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胸水の評価

胸水の病態生理

下図のように、臓側胸膜と壁側胸膜に挟まれた空間を胸膜腔と呼称します。

呼吸で肺が膨張と虚脱をするとき、肺は胸腔内を滑るように動きますが、この際の潤滑油として働くのが胸水です。胸水は主に壁側胸膜から産生され、壁側胸膜のリンパ管によって回収されて循環しています。正常では胸膜腔は非常に狭く、胸水も数mL程度しかありません

この胸水が何らかの原因で増加した状態を胸水貯留と表現します。これは病態としては組織における浮腫液と似ており、“胸膜腔の浮腫”とも呼ぶことができます。

具体的には、下記のような病態、疾患で胸水貯留が起こります。

①静水圧上昇:心不全

➁血漿膠質浸透圧の低下:低アルブミン血症

③血管透過性の亢進:胸腔内の炎症(肺炎随伴性胸水、胸膜炎など)

胸水の疫学

胸水貯留は胸膜・肺疾患や全身性疾患の結果として起こり、その鑑別は多岐に渡ります。

疫学は両側性か片側性かで異なっており、本邦ではそれぞれ下記の疾患の頻度が高いとされています。

両側性胸水:慢性心不全、低アルブミン血症

片側性胸水:癌性胸膜炎、肺炎随伴性胸水/膿胸、結核性胸膜炎

特に結核性胸膜炎は診断が難しい上、感染管理の面で問題となることから失念しないようにしましょう。

また、後述しますが胸水の性状が漏出性か滲出性かという点でも鑑別が異なってきます。

以下に鑑別表を載せておきますが、すべて記憶する必要はありません。

胸水貯留に伴う症状

胸水貯留そのものによる症状としては呼吸困難が最も頻度が高いです。慢性経過の場合は症状がないことがありますが、急性経過の場合は換気血流ミスマッチが影響し、強い呼吸困難、SpO2低下を認めることが多いです。その他、乾性咳嗽、胸膜痛を伴うこともあります。

経過や随伴症状については、原疾患によって異なってきます。

例えば、

肺炎随伴性胸水/膿胸:急性経過の発熱、湿性咳嗽

心不全:息切れ、動悸、浮腫

結核性胸膜炎:慢性経過の微熱、湿性咳嗽、体重減少、夜間盗汗

といったようになります。詳細な病歴をとることである程度鑑別を絞ることが可能です。

また、既往歴、喫煙歴、職業歴、内服薬なども丁寧に聴取するようにしましょう。

胸水の評価

胸水の画像評価

胸部X線で胸水貯留が指摘されることがほとんどであると思います。立位正面像で肋骨横隔膜角(CPA)が鈍になるには、200-500mlの胸水が必要とされています。

胸部X線で胸水を認めた場合、本邦では胸部単純CTを追加で撮影することがほとんどです。胸水の溜まり方、肺野・胸郭・縦郭の状態を把握することができ、胸水の原因を同定する上で大変有用です。具体的には、肺野に腫瘤影があれば肺癌を、リンパ節や胸膜の石灰化を認めれば結核や石綿胸水を、肺野側に凸な胸水貯留を認めれば膿胸を疑います。

膿胸のCT画像

ただし、大量胸水で肺が完全に無気肺となってしまっている場合は肺野の評価が困難です。この場合、先に胸腔ドレナージを行って肺を拡張させてから再検査を行います。

余談ですが、私は胸腔ドレナージ後にCTを再検した所、肺野にtree in bud様の粒状影が広がっており、最終的には肺結核+結核性胸膜炎の診断であった、という症例を経験したことがあります。感染管理の上でも問題となりますし、原因不明の胸水をみたら常に結核性胸膜炎は必ず念頭に置くようにしましょう

また、ルーチンでは行わないものの、膿胸の場合は造影CTを撮影することで胸膜の肥厚・造影効果が確認でき、診断の一助となり得ます。

後述の胸腔穿刺と併せて行うことがほとんどですが、エコーによる胸腔内の観察も診断に有用です。特に膿胸の際には、以下のように隔壁や粘度の高い胸水を確認することができます。

胸腔穿刺と胸水検査

胸水の原因究明で最も重要なのがこの胸腔穿刺と胸水検査です。前述のように、一般的に両側の胸水は心不全や低アルブミン血症を考慮しますが、片側胸水では肺炎随伴性胸水/膿胸、癌性胸膜炎、結核性胸膜炎といった疾患を鑑別に挙げます。片側胸水や心不全、低アルブミン血症で説明のつかない両側胸水では診断をつけるために胸腔穿刺を行います

ここでは胸腔穿刺の詳細については割愛しますが、とにかく重要なのは安全に手技を行うことです。スペースが十分でなく、手技に自信がない場合は無理な穿刺は行わないようにしましょう。

さて、胸水検査ですが、pH、糖、生化学、細胞診、培養などの微生物学検査など、多彩な項目が含まれます。

未診断の胸水患者に対して検査を提出する場合、

①胸水pH、生化学(糖、LDHADA、総蛋白、アルブミン、コレステロール)

➁胸水塗抹・培養(細菌、抗酸菌)

③胸水細胞診(細胞分画、悪性所見の確認)

は最低限提出するようにしましょう。その他、状況に応じて腫瘍マーカーやBNPなどを追加で行います。また、一回の穿刺で説明が付かない場合、2-3回と繰り返して胸水検査を行うことで診断精度が上昇する可能性があります。

ここからは検査の解釈について解説していきます。

まず、滲出性胸水か漏出性胸水なのかを判断していきます。その際に使用されるのが有名なLightの基準です。いずれか1つ以上に該当すれば滲出性、それ以外であれば漏出性と判断します。以下、補助診断も含め表にまとめておきます。

利尿薬を投与されている場合、漏出性胸水が滲出性胸水と分類されることがあります。その場合、(血清総蛋白)-(胸水総蛋白)≧3.1g/dlあるいは(血清アルブミン値)-(胸水アルブミン値)≧1.2g/dlなら胸水はおおむね心不全によるものと判断してよいとされます。また、胸水貯留例で血清BNPが陰性なら心原性はまず否定的と考えてよいでしょう。

また、高齢者では複数の要因で胸水貯留が起こることがあり注意が必要です。(例えば悪性胸膜炎+心不全)。片側性胸水の患者130人を対象とした英国での研究では、30%の患者で胸水の原因が複数あることが示されています1)

以下、細胞分画、色、生化学について、各種項目と対応する鑑別疾患を表にまとめます。

また、肺炎随伴性胸水、膿胸については、BTS(英国胸部疾患学会)が下記のようなクライテリアを提唱しています。鑑別の上で参考にして頂ければと思います。

なお、結核性胸膜炎では、結核菌は胸水中にほとんど含まれていないため、抗酸菌塗抹検査はもちろんのこと、培養やPCR検査でさえも陰性となることがあります。ADAが有用なマーカーとされますが、リウマチ性胸水でも上昇するため、元々関節リウマチがある患者さんではしばしば判断に悩むことがあります。

胸膜生検

胸水検査で診断がつかない症例が全体の1-3割程度存在し、その最終診断としては結核性胸膜炎、癌性胸膜炎、悪性胸膜中皮腫、リウマチ胸水、IgG4関連疾患などが該当します。このような診断困難例に対して胸膜生検を検討します。生検方法には胸膜に腫瘤が存在する場合はCTガイド下針生検も選択肢に挙がりますが、基本的には胸腔鏡下胸膜生検が行われます。そのため、胸部外科の先生の協力が必須です。

胸膜生検の有効性については複数の研究で示されており、胸膜生検を追加することで70%程度の症例で確定診断に至るとされています。ただし、約8%の症例で偽陰性が生じるため、生検結果が陰性だからといって完全に悪性胸水などが除外できるわけではないことも留意しておきましょう。

また、局所麻酔下胸腔鏡など低侵襲な手技で検査を行うことも可能となっていますが、それでも患者さんへの負担が大きい検査には変わりありません。超高齢者や全身状態不良者など、胸膜生検まで行うことができない症例は実臨床では少なくありません。

まとめ

さて、胸水について長々と書いてきましたが、最後に重要事項をまとめて終わりにしたいと思います。

・両側性胸水では心不全、低アルブミン血症が多い

・片側性胸水では癌性胸膜炎、肺炎随伴性胸水/膿胸、結核性胸膜炎が多い

・変な胸水は胸腔穿刺を行い、胸水検査を行う

・胸水検査で原因がわからなければ外科に胸膜生検を依頼する

・結核性胸膜炎は感染管理の上で重要であるため、失念しないこと!

参考

1)Ann Am Thorac Soc. 2016 Jul;13(7):1050-6.

・European Respiratory Review 2010 19: 220-228;

・Dtsch Arztebl Int. 2019 May 24;116(21):377-386.

・呼吸器ジャーナル 69巻4号:呼吸器急性疾患 各論 胸水

・2022ポケット呼吸器診療 倉原優

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・UpToDate