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前皮神経絞扼症候群(ACNES)

  • 2023年2月2日
  • 2023年2月3日
  • 神経
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前皮神経絞扼症候群とは

病態

前皮神経絞扼症候群(ACNES:anterior cutaneous nerve entrapment syndrome)は腹壁に分布している感覚神経の絞扼によって引き起こされます。T7-12の感覚神経は、腹直筋鞘を外側へと直角に走行し、上層の腱膜に達するとさらに直角に分枝します。通常、神経血管束の脂肪により神経は保護されていますが、腹圧の上昇や筋肉のけいれん、神経のねじれなどにより神経に刺激が加わることで自発的な疼痛として自覚されるようになった病態をACNESと呼称します。

ここではACNESについての解説に留めますが、外側皮神経絞扼症候群(LACNES)や後皮神経絞扼症候群(POCNES)など類似した病態を呈する症候群も提唱されています。

疫学

有病率は1800人に一人とされ、決して珍しい病期ではありません。ある後方視的研究では、急性腹症でERを受診した患者の2%がACNESであったそうです。男女比は1:4で女性に多いとされ、年齢は15-20歳と35-45歳に2つのピークがあるとされています。

症状

腹壁の疼痛が主症状です。疼痛は鋭く刺すようなものが多いですが、鈍痛や灼熱感を訴えることもあります。ある研究ではACNESの疼痛はVisual Analogue Scale(VAS)で中央値が7であったとされ、かなり強い痛みを呈します。基本的にはピンポイントで2cm2 以内に限局する疼痛のことが多いですが、肋骨に沿って背部に疼痛が放散することもあります。一部の人は衣服や温かいシャワーが不快であると訴えること(アロディニア)があります。

腹痛だけでなく、嘔気、膨満感、食思不振、体重減少、排便の変化などを訴えることがあります。これは影響を受けた肋間神経と内臓の自律神経に何かしらのリンクがあるためだと考えられています。後述しますが、このような症状は腹痛のred flag signとして扱われるため、腹腔内疾患を考慮し精査せざるを得ません。

診断

身体所見

腹部の疼痛は4:1で左に比較し右に多く、臍の高位でもっとも頻繁に生じます。そのため、50%の患者は右下腹部痛を訴えるため、虫垂炎との鑑別が問題となります。最大の痛みの範囲は2cm2 以内に限局し、触診で強く誘発されます。有名なCarnett サインは診断に有用であり、ある研究ではACNESの患者の88%で陽性になったと報告されています。また、疼痛の部位では感覚鈍麻、知覚過敏を呈することがあり、綿棒での触診やアルコール綿での冷感を確認することも有用とされます。

検査所見

ACNESに特異的な検査所見はありません。

ある研究では、疼痛の影響か1/4の患者で白血球増加または血沈の上昇を示したとされています。

腹部超音波、CT、MRIは腹腔内疾患を除外するために行われます。

診断フローと治療

診断は下記のフローに基づいて行います。

病歴、身体所見からACNESが疑わしく、red flag signがなければ局所麻酔を用いたトリガーポイント注射を行います。すぐに疼痛が和らぐ場合、内臓よりも腹壁に疼痛の原因があることがより強く示唆されることになります。局所麻酔ということで本来効果は一時的なものですが、一度のトリガーポイント注射で症状が完全に消失する患者さんも多いです。

一方で疼痛の再燃を繰り返す患者さんがいることも事実です。NSAIDsやガバペンチンなど鎮痛薬が使用されることもありますが、その効果は限定的です。最近、局所麻酔薬と糖質コルチコイドであるトリアムシノロンの同時注射の鎮痛効果が高いことが報告されており、up to dateでは1st choiceとされていました。

何度かのトリガーポイント注射で改善しない場合、フェノール局注による神経壊死療法や外科的治療が検討されますが、施行できる施設が限られる点が問題といえます。

参考

・up to date

・Scand J Pain. 2017 Oct;17:211-217.

・Hernia. 2018 Jun;22(3):507-516.