エゼチミブとは
エゼチミブは小腸コレステロールトランスポーター薬であり、高LDL-C血症の治療に用いられる薬剤です。
この薬剤は、小腸の刷子縁(腸の内側の細胞の表面)に存在する NPC1L1(Niemann-Pick C1-Like 1)トランスポーター に結合することで、食物や胆汁由来のコレステロールの吸収を選択的に阻害します。結果として、吸収されるコレステロールの総量が減少し、血中LDL-Cが低下します。エゼチミブを投与することで、LDL-Cがベースラインからおおよそ20~25%低下するとされています1)。また、スタチンの副作用である筋症状と耐糖能異常がないため、スタチンに不耐の患者さんでも安全に使用できる点が特徴です1)。
エゼチミブのエビデンス
さて、そんなエゼチミブのエビデンスを確認していきましょう。
まず、急性冠症候群の二次予防に関するデータです。IMPROVE-IT試験は、過去10日以内に急性冠症候群で入院していた18,044人の患者を対象とした二重盲検ランダム化試験です2)。この試験では、シンバスタチン40mg+エゼチミブ10mgの群と、シンバスタチン40mgとプラセボの群を比較し、主要評価項目として心血管死+非致死性心筋梗塞+再入院を必要とする不安定狭心症+冠動脈血行再建術+非致死性脳卒中の複合アウトカムを設定しました。追跡期間の中央値は6年でした。
試験期間中のLDL-Cの平均値は、シンバスタチン+エゼチミブ群で53.7mg/dL、シンバスタチン+プラセボ群で69.5mg/dLと、前者で有意に低下していました(p<0.001)。主要評価項目の発生率は、シンバスタチン+エゼチミブ群で32.7%、シンバスタチン+プラセボ群で34.7%であり、こちらも前者で有意に低下していました(絶対リスク2%、HR 0.936、95%信頼区間 0.89~0.99、p=0.016)。この結果から、心血管疾患の二次予防として、スタチンにエゼチミブを上乗せする妥当が示されたと言えます。
次に、このIMPROVE-IT試験も含んだコクランレビューを見てみましょう3)。このレビューには、23,499人の参加者を含む26件のランダム化試験が含まれています。心血管疾患の一次予防と二次予防の両方が対象で、試験デザインは「エゼチミブvsプラセボ」から、「エゼチミブとスタチンを含む他剤vsプラセボと他剤」など、多岐にわたります。また、23,499人という参加者のうち、18,044人が前述のIMPROVE-IT試験に由来しており、本試験の影響がかなり大きいことにも留意する必要があります。
結果として、スタチン+エゼチミブの併用は、スタチン単独と比較し、主要な心血管イベントを低下させる可能性が示されました(RR 0.94、95%信頼区間 0.90~0.98)。一方、全死亡にはほとんど影響を与えず、致死的イベントを減らす効果は確認されませんでした(RR 0.98、95%信頼区間 0.91~1.05)。死亡リスクの低下という重要なアウトカムに寄与しなかった点は、やや残念な結果と言えます。
最後に、本邦で行われたEWTOPIA75試験を見てみましょう4)。本試験は、75歳以上で冠動脈疾患の既往がなく、心血管リスクを有する3,796例を対象に、エゼチミブの一次予防効果を検証した研究です。対象者はスタチンを含む脂質低下薬を使用しておらず、LDL-Cが140mg/dL以上であることが条件でした。試験では、食事指導のみの群と食事指導+エゼチミブの群を比較し、主要評価項目として複合脳心血管イベント(突然死、致死性および非致死性心筋梗塞、冠血行再建術など)を設定しました
ただし、この試験ではPROBE法を採用しており、アウトカム評価者のみが盲検化されています。一方で、患者および医療者は盲検化されていないため、主要評価項目に含まれる冠血行再建術について、医療者の恣意的な介入が影響する可能性がある点に注意が必要です。
さて気になる結果ですが、主要評価項目の発生率は、食事指導のみの群では7.80%、エゼチミブ+食事指導の群では5.20%であり、後者で有意に低下していました(HR 0.66、95%信頼区間 0.50~0.86)。ただし、複合アウトカムの内訳を見ると、冠血行再建術では有意な減少が確認されましたが(HR 0.38、95%信頼区間 0.18~0.79)、突然死や心筋梗塞、脳梗塞では有意差が見られませんでした。この結果は、先述の恣意的な介入が可能である冠血行再建術に引っ張られたアウトカムと解釈され、信頼性には疑問が残ります。また、75歳以上という、超高齢者が対象である点もかなり無理している印象です。実臨床において、この人口をターゲットにして、エゼチミブ単剤を開始するシチュエーションはそう多くはないでしょう。まとめると、本研究は「エゼチミブが単独でも心血管疾患の一次予防に有効である」との結論を示していますが、そのまま実臨床に適用してよいのかは慎重な検討が必要です。
結論:エゼチミブの使い時は?
以上、3つの研究をチェックしてきました。
結論としては、「心血管疾患の二次予防については、エゼチミブ+スタチンの併用は、スタチン単独よりも有効といえる。ただし、一次予防に関しては、エゼチミブの有効性を示した質の高いエビデンスは存在しない」ということになります。
一般外来では、ほとんどの患者さんが、高LDL-C血症に対する一次予防としての治療を検討する段階にあります。このような状況で、積極的にエゼチミブを導入する根拠は現時点では弱いといえそうです。
ただし、一次予防という場面でも、エゼチミブを導入すべきか迷うケースは少なからずあります。
以下のような状況がその一例です:
・久山町スコアで高リスクにもかかわらず、筋症状によりスタチンが忍容できない患者さん。この場合、そのまま放置すべきでしょうか?それとも、エゼチミブ単独で治療を開始すべきでしょうか?
・ストロングスタチンを導入してもLDL-Cが高値のままの患者さん。この場合、スタチン単独で継続するべきか、それともエゼチミブを追加するべきでしょうか?(もちろん、服薬アドヒアランスや二次性高LDL-C血症の評価を行うのは前提です。)
これらのケースでは、皆さんはどのようにマネジメントをされるでしょうか?かなり悩ましいシチュエーションですよね。
ちなみに、UpToDateでは、心血管疾患の一次予防において、心血管リスクは高いがスタチンが使用できない場合は、先のEWTOPIA75試験を根拠に、エゼチミブの導入を推奨しています。
結局のところ、治療方針はケースバイケースで、患者さんとも相談しながら慎重に決めていく必要があります。エゼチミブの導入が適切かどうかは、リスク因子や患者さんの背景、エビデンスを踏まえた総合的な判断が求められるでしょう。
参考
1)UpToDate
2)N Engl J Med. 2015 Jun 18;372(25):2387-97.
3)Cochrane Database Syst Rev. 2018 Nov 19;11(11):CD012502.
4)Circulation. 2019 Sep 17;140(12):992-1003.
以下のYouTube動画もご参考ください。青島先生と矢吹先生がエゼチミブのエビデンスについて解説しています。