血管障害、大血管障害
1998年に発表されたUKPDS33試験において、新規発症糖尿病患者で細小血管障害をRR 0.75(95%CI 0.60-0.93)に減らすことが示されています。一方、大血管障害のリスク低減効果は示されませんでした。2)
SU剤の副作用
■低血糖
SU剤でとにかく問題となるのが低血糖です。2型糖尿病患者を対象にSU剤とGLP-1受容体作動薬またはDPP-4阻害薬を比較した25件の試験のシステマティックレビューでは、SU剤使用者の0.8%で重度の低血糖が発生しました。また、グルコース 56mg/dL以下の低血糖は10.1%で発生しました。3)
また、SU剤は作用時間が12-24時間と長いため、一度血糖が回復しても再度低血糖に至る可能性があります。そのため、SU剤による低血糖で受診した場合は、血糖が戻っても入院での経過観察が無難です。
■体重増加
SU剤はインスリンを半ば無理やり分泌させる薬剤であるため、体重減少が問題となります。DPP-4阻害薬であるリナグリプチンとの比較試験では、リナグリプチンよりもSU剤の方が、6.3年間で1.54kg体重増加が大きいことが示されました。4)
■その他の副作用
嘔気、かゆみ・紅斑・発疹など皮膚症状、肝機能障害などがあります。
SU剤の使い方
SU剤にはいくつか種類があり、本邦では
グリメピリド(アマリール®)
グリグラジド(グリミクロン®)
グリベンクラミド(オイグルコン®)
の3剤が使用できます。このうち、グリベンクラミドは低血糖のリスクが高いため、基本的には使用しません。グリメピリド、グリグラジドも低血糖リスクはありますから、SU剤自体を積極的には使用せず、メトホルミンを中心とした他の薬剤をまず使用すべきです。
他剤を使用しても血糖の下がりが悪い場合、もしくは経済的に安い薬剤でないと使用できない場合など、限られたシチュエーションに限定し、かつグリメピリドで言えば0.5-1.0mgのごく少量での使用に留めます。
また、腎機能障害、肝機能障害のある患者では低血糖のリスクが上昇するため使用を避けるべきです。
2型糖尿病とは話が逸れますが、若年成人発症糖尿病(MODY)のうち、HNF1AおよびHNF4A遺伝子に変異がある場合は、SU剤の単独療法が奏効するため積極的な使用を検討します。
参考文献
論文
1)Diabetologia. 2013; 56: 973-984.
2)Lancet 1998; 352: 837-853.
3)Diabetes Metab Res Rev. 2014; 30: 11-22.
4)JAMA. 2019; 322: 1155-1166.
文献
1)南江堂 できる!糖尿病診療
2)羊土社 Gノート 動脈硬化御三家