総論
実臨床上、別の理由で行った腹部CTや腹部エコー検査で肝腫瘤が見つかることが結構な頻度であると思います。胸部CTのスクリーニングを受けた17,000人超を対象にしたとある研究では、偶発的な肝腫瘤の有病率は6%であったそうです。
もし偶発的な肝腫瘤を見つけてしまった場合、どのようにフォローを行っていくべきか、up to dateをベースに勉強したことをまとめます。
偶発性肝腫瘤の鑑別
〇悪性疾患
・肝細胞癌(HCC)
・肝内胆管癌
・転移性肝腫瘍
〇良性疾患
・肝血管腫:最も一般的に認められる良性肝病変。
・肝現局性結節性病変:女性に多く見られる良性肝病変。有病率は0.2-1.6%と低い。
・肝細胞腺腫:エストロゲン製剤を使用している若年女性、糖原病患者に認められる
・再生結節
上記のように鑑別疾患があるわけですが、結局の所悪性なのか良性なのかの区別が最重要事項となってきます。
悪性疾患(特に肝細胞癌、転移性肝腫瘍)は、
①肝硬変がある
➁肝硬変を伴わない慢性B型肝炎ウィルス感染症がある
③肝臓に転移しうる悪性腫瘍の既往がある
の患者でリスクが著しく高まりますから、場合分けして考える必要があります。
診断アルゴリズム
〇診断アプローチ
①悪性疾患のリスクを評価する
前述の通り、患者に肝細胞癌及び転移性肝腫瘍のリスクがないかを確認することが重要です。アルコール多飲の病歴、肝炎ウィルス、肝硬変の既往、肝硬変を示唆する身体所見・画像所見など、総合的に判断をしていきます。偶発的に肝腫瘤の見つかった全例に行うかは悩ましい所ですが、肝炎ウィルスのスクリーニング検査も検討します。
➁初期評価(単純CT、超音波検査)で肝血管腫らしさがあるか評価する
次に、良性で最も頻度の高い肝血管腫として矛盾がないかを判断していきます。典型的であれば追加の検査は行わずにフォローの終了を検討します。肝血管腫らしさとしては、
・典型的な特徴が存在する(均質、高エコー、境界明瞭)
・病変のサイズが3cm未満
・肝硬変または悪性腫瘍の既往がない
が挙げられます。
③追加検査(dynamic CT、MRI)で病変の特徴を評価する
初期評価で肝血管腫と言い切れない場合、追加の検査を行います。up to dateではMRIでの精査が推奨されていましたが、プライマリーケアの場面ではなかなか難しいことが多いと思います。可能ならdynamic CTまたはMRIによる評価を行い、できないのであればこの時点で専門医に紹介とするのがよいでしょう。各種検査による病変ごとの特徴は別項でまとめたいと思います。
④さらなる精査を検討し、専門医へ紹介する
追加検査でも病変の診断がつかない場合、生検や外科的切除、慎重な画像フォローを検討します。いずれにしても専門的な判断が必要となるため、専門医への紹介が望ましいと考えます。
結局、プライマリーケアの場面で行うことができるのは初期検査による偶発的な肝腫瘤の発見と、その後の追加検査(造影CT、MRI)まで、ということになるかと思います。私の勤務している病院ではMRIがないため、dynamic CTまでは行った上で紹介の是非を判断するようにしています。
病変ごとの画像的特徴
〇肝血管腫
・特徴:有病率は0.4-20%。3:1で女性に多い。エストロゲンへの暴露でサイズが大きくなることがある。
・超音波:境界明瞭な高エコー塊として描出される
・CT:周囲肝組織と比較しlow。造影では初期に造影されず、徐々に求心性に造影されていく
・MRI:T1でlow、T2でhigh、CT同様経時で求心性の造影効果
〇限局性結節性過形成
・特徴:有病率は0.3-3%、女性に多い、中央の星状瘢痕を肝細胞が取り囲む
・超音波:等エコー
・CT:低濃度または等濃度。造影で動脈相で造影され、門脈相で等濃度となる
・MRI:T1で等信号、T2でわずかにhigh。中心部の瘢痕はT2でhighとなる。造影では初期で造影されhighとなり、後期に等信号となる。中央の瘢痕は徐々に造影されるため、後期でhighとなる
〇肝細胞腺腫
・特徴:経口避妊薬、アナボリックステロイド、糖原病、肥満などがリスク
・画像所見:病変のサイズ、サブタイプ、出血または壊死の有無によって異なる
〇肝細胞癌
・CT:2cm未満の病変だと感度が落ちる。早期に造影され、後期にwash outされる
・MRI:CTよりも有用。やはり後期にwash outされるのが特徴
参考
・up to date
・J Hospitalist Network 固形肝腫瘤を見つけたら
https://www.jsh.or.jp/lib/files/medical/guidelines/jsh_guidlines/medical/2017_v4_chap01.pdf
※JHNのスライドはよくまとまっていて参考になりますが、2017年の作成であり時間が経過しています。どうもこのスライドを作成した際に参考にされたと思われるup to dateの該当記事がなくなっているようです。アルゴリズムはかなり煩雑であり、今回参考にした記事ではかなり簡素化されていました。