虫垂の解剖
・虫垂は、盲腸の内側下部からでて、盲端に終わる細長い腸であるが、長さ6~10cm、直径は数mmである。
・虫垂は腹膜に包まれる。腹膜は三角形を呈する腹膜ヒダ、すなわち虫垂間膜をつくり、回腸末端部の腸間膜の腹膜後葉に連なる。
・回結腸動脈の分枝である虫垂動脈により栄養される。
・一般的に盲腸底部に起始するが、個人により差があり、これが症状の差異と関係してくる。
ざっくりとした虫垂位置のバリエーションは以下の通り
・盲腸/結腸後方 75%
・盲腸下/骨盤内 20%
・盲腸/回腸前方 5%
・粘膜や粘膜下層にはB cell、T cellが濾胞を形成しており、一般的な大腸粘膜組織との異なる点である。
このリンパ濾胞の過形成により虫垂起始部が閉塞することが虫垂炎の機序の一つであるとされる。
疫学、病態
〇疫学
報告にもよるが、一人当たりの生涯での罹患率は7-15%程度とされ、非常にcommonな疾患である。
危険因子としては
・10-30歳代
・虫垂炎の家族歴
・夏季
・感染症
・虫垂の長さが4-10cm(長すぎても短すぎてもリスクは下がる)
があげられる。
〇病態、病理
・糞石やリンパ組織の増生、糞便貯留による虫垂管腔の閉塞が主な病因であると考えられている。
・閉塞した虫垂内で細菌の増加、管腔内圧上昇を来たし、最終的に膿瘍形成や穿孔をきたすとされる。
病歴
・典型例では症状は以下の順で生じる
①食欲低下
②緩徐に悪化する心窩部/臍周囲痛(4-6時間持続する)
③悪心・嘔吐
➃疼痛が右下腹部に移動
⑤発熱
・虫垂内圧の上昇→内臓痛による局在のない疼痛(心窩部/臍周囲痛)
・炎症が腹膜に波及→体性痛による限局した疼痛(右下腹部痛)
と疼痛の変遷があることがポイント。
これらの症状が上記の順番で24時間前後の間に出現する。
・嘔吐は一回程度であることが普通。ゲーゲー吐き続けていたりする場合は他の疾患やすでに穿孔していることを考慮する。
また、
・虫垂の位置が後方にある場合、CVAの疼痛や精巣の疼痛を訴えることがある。
・虫垂の位置が下方にある場合、恥骨上の疼痛や頻尿をきたすことがある。
・虫垂の位置が左にある場合、左腹部痛を訴えることがある
などなど、解剖学的な位置によって症状のバリエーションは多彩である。
この症状できたら虫垂炎を疑うというよりも、どんな時でも虫垂炎を鑑別に挙げる、くらいの姿勢がよいかもしれない。
身体所見
・McBurney点圧痛
・Percussionb tenderness:これが陽性だとすでに腹膜に炎症が波及している。反跳痛やらなくてOK
・Rebound tenderness:以下、正しい所見の取り方
①腹膜が凹むくらい、最圧痛点を手で押し込む
②30-60秒くらいすると圧痛が消失するので、それまで押し続ける
③圧痛が消えたら、患者に一声かけた上で急に手を放す。腹膜を揺らすようなイメージ
➃後者が痛ければ陽性。腹膜に炎症波及ありとする
・Gurding:触診時の自発的な腹筋の緊張
・rigidity:非自発的な腹筋の緊張.Gurdingより炎症強い
・Rovding sign
・Psoas stretch sign
・直腸診:虫垂が骨盤底部方向を向いている場合、腹部所見が全くなく、直腸診のみが陽性となることがあり得る。
診断
・Alvarado score
5点以上で高い感度を誇るが、特異度は高くない
7点異常でCTに匹敵するほどの陽性的中率を誇るとされる
イチイチ点数化する必要はないと思われるが、虫垂炎で問診・身体診察がいかに重要であるかということの証左であろう。
Migration to the right lower quadrant(右下腹部への痛みの移動):1点
Anorexia(食思不振):1点
Nausea and vomiting(悪心・嘔吐):1点
Tenderness in the right lower quadrant(右下腹部痛):2点
Rebound pain(反跳痛):1点
Elevation of temperature>37.3℃(37.3℃以上の発熱):1点
Leukocytosis(10000/μL以上の白血球数上昇):2点
Shift to the left(好中球分画70%以上の左方移動):1点
・Appendicitis inflammatory Reaponse(AIR) score
Alvaradoと似たようなもの
・LD
WBC、CRPが高値であれば虫垂炎らしいと言える。
ビリルビンが1.2以上であれば、虫垂炎である場合では壊疽や穿孔している可能性が高い。
・Ultrasound
被ばくがなくベットサイドで施行できるため、CTよりもアクセスがしやすい。
感度が低いため、超音波が陰性だからといって虫垂炎の否定はできない。
描出のコツ
その1:上行結腸を同定→盲腸まで尾側にスライドさせていく→盲腸から伸びる管腔構造があれば虫垂
その2:大動脈を同定→右の総腸骨動脈まで追っていく→総腸骨動脈と腸腰筋の間に管腔構造を認めればそれが虫垂
また、蠕動しないという点も虫垂の特徴
虫垂炎を起こしている虫垂の典型的な特徴は以下の通り
①真っすぐで、圧迫で潰れず、圧痛がある
②圧迫しても径が6mm以上
③横断面で壁の全周性の肥厚がある
➃虫垂周囲に液体貯留がある
⑤内腔に高エコーとして描出される虫垂結石を認める
正常像
虫垂炎
・CT
American College of Emergency Physicians(ACEP)は、成人で虫垂炎を疑う場合は積極的にCTを撮影するように推奨している。
単純CTでも高い感度・特異度を持つとされ、必ずしも造影CTは必須ではない。
CTはnegative appendictomyを有意に減らすとされ、術前には必須!
非複雑性(穿孔や膿瘍形成していない)虫垂炎の典型的なCT画像は以下の通り。
①虫垂の径が6mm以上
②虫垂の壁が2mm以上、造影効果がある
③虫垂周囲の脂肪織濃度の上昇
➃虫垂内腔が閉塞しairがない
⑤糞石の存在
・MRI
虫垂炎の診断においては影が薄いが、妊婦でCTが使えない場合などに有用
〇Stagingについて
急性腹症ブラッシュアップではざっくり以下の通りに分類されている。
①非穿孔性虫垂炎(Non-perforated appendicitis)
②穿孔性虫垂炎(Perforated appendicitis)
③限局性膿瘍(Localized abcess)
Dynamedでいうところのun-complicatedが①、complicatedが②、③となるだろうか。
この分類で後述の治療方針が変わることになる。
①なら基本的には手術だが、抗菌薬で散らすことも可能(再発するけど…)。
②なら基本手術
治療
・鎮痛薬
アセリオ、ソセゴンなど何でもよい。
鎮痛薬の使用は診断精度に関係しないため、可及的に鎮痛するべし。
・appendectomy
非複雑性、複雑性に関わらず、first choice。
開腹よりも腹腔鏡の方がSSIの確立が低く、安全性が担保され術後の回復も早いが、膿瘍形成のリスクは高くなる。
・抗菌薬
周術期に抗菌薬を使用することで膿瘍形成など合併症のリスクが低下する。
日本で使用するなら静注であればABPC/SBT or CMZ。
内服であればAMPC+AMPC/CVA。
・non-surgical management
いわゆる“抗菌薬”で散らすという奴。
壊疽や穿孔をしていなければ寛解させることが可能だが、一方で10-15%/yearで再発してしまう。
また、膿瘍形成がある場合はまず抗菌薬治療やドレナージを行い、炎症を落ち着かせてからのinterval appendectomyの方がよい場合がある。
そのままだと回盲部切除まで必要になってしまったり、術後合併症が増加する可能性がある。
参考
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