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Romberg試験と腰部脊柱管狭窄症

先日、研修医の先生とふらつきを主訴に受診された患者さんを診察している際、「腰部脊柱管狭窄症によってRomberg試験は陽性になりうるのか?」という疑問がふと浮かんできました。元々神経診察にはあまり自信がないこともあり、これを機にRomberg試験と腰部脊柱管狭窄症についてまとめ、その関連性について調べてみたいと思います。

Romberg試験について

Romberg試験とは

Romberg試験は、平衡感覚を評価する試験のひとつです。一般的にはめまいやふらつきで受診した患者さんに行われることが多いと思います。

開眼させて両足をそろえてつま先を閉じて立たせ、体が安定しているかどうかをみます。この状態で安定していることを確認したら、次にそのまま閉眼させます。これにより体が大きく揺れてしまい、倒れてしまうようならRomberg試験を陽性と判断します。

開眼していれば安定している立位が、閉眼することで動揺し保持できなくなる」かどうかをみているのがRomberg試験ということですね。

国家試験的には、梅毒による脊髄癆亜急性連合性脊髄変性症末梢神経障害などの疾患で陽性となるとされています。

平衡感覚を司っている要素は3つあるとされ、

①視覚

➁関節位置覚(深部感覚とも)

③前庭感覚

です。

このうち平衡感覚を維持するためには最低2つの要素が正常である必要があるとされています。Romberg試験では、閉眼により①視覚の要素を取り去ることで、➁関節位置覚と③前庭感覚の2つの要素に障害がないかを確認する診察法ということになります。

関節位置覚の神経解剖

さて、ここでRomberg試験の結果の解釈をする前に、➁関節位置覚について神経解剖を振り返ってみたいと思います。

関節位置覚は筋紡錘やゴルジ腱器官、ルフィニ小体といった受容器で感知され、

①末梢神経

➁後根神経節

③同側の脊髄後索

④延髄で対側に交叉し、内側毛体

⑤視床

⑥大脳皮質

という経路で末梢神経から大脳にまで至ります。

神経解剖では特に脊髄以降の経路を後索-内側毛帯路と呼称します

Pract neurol 2014;14;242より引用

Romberg試験が陽性となりうるのはこの経路のいずれかが障害された場合になりますが、頻度が高いのは以下の3か所になります。

・末梢神経

・後根神経節

・脊髄後索

経過も合わせると、鑑別を下記のように絞ることができるといいます。

医学事始 深部感覚失調 sensory ataxiaより引用
Romberg試験の解釈

ここでRomberg試験の解釈に戻りましょう。

繰り返しになりますが、Romberg試験が陽性である場合、関節位置覚の障害ないしは前庭感覚の障害が病態として考えられます。前述した関節位置覚の神経解剖を鑑みて整理すると、

Romberg試験が陽性の場合、

①末梢神経

➁後根神経節

③脊髄後索

④前庭

の4つの部位が障害されている可能性がある、ということがいえます。

ただし、そのうちどの部位が障害されているのかはRomberg試験だけでは判断ができないため、病歴や既往歴、眼球運動、腱反射、Babinski徴候といったその他の神経所見を総合して判断する必要があります

また、神経質な気質の患者さんや筋力の低下した高齢者では、神経疾患がなくてもRomberg試験が陽性になることがありえるため注意が必要です。

また、開眼しての立位の時点でふらつきがある場合はRomberg試験は陰性とし、小脳失調を鑑別に挙げるべきとされています。しかし、あまりに関節位置覚や前庭感覚の障害が強い場合も同様に開眼時にもふらつきを認めることがあるとされ、話はそう単純ではないようです。

長々と書いてしまいましたが、要約しますと「Romberg試験単独では何も判断できないが、その他の所見と合わせて総合的に評価することで初めて有用な検査となり得る」ということになります。他の身体所見や検査にも当てはまることだとは思いますが、Romberg試験は特に臨床家の手腕が問われる検査法と言えるでしょう。

腰部脊柱管狭窄症について

解剖と病態

脊柱管は椎間板、椎骨、後縦靭帯、黄色靭帯に囲まれた空間であり、内部を脊髄や馬尾神経が走行しています。腰部脊柱管狭窄症とは、腰椎レベルでこの脊柱管が狭くなってしまい、脊髄や馬尾神経が圧迫されることで、間欠性跛行を代表とする種々の症状をきたす疾患です。

原因となる疾患には黄色靭帯骨化症椎体すべり症、椎間板ヘルニアに加え、腫瘍による圧迫や外傷などがあります。

間欠性跛行については、神経の機械的な圧迫と虚血により生じていると考えられています。

腰部脊柱管狭窄症では障害されるのはL4-5が最も多く、次いでL5-S1、L3-4が続きます。一般に脊髄はT12-L2で髄円錐となって終わるため、多くの場合は馬尾神経が圧迫され、脊髄が圧迫されることは少ないといわれます

症状

神経性間欠性跛行が最も特徴的な症状です。これは立位などの特定の症状や歩行によって下肢に痛みが生じ、活動によって徐々に増悪していきます。痛みは安静により改善しますが、座位になったり腰を曲げたり、姿勢を変えることでも疼痛が改善することが特徴とされます。これは姿勢の変化により脊柱管内の圧が低下することに起因すると考えられています。閉塞性動脈硬化症に伴う血管性間欠性跛行ではみられず、両者の鑑別に有用です。

その他、下肢の不快感、間隔喪失、脱力といった症状が多いとされます。通常は両側性に症状が出ますが、片側性の場合もあり得ます。腰痛は65%にしか認めないとされ、あっても比較的軽度であるようです。

一般に、前述したような馬尾神経の圧迫による疼痛や異常感覚が主症状ですが、病変が高位である場合、脊髄症を呈することがあり得ます。この場合膀胱直腸障害が出現し、程度によっては神経学的な緊急事態として直ちに外科的な介入が必要となります。

身体診察・検査

腰部脊柱管狭窄症では神経学的検査は多くの場合正常ですが、脊髄神経根の分布に沿った感覚低下を認めることがあります。また、馬尾神経の圧迫を反映しアキレス腱反射は消失することが多いです。ただし、病変が高位で脊髄が圧迫されている場合は膝蓋腱、アキレス腱反射共に亢進する可能性があります。

診断には画像検査により脊柱管の狭窄を客観的に証明する必要があります。多くの場合、これはMRIで評価されます。

MRI:狭窄した脊柱管が確認できる
治療

症状が強くない場合、保存的治療が推奨されています。この場合、一般に理学療法や経口の鎮痛薬が使用されます。

保存的治療に反応がない場合や、進行性の症状には外科的治療が検討されることになります。

腰部脊柱管狭窄症でRomberg試験は陽性になりうるのか?

さて、前置きが大変長くなってしまいましたが本題に入りたいと思います。

結論は「腰部脊柱管狭窄症ではRomberg試験は陽性となりえる。」ということになります。

病態を考えてみましょう。前述した通り、腰部脊柱管狭窄症では馬尾神経が障害されることが多いとされます。つまり、解剖学的には末梢神経が障害されることになり、転じて関節位置覚が障害され、Romberg試験が陽性になるわけです。もちろん、病変が高位だと脊髄後索が圧迫されその場合もRomberg試験は陽性となります。

1995年の研究で診断精度が検討されています。腰痛患者でRomberg試験が陽性の場合、腰部脊柱管狭窄症の診断において感度 39%、特異度 91%という結果でした。スクリーニングには向きませんが、腰痛+Romberg試験陽性であれば腰部脊柱管狭窄症の確率がグッと高まるといえそうです。

今回私(厳密には研修医)が診察した症例は、以前から腰部脊柱管狭窄症が指摘されている高齢の男性でした。元々整形外科にかかっており、下肢痛や歩行の不安定性といった症状があったそうです。この数か月で不安定性が悪化し、特に夜間は顕著で転倒することも多くなったため、内科外来を受診されました。身体所見としては歩行はwideでRomberg試験が陽性でした。下肢のMMTは保たれていました。腱反射やBabinski徴候までは確認していなかったと思います。その他、DMや梅毒といった既往はありませんでした。

もちろん神経梅毒による脊髄癆などが完全に否定できるわけではありませんが、経過を考えるとRomberg試験が陽性になったことについては腰部脊柱管狭窄症によるものとしてよさそうです。

今回のclinical questionは、外来中の研修医の先生との議論から生まれたものでした。Romberg徴候や腰部脊柱管狭窄症の良い勉強になり、流してしまわずによかったです(とはいえ思った以上に調べてまとめるのが大変でした…)。研修医の先生と診療していると、自分では気が付かない視点が得られることがあります。指導しながらの外来は大変ですが、このような貴重な体験をできるのがその醍醐味ですね。

参考

・Pract neurol 2014;14;242

・JAMA. 2022 May 3;327(17):1688-1699.

・Arthritis Rheum. 1995 Sep;38(9):1236-41.

・ベッドサイドの神経の診かた 南山堂

・医学事始 深部感覚失調 sensory ataxia

深部感覚失調 sensory ataxia

・UpToDate

https://www.uptodate.com/contents/lumbar-spinal-stenosis-pathophysiology-clinical-features-and-diagnosis

https://www.uptodate.com/contents/lumbar-spinal-stenosis-treatment-and-prognosis