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フィネレノン(ケレンディア®)

 2型糖尿病に慢性腎臓病を合併した患者さんを外来で診ていると、薬剤選択で立ち止まる場面があります。ACE阻害薬またはARBを入れ、SGLT2阻害薬も導入した。血糖も血圧もそれなりにコントロールできている。しかし尿アルブミンが下がりきらない。ここから先、何を足すべきなのか。

 その選択肢として登場したのがフィネレノン(ケレンディア®)です。2022年に「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病」に対して承認され、さらに2025年12月には慢性心不全の適応も追加されました。一方で、プライマリケアの現場からは使いにくさも聞こえてきます。高カリウム血症が怖い、いつ足せばよいのかわからない、SGLT2阻害薬との使い分けが整理できない、といった声です。

 本記事では、

  • 患者さんにとって実際どれくらいのメリットがあるのか
  • どのような患者さんに、どのタイミングで始めるのか

の2点を中心に、プライマリケア医の視点から私なりに整理してみたいと思います。慢性心不全の適応についても最後に簡単に触れます。

 フィネレノンは非ステロイド型の選択的ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬です。

 MR拮抗薬といえばスピロノラクトンやエプレレノンが馴染み深いところですが、フィネレノンはこれらのステロイド型とは構造が異なります。MRへの選択性が高く、スピロノラクトンで問題となる女性化乳房などの性ホルモン関連の副作用が出にくいという特徴があります。

 臨床的により重要なのは、この薬が降圧薬ではなく臓器保護薬であるという点です。参考になるのが、FIDELITYから治療抵抗性高血圧を合併したCKD患者624例を抜き出し、スピロノラクトンを検討した別の試験であるAMBER(295例)と並べた post hoc 解析です1,2)

  • 収縮期血圧の低下:フィネレノン−7.1mmHg(プラセボ−1.3mmHg、群間差−5.7mmHg)/スピロノラクトン+カリウム吸着薬−11.7mmHg(スピロノラクトン+プラセボ−10.8mmHg)
  • 血清カリウム5.5mmol/L以上:フィネレノン12%(プラセボ3%)/スピロノラクトン+カリウム吸着薬35%、カリウム吸着薬なしのスピロノラクトン64%
  • 高カリウム血症による治療中止:フィネレノン0.3%/スピロノラクトン+カリウム吸着薬7%、吸着薬なし23%

 ただし、これは別々の試験の結果を後から並べた間接比較であり、両薬を直接ぶつけた試験ではありません。観察期間も約17週と12週で異なります。優劣を厳密に論じるものではなく、両者のプロファイルの違いを大づかみに捉えるための材料として読んでください。

 そのうえで、降圧効果は控えめだが、高カリウム血症のリスクも相対的に小さいという方向性は読み取れます。MRの活性化がもたらす炎症と線維化を抑えることで腎・心を保護する薬であり、血圧を下げる目的で処方する薬ではない、と理解しておくのがよいと思われます。

 なお、国内の適応は「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(ただし末期腎不全または透析施行中の患者を除く)」です。1型糖尿病は対象ではありません。「糖尿病性腎症」という病名で捉えるより、2型糖尿病があってアルブミン尿が出ているCKDと捉えた方が実臨床に即しています。

 エビデンスの中心は2つの大規模RCTと、その統合解析です。いずれもACE阻害薬またはARBが最大耐容量で入っていることが前提である点に注意してください。フィネレノン単独の成績ではありません。

 FIDELIO-DKD(n=5,734、追跡中央値2.6年)は、比較的進行したCKD(高度アルブミン尿、または中等度アルブミン尿+網膜症)を対象としました3)

  • 主要評価項目である腎複合アウトカム(腎不全、eGFRの40%以上の持続的低下、腎死):17.8% vs 21.1%、HR 0.82(95%CI 0.73–0.93)
  • 副次評価項目の心血管複合アウトカム:13.0% vs 14.8%、HR 0.86(95%CI 0.75–0.99)

 絶対リスク差は3.3%であり、2.6年間で約30人に投与すると1人の腎アウトカムを防げる計算になります。

FIGARO-DKD(n=7,437、追跡中央値3.4年)は、より腎障害が軽い集団を対象としました4)

  • 主要評価項目である心血管複合アウトカム:12.4% vs 14.2%、HR 0.87(95%CI 0.76–0.98)
  • この差を主に牽引したのは心不全入院の減少(HR 0.71、95%CI 0.56–0.90)
  • 一方、腎複合アウトカム(40%低下の定義)は9.5% vs 10.8%、HR 0.87(95%CI 0.76–1.01)と有意差なし

 FIDELITYは両試験の統合解析(n=13,026、追跡中央値3.0年)です1)

  • 心血管複合アウトカム:12.7% vs 14.4%、HR 0.86(95%CI 0.78–0.95)
  • 腎複合アウトカム(eGFR 57%以上の低下で定義):5.5% vs 7.1%、HR 0.77(95%CI 0.67–0.88)
  • 高カリウム血症による永続的な投与中止:1.7% vs 0.6%

 ここで押さえておくべき限界があります。全死亡と心血管死については、いずれの試験でも有意差は示されていません。 得られているのは腎機能低下の進行抑制と、心不全入院を中心とした心血管イベントの抑制です。「生命予後を改善する薬」とまではいえず、「腎臓が悪くなるスピードを緩め、心不全を減らす薬」と伝えるのが実態に合っています。

 そのうえで、臨床的に重要な点をひとつ。FIDELITYの対象者の40%は、eGFRが60を超えており、アルブミン尿だけを根拠に組み入れられた患者でした。 eGFRが保たれていても、アルブミン尿があれば恩恵を受けうるということです。これは後述する対象選定に直結します。

 まず前提として、アルブミン尿を測っていなければこの議論は始まりません。

 UACR 30〜299mg/gCrが中等度アルブミン尿、300mg/gCr以上が高度アルブミン尿です。UpToDateでは、ACE阻害薬/ARBを最大耐容量まで入れてもUACRが30mg/gCr以上持続する場合に、腎保護薬の追加が推奨されると整理されています。逆に言えば、eGFRだけを見ていると適応患者を取りこぼします。2型糖尿病の患者さんでUACRが未測定であれば、まずそこからです。

 そのうえで、SGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬・フィネレノンの3クラスがいずれも腎・心血管アウトカムを改善しうる選択肢となります。UpToDateが示す整理は次の通りです。

  • 心不全がある場合:初手は一般にSGLT2阻害薬
  • ASCVDがある(心不全なし)場合:初手はSGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬
  • 心不全もASCVDも前景にない場合:UACR 30mg/gCr以上であれば、3クラスのどれから始めてもよい
  • すでに1剤が入っていてUACR 30mg/gCr以上が持続する場合:追加の腎保護薬を開始することが提案される

 さらっと触れてしまいましたが、実はGLP-1受容体作動薬であるセマグルチド注射剤も、近年主要アウトカムとして腎保護効果が示されています5)よって、ここにきて選択肢が更に増えており、糖尿病患者における腎保護療法が余計にややこしくなってしまっています。

 また、重要な注釈があります。これら「順次追加していく戦略」そのものを直接検証した試験は存在せず、各薬剤のプラセボ対照試験からの外挿であるという点です。教科書的な順序が確立しているわけではありません。この点はHFrEFでいうところの、いわゆる“Fantastic Four”の議論と似ている部分かもしれません。

 私見としては、プライマリケアのセッティングでは、

SGLT2阻害薬を先に入れ、それでもアルブミン尿が残るならフィネレノンを追加する

・BMI30程度の高度肥満がある、ないしは血糖コントロールが悪いようなら、GLP-1受容体作動薬(セマグルチド注射剤)を優先する

 という順序が扱いやすいと考えています。

 理由は2つあります。ひとつは、SGLT2阻害薬には血糖降下作用があること。もうひとつが実務的な理由で、SGLT2阻害薬は高カリウム血症のリスクをむしろ下げる方向に働き、フィネレノンを上乗せしやすくする可能性がある点です1,6)。また、GLP-1受容体作動薬は体重減少効果が特に強いため、肥満例や血糖コントロール不良例ではより適していると考えます(逆に、そうでない患者さんには、体重減少によるフレイルのリスクがあることに注意が必要!)。

 実際には、フィネレノンを検討する段階では既にポリファーマシーとなっていることが多いため、比較的若年で腎予後が長い、アルブミン尿の程度が強い、といった要素も踏まえ、導入は慎重に検討することになるでしょう。

 開始にあたっての具体的な条件は次の通りです。

  • 血清カリウムが4.8mEq/L以下であることを確認して開始する(4.8mEq/Lを超える場合は開始しない)
  • eGFR 25mL/分/1.73m²未満では慎重投与
  • 開始用量は、eGFR 60以上なら20mg、60未満なら10mgを1日1回
  • 投与開始から4週間後を目安に血清カリウムとeGFRを確認し、カリウム4.8mEq/L以下かつeGFRが前回から30%を超えて低下していなければ20mgへ増量

 フォローの設計としては、UpToDateは腎保護薬の開始後2〜4週で血圧・容量・eGFR・血清カリウム・UACR・副作用を評価し、UACRが30mg/gCrを超えて持続するなら次の薬剤追加を検討する、としています。ハイリスク例では4〜6週程度で3剤すべてを導入しうる、という加速導入の考え方も示されています。

 高カリウム血症が心配な患者を事前に見分けたい場合、FIDELITYのデータから導かれたリスク因子が参考になります。血清カリウム4.5mEq/L超、高カリウム血症の既往、SGLT2阻害薬を使っていない、UACR 1000mg/gCr超、Hb 12g/dL未満、サイアザイド系利尿薬を使っていない、eGFR 45未満の7項目です。これらが重なる高リスク群では、プラセボ群ですら16.7%に高カリウム血症が生じていました(低リスク群では2.7%)7)

 裏を返せば、SGLT2阻害薬やサイアザイドが入っていることが高カリウム血症を抑える方向に働くということでもあり、先ほどの「SGLT2阻害薬を先に」という考え方とも整合します。

 2025年12月22日、ケレンディア®に「慢性心不全(ただし慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る)」の適応が追加されました。

 根拠となったのはFINEARTS-HF(n=6,001、追跡中央値32か月)です。左室駆出率40%以上の心不全患者、すなわちHFmrEF・HFpEFが対象でした8)

  • 主要評価項目(心不全悪化イベントの総数と心血管死の複合):rate ratio 0.84(95%CI 0.74–0.95)
  • 心不全悪化イベント総数:rate ratio 0.82(95%CI 0.71–0.94)
  • 心血管死:8.1% vs 8.7%、HR 0.93(95%CI 0.78–1.11)と有意差なし

 ステロイド型MR拮抗薬はHFrEFでの有効性が確立している一方、駆出率が保たれた心不全での位置づけは長らく定まっていませんでした。そこに選択肢がひとつ加わった、というのが今回の適応追加の意義です。

 処方する側として注意したいのは、CKDの適応と用量が異なる点です。慢性心不全ではeGFR 60以上で20mgから開始して4週後に40mgへ、eGFR 25以上60未満では10mgから開始して20mgへ増量します。CKD適応の最大用量20mgに対し、心不全適応では最大40mgと倍量になります。また心不全の適応では、eGFR 25未満が禁忌として明記されています。

 とはいえ、こちらも心不全悪化を予防するものの心血管死を低下させるエビデンスは示されておらず、臨床効果は限定的です。少なくともプライマリケアのセッティングにおいては、心不全に対して積極的に使用していく段階にはないと考えます。

 以上、フィネレノンについて整理してきました。要点は3つです。

  1. 腎機能低下の進行と心不全入院を減らす。ただし全死亡・心血管死を減らすエビデンスはない。 FIDELIO-DKDでは2.6年で約30人に1人の腎アウトカムを防ぐ計算になる。効果を過大にも過小にも語らないことが大切
  2. 対象を決めるのはeGFRではなくアルブミン尿。 ACE阻害薬/ARB最大耐容量でUACR 30mg/gCr以上が持続するなら追加を検討する。eGFRが保たれていても対象になりうる
  3. 開始前に血清カリウム4.8mEq/L以下とeGFR 25以上を確認し、4週後に再評価する。 SGLT2阻害薬が先に入っていると高カリウム血症のリスクを下げる方向に働き、上乗せしやすくなる

 プライマリケアの現場で最も実践的なのは、2型糖尿病の患者さんでUACRを測る習慣を持つことだと思われます。フィネレノンを使うかどうか以前に、アルブミン尿を見ていなければ腎保護のスタートラインに立てません。逆にそこさえ押さえておけば、SGLT2阻害薬にせよフィネレノンにせよ、上乗せの判断は難しくありません。

 本記事が、「フィネレノン、良い薬らしいけれど、いつ誰に出せばいいのかわからない」という初学者の一助となればうれしく思います。腎機能が低下している症例や、カリウムの管理に難渋する症例では、腎臓内科と早めに相談するのがよいと思われます。

1)Eur Heart J. 2022 Feb 10;43(6):474-484.(FIDELITY統合解析)

2)Clin Kidney J. 2023 Feb;16(2):293-302.(フィネレノンとスピロノラクトンの間接比較)

3) N Engl J Med. 2020 Dec 3;383(23):2219-2229.(FIDELIO-DKD)

4) N Engl J Med. 2021 Dec 9;385(24):2252-2263.(FIGARO-DKD)

5)N Engl J Med. 2024 Jul 11;391(2):109-121.(FLOW試験)

6) Circulation. 2022 May 10;145(19):1460-1470.

7)Eur Heart J. 2025 Apr 22:ehaf258.(FIDELITY 高カリウム血症リスクモデル)

8)N Engl J Med. 2024 Oct 24;391(16):1475-1485.(FINEARTS-HF)

9) UpToDate  ASK Expert AI

10) ケレンディア®錠 添付文書 https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00070271