便秘症とは
便秘症の定義
米国や英国では、「週3回未満の排便」を便秘症と定義しています。一方、日本内科学会は「3日以上排便がない、または毎日排便しても残便感がある」、と定義しています。
明確な定義はさほど重要ではなく、実臨床では「排便回数の減少や硬便などで患者さんが困っている状態」を便秘症として扱うことが多いです。
疫学
北米での慢性便秘の有病率は便秘の定義により研究によって差があるものの、概ね15%前後とされています。便秘は男性よりも女性で多く、年齢を経るにつれて頻度が増加します。
便秘の種類
便秘の機序をまず理解し、器質的便秘と機能的便秘のどちらであるかを考えることが重要です。
器質的便秘には腫瘍性疾患やCrohn病、癒着性腸閉塞、Perkinson病、DM、甲状腺機能低下など基礎疾患を背景に生じる便秘を指します。便秘症のアプローチで何よりも重要なのは、大腸癌を含めた器質的便秘を否定することです。
機能的便秘は一般的にいうところの便秘症のことで、器質的便秘が否定された上で診断されます。機能的便秘に対しては、規則的な排便習慣、適度の運動といった一般療法や、食物繊維の多い食物に加え水分を十分に摂ることを指導する必要があります。
また、機能的便秘はその病態により、弛緩性便秘、痙攣性便秘、直腸性便秘に分類し考えることができます。病態の把握はその後の薬物治療の選択にもつながるため、可能な限り把握しておくようにしましょう。
①弛緩性便秘
腸管の緊張や蠕動運動の低下により、便が長期間滞留し硬便になる状態。高齢者や長期臥床、糖尿病患者に多い。また薬剤の副作用としてみられることもある。
②痙攣性便秘
腸管の痙攣性収縮による糞便の停滞が原因で、過敏性腸症候群(便秘型)などで見られる。
③直腸性便秘
排便反射が鈍磨して、糞便が直腸に侵入しても便意を感じないことによる。弛緩性便秘に合併していることが多い。
治療
器質的便秘が否定できた後、機能的便秘としての治療に入ります。
生活指導
薬物治療の前に生活の上で介入できるポイントがあれば指導を行います。
排便姿勢:前傾姿勢をとることで直腸肛門角が直線に近づき、排便しやすくなります。
運動習慣:適度な運動は便秘を改善する可能性があります。
義歯の調整:義歯が合わないと咀嚼が必要となる食物繊維の摂取を避けるようになってしまいます。必要に応じて歯科へのコンサルトを行いましょう。
食事:食物繊維の接種は便秘患者の症状を改善できます。食事だけでは難しい場合、食物繊維を含んだサプリメントの内服も手段の一つです。
薬物治療
便秘には下記の通り複数の薬剤があります。たくさんあってどのように使用すべきか悩ましい所です。
up to dateによれば、薬物治療としてはまず浸透圧性下剤が推奨されています。
海外での第一選択はポリエチレングリコールとなっており、本邦ではモビコール®が最近ようやく販売されるようなりました。副作用が少なく使いやすい薬剤ですが、販売されたばかりということもあり、薬価がモビコール配合内用剤HD®で131.6円/日と高めです。ラクツロース製剤であるラグノス®も85-255円/日とやはり高価です。腎不全患者での高Mg血症に注意する必要はありますが、やはり酸化マグネシウムの安価である点は強みと言えます(330mg 6Tで35円/日)。よって、腎機能が正常である場合には酸化マグネシウムを第一選択とし、腎機能低下症例や酸化マグネシウムの効果が乏しい症例でモビコール®やラグノス®を使用するのがよいと考えます。
最近は新薬としてルビプロストンやリナクロチド、エロビキシパットなどの新薬が販売されるようになっていますが、長期的な安全性が不明あり、既存の薬剤と比較しての優位性が示されているわけでもありません。比較的高価であることもあり、浸透圧性下剤で効果が乏しい場合の代替薬ないしは上乗せとして使用するのがよいでしょう。
刺激性下剤は連用により耐性が生じ、大腸黒皮症や大腸癌のリスクが上がる可能性が指摘されており、浸透圧性下剤で効果が乏しい場合の奥の手として一時的に使用するのに留めた方がよいと考えます。
坐薬であるテレミンソフト®やレシカルボン®は合併症が少なく、便塊が直腸に降りてきている場合の最後の一押しとして有用です。私は浸透圧性下剤に上乗せして使用することが多いです。グリセリン浣腸は穿孔のリスクがあるため、高齢者には避けるのが無難です。
まとめますと、
・基本的には浸透圧性下剤を優先し、刺激性下剤はできる限り使用しないようにする
・浸透圧性下剤としては腎機能が問題なければ酸化マグネシウムを、腎機能低下症例ではモビコール®やラグノス®を使用する
・坐薬であるテレミンソフト®やレシカルボン®は適宜上乗せし使用
・上記でも効果がない場合、ルビプロストンやリナクロチド、エロビキシパットを試してみる
といった推奨になるかと思います。
一応up to dateに準拠していますが、上記には我流の要素も入っています。もし違った下剤の運用をされている先生がおりましたら教えて頂けますと大変勉強になります。
参考
・up to date