認知症の定義・診断基準
1993年のICD-10によれば、「通常、慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じ、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断など多数の高次脳機能障害からなる症候群」と定義されています。
診断基準は複数ありますが、以下のDMS-5のものがわかりやすいので提示しておきます。
中核症状と周辺症状(BPSD)
中核症状とは、記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、遂行機能障害、失語・失認・失行など、「認知症の方ならだれにでも現れうる症状」をいいます。
また、周辺症状(BPSD)は中核症状が元になって、行動や心理症状が現れるものです。本人の性格や環境、心理状態によって出現するため、人それぞれ個人差があります。
具体的には、
精神症状:不安、抑うつ、妄想、幻覚、誤認
行動症状:徘徊、多動、不潔行為、収集癖、暴言・暴力
などがあります。
認知症の疫学
わが国における認知症の有病率は、65歳以上で約15%と推定され、約200万人が罹患しているとされます。認知症の有病率や罹患率は加齢とともに急激に上昇していくことがわかっています。
後述しますが、認知症の主なものにアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症がありますが、最も頻度の高いのはアルツハイマー型認知症で、認知症全体の40-60%を占めるとされます。
一方、脳血管性認知症は予防法の進歩により年々減少傾向です。
認知症の原因
認知症の原因にはアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、脳血管性認知症、外傷性脳損傷、物質・医薬品の使用、HIV感染、プリオン病、パーキンソン病、ハンチントン病など、非常に多岐にわたります。
この中で正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫などの脳外科疾患、甲状腺機能低下症やビタミンB1・B12欠乏、梅毒感染、電解質異常などの内科疾患は治療可能な認知症 treatable dementiaという概念で扱われることが多く、早期の診断と適切な処置が求められます。treatable dementiaは“DEMENTIA”のゴロで覚えるとよいです。
Depression&Drug:鬱病、薬剤
Endocrine:副腎不全、甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症、低下症
Metabolism:ビタミンB1、B12、ビタミンD、葉酸、ニコチン酸欠乏、低血糖
Electrolyte:電解質異常(特にNa、Ca)
Neurosyphilis:神経梅毒
Transient epileptic amnesia:一過性てんかん性健忘
Intracranial lesion:水頭症、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍
Alcohol:アルコール中毒
認知症の初期評価
病歴
発症の時期や状況、経過、進行様式、罹病期間などを確認しましょう。経過が急性の場合、一般的な認知症よりも頭蓋内病変などTreatable dementiaが背景にある可能性が高まります。付随する動作障害や気分障害、高血圧や糖尿病、内服薬、アルコール多飲の有無、食事摂取の様子なども確認しましょう。転倒や頭部打撲の既往は慢性硬膜下血腫診断のきっかけとなります。正常圧水頭症では歩行障害や失禁を伴うこともあります。
身体所見
神経診察一般を確認しましょう。巣症状がある場合、脳腫瘍など頭蓋内病変の可能性が高まります。Babinski徴候や深部腱反射亢進を認めた場合、脳血管性認知症の可能性があります。その他、甲状腺の診察も重要です。
認知機能障害の評価
神経心理検査により認知機能障害のスクリーニングとその程度の確認を行います。認知症のスクリーニングには国際的にmini-mental state examination(MMSE)が使用され、本邦では改訂版長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)が頻用されています。
画像検査
少なくとも頭部CTは必須と考えます。慢性硬膜下血腫や脳腫瘍など、頭蓋内病変の有無がわかります。
正常圧水頭症の場合、脳室やシルビウス裂の開大を認めます。また、円蓋部くも膜下腔が狭小化していることも特徴です。意識しないと見落とすため、冠状面まで再構成を依頼してチェックしましょう。
血液検査
Treatable dementiaの検索が主目的となります。血算、生化学、電解質(Caを忘れずに)、甲状腺機能、血糖、ビタミンB1、B12、葉酸はルーチンで検索を行ってよいでしょう。疑わしい場合、梅毒、HIV、副甲状腺機能、副腎機能、ニコチン酸などの追加を検討します。
参考
・認知症疾患診療ガイドライン2017 日本神経学会
・神経内科がわかる、好きになる レジデントノート増刊号
・up to date